魔法少女は■されたい   作:kurage1022

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大げさな人


07_精霊さんは話を聞く_1

「それじゃあ、行ってくるね。夕方はいつも通り出撃するから、それまでには戻るよ」

 

「はーい」

 

 土曜日の朝、朝食を食べてすぐの時間。ユウは出かける前に、アカネの今日の予定を確認しているようだ。

 

「天峰さんは、今日は坂本さんと遊びに行くんだっけ?」

 

「ええ。一緒に買い物と、あとはカラオケにも行く予定」

 

「そうか。それは良かった」

 

 アカネが友達と遊びに行くと聞いただけで、何故かユウは嬉しそうにしている。こういう時の彼の感情の動きはいまいち理由が分からない。

 

「天峰さん。出かけるときは、人気のないところに行かない。ナンパされても絶対についていかないように。知らない人に貰った食べ物は口にしちゃいけない。モデルのスカウトとか言われても耳を貸さないこと。宗教勧誘や変なセミナーにしつこく誘われても無視して。歩いている時に近くに車が止まったらすぐに車から離れるように。様子がおかしい人が居たら距離を取ること。それから……」

 

「も、もういいから。心配してくれるのは嬉しいけど、そこまで言われるほどじゃないわよ」

 

 かなり本気で心配している様子のユウに、アカネは嬉しさ半分迷惑半分といった表情だ。

 彼女は小さい子供ではないのだから、幼児に言って聞かせるような注意はやりすぎだと思うのですが。

 

 

 

 

 ユウが『転移』の魔法を発動すると同時に私の視界が切り替わった。

 私の依代である、銀の台座に水晶をはめこんだブローチは、彼の服の胸ポケットの中にある。そのため、彼の周辺に限れば実体化せずとも自由に移動できる。

 『転移』した場所は……床に座標指定補助の魔法陣が設置された部屋。壁や天井が白一色で統一されたこの部屋は、どうやら病院の一室のようだ。

 

『今日は、まあ、色んな人に話を聞きに行くわけだけど。それと一緒にお仕事とか情報交換もしていくから少し長くなるよ』

 

『承知しました』

 

 彼はそう言うと、慣れた様子でドアを開けて廊下をスタスタと歩いて行った。

 途中で受付に寄り、入場用の書類を提出してからさらに進んでいく。

 

『ずいぶん慣れている様子ですが、ここは……?』

 

『『教会』が運営に関わっている病院。魔物の被害に遭った人や、魔法での治療が必要な人が送られてくる場所だよ』

 

 『教会』。私が眠りについている間も、あの歴史ある組織は健在だったようだ。

 治療魔法使いの彼が、そういう施設に来たという事は……。

 

 やがて、彼は一つの病室に辿り着いた。間にカーテンの仕切りがあり、複数の患者を同時に収容できる大部屋。

 そこでは、修道服を着た一人の女性が彼の到着を待っていた。

 

「おはようございます、センセイ。しばらくぶりですねー」

 

「おはようございます、リナさん。元気そうで何よりです」

 

 くすんだ金髪に、灰色がかった碧い瞳。ウィンプルは被っておらず、背中のあたりまで伸ばした髪を一本結びでまとめている。

 流暢な日本語を話しているが、その顔立ちは白人のものだ。彼女はどこか眠たげな目を嬉しそうに細めて、ユウのことをセンセイと呼んだ。

 

「積もる話はありますが、まずは患者の方々の治療が先です。こちらをどうぞ」

 

 そう言うと彼女は、この部屋に収容されている患者のカルテをユウに手渡した。

 

「苗床化による重度の体質変化が6名、追加で欠損有りが1名ですか」

 

「はい。『中身』の摘出と解毒処置は別の方が実施済みで、現在は薬で眠らせてあります」

 

「では、症状が軽い方から順番に『復元』を行っていきますね」

 

 ユウは病室にある一つのベッドに歩み寄ると、そこで寝ている患者の身体にかけられた布を取り払った。

 手首に点滴を取り付けられたその女性は、全身に凌辱の痕跡を色濃く残している。特に目立つのは下腹部から性器にかけての状態で、幾度も魔物を出産したことが一目で分かるような有様だ。

 

『リリウムさん。これから少し時間がかかる魔法を使うから、その間は話し掛けないでくれるかな』

 

『はい、承知しました』

 

 私の返事を聞いたユウは、粘土の塊のような物を取り出してから手で千切り、それに白い粉を混ぜてから患者の腹の上に乗せた。

 続いて、黒い渦のような物が入っている厳重に密閉された小瓶をベッドに置く。

 触媒の準備を終えた彼は、一度深呼吸をしてから魔法の詠唱を始めた。

 

「『魔法自動化』設定開始。魔法指定、『時間遡行』。遡行時間指定、10秒。対象指定、人間一名。触媒指定、『ニュートロニウム』30g。発動条件指定、『復元』の失敗時。設定完了。『魔法自動化』起動」

 

「『復元』の各工程開始。対象の魂に接続……OK。魂と肉体の同期を無効化……OK。魂の損傷履歴を参照。編集開始――」

 

 私が見ている前で、ユウは魔法を詠唱し続けている。しかし、患者の身体には一切の変化が起きていない。

 それは異常な光景だった。魔法の詠唱には多大な集中力を要し、これだけの長時間継続するだけでも容易なことではないためだ。

 そのまましばらくの間、見かけ上は何も起きないまま時間が経ち、彼が編集を開始してからおおよそ5分後にようやく変化の時が訪れた。

 

「――編集完了。魂と肉体の整合性確認を実施……OK。再度整合性確認を実施……OK。魂側の優先度を最大に、肉体側の優先度を最低に固定。魂と肉体の同期を有効化――『復元』」

 

 ユウが詠唱を終えると、患者の身体に劇的な変化が現れた。

 全身に刻まれた凌辱の痕跡が、時を巻き戻すかのように消えていく。見た目では分からないが、おそらくは内臓も治療されているのだろう。また、その変化と同時に粘土のような物体の質量が少し減ったようだ。

 ベッドに寝かされている女性は健康的な肉体を取り戻し、つい先程まで哀れな犠牲者そのものの姿だったことが嘘のようだ。

 

「バイタルチェックを実施……OK。魂と肉体の優先度を標準に変更。魂への接続を解除。『魔法自動化』停止。……全行程完了」

 

 使用せずに残った触媒を回収し、患者の身体を隠すために布をかけることで彼の施術は完了した。

 ユウは少し疲れた雰囲気で、大きく息をついている。

 

「お疲れ様です。センセイの治療は、まるで魔法のようですねー」

 

「魔法ですからね」

 

 患者の様子を見て軽口を言った二人は、顔を見合わせてくすりと笑った。

 

 ……私は知っている。治療魔法というのはそこまで万能な物ではない。

 自然治癒力を高める魔法や解毒魔法等は一般に普及しているが、重度の肉体の変質は魔法では治療できないはずだ。

 私が知らない間に何か変化があったのだろうか。あの、私が見たことの無い魔法について後でユウに聞かなければ。

 

 そのまま彼は、病室に居る患者を順番に治療していった。

 最後の一人である四肢の一部を欠損した患者を治療する際に、何やら怪しげなクスリを自身に注射していたのが少々気になりはしたが、彼は10分近い長時間詠唱を行いその患者の治療も成功させていた。

 切断された部位をくっつけるのならまだしも、完全に喪失した部位を再生するのはやはり尋常ではない。欠損した部位の再生は、希少な『エリクシル』でもなければ不可能なはずなのですが。

 

 

 

 

「はぁ……。今日もなんとか医療ミス無しで乗り切れた。サンキュー神様」

 

 施術を終えたユウは、病院内にある小さな休憩スペースに移動し、椅子に腰かけてマジックポーションを飲んでいる。

 リナと呼ばれていた女性は、治療の後に報告書を提出しに行ったのでこの場には居ない。

 ずっと聞くのを我慢していた疑問を解消するチャンスだ。

 

『ユウ。あの『復元』という魔法は何なのですか?近年新しく作り出された魔法なのでしょうか』

 

「そうだね。実は僕が考えた魔法なんだ」

 

『えっ』

 

「……あと、この部屋は防諜がしっかりされているから実体化しても大丈夫だよ」

 

「あっ、はい」

 

 彼に促されるがままに実体化して椅子に腰かける。

 今何かとんでもないことを言わなかったかこの男は。

 

「……初めは、『エリクシル』がどのように作用しているのか疑問に思う所からだった。あの究極の治療薬は、魂が残っていれば死者すら蘇らせて、人間が失った内臓や四肢を再生することもできる」

 

「ふむ。疑問とは?」

 

「怪我で腕が1本取れちゃった人が『エリクシル』を使えば腕が一本生えてくるけど、腕に怪我をしていない人や、生まれつき腕が無い人が『エリクシル』を使っても新しい腕が生えてこないのは何でなんだろうなって」

 

「ええ……?」

 

 『エリクシル』は治療薬であって、人間を別の生き物に進化させるような薬ではない。別の場所の怪我を治そうとして腕が3本になるとか嫌すぎますよ。

 

「だから、まあ……健康な状態の肉体の情報がどこかに保存されていて、『エリクシル』はそこを参照して治療を行っているんだろうなって思ったんだ」

 

「なるほど」

 

「それで、多分魂にその情報が格納されているんだろうなって当たりをつけて、地道に解析していったらなんとなく情報の格納場所が分かるようになって、ついでに魂の状態を編集する方法も分かって、治療魔法として活用できるようになったんだ」

 

「ええ……?」

 

「うちの家系が魂に関連する魔法に一家言あったのが大きかったね。そうでなければ取っ掛かりが無くて無理だったはず」

 

 なんだか頭が痛くなってきた。つまりこれも「作れると思ったから作った」「知的好奇心が抑えられなかった」の一種なんでしょうか。

 

「えーと、あの粘土のような触媒は何なのでしょうか。白い粉末は『生命の素』ですよね?」

 

「白い粉は『生命の素』だね。魂関連の魔法触媒。粘土っぽいやつはバイオプリンターのインク」

 

「……バイオプリンター?」

 

「ちょっと倫理観の緩い錬金術師の一派が、人間を印刷できるバイオプリンターを作ろう!ってプロジェクトを推進してて、僕も魂関連の専門家として少しだけ参加してたんだ。コストを度外視すれば人体の複製を印刷できる所までは行ったんだけど、どうしても魂の複製ができなくてプロジェクトは頓挫した。それで、インクが余ったから安く引き取ってきて、『お肉』系の触媒として有効活用しているんだ」

 

「ええ……?」

 

 さらっと言いましたが結構ヤバい事してますね彼。知的好奇心からか、報酬金目当てだったのか、それとも印刷したい人でも居たのでしょうか……?

 

「次は……そういえば、『復元』の前に『時間遡行』を待機状態で発動していましたよね。あれにはどのような理由があるのでしょうか」

 

 『時間遡行』は『転移』と同じぐらい発動が難しい高度な魔法だ。わざわざ用意するという事はそれ相応の事情があるはず。

 私がそれを聞くと、彼は露骨に目を逸らした。……嫌な予感がする。

 

「……『復元』はね、うっかりミスで変な所を編集した状態で発動すると、その……対象が名状しがたい形状になる可能性があってね。そういう事が無いように入念に確認はしているけど、僕も人間だしミスはする。だから、ミスした時に無かったことにするために待機させてる」

 

「……安全に配慮された素晴らしい手順ですね!」

 

 この話題を続けるのが怖くなってきた。でも、まだ確認したい事は残っている。

 

「最後の患者を治療する前に、あなたが自分に注射していたアレは何ですか?」

 

「あれは、まあ、元気が出るおクスリだよ。疲労がポンと取れて集中力が増すんだ」

 

「……どう考えてもアウトなクスリですよね!?」

 

 私がツッコミを入れると、ユウは乾いた笑みを口元に浮かべて誤魔化すように弁明をしだした。

 

「いやーその、失敗して『時間遡行』を使う事になると『ニュートロニウム』を消費しちゃうからね。あれはかなり値段が高いから可能な限り失敗したくないんだ。クスリの配合も、ちゃんと僕の体質に合わせて調整してあるし、終わった後は中和剤を投与してるからへーきだって」

 

「ええ……?」

 

 結局彼は、注射した薬剤がアウトなクスリであることは否定しなかった。

 

 

 今回のやり取りで少しユウの事を理解できた。

 彼は超一流の治療魔法使いで、ちょっと倫理観の緩い男だ。

 

 

 

 

「お疲れ様でしたー。患者さん達はこの後、記憶封印処理を受けた後にそれぞれの日常に戻ることができます。これもみんなセンセイのおかげですよー」

 

 書類の提出を終えた修道服の女性が合流し、私たち3人は席について向かい合った。

 

「それでは、まずは自己紹介からですねー。私は上里リナと申します。『教会』で魔物狩りをしています」

 

「初めまして。私は精霊リリウムです」

 

 ぺこりとお辞儀を交わして挨拶をする。彼女の視線には、何かを探るような色が含まれているようだ。

 

「後の予定もあるという事なので、早速ですが本題ですねー」

 

「ええ。……リナさんは、何で『教会』で魔物狩りをしているんですか?正直に言って給料も福利厚生も悪い職場ですよね」

 

 ユウがその質問をすると、リナは目を閉じて過去に想いを巡らせた。

 

「私、孤児なんですよ。両親の顔も名前も知りません。戦えるだけの魔力があったから『教会』の運営する養護施設に引き取られて、なんとなく育って、なんとなく中学を卒業して、なんとなく『教会』の魔物狩りになったんです」

 

 彼女は淡々と語り続ける。

 

「別に、強制されたわけではありません。私に戦いの才能があるなら、そうした方が誰かの役に立てるんじゃないかと思って志願しました。身体を動かすのは好きでしたし。初めの頃は、なんとなくの善意で戦えていたんです」

 

「……でも、ただひたすらに魔物を狩り続けていたら、急に怖くなってしまったんです。もしかしたら、私が頑張る事には何の意味も無くて、このまま誰も見ていない所で戦いを続けていたら、いつか暗い闇の底で孤独に終わりを迎えることになるんじゃないかって」

 

「一度疑念を抱くと、だんだん身体が思うように動かなくなっていきました。それでも、私は戦い以外の生きる道を知らなかったので、そのまま魔物狩りを続けたんです」

 

「戦場に雑念を持ち込んだ私は、当然のように任務に失敗しました。いつかの私が想像した通りに、暗い所でひとりぼっちになって……」

 

「その後すぐに『教会』の救援部隊に救助されて、今私達が居るこの病院に運び込まれました。そうして、センセイに出会ったんです」

 

 リナは顔を上げると、ユウの方を向いて微笑みを浮かべた。

 

「あの時……あの時のセンセイが、私の手を握って、何て言っていたか覚えていますか?」

 

「……必死で励ましたことは覚えているけど、内容は忘れました」

 

「ふふ、なら私が思い出させてあげます。……私の手を握りながら、"まるで天使のようだ"って褒めてくれたんですよ」

 

 彼女は得意げな顔をして過去を語り、それを聞いたユウは何故かびくりと身体を硬直させた。

 

「私の、ごつごつしていて傷だらけの、女性らしくない手を握って褒めてくれたんです。"天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である"。立派な看護師さんの言葉だそうですね」

 

「そ、そういえばそんな事も言いましたね」

 

 彼の動揺の色が濃くなると、彼女はますます嬉しそうな表情になった。

 

「その他にも、"貴女のような立派な行いをする人を僕は尊敬している"とか、"こんなに頑張った人が誰にも顧みられないのは間違っている"とか、"魔物狩りは辞めていいけど、幸せになる事は諦めないでほしい"とか、とにかく必死に励ましてくれましたよね。ふふふ」

 

「あー、あー、……すみません。恥ずかしいので忘れてくれませんか?」

 

「絶っっっ対に嫌です。たとえ地獄に落ちたって忘れてなんてあげません」

 

 ニコニコと笑う彼女に視線を向けられて、耳を塞ぐような仕草をしたユウは、羞恥の感情を顔に浮かべて居心地悪そうにしている。

 ……この男がここまで動揺している所は初めて見た。彼をイジれるちょっとした弱みを握ってしまったかもしれない。

 

「センセイとお話することで、私は自分の視野が狭くなっていた事を自覚できたんです。戦う以外にも生きる道はありますし、私が目を向けようとしなかっただけで、私の頑張りを認めてくれる人は何人も居ました」

 

「それに、センセイはこうも言っていました。"本当のヒーローは、誰かのピンチに駆けつけられる人じゃない。誰も見ていない所で、悲劇の芽を事前に摘み取れる人なんだ"と」

 

「損な話ですよね。でも、それを聞いてようやく気付けたんです。私がこうして大人になれたのは、私が見ていない所でヒーローが頑張ってくれたおかげかもしれない。私が必死に戦う事で、知らない誰かのヒーローになれるかもしれない」

 

「だから、もう少しだけ頑張ってみようと思ったんです。疲れたら休んで、元気になったらまた頑張る。それぐらいの距離感で魔物狩りを続けていこうって……」

 

「長くなりましたが、これが私の戦う理由です。……いかがでしたか?センセイ」

 

「ありがとうございます、リナさん。貴女の話を聞けて良かった」

 

「ふふ。ちょっと恥ずかしいですが、センセイのお役に立てたのなら嬉しいです」

 

 そうして、彼女の語りは終わった。しばしの間、場が沈黙に包まれる。

 

「……ふぅ。沢山お話して喉が疲れちゃいましたが、もう一つ聞きたい事があるんですよね?」

 

「ええ」

 

「もう一つ?」

 

 私の聞いていた予定では、質問は一つのはずだったが。

 

「ああ、リリウムさんには話してなかったね。もう一つだけ、僕からの個人的な質問をしているんだ」

 

「『愛情、あるいは優しさとは何か』。これを、小さな子供に教えるならどう伝えるかですね。私はこれでもシスターですから、こういうのは得意分野ですよー」

 

 そう言うと、リナは懐から付箋だらけの小さな本を取り出した。

 あれはまさか……。

 

「リナさん。聖書に付箋を貼るのはなんだかすごくカッコ悪い気がします」

 

「いいんですよー。昔読んだ時は意味不明な本でしたが、年取ってから読んだら分かりました。これは人生の参考書で、人が人らしく生きていくコツが書いてあるんです」

 

 やはり聖書だった。彼女はペラペラとページを捲り、目当ての記述がある部分を開いた。

 

「コリントの信徒への手紙一、第13章。センセイは、どの部分が一番好きですか?」

 

「"自分の利益を求めない"」

 

 ユウはその本の中身を読まずに即答した。彼は聖書の内容を知っているようだ。

 

「センセイらしいですねー。私は、"愛は情深い"という部分が好きです」

 

 彼女は胸に手を当てて、何かを堪えるような呼吸をした。

 

「人が悲しみに暮れている時に、諦めずに手を差し伸べ続けること。それが、私の信じる愛情の形です」

 

「……ありがとうございます。リナさんの答えは、しっかりと受け止めました」

 

「どういたしまして。たまにはこうしてシスターらしいことをするのも悪くないですねー」

 

 

 

 

「センセイ、私の手を握ってくれませんか?」

 

「はい、どうぞ」

 

 二人は右手で握手をして、それぞれの左手を重ねるように添えた。

 

「……ふふ、ふ……。私は、世界一の幸せ者です」

 

「リナさんは、いつも大げさな事を言いますよね」

 

「そうでしょうかー?」

 

「そうですよ」

 

 暫しの間、沈黙が続く。

 

「……実は、『教会』からセンセイを説得するように指示されているんです」

 

「……」

 

「センセイは、治療の道に専念する気は無いですか?」

 

「今はちょっと忙しくて。それに、僕が居なくても『復元』の使い方は公表してあるでしょう」

 

「ネズミの治療に成功した者は居ますが、皆口を揃えて"あれを人間に使いたくない"と言っています」

 

「それはまあ、そうでしょうねえ……」

 

 彼は口元に引きつった笑いを浮かべ、小声で"僕だってそうだよ"とつぶやいた。

 その後、時計の方をちらりと見た。

 

「そろそろ時間なので、手を離してください」

 

「もう、少しだけ……」

 

「……」

 

「……広品市での騒ぎが起きてから、世界中で魔物の発生頻度が上がっています。『教会』の人達は皆頑張っていますが、いつか限界を迎えるかもしれません」

 

「……そうですか」

 

「センセイ。私に治療が必要になったら、センセイが必ず治しに来てくれると約束できますか?」

 

「約束します。だから離してください」

 

「ふふふ。……嘘つき。"アイツは息をするように嘘を吐く"と柊さんが言っていた通りですね」

 

「あの人は……。というか、その感じだと僕がどう答えても離す気が無いんですかね」

 

「そんなことないですよー。……ほら」

 

 リナは、本当に名残惜しそうにゆっくりと手を離した。

 彼女は、大切な宝物を無くしてしまった子供のような表情をしてから、すぐに笑顔を作ろうとした。

 しかし、溢れる想いを抑えきれなかったようで、口元だけの不格好な笑みになってしまった。

 

「センセイ。私達、また会えますよね?」

 

「僕とリナさんの両方が無事で居られれば」

 

「それなら、私はセンセイの無事をカミサマに祈っています」

 

「僕も、リナさんが無事で居られる事を願っていますよ」

 

 

 

 

 魔物狩りのシスターに別れを告げてから、彼は次の質問相手の場所に移動を始めた。

 移動中、先程のやり取りで浮かんだ疑問点を確認する。

 

『ユウ。あなたの所属組織は『教会』なのですか?』

 

『そうだ』

 

『では、あなたを説得するように指示されている、というのは一体……?』

 

『……それについては、今日の挨拶回りが終わったら話す』

 

 彼はそれだけ言って黙ってしまった。

 堂々とした態度で、隠し事を取り繕う様子すらない。

 

『もう一つ別件を聞きます。あのリナという女性は、あなたにとってどういう人物なのですか?』

 

 ユウは一瞬の迷いもなく即答した。

 

『初対面の時は、かわいそうな患者。元気になってからは、少し危なっかしい同僚。今は、僕の尊敬する友人の一人だよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、センセイが無事で居てくれれば他に何もいらないのに。

 どうして、ただ一つのささやかな願いすら叶わないのですか。

 




上里リナ

年齢:21
身長:170cm
おっぱい:大きい
武器:銃剣
特技:素手パリィ、内臓攻撃

『教会』のシスター。ロシア系の孤児で、苗字は養護施設の名前から取っている。
最終学歴中卒。金髪碧眼だが日本語しか話せない。
ユウ君の勧めで高卒認定を取得した。お金はあるのでどこかの大学か短大に行こうかなと考えている。
眠たげな目をしていて、語尾を伸ばす口調。実はユウ君に「あなたは真面目過ぎる」と指摘されてから演技しているだけ。なので簡単にメッキがはげる。そういう助言に忠実に従おうとしてしまうクソ真面目さん。

鋼のように鍛えられた肉体を持ち、魔力による身体強化抜きでもかなりパワフル。
敏捷ビルドのユウ君では力比べで勝てないレベルの脳筋。
ユウ君が治療だけでなく戦闘も行うと知った彼女は、善意で戦いの道を諦めさせようとしたことがある。
やり方は単純で、戦闘訓練でひたすらボコボコにするだけ。彼女のストマックブローはユウ君のトラウマ。

本人はなんとなく魔物狩りになったと言っているが、『崇高な理念だけ』で数年戦えるような精神性の持ち主。
経歴を調べたユウ君は「なんだこの聖人!?」と驚いて100%の本音で励ました。
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