魔法少女は■されたい   作:kurage1022

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ユウ君とカエデの登場回


02_魔法少女は行動する

 朝の6時29分。わたしは自室のベッドに横になりながら部屋の外の様子を伺っていた。

 さっきまでキッチンでお湯を沸かしてコーヒーを淹れる音が聞こえていたからそろそろ来るはず。

 

「おはよう、天峰さん。コーヒー入ってるよ」

 

 時計の針が30分を示すと同時に控えめなノック音が響き、部屋の外から優しいモーニングコールの声が聞こえた。

 いつもなら「おはよう」と返事を返す場面でも、今日は作戦のために聞こえなかったフリをする。少しすると部屋の外から人の気配が離れていくのを感じた。

 

 そして、そのまま待つこと5分。6時35分になった時に先程より大きめのノック音が聞こえ、再度部屋の外から声をかけられる。

 

「おはよう、天峰さん。コーヒー冷めるよー」

 

 しかしこれも無視する。

 ユウ君は女子のプライバシーにきちんと配慮できる人だから、普段はわたしの部屋に入ってこない。それでも、こうして朝起きないフリを続けていれば部屋に入るしかない状況に持ち込める。

 

 2度目のノックからおよそ1分後、ガチャリとドアを開ける音が聞こえた。

 

「おはよう、昨日夜更かしでもしたのか……って」

 

 ドア越しではない直接の声と同時に、息を吞むような気配を感じた。どうやら作戦は上手く行ったようだ。

 

 

 

 オペレーション・ラッキースケベの発動が決定された後、じゃあ具体的にどうすればいいのかリリィと相談して考えられたプランがこの寝起きドッキリ作戦だ。

 ……前から思ってたけど、リリィって言葉のセンスが古い気がする。

 

 やることは簡単。パジャマのボタンを大胆に開き、胸の先端付近がギリギリ見えないぐらいまで露出した状態で寝たふりをするだけ。タオルケットは腰のあたりにかかっているから、胸の谷間を隠すものは何もない。

 このまま寝たふりを続けていれば、わたしを起こすために多少の身体接触も必要になり、清楚キャラを守ったままセクシーさをアピールできる。効果は少ないがリスクも少ない、初回には丁度いいプランらしい。

 

(でも、これって結構えっちなんじゃ……)

 

 目を閉じているから彼がどんな表情をしているかは分からないけど、ブラジャーを付けていない、薄手のパジャマ一枚を限界まではだけた状態を見られている。

 もしかしたら、学校のスケベな男子のように食い入るような目つきでこちらを見ているのかも。

 そう思うと不思議と身体の芯が熱くなり、寝たふりをしている最中だというのに顔が赤くなりそうになる。

 

 そのまま一人で悶えていると、顔のあたりにコーヒーの香りがする風を感じた。

 

「起きろー」

 

 コーヒーの入ったマグカップをベッドの近くまで持ってきて、湯気を手で扇いでいる!?

 くっ……なんて恐ろしい攻撃なの。

 ……お腹空いてきた。今日の朝ごはん何かなあ。

 

 リラックス効果のある風を受けながら、それでも寝たふりを続けていると風が止んだ。

 

「これでも起きないか」

 

 卑劣な手段が通じないことが分かったようね。さあ、正々堂々どこからでもかかってきなさい!

 

「耳元で目覚まし時計を大音量で鳴らすのと、足の裏くすぐるの。どっちが良いかな?」

 

「起きるからどっちもやめて!」

 

 作戦を放棄してがばりと身体を起こした。くすぐりは、くすぐりはダメ……。

 

「…………朝ごはんはフレンチトーストだよ」

 

 わたしが身体を起こすと同時に、何故か驚いた表情でくるりと背を向けたユウ君は、背中を向けたままそう告げるとそそくさと立ち去って行った。

 なにかおかしい。いつものユウ君であれば人と話す時はきちんと相手の顔を見るはず。おまけに、さっきから胸元に開放感があるような……?

 

 ギリギリの所で隠せているはずの胸を見る。

 そこでは、身体を起こした時に露出した二つの突起が「おはようございます」と礼儀正しく挨拶をしていた。

 

「ほあああああああああああああああああああああ!!!!????」

 

 

★☆★☆★

 

 

『作戦に無いアドリブを咄嗟に思いついて実行するとは、アカネもなかなかやりますね』

 

「コーヒーおいしい」

 

『でも「ほああ」は良くないですよ。あそこは「きゃあ」か「いやあ」と言うべきでした。そうすれば花丸の120点をあげられたのに』

 

「フレンチトーストおいしい」

 

『……あの、元気出して下さい』

 

 耳からではなく、頭の中に直接リリィの声が響く。

 わたしとリリィの間には契約による魂の繋がりがあって、それを使えばこうやって二人だけの内緒話ができる。

 

『リリィには分からないわよ。気になる男子にうっかり乳首見せちゃった女子の気持ちなんて』

 

『それを理解できる女性は多くないと思います』

 

『うっさい銀髪ロングツインテ青金オッドアイ白ワンピロリ』

 

『やつあたりはやめて下さい』

 

 砂糖とミルクを大量に入れたカフェオレをちびちび飲んでいる相棒を睨みつける。

 いつもと変わらない、あどけないながらもツンと澄ました表情。苛立ちをぶつけるように、フレンチトーストをフォークで串刺しにして口に運んだ。

 

『アカネの清楚キャラを傷つけない形でユウを動揺させられたのですから、作戦は成功したのでは?』

 

『確かにそうだけど、そうだけど……!』

 

 ここで切るつもりの無い手札を使ってしまった。言葉にすればそれだけでも、乙女として大切な何かを失った気がする。

 

『というか、この作戦って本当に意味があるのかしら?』

 

『さあ、それはなんとも言えないです』

 

『意味が無いなら乳首出し損じゃない!』

 

『一撃で趨勢を決する秘策でないことは始める前から分かっていたでしょう。これから少しずつ城を攻めるのですから、焦ってはいけませんよ』

 

 この計画はどこまで行ってもユウ君次第で、わたしは受け身で様子を見るしかない。

 分かっているつもりでいたのに、あまりにも手ごたえが無いものだから自信が無くなってきた。

 

『では、先程の件について私からユウに聞いてみますね』

 

『……お願い』

 

 こういう場面だと、リリィが協力者になってくれて本当に良かったと思う。

 

 

 

「ユウ。先程アカネを起こしに行ったときにアカネの悲鳴が聞こえましたが、何かあったのですか?」

 

 事情を完全に把握しているリリィが、いつものすまし顔でユウ君に質問をする。

 気まずそうな雰囲気でフレンチトーストを食べていた彼は、わたしの表情をチラッと見た後その質問に答えた。

 

「あ、あー、いやその。……何を言ってもアウトな気がするから黙秘権を行使します」

 

「なんですかその言い方は。余計気になるじゃないですか」

 

「どうしても知りたいなら天峰さんに聞いて。僕の口からは何も言えない」

 

「そうですか。……まあいいです」

 

 そうして二人の会話は終わった。

 短いやり取りでも、さっきの出来事がそれなりに重く受け止められたことは分かる。

 

『効いてる?』

 

『多分』

 

 そういうことになった。

 

 

★☆★☆★

 

 

 学園で午前の授業を受け、お昼休みの時間。

 普段であれば購買で適当な昼食を買って食べるけど、今日は『計画』のため購買に寄ってから屋上に来た。

 この学園の屋上は一応は生徒に解放されているものの、いつも風が強いからあまり人気が無い。だからこそ、ちょっとした内緒話をする時なんかに使われている。

 屋上への扉を開けると、メッセージアプリで会う約束を取り付けた相手がわたしを待っていた。

 

「ちーっす。アカネがあたしを呼ぶなんて珍しいじゃない」

 

 坂本カエデ。

 黒いサイドテールをぴょこんと跳ねさせる彼女は、わたしにとって幼稚園の頃からの幼馴染みで、物心つく前からお母さんが居なくてお父さんも家を空けることが多かったわたしと姉妹のように育った大親友だ。

 

「来てくれてありがとう。今日は『情報屋』としてのあなたに聞きたいことがあるの」

 

「ほーん?」

 

 カエデはニヤリとした表情で怪しく瞳を輝かせた。

 そう、この女は小学生の頃将来の夢に『情報屋』と書いて担任の先生を困らせたことがある筋金入りの噂好きで、彼女の持つノートには学園に所属する生徒と教員全員の詳細なプロフィールが記されているなんてバカげた話もあるぐらいだ。

 わたしはそれが尾ひれのついた噂であると知っているけど、彼女の情報収集能力が本物なのは間違いない。

 

「実は、学園にちょっと気になる男の人が居て、その人の好みのタイプが知りたいんだけど……」

 

 わたしがそう話すと、何故か彼女はしかめっ面をして口を開いた。

 

「アカネさあ……国広先生は確かにかっこいいと思うけど、あの人既婚者だよ?不倫は良くないって」

 

「ちょっと、わたしはまだ誰の話か言ってないんだけど?」

 

「え、違うの?じゃあデイビッド先生とか?あの人は確かに独身だけど、木幡先生と付き合ってるって噂があるのよね」

 

「だから、なんでまた先生なのよ。カエデの中でわたしのイメージはどうなっているの?」

 

「イケメンパパのせいで男性観拗らせて、同年代が子供にしか見えなくなった哀れな女」

 

 こいつ……!でも、人生のほとんどの期間を一緒に過ごしてきたぐらい付き合いが長いせいで否定しきれないのが辛い……!

 

「年上が好みなんじゃなくて、落ち着いて頼りになる人がタイプなの。それでその、気になる相手っていうのは……クラスメイトの水瀬君なんだけど」

 

「ほう、水瀬って……あの水瀬?サボり魔でいつも本を読んでるあいつ」

 

「うちのクラスに水瀬っていう苗字の人は一人しか居ないわ」

 

「りょうかーい」

 

 彼の名前を伝えると、カエデは鞄の中から一冊のノートを取り出して水瀬君の情報が記されていると思しきページを開き、彼のプロフィールを公開した。

 

 水瀬ユウ。

 広品学園2-1在籍。所属する部活、委員会活動は無し。

 学業成績は上の下あたり。

 身長は180cmほどで鍛えられた身体つきだが、何によって鍛えられたものなのかは不明。

 性格は温和で誰にでも分け隔てなく接するタイプだが、人付き合いが悪くクラス内では孤立している部類に入る。

 昼食時は購買の試作新商品をまずそうな顔をして食べている様子がたびたび目撃されている。新商品が無い時はカロリーブロックと野菜ジュースで済ませている模様。好きな食べ物は不明。

 休み時間はハードカバーの小説を読んで過ごしている。小説のジャンル等は不明。

 家族構成、住所等は不明。

 他県からの進学のため、中学以前の経歴は不明。

 特記事項。

 遅刻、中抜け、早退の頻度が極めて高いが教員からは何故か注意されない。また、サボりの常習者ではあるが出席率自体は高く、何かやむを得ない事情で離席していると推察できる。最近はほとんど離席しなくなった。理由は不明。

 不明の項目が多すぎる。あたしのクラスメイトでありながらミステリアスキャラなんて許すまじ。

 

 友達でもない相手の情報をここまで詳細にプロファイリングするなんて、流石はカエデ……と思ったけど、何かツッコミどころがあるような。

 

「ミステリアスキャラがどうのって……何よそのメモ」

 

「うちのクラスじゃ水瀬以外のプロフィールはそこそこ満足できるところまで埋まったんだけど、水瀬の情報がどうにも埋まらなくてさあ。アカネが情報提供してくれるならあんたの好きなビターチョコレートを買ってあげてもいいわよ」

 

「わたしが水瀬君の情報を聞いている所なんだけど……。というか、結局水瀬君の女性のタイプも好きな食べ物も趣味も分からないってこと?」

 

「残念だけどそういうことねー。さしずめ広品学園2-1のラスボスにしてあたしの宿敵ってところかな」

 

 勝手に宿敵扱いされてる……。カエデに目を付けられるなんて彼も災難ね。

 内心でユウ君に同情していると、彼女は何かを勘違いしたのかアホ毛を跳ね上げて怒り出した。

 

「むっ!さてはあたしのことを『役に立たない情報屋だな』なんて思ったわね!」

 

「ちょっと思った」

 

「むむっ!それは許しがたい!というわけで、水瀬ユウに関する極秘情報を公開するわ!良い情報だと思ったら今度購買の焼肉弁当を奢りなさい!」

 

「それでいいけど、普通の情報が穴抜けだらけなのに極秘情報はあるの?」

 

「あるんだなーこれが」

 

 彼女はそう言うと先程のノートとは別の小さな手帳を取り出した。

 

「極秘情報その一!放課後、落ち込んだ様子のマキマキが水瀬を連れて生徒指導室に入っていく様子が何度か目撃されているわ。中で何をしているかは分からないけど、しばらくした後に元気になったマキマキが出てくるから多分励ましてるんじゃないかな」

 

 何やってるのマキ先生……。

 おどおどしていて自信なさげな様子が目立つ若い担任の先生を思い浮かべる。あの人、授業は分かりやすくて生徒思いなのも伝わってくるんだけど、クラスのみんなには舐められているのよね。

 

「この『生徒指導室ホストクラブ事件』の評価はどう?」

 

「面白いけど、水瀬君の情報じゃなくてマキ先生の情報じゃない。0.5焼肉弁当」

 

「くっ、これでもダメか……」

 

 大げさな仕草でダメージを受けたような動きをするカエデ。

 こういう場面の彼女は情報屋ごっこを楽しむのが目的であって、弁当を奢ってもらえるかどうかには執着していない。だから、情報の評価に手心を加える必要は無い。付き合いが長いからそれくらいは分かる。

 

「ぐぬぬ……。ならば、極秘情報その二!あたしたちが入学してすぐの頃に体育と保健と生徒指導の先生が変わったけど、実はその3人は生徒に手を出す淫行教師で異動先は刑務所だった!そいつらの告発に水瀬が関与していたって話よ」

 

 急にスケールが大きくなった。というかツッコミどころが多すぎる。

 

「本当にそんなことがあったのならとんでもない不祥事だから大きなニュースになってるでしょ。どこの情報よ」

 

「噂話だから裏は取れてないわ」

 

「あなたねえ……。人に教える情報なら確認ぐらいしなさいよ。0焼肉弁当」

 

「ダメかー。いや、噂は噂で結構需要があるのよ?」

 

 0点をつけられてもあっけらかんと笑ってみせるカエデ。彼女はいつだって明るくマイペースで人の話を聞かない暴走列車だ。真面目ちゃんと呼ばれているわたしの親友だと言うと驚く人は多いけど、昔から彼女とは不思議と馬が合う。

 

「極秘情報その三は無いのよねー。うーん、あとはここ最近の街中での目撃情報ぐらいしか――」

 

「詳しく」

 

 わたしと一緒に居ない時のユウ君が何をしているのかは是非とも知りたい。

 

「おっ、食いついたわね。といっても大した情報じゃないんだけどさ。夕方から夜にかけての時間帯に、市街地とか繁華街とか裏通りとかでばったり出くわしたって人が居るのよね」

 

「へえー」

 

 いつも早めの時間帯に夕食を取った後、どこかに出かけているのは知ってたけど、街に出かけて何をしているんだろう。

 

「その目撃者っていうのは、実を言うとあたしなんだけど」

 

「え?」

 

「最近、全身タイツが制服の反社会組織『リベレーター』とか、悪の組織と人知れず戦う変身ヒロインが出没するとか、夜の街を歩いていたらUMAを目撃したとか、白い仮面を付けた黒づくめの怪人が出るとか変な噂が多いじゃない?」

 

 彼女の話は続く。

 

「そういう噂の目撃情報を辿っていると、気づいたら結構遅い時間になってることがあるんだけど、そういう時は何故か水瀬のやつと偶然会うのよねー。会うたびに『もう遅い時間だから家に帰った方が良い』って言われるのは何なのかしら」

 

「それ、は……」

 

 わたしのことがもう噂になってるんだ……じゃなくて、カエデのことが心配だ。『リベレーター』は本物の悪の組織だし、最近の街は夜の闇に紛れて魔物が徘徊する危険地帯になっている。

 

「ちょっと、カエデも一応女の子なんだからあんまり遅い時間に外出するのは危ないわよ?」

 

「一応ってあんたね……。まあ、あたしも念のため防犯グッズは持ち歩いているし、治安が悪い地域には近づかないようにしてるからへーきだって」

 

「あなたは昔から情報収集に夢中になると勝手に私有地に入ったりするじゃない。あんまりにも目に余るようならおばさんに言いつけるわよ」

 

「やーめーてー」

 

 自他共に認める変人であるカエデも、お母さんに雷を落とされるのは怖いらしい。わたしにもお母さんが居たらあんなふうに怒られたのかな。

 ともあれ、今できるのはこれぐらい。彼女を説得しようにも、悪の組織や魔物のことは教えられないから説得力が足りない。

 

「それよりも!今の情報の査定価格はおいくらでしょーか」

 

「……0.5焼肉弁当。明日のお昼は奢るわ」

 

「やったぜ」

 

 

★☆★☆★

 

 

「……一回ぐらい、怖い目に遭ってもらうべきなんだろうか」

 

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