魔法少女は■されたい   作:kurage1022

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リリウムさんは裏表のない優しい精霊です。


06_精霊さんは軟着陸させたい

『ねえリリィ。今の方針でどれだけ頑張っても意味が無い気がしてきたんだけど』

 

『そんなことないですよ。少しずつ進展しているはずです』

 

『ううん。そうなのかな……?』

 

 夕食の前の時間。ユウが料理している様子をぼんやりと眺めていたアカネが、例の件について相談してきた。

 

『電車でバランスを崩したフリして抱き着いても、普通に心配されるだけだったわ。気合入れて髪とお肌の調子を整えても、少し嬉しそうな反応されただけだし』

 

『彼が嬉しそうにしていたのなら、上手く行っているのでは?』

 

『確かにユウ君は反応してくれたけど……。なんだか他の男の人にジロジロ見られる頻度が上がった気がして、わたしはあんまり嬉しくないの』

 

 恋は女を綺麗にするという話がある。今のアカネは異性に見られることを意識して身だしなみを整えているため、以前よりも容姿に磨きがかかっているようだ。

 

 ……私は例の計画に協力すると約束したが、実の所、その成就を心から願っているわけではない。

 この放っておいたらどこへ突っ走るか分からない暴走娘をどうにか誘導して、どこかに軟着陸させたいというのが本音だ。

 

『順調に進めば「散々挑発しやがって。清楚なフリしながら実は誘ってたんだろ?」「違っ……私、そんなつもりじゃ……!」みたいな感じになるはずなのに、微塵もそういう気配が無いわ』

 

『ユウはそういう発言をするキャラではありませんよ』

 

『雰囲気よ雰囲気』

 

 こんな計画を提案した私のせいではあるが、それが上手く行くと信じて素直に実行してしまう彼女も大概である。

 エロ本を読み過ぎて現実とエロ本の世界を混同しているのかもしれない。

 私の契約者はどうしてこうなってしまったのか。何もかも催眠怪人が悪い。

 

『こういう気の長い方法じゃなくて、一発で解決できる魔法とか無いの?』

 

『具体的に聞いてください』

 

 私がそう言うと、彼女は何故か得意げな様子で話を続けた。

 

『この前読んだ本に「セックスしないと出られない部屋」っていうものがあったわ』

 

 聞いているだけで頭がおかしくなりそうなワードが飛び出してきた。

 

『扉を封鎖する魔法は存在しますが、何ですかその限定的すぎる条件は……』

 

『そういう部屋にわたしとユウ君が閉じ込められて、わたしが全力で拒否すれば、彼は泣く泣くレイプしてくれるんじゃないかなって』

 

 なんという恐ろしい計画だろう。だが、アカネとユウの二人を閉じ込められる部屋を用意するのは非常に困難だ。

 

『あなたもユウも『転移』が使えるでしょう。もしそれを封じたとしても、あなたは『変身』すれば厚さ10mの鋼板でも容易に突破できますし、ユウは『霊体化』で壁抜けができます』

 

『そこを魔法でなんとかできない?』

 

『無茶を言わないでください。私もあなたも結界魔法の適性は高くないのですよ』

 

『そう……』

 

 部屋に閉じ込めるのが無理と聞いた彼女は残念そうな表情をしている。アカネ的には泣く泣くレイプでもOKなんでしょうか……。

 

『なら……惚れ薬とか、そっち系の魔法はどうかしら』

 

 いよいよなりふり構わなくなってきた。このままではユウの貞操が危ない。ただ、その手段もやはり実現困難だ。

 

『魔法の惚れ薬や、『魅了』の魔法は存在します。アカネには扱えない魔法ですが、薬であれば入手できるかもしれません』

 

『それじゃあ……』

 

『私はそういう伝手を持っていませんが、ユウであればきっと調達できるでしょう』

 

『……いや、ユウ君にもらった薬をユウ君に飲ませるのは無理じゃない?』

 

『まあ、無理でしょうね。仮に薬を盛ることに成功したとしても、ユウは治療魔法使いなので異変に気付いて自己治療してしまいそうです』

 

 彼は何故か隠密や斥候としての優れた能力を持っているが、本業は治療分野であると話していた。

 あの年齢であそこまでの魔法を修めるには、並々ならぬ努力と才能が要るはずだ。一体、どのような人生を送って来たのだろう。

 

『むむむ……』

 

『何か思いついたらまた言ってください。相談ぐらいならいくらでも乗ってあげますから』

 

 計画は成就しそうにないが、こうして悪だくみをしている時のアカネはなんだか楽しそうだ。これはこれでストレス解消になっているのかもしれない。

 こころなしか、以前より表情が明るくなった気もする。

 このまま穏便に進んで、どこかで諦めてまともな道に戻ってくれれば良いのですが。

 

 

★☆★☆★

 

 

「今日の夕飯はイカのお好み焼きと、イカのわたのホイル焼きです」

 

「わーい。イカおこのみ大好き」

 

 ユウの手料理を前にして、子供のように喜ぶアカネ。

 そういうお子様な所もしっかり見られているんですよ、という指摘は控える。

 彼女は料理は苦手だが、食後の後片付けや食器洗いはアカネの担当なので、何もかも彼に任せきりというわけではないからだ。洗い物とか掃除とかは好きなんですよね彼女。

 

「おいしい。……そうそう、今日はユウ君に聞きたいことがあるの」

 

「何だい?」

 

「ユウ君はわたしの好きな食べ物を知っているけど、わたしはユウ君の好きな食べ物を知らないじゃない?だから、教えて欲しいなーって」

 

 アカネは知人らに彼の趣味趣向について尋ねて回ったらしいが、碌な情報が得られなかったと聞いている。

 なので、直接聞いてみることにしたらしい。

 

 好きな食べ物が何かという簡単な質問を受けたユウは、何故か、話したくない事を聞かれたような気配を一瞬だけ覗かせた。

 違和感を覚えるも、彼はすぐに普段通りの友好的な雰囲気に戻ってしまった。……私の見間違いだったのだろうか。

 

「……カレーとか、シチューとか、ポトフとか。具材を色々入れられる煮物料理が好きだよ」

 

「へえー、そうなの。カレーならわたしでも美味しく作れるわよ」

 

「あはは……。今度一緒に作ろうか」

 

 アカネの料理下手を知るユウは苦笑いをしている。

 包丁の扱いは上手でも、味付けと火加減のセンスが無いんですよね……。魔物を焼き殺す事に関しては抜群のセンスがあるのに。

 

「えーと次は……ユウ君って学園の休憩時間ではいつも本を読んでいるわよね。どういうジャンルの本が好きなのかしら」

 

 質問を受けたユウは、少しだけ考え込むような仕草をした後に口を開いた。

 

「実は、普通の本に偽装して魔法関係の参考書を読んでいるんだ。『カサンドラ』を作るのはかなり大変だったからね……。ただ、いつも勉強ばかりってわけでもなくて、娯楽小説も読むよ。好きなジャンルは特にないけど、人の心の移り変わりを丁寧に描いた作品とかが好みかな」

 

「ほうほう」

 

 二人の様子を見ながら、あの広域魔法監視網の仕様を思い返す。

 空間に作用する魔法なので、特定の対象を取らない。そのため、ほとんどの占術耐性を貫通するという恐ろしい性質を持つ。

 それぞれのノードが発する探知魔法が微弱すぎて逆探知が困難であり、魔法陣に施された高度な隠蔽処理と併せて発見されるリスクを抑えている。

 仮に発見されたとしても、複数のノードが連携して機能するという仕様なので、単体で見ればよく分からない魔法を発する魔法陣でしかない。

 いくつかのノードが破壊されたとしても、全体の稼働率が一定以上であれば問題無く機能する。ノードが完全に破壊されなければ遠隔で修復も可能。

 こんなものを「作れると思ったから作った」「知的好奇心が抑えられなかった」なんて理由で構築する彼は何者なんでしょう。

 

『リリィ、次はあなたの出番よ。近所のおばさんみたいな感じで彼の異性のタイプを聞いてみて!』

 

『誰がおばさんですか。まったく……しょうがないですね』

 

 アカネから協力要請が来た。

 まあ、私としてもこういう健全な方面のアプローチであれば嫌ではない。

 

「ユウ、私からも質問です。ずばり、あなたの好きな女性のタイプはどのようなものなのでしょうか」

 

 私がそう聞くと、彼はチラリとアカネの表情を見た。

 彼女は懸命に気の無いフリをしているが、ソワソワしていることをまるで隠せていない。

 完全にバレてますね……。そういう嘘がつけない所もあなたの美点ではあるのですが。

 

 ユウは少しの間だけ目を閉じ、フ、と笑みを浮かべてからその問いに答えた。

 

「こうと決めたら意地でも曲げない意志の強さがあって、それでいて見ていてどこか危なっかしい、支えてあげたくなるような所がある人かな」

 

「結構具体的ですね」

 

「あとは、そうだな……。何かやりたい事があって、そのために情熱を燃やせる人とか」

 

「カエデみたいな?」

 

「確かに、坂本さんはこの条件に結構当てはまっているね」

 

 穏やかなユウとは対照的に、アカネはむむむと悩まし気な表情をしている。

 彼は、甘えるよりも甘やかしたい、献身的なタイプらしい。

 なるほど……。そうであれば、アカネとの相性は良さそうだ。

 

『リリィ、大変よ。彼のタイプにわたしが全然当てはまってない気がする』

 

『え、そうですか?』

 

『そうじゃない?』

 

 アカネが妙な事を言い出した。

 

『あなたは熱中する趣味などは持っていないようですが、頑固なところも危なっかしいところもあるでしょう』

 

『……そうなの?』

 

『そうですよ。精霊リリウムの誇りにかけて断言します』

 

『そんなことを断言されても嬉しくない……』

 

 アカネの表面的な部分しか知らない人物であれば、先程ユウが挙げた要素は彼女に当てはまらないと感じるだろう。

 だが、彼女と魂の契約を結び、親しく接してきた私は、そうではないことを知っている。

 

『確かにそれらの要素は欠点とも取れる部分ですが、人の好みは千差万別です。あなたはありのままのあなたで良いのですよ』

 

『ううん。そう、なのかな……』

 

 

★☆★☆★

 

 

 夕食を終え、アカネが洗い物をしている時にユウが話し掛けて来た。

 普段であればアカネを含めた3人での会話になるので、こうして1対1での会話は珍しい。

 

「リリウムさん。天峰さんには秘密の話をしたいんだけど、『対話』の魔法で話をしてもいいかな?」

 

「はい、構いませんよ」

 

 小声での内緒話ではなく、魔法を用いた会話となるといよいよ穏やかではない。何か問題でも起きたのだろうか。

 

『まずは現状認識の共有から。……天峰さんは、『リベレーター』との戦いを苦痛に思っている。義務感と責任感でなんとか持ちこたえているけど、それだけでは抑えきれない過剰なストレスを抱えている。リリウムさんから見ても、この認識は合っているかな』

 

『……ええ。間違いないです』

 

 私もユウも彼女の負担を減らそうとしているが、一般人である彼女に命懸けの戦いを強いていることに変わりはない。

 このまま我慢を続けさせれば、いつか取り返しのつかないタイミングで爆発してしまうかもしれない。

 それでも、彼女の代わりは居ないのだ。私にできるのは、彼女が慣れるのを待つことだけだった。

 

 いつもと同じ状況であれば。

 いつもと同じ、私と契約を結ぶしかない、より末期的な状況であれば。

 契約者の少女は、喪失の痛みを抱えながら死に物狂いで戦ってくれたはずなのだが。

 

『それなら、もう一つ確認させてほしい。リリウムさんは、契約者である天峰アカネの味方だよね?』

 

『……?どういう意味の質問ですか?』

 

『言葉通りの意味だよ』

 

 彼はなにやら意味深な確認をしてきた。何故そのような当たり前のことを聞くのだろう。

 

『はい。私は彼女の味方です』

 

『ありがとう。あなたが決して彼女の不利になる行いをしないと信じるよ。だから、……この信頼を裏切らないでほしいな』

 

『まるで、私がこれからアカネの不利益になることをするかのような物言いですね。少々不愉快です』

 

 私の気持ちを表明するために、むっとした表情を作って見せたが、彼は全く動じずに話を続けた。

 

『ごめん。別に大したことじゃないんだ。これから何か判断に迷うことがあったら、"天峰さんの利益になるか"を一番に考えてほしいってだけだからさ』

 

 彼に私を疑っている様子はない。本当にただの確認がしたかっただけのようだ。

 

『それで、ここまでもったいぶって確認しなければならなかった本題は何なのでしょうか?』

 

『今度の休みに、僕の協力者の人達と、あとは知り合いに話を聞きに行こうと思っているんだ。聞く内容は、"どうしてあなたは戦いに身を投じたのか"』

 

『戦う理由……ですか』

 

 今のアカネが持っていないものだ。人が理不尽に苦しみながらも、それでも前を向く原動力となる大義、あるいは覚悟といったもの。

 

『本当は天峰さんを連れて行きたかったんだけど、彼女は正体を隠さなければならない。だから、代わりにリリウムさんが一緒に来て、聞いた内容を彼女に伝えてあげてほしい』

 

『それぐらいならお安い御用です』

 

 話を聞いて、それを伝えるだけ。たったそれだけで現状の改善に繋がるかは分からないが、私一人では何もできなかったのも事実だ。

 この男は冷静で視野が広く、まるで未来を見通すかのように采配を振るう。そんな彼が有効だと判断した。それだけでも、私が彼の策に乗る十分な理由足りえた。

 

『よし。じゃあ今度の土曜は朝から出かけるから、当日はよろしくね』

 

『はい』

 

 少しの間アカネと別行動することになるが、彼女の『変身』は私が遠くに居ても問題なく扱える。いざとなれば『転移』で合流も可能だ。

 彼に協力者が居ることは口頭で説明されていたものの、正体を隠さなければならない都合で直接顔を合わせることはなかった。

 この年齢に見合わず優秀で、謎が多すぎる人物の背景に迫れると思うと、少しだけワクワクするような気分になれた。

 

 

 

「えっ!?リリィとユウ君が休日デート!?」

 

「何故そうなるのですか……」

 

「あっはっは」




好きな食べ物が無い人が、好きな食べ物について聞かれたら、どういう気分になるんでしょうね。
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