魔法少女は■されたい   作:kurage1022

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誰かの幸運になりたかった男


13_精霊さんは意見を求める

 

 私に強い視線を向けられながら、ユウは淡々と語りだした。

 

「まずは、僕の肩書からかな。広品学園2-A所属の学生で、『教会』の見習いをしている」

 

「見習い?」

 

「一応は学生が本業だから。正式に所属しないまま、バイトみたいな形で仕事を請けているんだ。治療とか、魔物狩りとか、珍しいのだと『転移』を使った運び屋とか」

 

 彼の力量は見習いと呼べる領域のものではないと思うが、この時代の『教会』の雇用形態がそうなっていると言うならそうなのだろう。

 では、確認を後回しにしていた例の件はどういうことなのだろうか。

 

「あなたは『教会』の指揮下で動いているのですか?」

 

「あー、いや、実は……。独断で行動しているのを見逃されている状態、というのが一番適切な表現かな」

 

「???」

 

 彼は少しだけ後ろめたさを滲ませながら、よくわからない発言をした。

 

「いや、先程も『教会』の施設に出入りしていましたし、治療の仕事もやっていましたよね?それが、見逃されている状態?」

 

「うん。『リベレーター』の出現を一番最初に報告したのが僕で、勝手に動向を調べて調査結果を出し続けることでなしくずしに担当者に収まった感じ。独断専行もいいとこだから、正式に認められたわけじゃないけどさ」

 

「えーと……?」

 

「やりすぎて処罰の対象になるかと思ったけど、今のところは放任されてる。うちの支部長が頭の柔らかい人で助かったよ」

 

 やはり、よく分からない。分からないなら聞くしかない。

 

「あなたは、『教会』の指示からではなく独断で動いている」

 

「そうだね」

 

「何故そうなっているのですか?」

 

「何故って……。僕がそうするのが最善だと判断して、『教会』もそれを消極的に受け入れたからだよ。正式に承認されない理由は、『教会』が未成年の見習いを死地に向かわせるほど非人道的な組織ではないからというのが一番適切な表現だと思う」

 

 正式に、承認されていない?

 ということは。

 

「先程、予算が枯渇しそうだという話をしていましたよね。『教会』から資金は出ているのですか?」

 

「今は出てない。経費については帳簿をつけてるから、状況が落ち着いたら請求できる分は請求する予定だよ」

 

 指示を出されていない。

 資金の提供を受けていない。

 事件を解決するために独自で動いている。

 つまり……。

 

「あなたは、偶然この地に居たために事件に巻き込まれた子どもなのですか?」

 

「……その表現は微妙に受け入れ難いけど、客観的な事実の一つではあると思う」

 

 彼は、嫌そうな表情をしながら渋々とその事実を認めた。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 このスペックで巻き込まれた子ども???

 いや、しかし、それなら彼の知人たちの態度にも説明がつく。

 

「何故黙っていたのですか?」

 

「聞かれなかったから。そんなに重要なことでもないだろう」

 

「他の人員は?」

 

「『教会』の所属でこの件の対処に出ているのは僕だけだよ。『神無月』の方は神田さん以外にも数名の人員が居るみたいだけど、前線に出る役割の人は居ないね」

 

「あなたは未成年でしょう。保護者は何と言っているのですか?」

 

「家族は……。危険なことはやめて実家に帰ってこいって言われたけど無視したよ。生活費は自力で稼いでいるからそこは問題無いし、今のところは強硬手段を取る様子もない」

 

「何でアカネにバイト代なんて出しているんですか?」

 

「喫茶店バイトをできなくしたのは事実だし……。それに、『カサンドラ』の維持費とかその他の経費と比べれば彼女のバイト代なんて大した額じゃないよ」

 

 彼は淡々と私の質問に答えていく。

 家族のことを話す時に少しだけ揺らぎを感じたが、それでもはっきりと言い切った。

 

「僕の立場についてはそんな感じで。続けて各組織の動向だけど……」

 

 そう言ってから、ユウは広品市を取り巻く現状について説明を続けた。

 

 『教会』は世界的な魔物の活性化の対処で、広品市に戦力を割く余力が無い。

 たとえ余力があったとしても、特級戦力と肩を並べて戦える人材は居ない。

 足手纏いになったり捕縛されて情報を抜かれるリスクを考えれば、中途半端な戦力を増援として出す意味が無い。

 

 『神無月』は元々武闘派の組織ではない。

 細々とした情報工作や警察との連携で市民の被害を抑えているが、事件を解決する力は持っていない。

 時間を稼げば『神降ろし』の増援が期待できるが、『リベレーター』が戦力を拡大し続けていることを考えれば持久戦を選ぶべきではない。

 

 警察は全力で対処に当たっているが、治安の悪化を抑えることしかできていない。

 彼らは魔法業界については門外漢であり、どれだけ血を流しても大勢に影響を与えることはない。

 

「だから、『リベレーター』を打倒するためには天峰さんとリリウムさんの力だけが頼りなんだ。いやあ、まったくもってどうしようもない状況だよ。あっはっは」

 

 彼は、まったく楽しくなさそうな目をしながら口元だけで乾いた笑みを作った。

 

 明かされた情報には想定内の物も想定外の物もある。

 頭痛を感じながらそれらの情報を整理し、話を続けた。

 

「それで、何故今になって状況を明かしたのですか?」

 

「……あれ?情報を共有していなかった事に怒らないんだ?」

 

 私の態度が意外だったのか、彼は目を丸くして聞き返してきた。

 確かに、場合によっては裏切りとも取れる行為かもしれない。それでも、私の答えは決まっている。

 

「私は、あなたが人々の平穏を守るために身を粉にして働いている事を知っています。アカネが無事に帰ってこれるように、必死に知恵を絞っている事を知っています。だから、そんなあなたがアカネを戦わせているという事実から、そうせざるを得ない状況だという事は分かっていました」

 

 情報収集、先行偵察、作戦立案、出撃時の補佐、出撃後のケア、物資調達、各組織との連絡などなど。

 この巻き込まれた子どもを自称する不審な高位魔法使いが居るおかげでどれだけ楽ができていることか。

 いつも通りであれば、契約者と私のコンビで全部やっていましたからね。もちろんバイト代なんて出ませんし。

 

「リリウムさんはちょっと人が良すぎると思う。僕みたいなうさんくさい人間を簡単に信用するなんて」

 

「誰に頼まれたわけでもないのに、自主的に正義の味方をやっているあなたほどではありませんよ」

 

「…………だめだ、言い返せない」

 

 私が当然の指摘をすると、彼は"そういえばそうだった"とでも言いたげな顔をした。

 

「それで、あなたの今日の行動の意図は教えてくれるのですか?」

 

「それはもちろん」

 

 ユウがわざわざ私を連れて、協力者達と話をした理由は何なのか。

 

「まず一つは、僕の知り合いの人達にそれぞれの事情を聞くため。初めにリリウムさんに言った通りの理由だよ」

 

 アカネは、自分の身を危険に晒してまで戦う理由を持っていない。

 そんな彼女の背中を押す手がかりを求めて、彼は皆の意見を聞いた。

 

「二つ目は、リリウムさんに現状について正確に把握してもらうため。僕の仕事の"引継ぎ"が必要になった場合に備えて、顔合わせだけでもしておきたかったというのも理由になるかな」

 

 確かに、ユウに口頭で説明を受けるよりも、各方面の関係者に直接話を聞いた方が理解しやすい部分はあるだろう。

 そして"引継ぎ"。

 ……あまり考えたくはないが、彼はそうなる可能性も想定して動いている。

 

「三つ目。これが最後だけど、現状を把握したリリウムさんに相談したいことがあったんだ」

 

「私に?」

 

「そう。今の天峰さんの心に一番近い所に居るあなたに。本当は彼女の父親か坂本さんに相談するべきなんだろうけど、今の状況ではそれができないから」

 

 私に相談したいこと。他でもない、アカネの本音に一番近い所に居る私に。

 

 

 

「天峰さんに、自分の事を好きになって貰うにはどうすれば良いんだろうね?」

 

 彼は憂いを帯びた声で、その相談内容を語った。

 

 

 

「自分の事を、好きに?」

 

「うん。今の彼女は少し不安定な所があるから、それをどうにかできないかなと思って」

 

「確かにアカネには少々危なっかしい所がありますが、そこまで言うほどですか?」

 

 誰にだって性格の偏りはある。

 アカネはレイプして欲しいなんて言い出しちゃう子ですが、彼が問題視するほどなのでしょうか。

 

「僕は一応クラスメイトとして一年ちょっとの付き合いがあるから、なんとなく分かるんだ。それに……"街の平和を守るために一緒に戦って欲しい"なんて言われて承諾してしまうような人間が、本当に自分の事を大切にしていると思うかい?」

 

「それは……」

 

 あの時のアカネは、目の前に居る少年の誘導に流されて戦うことを受け入れた。

 喧嘩もしたことのない少女が血と暴力の世界に足を踏み入れて、表面上は平静を保っている。

 物わかりの良い契約者と思って見過ごしていましたが……本当にそれだけだったのでしょうか?

 

「天峰さんがありのままの自分を認められるようになって、自分自身が心の底から望むことに気づけたら。そうすれば、それはきっと彼女の"戦う理由"になるんじゃないかと思ったんだ」

 

「あなたが『優しさとは何か』というテーマで意見を集めていた理由もそれに関係するのですか?」

 

「そうだね。天峰さんはどういう事をされたら喜ぶのか分からなくって。こんな事は本人に直接聞いた方が良い気もするけど、本人が正しく自己分析できるとは限らないし」

 

 優しさの形は人それぞれであり、ある人が嬉しく感じる行為でも、他の人は傷つくかもしれない。

 そういう、他者を尊重することの難しさを彼は理解しているようだ。

 

 どうすれば、アカネが自分自身を肯定できるようになるのか。

 私達にできることは何か。

 

 …………。

 私の手元には、その作戦を実行するための手札が揃っている。

 

「一つだけ方法が浮かびました」

 

「おお、さすがリリウムさん。して、内容は?」

 

「ナイショです」

 

「……ええー?」

 

 多分上手く行くと思う。思うけど……ちょっと自信が無い。

 それに、私達にはまだできることがある。

 

「ユウ。私は今日、あなたの知人達の意見を聞きました。私の立場ではなかなか得ることができない貴重な体験だったと思います。皆の意見を聞いていたら、私も意見表明をしたくなりました。聞いてくれますか?」

 

「リリウムさんの意見を?それはもちろん大丈夫……どころか、是非聞きたいぐらいだよ」

 

 私の急な提案を、彼は少し戸惑いながらも受け入れた。

 よし、少し恥ずかしいですが、私も自分語りをするとしましょう。

 

「私が戦う理由は、魔物と戦い人々を守ることが精霊の使命だから、というのが一つ目の理由です。ですが、それだけではありません。私にも個人的な望みはあるんですよ」

 

 瞼を下ろし、少しだけ過去に想いを馳せる。

 

「私は……、かつての契約者達が懸命に戦ってきたことを覚えています。初めましてから始まって、戦いが終われば眠りにつく。そのような短い付き合いでも、彼女達の想いを覚えています。みんなみんな、時の流れの向こう側に行ってしまっても……それでも、彼女達の頑張りを、人の輝きを覚えています」

 

 勇敢な人。臆病な人。熱血な人。冷静な人。しっかりした人。そそっかしい人。

 時の流れは平等で、みんなみんな居なくなってしまった。

 それでも。

 

「過去があって、現在がある。昔の人々の頑張りによって今が作られているのです。私は、過去の契約者達の想いを無駄にしたくない。懸命に続けられてきた人の営みを守りたい。これが、私の戦う理由です」

 

「……そっか。リリウムさんにもちゃんと理由があるんだな」

 

「ええ。当代の契約者であるアカネのことも、ユウ、あなたのことも覚えていますよ」

 

「偉大なる精霊様に名前を覚えていただけるとは、とても光栄なことでございますね」

 

「ふふっ、おだてても何も出ませんよ」

 

 ちょっとした漫才を挟み、次の話に進む。

 

「『愛や優しさの形』については、私は寛容である事だと思います。相手が未熟だったり、多少おかしなところがあったりしても、意見を聞いて、個人として尊重し、信じる事。こちらの意見を無理矢理押し付けることは絶対にしない。私の考える優しさの形はそのような物ですね」

 

「きっと、リリウムさんがそういう在り方だから天峰さんもあなたのことを信頼したんだと思うよ」

 

「そうでしょうか?」

 

「うん。相手の立場になって物事を考えるのは、当たり前のようでもすごく難しいことだから。僕も、リリウムさんの考え方はとても好ましい物だと思う」

 

「……。もしかして口説いているんですか?」

 

「いやいやまさか」

 

「そこは冗談でも肯定するべき場面ですよ」

 

「そうなの?」

 

「そうなんです」

 

 まあ、この考え方にはいくらかの処世術も含まれているのですが。

 私は契約者を選べませんからね……。

 脅威が迫る中で資質のある者を探し、飛び込み営業をして契約を取り、戦いの場へ導く。

 初対面の相手の信頼を得るには、広い心が必要だった。

 

「さて……それではユウ、次はあなたの番です」

 

「え?」

 

「私は、私の意見を言いました。あなたの意見も聞かせてくれませんか?」

 

 困惑するユウに、にっこりと笑顔を向ける。

 "逃げる事は許さない"という強い意志を込めて。

 

「参考になる意見はもう十分集まったんじゃない?」

 

「私があなたのことを知りたいんです。あなたの持つ意見……いいえ、信念を。ダメでしょうか?」

 

「僕はちゃんとした答えを考えてきていないんだけど」

 

「あやふやな物でもいいんです。どうか、聞かせてくれませんか?」

 

「…………。リリウムさんがそこまで言うなら」

 

 よし、やはりこういう場面では素直に頼むのが一番ですね。

 

 この、私にとってあまりにも都合の良い人物が、大切にしている価値観は何なのか。

 巻き込まれた子どもを自称する不審人物が、何を思って危険に身を晒しているのか。

 

 ユウはしばらく考え込んだ後、静かな声で語りだした。

 

 

 

「僕は……なんだろうね。そう、嫌いなものがあるんだ」

 

 ぽつぽつと、手探りで感情を探るように。

 

「根性論とか、同調圧力とか……中でもとびっきり嫌なものがあって」

 

 しとしとと、水気を帯びた。

 

「どうして、魔物は人を襲うんだろう。どうして、魔法使い達にはこの事態を解決する力が無いんだろう。どうして、天峰さんは『精霊憑き』になったんだろう。どうして、彼女に戦いを強いなければならないのだろう。そんな、答えの出ない理不尽な問いがたまらなく嫌で」

 

 ふつふつと、泡立つように。

 

「降り積もった疑問が頭の中を埋め尽くすと、胸の内に感情がこみ上げてきて」

 

 どろどろと、泥濘のような。

 

「心の内にある昏い感情。それを意識すれば……理不尽に抗う、戦う力が湧いて来るんだ」

 

 それは紛れもなく、憎悪であった。

 

 

 

「……ごめん。僕は皆みたいに前向きな感情で戦っているわけじゃないんだ」

 

 ユウは顔を上げて私に謝罪をしてきた。

 

「……いえ。あなたの想いは確かに受け取りました」

 

「……。ありがとう」

 

 ユウがいかなる経緯を経て運命を呪うようになったのかは分からない。

 この少年が、これだけ深刻な憎悪をいつから抱き始めたのかも分からない。

 それでも、私を信じて明かしてくれたその感情は紛れもない本物だった。

 友好的な態度の裏に秘めた感情。これもまた、彼を構成する要素の一つだ。

 

「次は、優しさについてか。人に優しくするのってすごく難しいと思う」

 

「そうなのですか?」

 

「そうでなければ皆に相談したりしないよ。僕が考える中で理想に近い物はさっきリリウムさんが出しちゃったし……。ネタ被りはよろしくないよなあ」

 

 先程とはうってかわって気楽な様子で考え込むユウ。

 

 それにしても、私の出した答えが彼の理想に近い物ですか。

 そうですかー。

 …………。

 ふふ。

 

「リリウムさん?何か楽しい事でもあった?」

 

「いえ、何でもないです」

 

 私の口角が僅かに上がったことに気付かれてしまった。

 考え事に集中しているように見えても、私の方に少しだけ意識を向けていたようだ。

 

 私の返事を聞いた後、彼は目を閉じて思索に耽る。そして。

 

「…………なんとか一つだけ思い浮かんだよ」

 

 ユウはどこか遠い所に視線を向けている。

 私は姿勢を正し、話を促した。

 

 

 

「昔、僕がもっと小さい時に……何もかもが嫌になって、雨が降る公園で一人で泣いていたことがあったんだ」

 

「そうしたら、みすぼらしい服装のおじいさんが近くに来て「ボウズ、大丈夫か」って聞いてきた。多分ホームレスの人だったと思う」

 

「僕は何もかもがどうでもよくなっていたから、泣き続けるだけで返事をしなかった」

 

「おじいさんは僕のことをじっと見た後、近くにある自動販売機で……何か、温かい飲み物を買ってきた」

 

「その飲み物を僕の近くに置いた後、おじいさんは「ボウズ、話をする気は無いか」と聞いてきた」

 

「僕はおじいさんのことなんてどうでもよかったから、やっぱり泣き続けるだけで返事をしなかった」

 

「おじいさんは僕の返事を暫く待った後、飲み物を置いたまま、何も言わずに去っていった」

 

 彼はふう、と息をついた。

 

「この話はこれでおしまい。僕は悩みを打ち明けなかったし、おじいさんとはそれっきり会うことも無かった。問題は何も解決しなかった。でも、理由は分からないけど……この思い出が、どうしても忘れられないんだ」

 

 大切な思い出を、信念を形作るきっかけとなった出来事をユウは語る。

 

「多分、僕の事を尊重してくれたのが嬉しかったんだと思う。そっと手を差し伸べるだけで、強引に手を取ろうとはしなかった。あの時あの人に出会えた僕は、きっと運が良い人間なんだろうね」

 

 そして、彼が出した答えは。

 

「自分に余裕が無くても、見ず知らずの相手でも、手の届く所に困っている人が居るなら無理の無い範囲で親切にする。そういう、見返りを求めないささやかな施しが愛や優しさなのだと僕は信じている」

 

 

 

 ユウの結論を聞いて、腑に落ちるものがあった。

 今日出会った人々は皆、彼の頼みに快く応じ、無事に再会することを祈っていた。

 彼が知人に恵まれているのは、おそらく"無理の無い範囲で親切にしてきた"からなのだろう。

 

 だが、『手の届く所』や『無理の無い範囲』といった要素は個人の能力によって大幅に変動しうる。

 私は頭に浮かんだ懸念をそのまま口にした。

 

「あなたが夜の街で魔物を殺して回っているという話をミオがしていましたよね。それも『無理の無い範囲で親切にする』に含まれているのですか?」

 

「……そうだね。僕が少し頑張れば助かる人が居るんだ。まあ、あくまでも『無理の無い範囲』に限るけど」

 

 ユウは独力で『転移』の行使が可能な高位魔法使いで、『カサンドラ』により市内の全域を把握し、戦いの心得もある。

 そう、彼には"助けを求める人が見える"。そして、"どこに居ても手が届く"。届いてしまう。

 見えなければ、存在しないものとして無視することができた。手が届かなければ、力不足で涙するだけで居られた。

 彼はその優秀さ故に『戦う』か『見殺しにする』の選択権を得てしまっている。

 一人の人間にできることには限りがあるというのに。

 

「ユウ、あなたは本当に無理をしていないのですか?」

 

「本当だ。何を一番優先するべきかは分かっている。そこの所は弁えているからリリウムさんは安心して良いよ」

 

「そうではなく……、あなたは本当に平気で居られるのですか?」

 

「……リリウムさんには、天峰さんの方に意識を向けて欲しいと思っているよ」

 

「……っ!」

 

 私に対して弱音を吐く気は無い。それが言外に滲ませた彼の返答だった。

 ……私はユウの拒絶を尊重する。だから、これ以上踏み込むことはしない。

 

 まだ、一つだけ聞いていないことがあった。

 彼の立ち位置について、核心に迫る質問が残っている。

 

「最後に、私から質問です。──あなたは、アカネの味方ですか?」

 

 答えが分かり切っているはずのその質問を受けて、ユウは即答しなかった。

 彼は息を吐いて、感情の読み取れない表情で淡々と返答をする。

 

「僕は"ルミナスレッドの味方"だよ、リリウムさん」

 

 ……やはり、そうなるのですね。

 この返答は、彼の立場、性格、信念から推測した通りのものだ。

 

「私としては、そこまで厳密に区切る必要は無いと思うのですが」

 

「僕は気にするんだ」

 

「細かい事を気にする男は嫌われるそうですよ?」

 

「もう嫌われているんじゃないかな。ははっ」

 

 私が茶々を入れると、彼は少し疲れたような表情で苦笑した。

 

「リリウムさんの立場なら、契約を結ぶ事と味方であることは矛盾しない。でも、僕はそうじゃないんだ。本当に天峰さん個人を大切にしているなら、戦いの場から遠ざけようとするはず。僕は結局、彼女の善意に付け込んで利用している人間に過ぎない」

 

「あなたも、望んでそうしているわけではないでしょう?」

 

「……。それでも、僕の感情と客観的事実は分けて考える必要がある。僕は、誰に優しくするかを選んだんだよ」

 

 そう、それは客観的な事実だ。

 彼は人々の平和を守る魔法使いとして、アカネに協力を要請した。

 争いごととは無縁の少女に、人々を守る戦士であることを求めた。

 

 でも。それでも。

 アカネはあなたのことを、"いつも冷静で頼りがいがあって、顔も知らない誰かの為に戦うことができる心優しい人"と評価していましたよ。

 

 

 

「では、アカネを元気にするための作戦は私に任せてください」

 

「何で僕に内容を教えてくれないんですかね?」

 

「今日まで情報を共有してこなかった事への意趣返しと思ってください」

 

「……それを言われるとぐうの音も出ないな」

 

 作戦に必要な準備を頭の中で整理する。

 これから私は少しばかり大変な作業をするのだ。

 

 アカネ。

 私は、あなたの心の在り方を信じていますよ。

 

 




ユウ君はアカネちゃんの破滅願望を治したい。
ありのままの自分を肯定して、自分自身の幸せを心の底から願えるようになってほしい。



 水瀬ユウ

 年齢:広品学園2年
 身長:180cm
 体形:細身
 武器:短剣
 魔法:治療、隠密、疑似呪術、魔法陣作成
 特技:呪術解析、マッサージ、システム構築

 原作知識持ち転生オリ主。行動原理は憎悪と同情。世界の在り方と運命を呪い、それらの被害者に強く同情している。
 自立心が強く行動力がある。倫理観は緩い。他者の承認や共感を求めないタイプ。
 愛は見返りを求めない物だと固く信じている。

 治療魔法使いであり隠密魔法の使い手であり魔物狩りの戦士であり呪術研究者であり魔法陣技術者である。
 持って生まれた才能と恵まれた学習環境を活かし、転生者という生き物が特定の目的に向かって研鑽した結果がこれ。
 その特殊な境遇から、偏ったスペックを持つ高位魔法使い。

 治療は超一流、隠密は一流、戦士としては二流。
 敵に背後から忍び寄り、突き立てた短剣を起点に『浄化』の魔法を使って魔物を滅殺する戦闘スタイル。
 正面から戦うとぶっちゃけ弱い。彼には鍛える時間が足りなかった。
 生身のまま強くなっても無駄だと判断したので攻撃魔法もほとんど扱えない。

 『復元』の魔法を開発したのは金策のため。
 魔物狩りとして地道に働いても大した給与は出ないし、うさんくさい預言者にお金を出してくれるスポンサーも当然居ない。なので、自分の技能で一番お金になりそうな物を活かすことにした。
 彼は『教会』の仕事で『魔物の被害に遭っていない人』向けの治療を行い、その報酬を得ている。
 『教会』の主な資金源は寄付金だが、神秘を秘匿したまま一般社会に魔法のサービスを提供する事も予算獲得手段の一つ。慈善事業はお金にならないからこういう生臭い話も必要なのだ。

 破滅の未来という情報を一人で抱えて働き続けているので常時うつ気味。
 睡眠時間を削った事が原因で自律神経が乱れて食欲を感じなくなる。何を食べても吐き気がするので食事そのものが嫌になっている。
 自分の身体の異常に対し、彼は拒食症になるのも久しぶりだなとさらっと流した。ナツミさんは頭おかしいんじゃないかこの男と思った。

 好きなエロ同人のジャンルは快楽堕ち、悪堕ち。善堕ちや恐怖・絶望で自暴自棄になるようなシチュも好き。人間の心が外圧でじわじわと変形する様子を見る事を好む。
 かわいそうなのも楽しめる人種。強い意思を持つ戦う女の子が悪い奴らに捕まってひどい事されちゃうのいいよね。
 ※ただし二次元に限る

 純真な心を持つ正義のヒロインが戦い、傷つき、疲弊していく様をじっくり丁寧に描いた『魔法少女ルミナスレッド』は彼にとって素晴らしい作品であった。
 もう一度やりたいぜ。この世界には制作したサークル自体無かった。同サークルの新作を楽しみにしていたユウ君は密かに嘆いた。

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