ヴィランによる正義執行!   作:白白明け

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とても長い間、雑文にお付き合いいただきありがとうございました。

皆様の暇つぶしなれていられたのなら、幸いです
ヽ(=´▽`=)ノ




個性『正義』③

 

 

彼が最後に言った言葉は呪いの言葉の様な言葉だとトガヒミコは思った。

同時にどうしようも無く湧き上がる憎しみを消し去る為の聖句のようにも思えた。

だから、渡我被身子は涙を堪えながら精一杯に笑って言った。

 

「神父様。おつかれさまでした」

 

この日、首台正義は死んだ。

 

 

 

 

・・・此所で死ね(終れ)たなら。・・・此所で死ぬ(終る)事が出来たなら。

首台正義という男の人生には、意味があったと言えるだろう。

家族を、夢を、初恋を、親友を、同類を、愛した人を、産まれてくるはずだった命すら、殺し尽くして掲げた正義。全てを捧げて尚、何一つ変える事など出来なかった無様な正義。

逆十字が象徴と成ることは無く。明日、流れる血があるのなら、今宵の月に意味など無い。

それでも、最後に彼が正義を曲げてでも生きて欲しいと願う少女に出会う事が出来たことには、意味があった筈だった。

 

綺麗に死ね(終れ)たなら、此所で少女の幸せを願い死ぬ(終る)事が出来たなら、彼の名はダークヒーローとして歴史に刻まれたかもしれない。

 

けれど、彼は“ヒーロー”には成れなかった。

“成れなかったんだよ”と、()()が嗤った。

 

 

「だから、渡我、被身子。貴女は世界一、幸せな女の子になりなさい」

 

 

少女の幸せを願い口にした言葉。それとは裏腹に、彼の動かないはずの()()が、少女の首を絞めていた。

 

「・・・え?」

 

疑問符を零したのは、トガヒミコではなかった。間抜けな(それ)はムーンビーストの喉から出ていた。彼は訳がわからなかった。動かない筈の腕が動く意味も、その腕がトガヒミコの命を奪おうとしている事も、何もかもが意味不明だった。

しかし、右腕の前腕に形成されたギロチン刃を見た時、己の個性の“暴走”を悟る。

個性終末論。いずれ来たる“個性”が人間の“肉体”を凌駕する日。それを以て世界の滅亡を憂いたオール・フォー・ワンの盟友、氏子達磨(うじこだるま)は間違っていた。

終末の日を待たずして、此所に最凶の個性が産まれてしまった。

 

「あ・・・ああ、アアア」

 

『ギロチン』という個性。対象の罪の重さにより鋭さ変える刃を産み出すその個性は、罪人を裁き続ける事で正当なる進化を遂げていた。ご都合主義的な進化は無く、牛歩のようなその進化(歩み)は本来なら、彼の子孫数代を経て完成する筈だった。

だが、彼が浴びた血は多すぎた。この国の(ヴィラン)()に名を残す怪物が、本来なら数代を経て完成する筈のその“個性”を完成させてしまった。

 

「ああああ嗚呼アアアアアアアアアアアアアアァァァ⁉」

 

それは彼が望んだ“正義”の形。罪の重さを量る天秤にして、差別無く振るわれる処刑人の剣(エクセキューショナーズソード)

 

人殺しを差別無く殺す“個性”。そこに肉体()の意志はない。

個性(正義)肉体()を凌駕した。

 

ムーンビーストは右腕に形成されたギロチンの刃を左手で掴む。己もまた人殺しであるから、その刃の鋭さは容易く左手の指数本を落としたが、ムーンビーストはそれを気にする事もなく叫んだ。

 

「トガッ、ヒミコ!ヒミコ、被身子!逃げ、なさい!私が、ムーンビースト(わたし)を抑えられている内に!早くッ!」

 

きっとこの光景をカメラ越しに見ている人々には、意味のわからない状況であった事だろう。己の手で首を絞める少女に対して、逃げろと叫ぶムーンビーストの姿は端から見れば精神異常者でしかなかった。

 

それでも彼の目から流れる涙を見たトガヒミコだけは、彼の状況を理解していた。

“個性”の暴走。それを必死に抑えている。

暴走により落とされそうとしているギロチンの刃を必死に止める為に流す血をみて、トガヒミコの身体の芯は熱くなった。

 

彼女にとって、血は憧れ。普通の人々が好きな人を抱きしめる様に、彼女は血を啜る。

 

「カッハ、しん、ぷ、さま?」

 

悍ましき吸血鬼。両親にすらバケモノと蔑まれた彼女が産まれて初めて目にした同類(バケモノ)は、自分とよく似た髪と眼の色をしていた。生き別れの兄なんじゃないかと幼い頃の彼女は本気でそう妄想した。その妄想が楽しかった。自分は一人では無いと思えた。

 

そして、再会した彼は少女に様々な事を教えてくれた。

食べたことの無いご馳走を食べた。

行ったことの無い場所に行った。

他の同類(トモダチ)を紹介してくれた。

産まれて初めて同い年のお友達が出来た。

 

そして、恋を応援してくれた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そんな彼が真っ赤な血を流して、自分の為に泣いていた。

ギロチンの刃を止めようとする手から、夥しい血が流れていく。

 

「止めろ止めろ止めろ止めろ!止まれ!止まれよ!誰かッ、私をッ、止めてくれ!治崎ッ、どこに居るのです⁉オールマイトッ!オールマイトォッ、助けてください!スターッ、スター!スターああああああ⁉」

 

果たして彼がこれ程までに狼狽えることが今までにあっただろうか。余子浜でオールマイトに初めての敗北を喫した時も、親友であるステインを殺害した時も、神野区でオール・フォー・ワンを殺し損なった時も、未曾有の大災害でのミッドナイトの死を知った時も、愛した麗しきレディ・ナガンを手に掛けた時でさえ、ここまで狼狽する事はなかった。

彼は殺したくない相手を幾人も殺してきた。もう、限界だったのだ。これ以上、殺したくなかったのだ。緑谷出久と戦い、敗北する事でようやく止まることができたのだ。

 

正義を曲げることが出来たのだ。

罪を赦すことが出来たのだ。

だが、正義はそれを赦さなかった。

 

「後継、後継!緑谷出久‼眼を覚ませ‼何をしている‼貴方が守れッ!貴方が、お前が、被身子を守れッ!ヒーローだろう!ヒーローなんだろう‼」

 

ムーンビーストの絶叫に緑谷出久が目を覚ます。そして、焦点の定まっていなかった眼はトガヒミコを殺そうとするムーンビーストの姿を見て、見開かれた。

 

「や・・・め・・・」

 

ムーンビーストと同様に緑谷出久も満身創痍だ。怪我の無い箇所を探す方が難しい。それでも芋虫のように這いずりながら自分達の方へ向かってくる姿をみて、ムーンビーストの顔に僅かに安堵の色が浮かんだ。その()()の隙を突き、トガヒミコに向かうギロチンの刃は進んだ。

 

「ああああ嗚呼アアアアアアアアアアアアアアァァァ⁉」

 

ムーンビーストはそれを必死に止めようとするが、既に左の掌は半ばまで裂けている。

 

「緑谷ッ、出久!早く、早く!私をッ、止めろ!早く、私を殺してッ、ムーンビースト(わたし)を止めろ‼」

 

その時、月に陰っていた雲が晴れた。

血染めの月(ブラッドムーン)が三人を照らした。

 

純粋で単純な速度の問題だった。

罪人にギロチンの刃が堕とされる速度より、緑谷出久の歩みはずっと遅かった。

 

ギロチンの刃を止めていたムーンビーストの左手が切断された。

断罪の刃は一切の差別なく罪人へと堕とされる。

 

トガヒミコは、人殺しだった。

 

それでも彼女は最後、普通の少女の様に笑っていた。

 

「神父様。私の為に頑張ってくれて、ありがとうございました」

 

殺す為に墜とされた刃が、()()()()()()()()()、ゆっくりと堕ちていく最中もトガヒミコはとびっきりの笑顔だった。

 

「神父様。おつかれさまでした」

 

「止ま―――」

「止め―――」

 

少女の首が飛ぶ。クルクル途中を舞い鮮血をまき散らす。

正義の刃が(ヴィラン)の命を絶った。

 

これは、それだけの事だった。

 

この日、また首台正義は死んだ。

そして、本当のムーンビースト(怪物)が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつてこの国には、史上最悪の(ヴィラン)がいた。

彼は化物のように戦い、神の如く正義を説いた。

馬鹿みたいに殺し、英雄のように殺し、人間を殺した。

 

「私の個性が『正義(ジャスティス)』と成った時、私は【ムーンビースト】であるしかなくなった」

 

それが犯罪史に名を残した(ヴィラン)が残した言葉。

 

 

 

 

「貴方に追い詰められるのはこれで何度目ですかねぇ!デクッ!今度こそ、私を殺せると良いですねぇ‼」

 

 

「今度こそ・・・今度こそ・・・貴方をッ、殺して(止めて)みせる・・・!ムーンビースト‼」

 

 

 

 

ヒーローと(ヴィラン)の戦いに終りは無い。

象徴が消えた世界で、血染めの月はまだ燦然と輝いている。

 

 

 

 

 






結末についてはとても悩みました。
しかし、最初のテーマとして罪絶対に許さないヒーローのようなヴィランを書きたい!と思い書き始めたので、最後まで貫くことにしました。

許されないのはムーンビーストも同じ。
これだけハチャメチャをしたのなら、償わなければなりません。
彼の信条に反し、命で償うことはさせずに、生きて苦しむのです。
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