フミダイ・リサイクル ~ヘンダーソン氏の福音を 二次創作~   作:舞 麻浦

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◆シミュレートの果てでは必ず仮想世界が滅ぶ件
過去話(https://syosetu.org/novel/270654/13.html)で言及していた件ですが、文明規模でシミュレートするとある点で世界が滅ぶ問題があります。(感想でも言及ありがとうございました!)
これについては、今回のマックス君のCiv的シミュレーションでは、航空艦シミュレーションが基になっているためもあり、せいぜい近未来(文明度としては浅宇宙進出で一応クリア)程度までしかサポートしておらず、問題は顕在化していないようです。とはいえ月面開拓にも僧会を通じた神格群との対話+場合によっては他の神話において月を司る神格とのガチバトルが必要になりそうなので大変みたいです。交渉で夜陰神を味方に付けつつ、電子励起爆薬を載せたミサイルで敵対神格に飽和攻撃しよう!
また過去話における演算ではオミットしていた偉人ユニット制度を、今回は演算対象として編入しており、その偉人の一つとしてエーリヒ君がユニット化されているため、今回の仮想世界は未来仏の手で救済された状態になっています。そのため、さらなる遠未来まで演算しても、一応は滅びることはないようです(=パッチ適用済み)。なおプレイミスによる自滅はあり得ます。

マックス君「あ、その序盤で出やすい『金髪の狼』っていう偉人ユニットはできれば早く使ってくださいね。その方がシミュレータが安定するので」
マルティン先生「万能ユニットだからそれ自体は構わんが、どうしてなのだ?」
マックス君「仕様です。仕様ですったら仕様です。……安定する理由は私にも分かりません」
アグリッピナ女史「(これうちの丁稚のことかしら? やっぱり何かあるわよねえ、アレ……)」

エーリヒ君を演算結果に含めるか否かで仮想世界の存続可能期間が変動するからこそ、マックス君はエーリヒ君のことをこの世界の特異点、つまり主人公だと確信しているわけですが、それゆえ、エーリヒ君への無茶振りも加速しています。

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◆前話
ドジっ子(?)長命種侍女見習いイミツァ嬢「お嬢様を幸せにしつつ愉快で優秀な非定命の同僚を迎えてその拗らせ主従を永劫見守るための最短チャート実践、はーじまーるよー」
※イミツァ嬢は予知術式で可能性を垣間見たHS1.0 ver0.4(エーリヒ君吸血鬼ルート)推しのようです。
 


18/n クエスト:家出令嬢を連れ戻せ!-5(急報、そして追跡開始)

 

 本邸に詰めていたメヒティルトの(もと)にその急報がもたらされたのは、日が傾き始めた時分であった。

 

「お、お嬢様が出奔なさったぁっ!?」

 

「はい、()()()をどこかで聞いたのではないか、と。連絡を寄こしたイミツァの推測ですが」

 

「お嬢様の御不在に気づいたのはイミツァか……! 初めに気づいたのは素晴らしいが、そもそも()()()を漏らしたのもイミツァではないのか? いや、無闇に疑うのは良くないか……」

 

「……否定できないところがありますね、普段が普段だけに」

 

 既にこの時点で、せっかく治してもらったメヒティルトの胃が再び軋み始めた。

 知らせを持ってきた使用人仲間の顔色も悪い。

 

 それも仕方あるまい。

 

 吸血種としてはまだ若いその人生のほぼ全てを南方の月望丘(2400m級の霊峰)で信仰に捧げてきた箱入りのお嬢様の行方が分からなくなったのだ。

 しかもそのお嬢様は、血筋ゆえなのか好奇心旺盛で、強力な再生能力を持つ種族柄か危機感が薄く、悪意に慣れていない世間知らずと来た。

 もう悪い予感しかしない。

 

 幾ら帝都の治安が良いとはいえ、貴種の箱入り娘が一人きりでフラフラふわふわ出歩いていてはどうなるか分かったものではなかった。

 悪漢にその身を(かどわ)かされる心配もあるし、妙な魔導師(マギア)崩れに監禁されて実験材料にされやしないかだとか、当主を恨む政敵に捕まって凄惨な拷問を受けることすらも考えられるし、外国勢力にその身が渡ったあかつきにはもう目も当てられない。

 

 “世が世ならお姫様” どころか、直近最有力の女帝候補なのだ。

 行方が分からないなど、あってはならないことだった。

 

 その上、折悪しく、そのお嬢様の父であり公爵家当主である吸血種の魔導院教授は、現在進行形で悪癖を発揮して外界からの連絡を完全に遮断してしまっている。

 手紙を差し入れることは辛うじてできるが、それもナシのつぶて。絶対見ていないに決まっている。意味がない。

 タイミングが悪いにしても限度があろうというものだが、そもそもお嬢様の出奔の原因が父親たるその魔導狂いの大公教授にあるのだから、因果は繋がっていると言えるのかもしれない。

 

 そのお嬢様の侍従であるメヒティルトは、事態の重大さを見誤らなかった。

 

 そして、腹を括った。

 

 ── 如何なる咎を受けようとも、これは早期解決を図るべきだ。と。

 

「何としても、何をしてでも。あらゆる伝手を総動員し、予算の糸目はつけず、あらゆるものを最大限に生かして、お嬢様を見つけるのです。まずは近衛府と衛視隊へ協力を仰ぎなさい。警戒網を敷き、検問を強化してもらうのです。あとは夜陰神の聖堂にも連絡を」

 

「……メヒティルト様は?」

 

「お嬢様もまだそう遠くには行ってらっしゃらないはずです。部下を率いて、私も直接出ます」

 

「承知しました。何人か付けますか?」

 

「結構です。まだ日が出ていますから、一門衆からの増援は難しいでしょうし。帝都でお嬢様が行きそうな場所も、多少は見当がつきます」

 

 青空市場などに出歩くお嬢様を影ながら護衛していたのはメヒティルトとその部下たちだった。

 おのぼりさんであるお嬢様の土地勘のある場所は限られる。

 初動を誤らなければ、追いつけるはずだ。

 

「……さて。お嬢様と “キツネとガチョウ(おにごっこ)” をするのも、随分ぶりですね」

 

 メヒティルトは胃のあたりを押さえながら、昔を思い出してクスリと笑った。

 

 あの頃、幼い私に付き合ってくださったのは、今より少しだけ幼い姿のお嬢様(おねえさん)の方だった。

 お嬢様が “キツネ” で、私が “ガチョウ”。

 月望丘の麓で駆け回った、懐かしくも眩しい思い出だ。

 

 いつの間にかヒト種(メンシュ)であるメヒティルトの背はお嬢様を追い抜き、そのような遊びに興じるような歳でもなくなった。

 だがあのころから抱く敬愛の情は強まるばかり。

 あらゆる艱難辛苦からお嬢様を守ることこそが、従僕たるメヒティルトの役目である。

 

 今回はメヒティルトが “キツネ” となってお嬢様(ガチョウ)を追いかける番だ。

 天真爛漫なお嬢様は、あの頃とほとんど変わらぬ姿のままなれど。

 メヒティルトは成長した。お嬢様の剣にならん盾にならんと、その腕を磨いてきたのだ。

 

 だからきっと、追いつけぬ道理などありはしない。

 

 

 ── お嬢様。メヒティルトが参ります、どうか御無事で……!!

 

 

 ああ、だけれど。

 貴女が望むなら私は、きっと貴女を逃がしてあげたでしょうに。

 いいえそれどころか、もっともっといい方法で、貴女の道行きを拓いて差し上げましたのに。

 

 なぜ私は、いま貴女のお側にいないのでしょう。

 私は。お嬢様、私は……それが口惜しくてなりません……。

 

 

 

§

 

 

 

 巨蟹鬼(クレープス・オーガ)セバスティアンヌは、館の雰囲気が急に慌ただしくなったのを感じ取った。

 

「揉め事か?」

 

 遍歴する傭兵だった時期が長いセバスティアンヌにとって、揉め事や喧騒とは即ち、飯の種への(しるべ)であった。

 喧嘩や戦争といった人間同士の争い然り、強力な魔獣が出たりというのもそうだし、祭りの見世物としての剣闘大会なども、全ては喧騒の中にある。

 

 そして今のエールストライヒ公邸には、そういった飯の種になりそうな喧騒の気配が、にわかに漂い出していた。

 それを、巨鬼の戦士としての嗅覚が捉えたのだ。

 

「ふむ」

 

 これを放っておく手はない。

 どうせ主人も(非定命基準で)()()()()出てこないのだろうし。

 腹も満ちたことだから運動もしたかったところだ。

 

 ── 闘争の気配を感じる……。

 

 セバスティアンヌは控え室の外に出ると、メヒティルトを探し始めた。

 部外者であるセバスティアンヌがこの騒動の気配に関わるためには、それなりの権限を持つ者に掛け合わねばならない。

 つまりはメヒティルトのことだ。具体的な地位までは分からずとも、お互いが主人を待つ間に、彼女の方には指示や判断を求める下級使用人が何度か訪れていたことからも間違いないだろう。

 

 果たしてすぐに尋ね人は見つかった。

 

「む。セバスティアンヌ殿か。申し訳ない、火急の要件にて私は失礼させていただく。館の案内は別の者に申し付けておいたから不自由はさせないとも」

 

 メヒティルトは、片掛の半外套(ペリース)を纏い、今にも出立しようとしていたところだ。

 セバスティアンヌと話す時間も惜しいと、長身の麗人メヒティルトは身を翻す。

 

(なるほど、迷いも見せず巨蟹鬼(われ)に声を掛けないということは、いまのところは、武力の必要な荒事ではないというわけか。むしろこの巨体では役に立たぬと見切ったのだとすれば、恐らくは隠密なり追跡なり、か?)

 

 一瞬で事態の大まかな方向性を想像し、巨蟹鬼セバスティアンヌは、メヒティルトの後に続くように4つの歩脚を動かした。

 

「まだ何か? 申し訳ないが急いでいるのだ」

 

「まあまあ、我が身でも役に立てるかもしれんぞ? 手は多い方が良かろう」

 

「……そちらの主人に連絡が取れるのなら、こちらの主人に伝言を頼みたいが……」

 

「ああ、請け負おう。確実に連絡が取れるとは限らないがね」

 

「ならそれを頼む。申し訳ないが、貴殿は探し物や追跡などの斥候術が得意には見えぬし……」

 

 話しながらも今にも駆けださんばかりの速足で廊下を歩くメヒティルトに、セバスティアンヌは歩幅の違いで難なく追走しながら、ニヤリと頼もしげに見えるように笑って見せた。

 

「斥候術も多少は腕に覚えがあるとも」

 

「本当か?」

 

 確かに、巨蟹鬼セバスティアンヌは、探し物に向く体つきではない。

 大きな身体は遠くまで見るのには向くが、目立ちすぎるし、狭い所には入れない。

 追跡など全くの不向きだろう。

 

 だが、斥候術を修めていないわけではない。

 自らの美食のために魔獣の類を追い求めるには、情報収集や追跡術も必要だったからだ。

 好きこそものの上手なれ、との言葉通り、セバスティアンヌは長い遍歴の中で人並み以上の斥候としての腕を身に着けていた。

 げに恐ろしきは食へのあくなき執念よ。

 

「我が巨体を懸念しているのだろうが、問題はない」

 

 魔晶に刻まれた <重力操作> の術による軽身功に、<物理障壁> による簡易な足場の生成は、思った以上に俊敏で(ましら)じみた動きを可能にするのだ。

 もしも彼女に追いかけられた者は、空を踏んで迫る巨体に恐怖を覚え、逃げる意気を失うに違いない。

 

「さらに言えば、だ。帝都に散らせた我が眷属も力になるだろう」

 

「かーにー?」

 

「蟹?」

 

「かわいい子だろう?」

 

 さっき説得力のためにと、栄養熱量(カロリー)を消費がてら生産しておいた子蟹を見せる。

 セバスティアンヌの甲羅に乗っている中型犬ほどの大きさの蟹が、つぶらな瞳でメヒティルトを見つめていた。

 

 セバスティアンヌは、何かの役に立つだろうと、主人であるマックスからの魔力供給が膨大であるのをいいことに、日々眷属を生産し、今では百数十匹を帝都やその周辺に散らせているのだった。

 それら眷属の子蟹の眼は、親であるセバスティアンヌと共有することが可能であり、巨体故の不便さを群れ(レギオーン)としての動きと役割分担でカバーするに至っている。

 

 追跡なり追い込みの勢子役なり、子蟹たちの使い勝手は良いだろう。

 

 さらに言えば……。

 

「ここ帝都の “猫の君主” にも伝手がある。そちらを紹介することもできるぞ?」

 

 ライン三重帝国は、猫を大事にする。

 それは猫がネズミなどの害獣を駆除する益獣であることと、彼らを統率する “猫の君主” の存在がゆえである。

 それなり以上の規模の猫たちが街に暮らすようになると、自然と1匹の猫が “猫の君主” として、都市の猫たちの統率を取り、人間と揉めないように戒律を守らせることが出来るようになるのだ。

 それにより “猫の君主” に頼むことで、例えば猫たちが店の商品に手を付けないようにルールを敷いてもらうことが可能になる。

 逆にヒトの側がルールを破れば、猫たちは去り、その都市は鼠の災いに呑まれることになるという。

 

「“猫の君主” に……? それは…………助かるが、いったいどうやって知己を得たのだ?」

 

「なんてことはない、我が師匠なのだ」

 

「師匠……?」

 

 メヒティルトが首を傾げるが、いよいよ館の入り口に到着し、問答する時間がなくなった。

 

 子蟹の眷属に、猫の君主との繋がり。

 また、それぞれの主君同士が、同じ部屋に籠って討論していることも踏まえれば、連絡のルートが増えることになるのは間違いない。

 この状況では、なるほど確かに、非常に有用な援軍だ。

 

 メヒティルトは、セバスティアンヌを巻き込むことに決めた。

 

「セバスティアンヌ殿、それでは貴殿にも協力をお願いしたい。詳しくは館に残るものから説明させる」

 

「ああ、任されよ。ではメヒティルト殿、御武運を」

 

「かたじけない。ご協力に感謝する! それでは!」

 

 メヒティルトは側にいた使用人に何事か言伝(ことづ)てると、表で待っていた部下らしき男性と合流し、直ぐに帝都の街並みへと駆け出した。

 

 セバスティアンヌは、メヒティルトの後ろ姿を見送ると、去り際の彼女から言伝(ことづ)てを受けた使用人を見遣(みや)った。

 

「では、詳しくお聞かせ願えるかな?」

 

 

 

§

 

 

 

「なるほど。エールストライヒのお姫様が出奔したから、保護する必要がある、と」

 

 セバスティアンヌは、エールストライヒ公邸で受け取った人相書きを手に、帝都の “猫の君主” のもとに向かっていた。

 ちなみに人相書きは、最近開発された <写真術式> で量産されており、追跡をする者全員に行き渡るはずだという。

 

「おーい、師匠陛下! …………ご不在か?」

 

 セバスティアンヌが “猫の君主” の寝所にやって来て、大きな声で誰何するも、返事はない。

 建物に囲まれたそこは、猫たちの領域だが、今は主を欠いているように見えた。

 寄ってくるのは、いつもセバスティアンヌが差し入れる指導対価のご馳走のおこぼれに与ろうとする、普通の猫たちだけ。

 大山猫のような立派な体躯で、尊大なる威風を纏った “猫の君主” の姿は見当たらない。

 

 なごなごなご……とあっという間に脚や甲羅に登ってくる猫にまみれながら、セバスティアンヌは仕方無しに己の持つ魔導具から、猫たち用に練った供物(ちゅーる的なやつ)を取り出して分け与える。

 

「参ったな、さて何処におわすのか───」

 

 猫たちに埋もれながら困り顔になったセバスティアンヌに、

 

 

 ─── なーご

 

 

 と、低く気品に溢れた声が掛かった。

 

 

「ああ、そこにいらっしゃったか! 師匠陛下!」

 

 セバスティアンヌが見上げれば、彼女の蟹の巨躯よりなお高い()()()、大きな大きな猫が座していた。

 

「相変わらず見事な重力制御でらっしゃる」

 

 セバスティアンヌの感嘆に、猫の君主は当然というように流し目を送った。

 

 

 猫の君主とセバスティアンヌの関係性だが、美食仲間で、重力制御術の師匠というところだ。

 

 “猫の君主” は、重力を操る術に長け、月にさえも跳躍するのだということを、セバスティアンヌは知っていた。

 ゆえに、かつてバンドゥード卿と手合わせした際に指南された、重力制御への習熟を実践するために、セバスティアンヌは猫の君主に師事を求めたのだ。

 

 もちろんタダで教えをねだることはない。

 虚空の箱庭で研究された、猫たち用の美食を携え、それを対価に稽古をつけてもらうよう交渉し、それを認められたのだった。

 そこにはもちろん、彼女の主人であるマックスの打算と後押しもあった。

 

 そうして稽古をつけてもらったお陰で、セバスティアンヌも相当に重力制御の腕を上げたが、それでもこの “猫の君主” には遠く及ばない。

 

「さて、師匠陛下。少しお力を貸していただきたいのだが…………」

 

 するりといつの間にか()()()()()()()()()()()浮き座ってこちらを睥睨する “猫の君主” の技量に舌を巻きつつ、セバスティアンヌは人探しへの協力を願い出るのだった。

 




 
メヒティルト女史の背景については妄想設定になります。

Q.猫用の食事の研究をしていたのはなぜ?
A.マックス君もターニャ嬢も猫派だったのと、いつか猫の君主に(まみ)えたときに献上するために研究してました。子蟹を原料にする案もありましたが、金属成分が邪魔をしたのでナシになりました。


イミツァ嬢(くろまくきどり)「くくく、追い詰めれば追い詰めるほど、お嬢様と金髪のあん畜生との絆は強くなる……! その調子なのです……!」
(※どうせガバります。ドジっ子なので)

次回は『下水道にて』、というところでしょうか。

===

原作Web版更新されましたね! → https://ncode.syosetu.com/n4811fg/231/
虎嬢(ティーゲルフラウ)、これが下手したら量産されてたのか……。さあ、エーリヒ君に逆転の手はあるのか!? 原作の方も目が離せませんね!
 

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