魔法少女は■されたい   作:kurage1022

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原作がどんな物語なのか想像しながらお楽しみください。


01_精霊さんは相談を受ける

「ねえリリィ。あなたに相談したいことがあるのだけど、ちょっといいかしら?」

 

「何ですかアカネ。急に改まって」

 

 夜。マンションの一室。

 リビングルームとして使われている部屋にて、契約者の呼びかけに応じて私は身体を実体化させ、彼女と向かい合う席に着いた。

 契約者の少女――天峰アカネは、いつになく思い詰めた様子で口を開く。

 

「その……相談の前に確認なんだけど、今からわたしが話すことは絶対に誰にも口外しないで欲しいの」

 

「秘密の相談ですか」

 

「ええ。わたしとリリィだけの秘密を守るって約束してくれる?」

 

「もちろんですよ。決して秘密を漏らさないことを誓います」

 

「ありがとう。……それと、その、こっちはできればでお願いしたいことなんだけど、わたしがこれから少し変なことを言っても、あまりびっくりしたり引かないでくれると嬉しいわ」

 

「ずいぶんともったいぶるのですね。安心してください、私は精霊リリウム。ちょっとやそっとのことで動じたりしません」

 

「うん。本当にお願いだからね?」

 

 そう言うとアカネは自分の胸に手を当て、何度か深呼吸をした。

 口を開いては閉じる、躊躇う仕草を見ながらも急かすようなことはせず辛抱強く待つ。やがて、ようやく覚悟が決まったのか緊張した様子の彼女ははっきりとそれを口に出した。

 

「わたしがユウ君にレイプしてもらうにはどうすれば良いかしら」

 

「…………は?」

 

 聞こえた内容が理解できず、ぽかんと口を開けたまま硬直してしまった。

 

「……す、すみません。良く聞こえなかったのでもう一度言ってくれませんか」

 

「もう、何度も言うのは恥ずかしいからちゃんと聞いてよね?」

 

 羞恥に頬を赤く染めながら、彼女は再び口を開く。

 

「わたしがユウ君に強姦してもらうにはどうすれば良いかしら」

 

「…………」

 

 聞き間違いであってほしいという儚い願いはあっさり砕け散った。

 私の契約者であり、正義のヒロイン『ルミナスレッド』として活躍している目の前の少女はレイプ願望を告白しているのだ。そして、その願望を叶える方法について私の知恵を求めている……!

 

「……ふぅ。えーと、その、もう少し詳しい経緯を話してくれませんか?状況を正確に理解できないと間違った方法を提案してしまうかもしれないので」

 

「そ、そうね。ちょっと唐突すぎたわよね」

 

 ちょっとどころではない、と突っ込みを入れたくなるのをぐっと堪えて視線で続きを促す。何がどうしてこうなったのか、ここは落ち着いて情報を聞き出すべきだろう。

 

「まずは……ユウ君について。リリィは多分気付いていると思うけど、わたしはユウ君のことが好き。恋人になりたいし、いちゃいちゃしたいし、え、えっちなことも……したいと思う」

 

「まあ、あれだけべたべたひっついているのを見れば流石に分かりますよ」

 

 水瀬ユウ。

 アカネと同じ学校に通うクラスメイトで、私たちと緊密な協力関係を結んでいる『魔法使い』の男だ。

 彼は学生でありながらこの土地を守る使命を持ち、街を侵略する悪の組織と密かに戦っていた。

 

 私とアカネが契約して『ルミナスレッド』になった翌日には正体が天峰アカネであることを特定して接触してきており、戦闘能力は高いが元が一般人であるが故に隙の多いアカネと、戦闘能力はさほどでもないが博識で補佐に長けたユウのコンビで数々の苦難を乗り越えてきている。

 

「優しいし、真面目だし、わたしのことを守ってくれるし、褒めてくれるし、心配してくれるし……」

 

「ふむふむ」

 

「背が高いし、実は結構身体もがっちりしてるし、爽やか系のイケメンだし……」

 

「ほうほう」

 

「朝はコーヒーを淹れてから優しく起こしてくれるし、ごはん作ってくれるし、痴漢に遭わないように一緒に登校してくれるし、戦いの後にバイト代くれるし、マッサージしてくれるし……」

 

「はあ」

 

「わたしの中で、ユウ君ともっと一緒に居たいって気持ちが溢れているの。男の人にこんな気持ちを抱くのは初めてだけど、これがきっと恋だと思う」

 

「私は無性にコーヒーが飲みたくなってきました」

 

 砂糖を吐きそうになるほど甘い惚気話だが、騙されてはならない。この少女は先程とんでもない願望を告白した輩なのだ。

 

「リリィはどう思う?その……ユウ君について」

 

「アカネと同い年であることが信じられないほど優秀な魔法使いですね。私はこれまで多くの契約者と戦いを乗り越えてきましたが、あれほどの力量を持つ協力者と組んだのは初めてです」

 

 基本的に私の契約者は正体を隠して戦うので、協力者を得ること自体が稀ではあるものの、それを差し引いても彼の能力は突出していると評せる水準にある。

 

「……それだけ?」

 

「それだけとは?」

 

「たまにユウ君と魔法理論についてお話ししてるじゃない。わたしには内容はさっぱり分からないけど、その時のリリィがすごく生き生きとして楽しそうで早口なのは分かるわ」

 

「早口は余計です!それに、あれは使命のために必要な真面目な話であって楽しいなどという感情は……」

 

「なんかアヤシイ。リリィがそう言うなら信じるけど」

 

「……分かればよいのです。今はあなたの相談の時間なのですから、本題に戻ってください」

 

 アカネは少し話足りない様子だったものの、気を取り直して経緯の説明を再開した。

 

「それで次に、無理矢理されたいって思った理由について。きっかけは、ちょっと前にあった催眠怪人との戦いよ。怪人を倒してから『転移』の魔法で家に帰ってきて、変身を解いた時にあったこと。リリィも見てたわよね?」

 

「ええ。一見正常な状態に見えたアカネが、実は催眠怪人が死の間際に放った催眠術の影響を受けていて、家に帰った後に不審な行動をしようとした件ですね。あの時は、異常に気付いたユウがアカネを取り押さえて、強引に催眠解除の施術を行っていましたが……」

 

 私がかつての状況を振り返ると、アカネは何故か顔を赤くし、膝をもじもじとすり合わせた。

 いや、そんな、まさか……?

 

「当然だけど、あの時のわたしには催眠術にかかっている自覚なんて全然無くて。家に帰ってから普段通りにしていたら、急にユウ君が怖い顔して襲い掛かって来たように見えたの。いつも優しくて、絶対にわたしには乱暴なことしないって信じてたユウ君に力ずくで組み伏せられて、頭の中が真っ白になりながら必死で抵抗しても、彼のたくましい腕はびくともしなくて……」

 

 目を閉じ、どこか陶酔した雰囲気のまま彼女の話は続く。

 

「催眠が解けてから事情は分かったし、ユウ君の謝罪もきちんと受け入れたけど、あの体験はすごく衝撃的で、すごく…………興奮しちゃったの」

 

「興奮しちゃったんですか……」

 

 当時の内心を吐露するアカネの顔はすでに耳まで赤く染まっている。

 まさかあのトラブルが原因で彼女の心境にそこまでの変化があったとは。いや、この場合は変化よりも開花と言うべきか。

 

「あの後、なんであんなにドキドキしたのかどうしても気になって、色々調べたりちょっと過激なそっち系の本を読んだりしてたら、自分の性癖についてたくさんの発見があって……。『あの時の続き』ができたらどれだけ素敵なんだろうって思うようになったの」

 

「そうですか……」

 

 なるほど、経緯は理解できた。

 恋愛感情を抱いている相手と刺激的な接触をしたせいで、無自覚だった性癖に目覚め倒錯的な願望を抱くようになったと。

 ふむ……。

 

「……いやいやいや!なんでそうなるんですか!普通でいいじゃないですか普通で!」

 

「リリィ。わたしね、正義のヒロインとして戦うようになってから何事も無い平穏な日常がどれだけ尊いものなのかが分かったの。今日と変わらない明日は来ないかもしれない。だからこそ、一日一日を大切にして後悔しないように生きていこうって」

 

「思い切りが良いのはあなたの美点ですが、そういう妙な方向に進むのにはもっと躊躇してください!」

 

「やっぱりダメかな?」

 

「そんなの――」

 

 当たり前でしょう、と続けようとしてふとアカネの様子に気づく。

 先程まで赤くなっていた顔色は平常に戻り、悲し気な表情でこちらの様子を窺っている。

 

 この相談が始まってからずっと感じていた違和感の正体をようやく理解した。

 そういえば、アカネが私に個人的な悩みを相談してくるのはこれが初めてではないか――?

 

 私の契約者になってからのアカネは、毎日のように敵と戦っている。

 暴力とは無縁の日々を過ごしていた少女に、ある日突然戦士としての使命が与えられたのだ。苦しいことも、恐ろしいことも、投げ出したいと思うこともあっただろう。それでも、アカネは弱音一つ吐くことなく街の平和を守っている。

 きっと、今回の件も私が強く否定すれば諦めるだろう。優等生としての振る舞いが染みついた彼女は、何事もなかったかのように『わがまま』を吞み込んでしまうに違いない。

 

 それは……どうなのだろうか。

 倒錯した願望を抱き、一人で考えてもどうしようもなくなり、勇気を振り絞って相談したにも関わらず冷たくあしらわれてしまう。本当にその未来を選択するべきなのか?

 

(……いや、でも、やっぱりここは止めてあげた方がアカネのためかも……? ううん……どうすれば……あああ……何で私はこんなことに悩んでいるんだろう……)

 

 ぐるぐると答えの出ない問いを弄んでいる間もアカネはじっと私の返答を待っている。

 その様子は前と変わらず悲し気で……あれ?すこしだけ嬉しそうな雰囲気になっているような。

 

(……!!このチョロ女、さては自分のために真剣に悩んでくれる人が居るだけで嬉しくなっちゃってやがりますね。人が必死に考えているというのに!だったら――)

 

 この問題はどちらが絶対に正しいということはないのだろう。ならば先程のアカネの発言に肖り、後悔しないように自分の気持ちに素直になってみようか。

 

 

 

「……いくらアカネの頼みでも、ユウを性犯罪者に貶めるような計画には協力したくありません」

 

 私がそう言うと、アカネはしゅんとした表情で顔を俯かせた。

 あまり驚いている様子はない。私がこう答えるのも想定の内なのだろう。

 

「そ、そうよね。こんなありえない願望、よく考えなくたって気持ち悪いわよね。ごめんなさい。わたしが間違っていたから忘れて――」

 

「ですが!……私は、アカネがこれまで人々の平穏のため頑張ってきたことを知っています。あなたが正義感の強い性格でも、正義のヒロインとして危険に身を晒すのは生半可な覚悟で出来ることではないでしょう。なので、その献身に報いるためにも今回だけ特別に力を貸してあげます」

 

「リリィ……ありがとう」

 

「こんなヘンテコな相談に乗ってくれる私に存分に感謝してくださいよ?まったく……」

 

 多少おかしな性癖を持っていても、彼女が当たり前に幸せになる権利を持つ一人の少女であることに変わりはない。こんな無茶な頼みは本来聞くべきではないが、今だけは彼女の味方でありたい気分なのだ。

 

「とはいえ、この相談内容にはさすがに即答できません。明日の今ぐらいの時間までには考えをまとめておくので、それで良いですか?」

 

「ええ。よろしくね」

 

「それと、何か他の相談や質問事項があれば今のうちに出していただけますか。情報が小出しになると二度手間なので」

 

「えーと……これは相談というかお願いなんだけど……ちょっと待ってて」

 

 そう言うとアカネは私室にある鍵付きの収納を開き、中にある本の山を両手で抱えて運んできた。

 一冊一冊のページ数が少ないあの薄い本は紛れもなく――

 

「エロ本ですね」

 

「うん。部屋の収納がいっぱいになっちゃったからリリィの異界の収納に入れたいんだけど、問題ないかしら」

 

「……………………いいですよ」

 

「そ、そんなに嫌なら無理しなくても大丈夫よ?」

 

「私に二言はありません」

 

 毒を食らわば皿までという覚悟を決めた私に死角はない。ないったらない。

 私の書庫にハードなエロ本が収められる程度……気にしなければどうということは……。

 

「なんかごめん……。その、リリィも読みたかったら読んで良いからね?」

 

「ほとんど男性向けの作品ではないですか。あなたの趣味は一体どうなっているのです」

 

「あれ?リリィってそういう違いが分かるの?」

 

「あ゛っ」

 

 しまった。墓穴を掘った。

 

「……ふふっ。今日はリリィのいろんな表情を見ることができて嬉しいわ。この相談をするかどうかずっと悩んでたけど、今はしてよかったと思ってる」

 

「私も、今日はアカネの知らない表情をたくさん知ってしまいましたよ……」

 

 まさか、こんなことのために思い悩む日が来るとは想像もしていなかった。

 しかし、やるなら徹底的にが私のモットーだ。精霊リリウムの誇りにかけて、完璧な作戦を立案してみせる……!

 

 

★☆★☆★

 

 

 翌日の夜。

 私は身体を実体化させ、キッチンの収納からスプーンを一つ手に取ってから昨日と同じ席に着いた。

 

「どうしたのリリィ。そんな、スプーンを持ったまま固まって」

 

「…………」

 

 私は、手に持ったスプーンをえいやっと机の上に放り投げた。

 テーブルクロスを敷いた木製のテーブルに軽い金属が当たり、リビングルームに耳障りな音が響き渡る。

 

「ちょっと……。お行儀が悪いわよ」

 

「アカネ。私は頑張りました。理解が難しい未経験の領域でも、様々なパターンを検討して必死に知恵を絞りました。でも……やっぱり無理じゃないですかね……」

 

「ええ……?」

 

 私が例の件について話そうとしていると察したアカネは、席について聞く姿勢を作った。

 彼女の困惑した表情から察するに、どうやら私はなかなか酷い顔色になっているようだ。しかし、約束したからには考えた内容をきちんと伝えなければ。

 

「では、昨日の相談から整理した内容をお伝えします。本件の課題は大別して2種類。『手段』と『動機』があります。比較的解決が容易である『手段』の方から説明しますね」

 

「うん」

 

「まず大前提ですがアカネ、あなたは『変身』ができますよね?」

 

「?もちろんできるけど」

 

「1秒もかからず『変身』できるあなたをどうやって組み伏せて犯すというのですか。変身中のアカネを抑え込むのは高位の魔物でも困難です。ユウが身体強化の魔法を全力で使ったと仮定しても、アカネが膝蹴りするだけで一瞬で彼は壁の染みになりますよ」

 

「そ、それは……ほら、わたしが弱っている所を狙うとか」

 

「確かに、アカネの魔力が枯渇寸前であればある程度は力比べができるでしょうが、そういう状況にならないように、ユウが出撃ペースを調整したりマジックポーションを使用したりしているでしょう」

 

「うっ」

 

「その上、あなたは一瞬でも隙があれば『転移』の魔法で逃走できますからね。仮に魔力が空で『転移』が使えない状態だったとしても、魔力消費を肩代わりさせられる魔石と、『転移』の魔法が封入されたスクロールと、使い捨てで『転移封鎖』を突破できる魔道具を所持しているのを忘れたとは言わせません」

 

「ううっ」

 

 これらの道具類は、各分野の専門家とコネクションを持つ者が高額な金銭を支払ってようやく入手できる品々で、アカネの無事を祈ってユウが調達してきた物だ。

 なんで私がそれを攻略する方法を考えているんだろう……。

 

「『変身』の発動を阻害する方向のアプローチならあるいは、といったところですが、その場合大掛かりな準備が必要ですし、『転移』のスクロールは防げません。一応確認しますが、寝込みを襲うのは無しですよね?」

 

「そうね。寝ている間にっていうのは風情が無いと思うわ」

 

「さいですか」

 

 女性を凌辱する際の風情について語り合うなんて初めての経験だ。出会ったばかりの頃の凛々しい彼女はどこへ行ってしまったのだろう。

 ……いや、思い返してみると最初の頃から色ボケの片鱗は見え隠れしていたような。

 

「……暴力で解決するのが難しいのは分かったわ。だったら、弱みを握られて脅迫されるのはどうかしら」

 

「アカネ的にはそっちはアリなんですね」

 

 預かったエロ本は一応念のため目を通したが、確かに脅迫モノも含まれていた。

 

「脅迫のネタは何かありますか?」

 

「変身ヒロインなら定番の"正体をバラされたくなかったら"があるじゃない」

 

 定番……。いや、何も言うまい。

 

「アカネが正体バレしたら連鎖的にユウも破滅するので、ソレは弱みとして使えませんよ」

 

「えー。エロ同人なら最強の殺し文句なのに」

 

「仮にそんな脅しをされたとしても、あなたには相手の記憶が飛ぶまでボコボコにするという解決方法があるでしょう。他には無いですか?」

 

「他に……。ううん、ちょっと思いつかないわね」

 

「まあ、それはそうでしょうね」

 

 アカネは正義のヒロインとして活動している以外は品行方正な学生なのだ。貞操を好き放題にできるほどの弱みなどそうそう無いだろう。

 

「……ふぅ。では、そんな感じでアカネを強姦するのが如何に困難であるかは理解できたと思います。少なくともちょっとした気の迷いでどうにかできるレベルのものではなく、断固たる意志と計画性が無ければ実現不可能でしょう。そこで次に出てくるのがもう一つの課題である『動機』です」

 

 一度深呼吸をして、ぐっと気合を入れなおした。どれだけ困難な目標であろうと、諦めなければ道は開けると信じるしかない。

 

「アカネ。水瀬ユウという人物は、女性に乱暴して無理矢理手籠めにするような男だと思いますか?」

 

「いいえ。ユウ君はわたしがちょっと無防備にしていてもジロジロ見てきたりしないし。いつだって彼は紳士的だわ」

 

「ですよね。……詰んでいませんか?」

 

「そ、そんなことないでしょ。わたしぐらいの年頃の男子は女子とヤることしか考えてないってカエデも言ってたし」

 

「私の見立てでは、悪の組織の連中を殺ることしか考えてないように思います」

 

 私がこれまで見て来たユウは、アカネの勝利の為にあらゆる努力を惜しまず行っている。正義のヒロインとして戦いながらエロ本を買い漁っている誰かさんとは違うのだ。

 

「だいたい、願望自体が矛盾しているんですよ。優しくて紳士的な人に無理矢理されたいって……そういうことをしないから優しい人なのだと思うのですが」

 

「正論はやめて。おかしいのは分かってるから」

 

 アカネは、一度考え込むような素振りを見せた後口を開いた。

 

「こう考えてみて。いつも冷静で頼りがいがあって、顔も知らない誰かの為に戦うことができる心優しい人が、我を失うぐらい強く求めてきたらリリィはどう思う?」

 

「どうって……」

 

 あの、鉄の理性と温かい心を持ち、私とお話ししてくれて、私と同じ目線で世界を見てくれる魔法使いの男が?

 急に抱き着いてきて、私が困惑の声を上げても離してくれなくて、お互いの心臓の音が聞こえるぐらいぎちぎちに身体が密着したとしたら。

 そんなの、裏切られた気分になって失望するに決まって――

 

「そそらない?」

 

「……っ!? へ、変な事を吹き込まないでくださいっ」

 

「ふーん?」

 

 ちょっとだけ、ほんの少しだけ、私の心の中の何かが揺れたような気がしたが、私はそんな変態ではない。理解者を求める気持ちは分からなくもないが、そちらの道に引きずり込むのはやめてほしい。

 

「……強引に求められるというのから連想したのですが、無理矢理ではなく、正面からユウに恋人になってほしいと言われたらどうするのですか?」

 

「それは、その、場の雰囲気にもよるけど……。『何勘違いしてるの?キモいんだけど』とか言ってこっぴどく断ったら逆切れして襲ってくれないかしら」

 

「…………」

 

「うっ……。そんな目で見られると流石に傷つくわ」

 

 おっと、私としたことが大事な契約者にゴミを見るような目を向けてしまったようだ。

 

「実際どうなんです?本当にその対応をするというなら、私もちょっと考え直さなければならないことがあるのですが」

 

「そんなの、なってみないと分からないわよ。多分、テンパってそのまま受け入れちゃうような気がするけど」

 

 告白を受け入れる場面を思い浮かべたアカネは、照れた表情で頬を赤く染めた。

 そうやって普通に恋する乙女をしていれば、文句のつけようがない美少女なのに……。

 

「でも、やっぱり普通じゃ物足りない……。抵抗できないように拘束されて、どんなことにも逆らえないように躾けられたい……」

 

「はいはい、分かっていますよ」

 

 昨日の相談では深刻に空耳を疑ったものだが、私も性癖を表に出したアカネに慣れてきたようだ。こうして難題を解決するため議論を交わすというのも、議題がアレなことを考慮しなければ悪くない。

 

「では、紳士であるユウを狼にするための策を考えましょう。まずは現状認識からです。あなたとユウの関係はどれぐらい進展していますか?」

 

「とても大切にされているわ。それと、戦いの時はお互いを信頼し合う相棒って感じがする」

 

「それは分かっています。そちらではなく、男女の仲についてです。ユウがあなたを恋愛あるいは性欲の対象として見ている素振りはありますか?」

 

「…………」

 

 アカネは目を逸らした。

 

「その、ユウ君って結構ガードが堅くて。嬉しい時は嬉しい気持ちを素直に出してくれるんだけど、それ以外の感情はあまり見せてくれないのよ。でも、きっと内心ではわたしのこと狙っていると思うの」

 

「そう思うなら私の目を見て話してください。つまり、一切そのような素振りを見たことが無いということですね?」

 

「はい……。リリィってこういう時ズバズバ来るわね」

 

「性分ですから」

 

 アカネの把握している範囲では恋愛感情を匂わせたことが無いと。

 私から見た二人の関係もそのようなものだ。異性である以前に親愛がある、家族のような仲の良さ。

 この関係が続く限り、アカネの願望が成就することはない。

 

「アカネの側からユウに対してアプローチをかけてはいるのですか?」

 

「リリィが見てない所で特別何かしてるわけじゃないけど、毎日あれだけ無防備に甘えるのは十分アプローチにならないかしら」

 

「あぁ、あれはそういう意図があったのですね」

 

「……そうよ。あんな姿を見せるのはユウ君だけなんだから」

 

 恥ずかし気な表情をする彼女を見ながら、いつもの様子を思い返す。

 

 アカネは普段からきっちりした服装を好み、制服のセーラー服を着る際はいつも黒タイツを着用している。

 髪型は、腰までの長さの栗色の髪を一本の三つ編みにまとめていて、おしゃれよりは真面目さの印象が強い。

 ツリ目が映える美人系の顔立ちで、素行の悪い学生からは少々近寄りがたい印象を持たれているようだが、困っている人を見ると放っておけない性格からしっかり者の優等生として親しまれている。

 そして、平均よりやや高い身長、同年代ではトップクラスのバスト、きゅっと引き締まった腰、丸みを帯びた大きな尻と、性的に魅力的な要素を完璧に揃えた肉体を持っている。

 

 なるほど、確かにこんな少女が甘えてくれば大抵の男は心を奪われるだろう。

 だがしかし。

 いつも誰かに頼られる彼女は、決して甘え上手ではないのだ。

 

「……マッサージ中に寝落ちするのも狙ってやっているのですか?」

 

「聞いてリリィ。あれはきっとユウ君が眠りの魔法を使っているのよ」

 

「ユウがマッサージ中に使用する魔法は、基本的にバイタルチェックと瘴気浄化の二種類だけです。アカネは知らないでしょうが、睡眠魔法で強制的に眠らされた人の寝顔はどうしても苦しそうなものになります。あんな、日向ぼっこする柴犬みたいな寝顔にはなりません」

 

「柴犬!?」

 

 愕然とするアカネ。

 

「せっかくスキンシップする機会があるのですから、くすぐったそうな声の一つも出せば良いでしょうに。始まってすぐにリラックスして寝る姿勢になるのはあまりにも色気がありませんよ」

 

「それは……。理屈は分かるけど、無理だと思う」

 

「何故です」

 

「ユウ君のマッサージってすごいのよ? 敵との戦いで疲れた身体と荒んだ心を優しく解きほぐしてくれて、今日もまた、無事に家に帰ってこれたんだなあって心の底から安心することができるの。そのまま心地よさに浸っていると、身体の奥に溜まったモヤモヤしたものがいつの間にか消えていて……その後は寝ちゃうから覚えてないけど、あれに抗える気がしないのよ」

 

「アカネがすっかり骨抜きになっていることは理解しました」

 

 元々は瘴気浄化の必要に迫られて行っていた行為にそこまで夢中になるとは。

 疲労回復マッサージで相手をリラックスさせられるユウがすごいのか、アカネがそういう行為にハマりやすい性質だったのか。分からないが、現状があまりよろしくない状況なのは間違いない。

 

「とにかく、そんな体たらくではユウに女性として意識させるなど夢のまた夢です。どうにかしてこの女とヤりたいと思わせなければならないのでしょう?」

 

「ええ。男の子をその気にさせるのってどうすればいいのかしら……」

 

 彼女の発言に、思わず怪訝な目つきをしてしまう。それだけ恵まれた肉体を持ちながら、一体何を悩むというのか。

 

「背後から抱き着いて、その立派な胸をぐいっと押し付けるというのはどうです。その体勢のまま、耳元で思わせぶりな言葉を囁いてやれば誘いとしては十分でしょう」

 

「…………。わたしってそういうキャラじゃないし、それをやって怪訝な顔で『何してんの』とか言われたら立ち直れなくなりそう」

 

 確かに、アカネがあまりにも突拍子もない行動をすると色気よりも不自然さが強く出てしまうかもしれない。

 

「しかし、アカネがやっても不自然でない行動に限るとできる事が非常に少なくなりますよ。ここは無理をしてでも攻める場面では?」

 

「変なことしてユウ君に失望されるのだけは絶対に嫌。ユウ君の前では真面目で清楚なわたしのままで居たいの。それに、わたしがえっちしたがってるのがバレたらレイプじゃなくなっちゃうじゃない」

 

「ああ、それも制約の一つでしたね」

 

 性的にアピールして行為に持ち込みたいのに、相手に意図を知られてはならないという。限りなく実現困難な目標に、更に制約条件が増えていく。

 

「ふむ……。ここまで選択肢が少なくなると、かえって迷わなくて済みますね」

 

 取れる手段が少ないならば、少ないなりのやり方はある。

 

「まずやるべきは、変に思われない範囲で女として意識させることです。おしゃれに気を遣うのでも良いですし、手料理を振舞うのも良いでしょう。ユウの好みをさりげなく聞き出して、そこを狙えばより効果的です。アカネを自分のモノにしたい、独占したいと思わせるためにも価値をアピールするのです」

 

「それは……。うん、そうね。でも……」

 

「はい、これだけでは弱いです。そこで、もう一つの策を講じます。名付けて、ラッキースケベ作戦!」

 

「ちょっとリリィ、テンションおかしくなってない?」

 

「誰のせいだと思っているんですか!」

 

 うがー、と怒りの感情を見せると流石に彼女も申し訳なさそうに縮こまった。そのまま話を続ける。

 

「性的なアピールをしたい、でもえっちな女の子だと思われるのは嫌。ならば、事故を装ってドキドキ体験を演出するしかないでしょう!この作戦で柴犬を卒業するのです!」

 

「また柴犬って言った!? それに、わざと失敗したフリをしてもすぐに気づかれるんじゃ……」

 

「大丈夫です!アカネがしっかりしているようで実は結構抜けている所があるのはユウもよく知っています!」

 

「ええっ!?」

 

 こうして、今後の行動方針が決まったのだった。

 

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