フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~ 作:舞 麻浦
◆前話
・首無騎士ヨーナス『領ォ域展開ィッ! 魔宮【
冒険者たちは重力の魔宮に囚われた!
すべてが赤く黄昏に染まった戦野。
造りかけの天幕、陣地柵、主のいない輜重の馬車、水桶、その他雑多なものが転がっている。
瘴気により基底現実の法則が歪曲され、現実空間から切り取られて取り込まれた地形が、フラクタル構造のように増殖することで、広大な
そして、それらはまるで泡や細胞のように重力の膜で包まれて、万華鏡でも覗いたかのような無数の小胞の形で分け隔てられている。
平地のように見えて、実際はそうではない。
狂った法則。
それが魔宮─── ダンジョンというものである。
悪逆騎士から変性した
それがこの魔宮────【
悪逆騎士討伐隊の冒険者たちは、すべてがここに取り込まれた。
馬肢人の槍使い〝舌抜き〟マンフレート。
巨鬼の戦士〝二刀の〟ロランスと、彼女が率いるロランス組の冒険者たち。
薬製造のバルドゥル氏族からも数名の魔法使いと支援人員。
彼らは抗魔導術式で抵抗しようとしたが、
その他にも中堅どころの冒険者たち一党が複数。
駆け出しの泡沫な一党や
その中には、駆け出しの冒険者ジークフリートと薬師のカーヤも含まれる。
物資輜重の商人らと、その護衛の数合わせの駆け出し冒険者たちのようなロクに戦えない者たちも居た。
そして何より、悪逆騎士を【首無し】にした暫定勲功一位の剣の寵児────〝金の髪〟のエーリヒも。
彼は重力の縛鎖を文字通りに切って捨てることもできたが、吞み込まれる仲間たちを見て、あえてそうせずに虎穴へと飛び込んだ。
こうして、彼ら彼女らの全てが、この赤い黄昏の重力の魔宮に閉じ込められ、そして戦野を模した小胞室に分断されたのだった。
「体が重い……重力自体が強い、のか?
「確かに血が下がる感じがするね、お兄ちゃん」
頭の上に
周囲には他に人影はない。──── 今のところは、だが。
「長居してもロクなことにはならなさそうだな」
兄と呼ばれた少年の方は、溶解魔手の使い手。
彼は、片手の不具を、魔蟲契約による魔法能力で〈見えざる手〉を駆使して補っている。それは欠落から来る渇望に根差したものだ。
その魔力の手を複数操り、竜の因子を持ち岩盤を溶かす触肢をうねらす魔蟲の性質を宿させることで、溶解液をまとった竜鱗ドリルのファンネルと化させるというのが、この
「
【眼】の少女、アウグンは、生来の盲目であった。歳の頃は10歳ほど。
彼女もまた、
ヨルムンガンドとすら称された巨大海蛇竜の因子を持つ
契約を通じて魔蟲と契約者の自我は溶け合いながら成長し、やがて契約者の人間の肉体が寿命を迎えても、彼ら彼女らの精神は、ともに育まれた魔蟲へと引き継がれることとなる。
いつの日か
まあ、いずれにせよ帝国隧道公団で禄を食む身には変わりない。
彼らは帝国のため、公団総裁である
「じゃあひとまずは
「あとは下位の冒険者とか行商人のひととか、そういう戦えない人たちも」
「もちろん。公団も同行してるのに死人を出すようじゃあ名折れだものな」
「あとは魔種の人たちもかな……瘴気にあてられて狂っちゃう前に全員助けられればいいけど……」
狼鬼などの体内に魔晶を持つ人種は、汚染された魔素により不可逆的に理性を失って魔物に堕ちる。
その閾値はそこまで低くないが、何日もこんな魔宮に閉じ込められれば危ういだろう。
「そうだな、できればみんな無事に脱出させたいところだ」
評判というのは大事だ。
メンツとも言う。
彼ら魔蟲契約者は、公団という組織の中でも最先鋒で金看板を背負っていることを常に意識している。
頭の上にちょこんと乗る魔蟲の幼生体が、その証であり楔なのだ。
「……! お兄ちゃん」
「ああ、見えた」
その時、アウグンの超感覚が、この黄昏の小胞室内の魔素の揺らぎを捉えた。
彼女は即座に魔蟲同士の精神リンク機能でその知覚情報を、ヘンドに連携。
「〈見えざる手〉 〈魔力撃:溶解〉 〈竜鱗旋掌〉。そこだな」
『『 ゥボァ……─── 』』
ヘンドが伸ばした溶解の魔力を纏って回転する竜鱗の〈見えざる手〉が、戦野から滲み出るように具現化しようとしていた虚ろな兵士たちを貫いて霧散させた。
「魔宮の主による具象化、か……。外では首無し馬も出してたな、そういえば。……コツを掴んできたってことか?」
「なんか色々試してるっぽい感じはするよね。この魔宮の展開も、やれそうだからやってみたって感じだし」
「まあ、成り立てなら試行錯誤は必須か。こりゃ早く非戦闘員は回収しなきゃ、時間が経つほど面倒なことになりそうだ」
「だね。急ごう」
次々に具象化しそうになる兵士らしき怪物を、〈見えざる手〉で溶かし抉りながら、ヘンドはアウグンを守りつつ進み始めた。
重力による抑圧も時間とともに強まっている感覚があるが、まだ魔法による自己強化で何とでもできる範囲だ。
また、これ以上に重圧が強くなっても、対応した抗魔導術式を局所的に展開すれば、救助対象者を回収したとしてもしのぎ切れるはずだ。
「他の奴らの場所は分かるか?」
「いま調べてるとこ。んむむむむ……」
アウグンが知覚のために〈遠見〉の術式や、探査の術式を飛ばす。
それは魔宮の小胞室の隔たりを越えて、
もちろん、アウグンという知覚系術式に特化した術者であってこそでもある。
やがて情報を得たのか、アウグンがある方向を指さす。
「あっち」
「りょーかい」
戦闘要員として情報要員を庇うようにヘンドがアウグンの前に出て進んでいく。
「結構たくさんの人数がまとまってるみたい」
「……こう、脅威度が一定になるように割り振られたって感じかもな」
強者は個別に。
弱者はまとまって。
取り込まれた者たちは、そのように配置されているのかも知れなかった。
「
「かもなあ。まあアウグンとオレが一緒だったのは、俺が〈手〉を繋いでいたからだろうけど」
あたかも屠殺しやすくするがごとくに、非戦闘員はまとめられているのかも知れない。
「もしそうなら、できるだけ人数が多くまとめられているところを優先して回った方が良い、かも?」
「だな」
己が閉じ込められていた小胞室の境にまで来た魔蟲契約者二人は、小胞室を隔てる空間の歪みをくぐる。
向かう先は隣接する小胞室……ではなく。
「やっぱり
空間の歪みをくぐりながら、ヘンドが〈見えざる手〉を伸ばす。
魔術の手を、泡のように隣り合う重力の歪みの間に差し込み──── めりめりと押し広げた。
「隔壁に干渉して境の隙間を進めそうだね、お兄ちゃん」
「穴を穿つ、ってのが
「魔宮の隅々まで意識を巡らすのが間に合ってない感じだよね」
「まあそれも今の内だけかもしれねーし。これ以上に厄介なことになる前に、さっさと救出撤退を支援して脱出だな」
藪を漕ぐように。
小道を
穴を穿つように。
ヘンドとアウグンは、万華鏡のように重なる、黄昏の戦野の、その隙間を歩いていく。*1
「見えないところから
「ねえねえお兄ちゃん、救助と避難優先なのは私も文句ないんだけどさ」
「ん?」
「この魔宮の主── あの
後ろを歩くアウグンの問いに、ヘンドは首だけ巡らせて答える。
「あー。まー、そっちは大丈夫だろ? それこそ
地元の危機に立ち上がった冒険者たちの英雄譚になるべき物語に出しゃばって介入しすぎては本末転倒だ。
ヘンドは、己たちが
「あとエーリヒ先輩も居るし」
「あ。確かに」
公団総裁の隧道方伯ハシシ=ミュンヒハウゼン卿から多大な信頼を寄せられているらしき冒険者の名を出せば、アウグンもまた納得した。
あの凄まじい剣の腕の 〝金の髪〟 なら、確かに何とでもするだろう、と。
そのころ、当の〝金の髪〟のエーリヒはと言えば。
「道を開きます! 私に続いて!」
名剣〝
雲霞のごとき魔宮の尖兵たちの軍勢を、切り裂いて、切り裂いて、切り裂いて、走る。
それはまるで戦場を裂く流星のごとし。
それに追随するのは、二刀使いの巨鬼。
「側面は此の身に任せよ!」
嵐のごとき暴威の化身となって、側面から近寄る尖兵たちを輪切りにしていく巨鬼の姿は、美しかった。
戦場にこそ咲く花。かつて倦んで鈍っていた二刀の巨鬼ロランスは、いまやすっかりと全盛期の動きを取り戻していた。
訓練用の重力操作・流体制御による負荷加重の魔道具に仕組まれていた裏モード、負荷軽減の魔導を展開する機能がこの環境に覿面に効いたということもあり、彼女の動きは舞うように軽やかだ。
二人は魔宮に取り込まれた当初は別の小胞室に配置されていたのだが、中心部と推定される方向─── 重力が強まる方へと向かううちに、自然と合流したのだ。
「さて、次が中心部だといいんですがねッ!」
「そうだと良いがな!」
エーリヒが血路を開き、群がる雑魚はロランス女史が蹴散らす。
平時から何度もともに鍛錬していた彼らの連携は研ぎ澄まされていた。
(マルギットとは合流できていないが……まあ、私が心配するのも烏滸がましいか)
幼馴染にして情人でもある蠅捕蜘蛛種の
山で迷ったときには尾根を目指して登るべきであるのと同じように、魔宮の攻略を目指している者同士が合流するのであれば、それは当然中心部を目指すべきであるのだ。
斬って斬って斬って、斬り伏せて。
金の髪のエーリヒと、二刀の巨鬼ロランスは、次の小胞室へと突入する。
「さて、お次はどの程度の敵がいるものですかね」
「なに、卿と此の身であれば、たとえ万軍であろうといかほどのことがあろうよ」
にやりと好戦的な笑みを浮かべる二人に、いまだ疲労の色はまるでなく。
果たして突き進んだ先の小胞室、かわらず赤い黄昏の戦野の模造の中で彼らが見たのは。
「あ。やぁっと他の冒険者が来たか……」
魔宮の尖兵を魅了し尽くして組体操させて時間をつぶしていた〝魅了眼〟の乙女、エルスティアの姿であった────!
金の髪のエーリヒ「なんで尖兵で組体操を?」
魅了眼のエルスティア「魔眼の鍛錬。外道ボスの度重なるしごきによって、鍛錬せずにはいられない身体にされてしまったのだ……」
金の髪のエーリヒ「哀れな……」
魅了眼のエルスティア「それにこれ以上一人で進むのもリスクが高そうだったからな。後続を待っていたところだ」
=======
■ダイマ!
原作漫画版2巻発売中! ヘルガ…(´;ω;`) → https://www.kadokawa.co.jp/product/322604000842/
内田テモ先生、素敵なコミカライズをありがとうございました! できればヘンダーソンスケール「妖精狼」編も見たかった……!
またいつか帝都編(魔法使いの丁稚編)や、帰郷編、西方辺境編のコミカライズされることを期待して、みなさん2巻を買いましょう……! ぜひ買いましょう!