転生したら魔法使いだった。
正確に言うと、神秘が秘匿されている方の現代ファンタジー系の世界観でそこそこの名家の魔法使い家系の長男として転生した。
神様のミスがどうのこうのとかのやりとりをしていない僕がなんで転生とかしちゃってるのか疑問に思いながら、魔法勉強するのおもしれーと適当に生きていたら、より重大な事実に気付いてしまった。
あの、妹をあやしながら適当にテレビを点けた時に流れたニュースで。
『広品市で起きた爆発事故の追悼式に多くの人が集まり、遺族など参列者から献花台に花が手向けられ――』
ふーん、広品市かー。前世では聞いたことの無い地名だけど、前世とは微妙に違う世界みたいだしそういう違いはあるよね。
広品、広品……なんか聞き覚えがあるような……あっ、そういえば『魔法少女ルミナスレッド』の舞台がそんな地名だったような。
あの作品の世界観は現代ファンタジー系だったし、魔物関連の被害を爆発事故として隠蔽したって描写もあったなー。あっはっは、すごい偶然もあるもんだなー。
現実逃避はやめよう。この世界はエロ同人の世界だ。
過去に起きた事件や魔法関係の関連資料を必死に調べても、結局はあの作品との符合が増えるだけだった。
魔法少女ルミナスレッド。税込通常価格1980円。ジャンルは女主人公モノのRPGで、ヒロピンや段階エロが秀逸な素晴らしい作品だ。
正義のヒロインが戦いの中でえっちな目に遭ってだんだんエロくなる様子には息子が大変お世話になりました。
この世界がエロ同人世界だった場合何が問題なのかというと、この作品、バッドエンドの種類が非常に豊富にある上、バッドエンド後に悪の組織が世界征服に成功する描写があるのだ。
悪の組織『リベレーター』の最終目標は全人類を奴隷にした人間牧場なので、もし実現したらマイマザーとマイシスターは魔物の苗床に、マイファーザーと僕は良くて奴隷か種馬、悪ければジンジャーマンクッキーのようにバリバリと食われてしまうだろう。
戦う変身ヒロインが負けただけで世界が滅ぶなんて、まるでエロ同人みたいだあ。
この世界があの作品の展開通りに進むと仮定して、主人公ちゃんが悪の組織を撃破するハッピーエンドに到達できる可能性はどれぐらいあるんだろうか。
元々エロがメインの作品だから主人公が強い理由についての描写があまり無いし、修行パートも無いし、ラスボスの弱点を突くキーアイテムを探すような展開も無い。魔法少女が素のスペックで悪い奴らをなぎ倒すだけの展開に終始する。
そのため、原作知識のアドバンテージがほとんど無い。これが推理小説の世界なら、プロローグが始まる前にひっそりと黒幕を始末するような介入もできただろうに。
いずれにしろ、何もしなくても正義のヒロイン様が世界を救ってくれるだろうと楽観視して世界が滅んだら後悔してもしきれない。
家族や自分の身を守るため、今後は主人公ちゃんの援護をする方法や、主人公ちゃん以外のラスボスを撃破できそうな戦力を探していこう。
★☆★☆★
小学生時代はひたすら魔法の研鑽に努めた。水瀬の家は『水』の属性を持つ治療魔法使いの家系で、特に魂に干渉する魔法に長けているという。
初めの頃は手から出る光を当てると傷口が塞がるような魔法をイメージしていたけど、ここはエロ同人世界。治療魔法使いというのはエロ同人みたいな目に遭った女性を治療する方がメインの職業らしい。
性教育もまだの小学生に寄生触手の摘出方法やふたなり化の治療方法を教えるなんて、マイファーザーは倫理観がバグってませんかね。
一族の秘伝魔法である魂の浄化についても勉強した。魂というのは人が生きていくうえで重要な臓器らしい。その分類でいいのか魔法使い。
肉体が損傷すれば魂にも損傷が刻まれるし、魂が傷つけば肉体も不調になるという。幻肢痛の原因の一部がコレ?現代医学じゃ分からないわけだ。
魂の状態を変えることで肉体に干渉できるなら、もしかすると……。今度の小遣いでハツカネズミを買ってきて実験してみようか。
★☆★☆★
中学生になり、ある程度身体が育ってきた頃、通称『教会』と呼ばれる魔法使いの組織に入った。
『教会』は人類に敵対的な魔物を密かに狩る国際的な組織で、主に寄付金で運営されているらしい。原作にこんな組織出てこなかったんですが。
中学生が入れてもらえるか心配だったものの、絶望的な人手不足と某時空管理局並のブラック体質により、見習いとしての参加が許された。そんなことしてるからいつまで経っても人手不足なんだぞ。
ここで今後の活動資金と、強者への伝手、戦いの経験を得ていこう。
★☆★☆★
とりあえず先輩に付いていって適宜回復魔法で支援すればいいらしい。あとは流れでなんとかすると。OJTですね分かります。
先輩が僕の事を「くすりばこ」と呼ぶのに苦情を申し立てた。名前を憶えて欲しかったら生き延びろと言われる。『教会』マジでブラックだな。
しばらくして回復担当として役に立つことが分かると、容赦なく仕事の呼び出しがかかるようになった。中学生をこき使うんじゃない。ほとんど不登校状態だぞ。
確かに、今更中学校に通うよりは『教会』の仕事してた方が将来の役に立つけど(転生者並感)。
というか、人員の入れ替わりが激しすぎるような……。え?あの人魔物に食われたって?そう……。
★☆★☆★
いつものように先輩に連れまわされていると、『教会』の施設の廊下で淀んだ目をしたシスターさんとすれ違った。明らかに精神を病んでいる。
先輩曰く、ああいうのは先が長くないから近づかない方がいいらしい。そこで休ませてあげようとならないあたり『教会』はほんとさあ……。
確かに『教会』は辞めることへのペナルティとか無いし、志願入隊率100%だから自己責任ではあるけども。
★☆★☆★
案の定、例のシスターさんは任務中にミスを犯してエロ同人みたいな目に遭ったらしい。救助された彼女は『教会』の息がかかった医療施設のベッドに縛り付けられて、聞くに堪えない奇声を上げている。
こういう時に救助できる可能性が残るあたり、この業界の女性は有利だと思う。生きたまま発狂するような目に遭うより死んだ方がマシという話は別として。
前線で回復アイテム扱いされる仕事ではなく、彼女の肉体的な治療と、可能であれば正気に戻す仕事を任された。精神が復調しなかった場合は適当に記憶を改竄して前線に戻すらしい。鬼か。
記憶改竄は脳への負担が大きいからできればカウンセリングで治療したいな、と思いながらベッドに近づくと、僕と言う男を認識した彼女はセックスセックスと喚きだした。
一応は人間の言葉を発せる状態なのか。さて、精神医学は専門外の僕にどれだけのことができるだろうか。
持ちうる限りの治療魔法を使って彼女の肉体を癒した。とはいえ、魔物の媚毒は一度浸透すると抜くのに時間がかかる。しばらくは継続して治療を続ける。
問題は精神の方だ。肉体的には健康に近い状態に戻っても、彼女は相変わらず喚き続けている。そんなに叫ぶと喉が痛むぞ、と思ったけどエロ同人みたいな目に遭った時点で散々叫んだだろうから今更だった。
今の彼女は人の言葉を聞こうとする意思が欠片も無い。こういう状態の人間に言葉を尽くすだけ無駄なのは前世の経験で理解している。仕方ないので拘束された彼女の手を握ってみた。その体勢のまま、狂気の宿った彼女の目をじっと見つめる。
握手は広義のセックスだと思う。だから、今はこれで満足してくれないだろうか。
★☆★☆★
3日ほどにらめっこを続け、根負けした彼女が隙を見せた瞬間に怒涛の励ましの言葉とお説教を叩き込んだ。潰れる前に辞表を出すのは社会人の基本スキルだぞ。僕はやったことないけど。
『教会』の精神外科医の診断は正しく、やはり彼女は狂ったフリをしていた。いやまあ狂人のマネをして記憶改竄処置を受けようとする時点で十分に狂っているんだけども。
会話ができる状態になってもシスターさんの目には狂気の光が残っている。それ戻らないの?
なんやかんやあって拘束を外しても問題無いぐらい復調したシスターさんと、レクリエーションの一環として組み手をする。彼女の自尊心を回復させるためわざと負けようとしたら、病み上がりのくせにクソ強くて素でボコボコにされた。『教会』のシスターこわい。
すっかり元気になった彼女は、ひどい目に遭ったのだからこんな危険な仕事は辞めるんじゃないかと思ったけど、結局『教会』の仕事は続けるという。なんでも、モチベーションが下がっていた原因である悩み事が解決したらしい。本人が納得しているならよし。
★☆★☆★
以前から研究していた、魂の治療を肉体に反映する魔法がようやく安定して行使できるようになった。
限度はあるものの、通常の治療魔法では手に負えない部位欠損や肉体の変質を治療できる。
これを『復元』魔法と名付けよう。ありがとうハツカネズミさん。ありがとう名も知らぬ死刑囚さん。
★☆★☆★
進学のため準備を進める。やはり、主人公ちゃんと同じ学園に入学すると何かと都合が良いか。
調べてみると結構偏差値が高い。広品学園なんてバカみたいな名前してるくせに名門とかふざけているのか。
とりあえず、中学の内申書の偽造はするべきだろう。父さん母さんこんな不良息子でごめんなさい。全部悪の組織って奴らが悪いんです。
中学卒業を機に『教会』の仕事を受ける頻度を減らすと伝えた。理由は、中学と違って高校は義務教育じゃないから出席日数が足りないと留年するため。
それを聞いた先輩が腹を抱えて笑いだしたので一発ぶん殴ってやろうとした。普通に躱された。ちくしょう。
★☆★☆★
実家から広品市にある単身者向けのマンションに引っ越した。主人公ちゃんの家まで徒歩5分の好立地だ。
広品学園に入学し、主人公ちゃんの存在を確認した。とりあえず主人公ちゃんが居ない世界とか、主人公ちゃんが魔力を持っていない世界とかじゃないことを知れてよかった。
今は接触をせず、マークだけしておく。
学園入学祝いに、先輩から気配隠しの護符、シスターさんから魔法発動体として使用できる短剣を貰った。僕の戦闘スタイルは暗殺者系だからどちらもありがたい。先輩の贈り物からはお前はこそこそしながら回復魔法連打してればいいんだよみたいな圧を感じるけど。
『教会』でしばらく仕事をして分かったのは、この世界は魔法使いの数が少なく、戦える技能を持った魔法使いとなるともっと少ないということだ。
ラスボスの打倒どころではない。そのへんの瘴気だまりに自然発生する魔物の処理にすら手間取っている。
ルミナスレッドの代わりとなる戦力は、未だ見つかっていない。
★☆★☆★
広品学園に入学した理由の一つである淫行教師の排除を実行する。この学園には作中随一の種付けおじさんである鬼畜体育教師が居るのだ。
以前から生徒に手を出していたという描写が作中にあったから、原作開始前のこの時期でも多分犯罪者になっているだろう。
ベッドシーンに入ってしまえば正義の変身ヒロインすら問答無用で屈服させる無敵の種付けおじさんが相手でも、魔法を使えば犯罪の証拠を押さえるのは難しくない。
……体育教師の犯罪の証拠を探していたはずなのに、何故か生徒指導主任と養護教諭の淫行の証拠も見つかった。
名門とは一体……。これがエロ同人世界の学園の標準だったりするのか。オナホ養成学校しか無い世界なんて嫌すぎる。
普通に告発するとたくさんの人に迷惑がかかりそうだったので、魔法使いの組織に接触して依頼を行う。
『神無月』と呼ばれるその組織は、土地の浄化による魔物の発生予防と、情報工作を用いた神秘の秘匿を主な役割として持つ。運営資金は税金。つまり国営組織だ。原作にこんな組織出てこなかったんですが(二回目)。
税金をちょろまかして運営している都合で懐が寂しく、構成員のほとんどは表の職業を持ちながら副業的に参加しているらしい。世知辛い。
『神無月』の構成員だという、やたら目つきが鋭い婦警さんに証拠を渡し、後はよろしくお願いした。
その後、警察と学園の間で密かに交渉が行われ、淫行教師達は静かに刑務所へドナドナされていった。
加害者が居るということは被害者も存在するのだが、そちらは僕にはどうすることもできない。彼女達には強く生きて欲しい。
★☆★☆★
『教会』の仕事を減らすと言ったのに相変わらず頻繁に呼び出しがかかる。最近触媒や座標指定補助無しで『転移』の魔法を行使できるようになったから、学業と両立できてしまうあたりタチが悪い。活動資金はいくらでも欲しいので受けられる仕事は受ける。
広品市は原作の舞台であり戦場となる場所なので、以前から構想していた広域魔法監視網の構築を始めた。
頼みたいことがあるので、この土地に住む魔法使いに挨拶をする。マッサージ店の店主を務める彼は、シナリオには絡まないものの名前付きの原作キャラだ。
それなりの金額を提示して、あなたの技術を教えて欲しいと伝える。店主は理由を言わないと教えられないと答えたので、彼女ができた時にアヘアヘさせたいからですと本気の顔で言うとイイ笑顔で握手してくれた。エロマッサージはロマン。
これからは師匠と呼ばせてください。
★☆★☆★
世話になっている魔法業界の情報屋さんに耳より情報を届けられた。なんでも、とある錬金術師の家系の長女が借金を抱えて実家から勘当され、借金取りに風呂に沈められそうになっているらしい。
魔法関係者が闇金に捕まるのは率直に申し上げて草生える。そんな状況に追い詰められても誰も助けてくれないのは草枯れる。
確かに、その経歴からして能力や人間性に疑問符が付くけど、僕が『教会』で稼いだ資金を使えば借金を肩代わりして身柄を引き取れる。
前から錬金術師の協力者が欲しいと思っていたし、ここは掘り出し物を期待して連絡を入れてみようか。
★☆★☆★
ぼさぼさの髪、隈だらけの目、ボクっ娘。
★☆★☆★
錬金術師としての仕事をするには設備が必要と言うので、ボクっ娘の言う通りに物件から内装まで調達する。活動資金に羽が付いて飛んでいく。『復元』を使えるようになってから治療依頼の単価が上がったから、また稼げばいいといえばそうなのだけど。
ピカピカの設備に無邪気に喜ぶボクっ娘に、その設備の代金は君の借金に上積みしていると容赦なく告げた。利子は取らないからキリキリ働いて返して欲しい。
ボクっ娘が借金を抱えた経緯は、高級素材をふんだんに使った無駄に多機能な製品を作って、まったく売れずに在庫を抱えてしまったためらしい。
最初の頃は家族が代わりに借金を返してくれたものの、何度も同じことを繰り返して愛想を尽かされたと。完全に自業自得で欠片も同情できない。
とりあえず、呆れるほど商売のセンスが無いアホには勝手に物を作らないように厳命した。
何かを作らせないとただのヒモ女になるので、まずは能力を見るために単機能のバステ耐性アクセサリを設計させる。尊大な物言いをするボクっ娘は予想以上に手際よく資料を作成し提出してくれた。
性能諸元に不審な所はない……と思ったらわけがわからないぐらい原価が高い。性能を1%上げるために値段が10倍以上する素材を使うのはいかんでしょ。そういう高級志向はオーダーメイド品の領域だ。
知識と技術があって人間性に問題があるタイプの人材なら、扱い方次第でなんとかなるか。
★☆★☆★
売れる製品を作るため、需要のある組み合わせのバステ耐性アクセサリを考案する。先輩が任務中に死にかけていた様子を思い出しながら、単独行動時にかかると行動不能になって詰む類のバステだけをリストアップした。
あの人、僕が後ろで援護していなかったらとっくにくたばってるよな。いや違うか、僕が後ろに居るからあんな無茶な突撃を繰り返すのか。カジュアルに命を預けられると感覚が麻痺してくる。
作って欲しい物の概要を伝えるとボクっ娘にめちゃくちゃに渋られる。とにかく全部乗せが作りたいらしい。それやって中途半端な性能になって失敗したのをもう忘れたのか。
次はいける気がするという寝言をほざくアホをなんとかなだめすかし、機能を絞ることに合意させた。そうしたら今度は制限の中で最高の品を作りたいと言い出し、むやみやたらに高級素材を使ったハイエンドモデルを提案してきた。そういうのを欲しがるのは未知の大深度異界を探索するようなごく一部の層だけであって、普通の戦闘系魔法使いなら仮想敵に合わせた必要十分な性能さえあれば良いと説得する。
素人が専門家に口出しするなとキレられた。実際に現場で装備品に命を預けるのはその素人だと反論する。借金の事を持ち出して強引に押し通そうと思う気持ちを抑え、今回我慢したら全部乗せを一つ作っても良いという交換条件を出す。ボクっ娘は渋々条件を受け入れた。
そんなに全部乗せが好きなのか……。元々主人公ちゃん用に全部乗せを一つ確保しておこうと思っていたので、一つまでなら問題無い。
素材を仕入れ、試作品を作成していく。複数の耐性をそれぞれの耐性強度を調整しながら一つの装備品にまとめるのはかなり難しい作業のはずだが、ボクっ娘は涼しい顔で手を動かしている。全部乗せよりは簡単らしい。こいつ変な所で有能だな。
出来上がった試作品を対象に各種試験を行い、性能諸元と希望価格を付けて宣伝を行った。需要が読めないから今回は受注生産で行く。
★☆★☆★
ギリギリの所で生き延びた経験を持つベテランを中心にぽつぽつと注文が入った。先輩とシスターさんにも買って貰えた。素直に嬉しい。
でも、先輩はなんで同時に複数付けても意味が無い装備をこんなにたくさん欲しがるんだ。『転移』のスクロールと一緒に新人に貸し出す?この業界はお人好しから先に死んでいくと口を酸っぱくして言っていたのはどこの誰でしたっけ?
発注が入ったからすぐに製造を始めろとボクっ娘に伝える。彼女はしばらくの間呆然と立ち尽くした後、震える声で天才錬金術師であるボクに感謝しろなどと言い出した。ここで機嫌を損ねても困るので、適当な感謝の言葉と合わせてこの調子で働いて借金を返してくれることを期待していると言う。何故かギャン泣きしだした。泣いてないでさっさと作れ。
この一件からボクっ娘が素直に言うことを聞くようになったので、回復薬やブランクスクロール等の消耗品の生産を任せる。大手でも老舗でもないうちはこの手の商売では勝ち目がないが、僕がブランクスクロールに魔法を書き込む作業を担当すれば、供給不足の分野に参入するぐらいはできる。
素直になったといっても、相変わらず高級志向のボクっ娘が勝手に高級素材を使った消耗品を作ろうとするのをやめさせる。自信満々で謎製品の設計書を提出してくるのを理詰めで却下する。調整すれば売り物になりそうな案がたまに来るので、全力で軌道修正して製品化する。
こいつはいちいち細かく指示してやらないとまともに仕事ができないのか。協力者ができて楽になったはずなのに、むしろ仕事が増えている。
★☆★☆★
やる事が多すぎて時間が足りない。解決方法が無いかボクっ娘に相談する。
飲むと3日間寝ずに働ける代わりに、効果が切れると反動で2日ぐらい寝込む魔法のクスリが作れるらしい。
回復魔法で反動を誤魔化せないか実験してみる。ぶっ倒れて1日寝込んだ。一応軽減はできているけど1日行動不能になるのは許容できない。もっと調整が必要だ。
寝込んだ時に、頼んでもいないのにボクっ娘に看病された。こいつこのキャラで料理上手なのかよ。
調整の末、1日3時間睡眠でも8時間睡眠並のパフォーマンスで活動できるようになった。協力してくれたボクっ娘を褒め称える。しかし、いつも尊大な態度で調子に乗った発言をする彼女は、今回はあまり嬉しそうではなかった。
人の心はそんな無茶が続けられるようにできていない?知ったことか。
★☆★☆★
広域魔法監視網の構築が終わり、稼働を開始した。市内各所に設置した魔法陣から微弱な探知魔法を発し、統合処理することで魂・魔力・瘴気反応の座標を検知できる。イメージとしてはアクティブソナーに近い。動力源はメインが霊脈でサブが魔石。
これがあれば敵の動向を把握できるし、シナリオ内の探索フェイズもほぼスキップ可能になる。主人公ちゃんが生身で探索している時にスタンガンで気絶させられて、そのまま薬漬けバッドエンドに直行するような世界だ。治安の悪さを舐めてはいけない。
この監視網を『カサンドラ』と命名する。破滅の未来を予言しながら何も変えられなかった悲劇の王女。今の状況にぴったりの名前ではないか。
ルミナスレッドの代わりとなる戦力は、未だ、見つかっていない。
★☆★☆★
二年生に進級した。そろそろ原作の開始時期が近い。このまま何も起きなければいいのにという願いは叶わず、『カサンドラ』により強大な瘴気反応が複数検知される。
動き出したか、ドクター。
人型で、人語を話し、強大な瘴気を持つ魔物。怪人と名乗るその存在は、それぞれの持つ特殊能力を用いてこの街の裏社会を急速に支配していった。
たった一体で『教会』の精鋭部隊を蹂躙しうる化け物が、闇に紛れて組織的に活動している。悪夢のようなその光景を克明に記録し、報告書をまとめた。
『教会』と『神無月』の上層部に報告書を提出し、この事態を収集可能な戦力を出せるか質問する。
『教会』からは、招集可能な全ての戦力を結集しても勝ち目が薄いため、静観しながら機を伺うしかないと返答が来た。
『神無月』からは、特級戦力の『神降ろし』が現在空席なので、次代の巫女が戦えるようになるまでの一年間をなんとか持たせろと返答が来た。
完全に予想通りの内容に、面白くもないのに乾いた笑いがこみ上げてくる。そうだよな、そうでなければ原作の展開にならないよな。
★☆★☆★
戦力の捜索を打ち切り、主人公ちゃんの援護のために事前にできることを進めていく。
既存の秩序を破壊し、新たなる秩序を打ち立てるという理念を掲げた『リベレーター』なる組織が新規隊員を募集している。社会に絶望した若者を中心に志願者が集まっているらしい。
全身タイツとガスマスクを着用した『リベレーター』戦闘員を一人拉致し、その戦闘能力を調査する。装備を付けた状態の能力を調べた後、装備を剥ぎ取って解析を行う。中の人はいらないので適当に記憶封印処置を施し放流した。
調査内容をまとめて各組織の上層部に提出する。原作では誰がいつ頃にこの仕事をやったんだろう。
裏社会に潜伏した怪人の動向を監視する。違法薬物の売買や、過激な性的サービスを提供する店の運営など、実に人間らしい方法で資金を稼ぎ勢力を拡大している。
奴らの目的は世界征服である。そのため、人間社会の完全崩壊は望んでいない。奴らは人間を資源と見なしている。そのため、無闇な殺生は行わない。これらの前提から、原作で描写されていない時期の様子として不自然ではないと考えられる。
怪人達はそれぞれ好みの場所に異界を作って拠点にしている。軽く覗いてみたものの、まともに探索しようとしたら命がいくつあっても足りないような大深度異界だ。ただ、深度の深い異界というのは希少素材の宝庫でもあるので、身を隠しながらお土産を少し拾って撤収する。
★☆★☆★
広品市が危険地帯になったことが先輩とシスターさんにバレて詰め寄られる。この二人は人類屈指の実力者なので、『教会』上層部からの話を聞ける立場にある。
先輩は、家の近くが魔境になるなんてついてないなと笑い、住む所が無くて困るならウチに来るかと言ってきた。
その提案を断り、当分の間は忙しくて『教会』の仕事ができないから、僕の代わりの「くすりばこ」を探すように伝える。
先輩は一瞬だけ恐ろしい形相をした後、そうか、とだけ言った。
シスターさんは、危険なことをするのはやめてほしいと懇願してきた。危険なのは『教会』の仕事ではいつものことでしょうと茶化す。
やめてくれないなら私も連れて行って欲しいと言われる。
脳筋が一人増えても役に立たないので、シスターさんには『教会』の仕事をしていてほしいという内容をオブラートに包んで伝える。
シスターさんはこの世の終わりのような表情をした。リアクションが大げさすぎる。
★☆★☆★
実家から電話がかかってきた。馬鹿な事してないで帰ってこい?何故バレた。
聞いてみると先輩がチクったらしい。妙におとなしいと思ったら裏でそんなことをしていたとは。
母さんの心配の言葉を適当に聞き流して、へーきへーき、大丈夫だってと主張する。
全く信用されない。何故だ。
妹は、父さんと母さんに心配をかけるバカおにいなんか死んじゃえ、と罵って来た。
こらそこ、勝手に僕の死亡フラグを立てるんじゃあない。
父さんは、一度も聞いたことがない厳しい声で、帰ってこい、家長としての命令だと言った。
僕が『教会』の仕事をしたいと言い出した時も寛大に受け入れてくれた父がこんな態度を取っている。心が揺れる。
それでも、ここで逃げても事態は何一つ好転しない。無理そうだったら逃げるよ、と我ながら空々しい嘘をついて通話を切った。
★☆★☆★
怪人の拠点で拾ってきた希少素材を上機嫌で調べるボクっ娘。こいつは家族も友達も伝手も持っていないから、超危険生物が近所に引っ越してきたことを知らない。かわいそうなので教えてあげる。
速攻で逃げようと提案してきた。君の転居を許可すると返す。ボクっ娘は違うそうじゃないとキレて、お前も一緒に来るんだよとダダをこねだした。ハタチ越えた女がダダっ子になっても見苦しいだけだぞ。
こちらに逃げる気がないと理解したボクっ娘は、勝算はあるのかと聞いてきた。今は無いと答える。
ボクっ娘はバーカバーカと低レベルな罵倒をした後、希少素材の解析を再開した。引っ越しはしないのかと聞く。彼女は、荷物をまとめるのが面倒だから今のままでいいと答えた。
★☆★☆★
『カサンドラ』により警察と『リベレーター』戦闘員の小競り合いが検知された。
戦闘員は通常の魔物と同じように、魔力が付与されていない物理攻撃をほぼ無効化する性質を持つので、仮に対物ライフルの弾が脳天に直撃したとしてもダメージは一切入らない。警察側が一方的にやられている。
戦闘員が相手なら、負けても殺されたり食われたりするリスクは少ない。現時点ではなるべく怪人を刺激したくないので、救援はせずに放置する。
魔力反応を持つ何者かが乱入した。は?急いで最寄りの『カサンドラ』ノードに『転移』し、現場に向かう。
乱入者は『神無月』所属の婦警さんだった。そういえばあなたも広品市に住んでいる人でしたね。
彼女はマジカル☆パンチで数名の戦闘員をノックアウトした後、囲まれてボコられて捕まったようだ。弱い。いや、『神無月』は構成員のほとんどが非戦闘員だと聞くからこれでも強い方なのか。
このままでは婦警さんは戦闘員達にお持ち帰りされてエロ同人みたいな目に遭ってしまう。仕方ないので救援に入る。
婦警さんが捕まっているあたりにスタングレネードを放り込み、戦闘員どもが音と光で怯んだ隙に彼女を抱えて逃走した。奴らは物理無効でも視覚と聴覚は普通にあるからこの手に限る。
ぐったりしている婦警さんを抱えてボクっ娘宅へ『転移』する。あいつの家は、錬金術のためにどうしても煙突が欲しいという要望を聞いた結果そこそこ大きな物件になり部屋が余っている。
客室兼医務室としている部屋で婦警さんに回復魔法をかけていると、ボクっ娘がなんだなんだと寄って来た。おまえは自分の仕事に戻れ。
元気になった婦警さんに何故戦おうとしたのか理由を聞く。同僚がやられているのを見て頭に血が上った?あのさあ……。
また同じような事があっても次は助けないぞと強く言い含めて『転移』のスクロールを押し付ける。次いで、警察官の立場にあるなら直接戦う以外に被害を減らす方法はたくさんあるだろうと諭す。
反発されるかと思ったが、婦警さんはその手があったかと素直に感心していた。脳筋め……。
原作に主人公ちゃん以外の魔法使いがほぼ登場しなかった理由をなんとなく理解した。
賢明な人はすぐに逃げ出して、善良で勇敢で愚かな人は全滅した後だったのだろう。救いが無い。
★☆★☆★
先輩に『透明化』『音消し』『魔力隠蔽』『影潜み』『霊体化』等の魔法が使える、潜入のプロの知り合いが居ないか聞いてみた。
そんな変態はお前しか知らんと言われる。知ってた。だから、自分をそういう方向に育てるしかなかったんだ。
必死に努力しただけのガキが業界トップクラスになれるなんて、低レベルすぎて恥ずかしくないのかと思うも、目の前にいる人が曇りそうだったので口には出さない。
話の流れとこちらの様子から僕の内心を察した先輩が曇った。こんな時に察しが良くても誰も得しないんですが。
覚悟を決める。
怪人の拠点である異界に潜入する。わーい、希少素材がいっぱい手に入るぞー。
異界にある呪術の痕跡を集めていく。怪人はそれぞれ固有の呪術を持っていて、どれもこれも当たると負け確定するようなえげつない効果なので、なんとかして対策を用意したい。
探知能力の高い魔物に見つかりそうになった。まずい、瘴気濃度が高すぎてここでは『転移』が使えない。バレたら死ぬ。
こんなこともあろうかと、『リベレーター』戦闘員のスーツを解析して作った魔物に擬態する魔法を使う。ぷるぷる、ぼく悪い魔物じゃないよ。
……なんとか見つからずに済んだ。『擬態』は本能で生きているタイプの魔物には有効だが、怪人や知能の高い魔物は誤魔化せない。再び通常の隠密状態に戻る。
こんな危なっかしい潜入を怪人全員分やらないといけないなんて、一体何の罰ゲームなんだ。
★☆★☆★
異界探検ツアーのお土産をボクっ娘に渡す。図鑑でしか見たことのない希少素材の山に目をキラキラと輝かせるボクっ娘。
続けて怪人の呪術を解析したデータを渡す。ついさっきまで上機嫌だったのに、読み進めていくうちにどんどん顔色が悪くなるボクっ娘。忙しないなこいつ。
予算はいくらかかってもいいからこの呪術の耐性を持つ装備を作れと指示する。高級品大好きなボクっ娘はきっと喜ぶはず。
彼女は急に無表情になり、何故オマエがこんなことをしているんだと聞いてきた。
――――。
何でだろうね?他にやってくれる人が居なかったからかな。
★☆★☆★
『カサンドラ』により奇妙な反応が検知された。これは……精霊か。
災害級の魔物が発生し、世界の危機を察知した精霊が現れる。この世界の歴史上で何度も観測されている現象だ。
『教会』と『神無月』が静観を選んだ理由には、精霊の出現を期待したという部分も含まれている。
精霊は主人公ちゃんの居る場所に一直線で向かい、彼女につきまといだした。きっと今頃は精霊さんの営業トークが炸裂しているのだろう。
つまり、原作が始まったのだ。
主人公ちゃん。精霊さん。
お願いだ。僕にできることなら何でもするから、どうかあの黒い星を墜としてくれ。
好きな登場キャラは?
-
主人公ちゃん
-
精霊さん
-
ユウ君
-
妹
-
先輩
-
シスターさん
-
婦警さん
-
ボクっ娘