「不思議な箱ですね…ガラスのように透明なのに色がついていて尚且つ少し柔らかい。西洋の薬入れはみんなこうなのでしょうか」
まい子がそれを振ると箱の中で幾つかの薬が側面に当たるカラカラとした乾いた音が鳴った。
知る限り最短の距離と速さで松の木に着いた時、それはもう置かれており付近には人や獣の気配は何もなかった。そもそもいた、という気配を感じる事もないほどに静まり返っていた。
大きなため息と涙をこぼし、支払いを済ませ持ちかえったその行動に対し、まい子は深く突っ込んでは来なかった。数点、ぽつぽつと確認しただけ。
声色からして罰の悪そうな、肩身の狭そうに思っているのか手に取るようにわかる。自分のせいだと思っているのか、そんな事無いというのに。
そして食事も取り終わり、それ、を今後どうするか話し合っていた。使用するには怪しすぎ、処分するにしても高価すぎて渋られる。せめて成分を調べれるような施設や人物が鬼殺隊の中にいればまだ良かったのだが…
「どんな病気でも、傷でも治す…だが試すにしては危険過ぎる。まだ昨日の朝言っていた突然別の場所に移動する椅子の方が検証できる」
「まあうっかり座ってしまうのは怖いですが。これも小さいので保管するにも気を付けなければ…」
「吾輩ガ試ソウ」
「えっ?……しかし…」
「誰カヤラナケレバ出ナイ結論ガアルダロウ。ソシテソレガ事実ナラバ一番イイ」
私達が薬の取り扱いに手をあぐねいていれば少し離れた場所で見ていた鎹鴉が残酷な真理を突き付けてくる。
保管でも処分でもない、薬を使用する実験対象になるという事を。確かにそれが安全かつ、本当に何でも治る薬ならば……
しかし、それは。うろたえるまい子の説得を鴉は淡々と否定していた。責任を感じていると言うが、これも…鴉の責任ではないというのに。
「大丈夫ダ、毒ヲ盛ル理由ガナイ。ソレニ最初ハ動物カラダロウ」
「……ひどいですね、何も言えません」
「…どれだけ説得をしようとも曲げる気はないな」
「頼ム」
まい子から箱を受け取り、中から一粒取り出す。鎹鴉の元へ行き手のひらに乗せたそれを差し出す。くちばしが一瞬だけ触れ……小さなそれを、呑み込んだ。
しん、と一瞬だけ妙な沈黙が流れる。そのあとすぐ声の揺れたまい子が鴉に問いかけた。
「く、苦しかったり痛くなったり、眩暈や息切れ動悸などは起きてませんか?」
「大丈夫ダ。何モ変化ハ……ン?」
バサリ、と羽音が聞こえた。その両翼を大きく広げたここ数日、跳ね歩くしか動けなかった彼からは聞こえなかった音が。
「……治ッタ」
「え?え?…本当に?痛くないですか?」
「アア。全ク痛クナイ」
バサバサと羽ばたかせるその音に不調は全く感じれなかった。あるとするならば動かせないように巻かれた包帯と添え木のせいで少し重みがあり、動かし辛そうな事くらいか。
鎹鴉に言われるがまま、まい子は包帯を外した。鴉は何度か羽ばたき、飛び上がった。何の問題もなく、健康な飛び方の音で室内を飛び回り…私の肩へと着地した。何とも得意気な息づかいが聞こえる。
「ドウダ。完璧ニ治ッタヨウダ!」
「…なんと、まぁ。ではこれは本当に"何でも治す薬"なのか」
** SCP-500 **
「…なんて凄い薬…!これ一つあれば色々と変わりますね…」
「ソウダロウ。後ハ時間ヲオイテ何ノ異常モナイト判断出来レバ、常ニ健康デイラレルヨウニナルナ」
「鬼と戦って怪我をしてもすぐ治せるんですね…!」
純粋に薬の効力の凄さに驚き感嘆の声をあげる二人。誰が持つべきだ、どこに保管すべきだ、まずはお館様に連絡を…と話し合うそれに口を挟まず手の中の箱を握りしめる。
「……南無、何という事だ…」
素晴らしい効力の薬に対し、私が感じたのは言いようの無いもの恐ろしさ。考えすぎかもしれないが…想像の通りになってしまえば。
鴉の体を張った実験判明した事実、それは端的に見れば確かに素晴らしい事だ。これ一粒飲めば苦しめてくる様々な試練を簡単に乗り越えれる。
だがそれから遥か先に導き出される、それは……とある残酷で恐ろしい可能性。
手の中で箱を軽く揺らせばカラカラと音が鳴る。数自体は多くない。なりふり構わず飲めば一瞬で無くなるだけの量。しかしこれが…もし。
成分を調べ解析出来たなら。そうして順調に複製を作り出せたなら。怪我や病気を撲滅出来たのなら。
鬼殺隊にそうした事を調べたり作り出せるような技術も人材もいない。だからそれは外部発注になり、そこから情報が漏れる可能性はほぼ確実にある。鬼と、薬の事が。
だがそうなれば鬼に欠損させられたり、命をとられたりする事がかなり少なくなるだろう。もしも鬼が病気と分類され薬を飲ませるだけで鬼を滅する事が出来たとしたら、更に物事は単純になる。
この薬で全ての鬼を滅する事が出来るかもしれない。素晴らしい。
そして鬼の恐怖を何も知らず、人々が無事に暮らしていける。
ただ、それからの事は……鬼がいなくなろうとも病気も怪我もなくならず、そして治す薬が無くなるわけがない。いや、むしろ。
怪我も病気も無くなった人類は……一体、どうなってしまうのか。全ての人々がただ老いれる事だけを望み平穏を喜ぶだろうか。否。必ず……
「それは…なんと素晴らしく、同時に恐ろしい事か…嗚呼、南無阿弥陀仏…」
手の中にあった箱を木の床に置き、数珠を擦り合わせこの世の無情を思い流れてきた涙と共に念仏を唱える。
憂いたその事実が…全て杞憂で終わる事を私はまだ知らない。
お館様と談合し、何も知らない医師に複製可能かどうかだけを依頼した。しかし特に異常な点も何もないそれと同じものを作り出す事は出来なかったのだから。
それでも鬼殺隊に、お館様にと渡そうとしたそれを彼は返してきた。これは購入した私のものだと、心遣いだけ受け取ると。私が、持っていた方が良いと。それは彼の天性の勘だろうか。
薬は家に保管している。何かあればすぐに使える場所に。最も…彼女は自分のために勝手に使いはしないだろうが。
優しい者は時として残酷だ。だが頼れる物に頼りきりになればすぐに崩壊する。
何ともまぁ、やりきれず、やるせないものだ。
SCP-1840-J 強引なセールスマン
オブジェクトクラス:safe(まぁ安全)
電話で勧誘販売をするセールスマン。自らが持っている様々な品物を売りつけてくる陽気で強引な男。
かなり貴重なもの(恐竜の化石など)をかなりの安価で売ってくる。
今回SCP-1840-Jの紹介した品物は全てSCPですが、調べる場合は自己責任でお願いします。何を見ても責任はとれません。
SCP-1840-J http://scp-jp.wikidot.com/scp-1840-j
著者:AstronautJoe 様
この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。
SCP-500 万能薬
オブジェクトクラス:safe(まぁ安全)
プラスチックに入っている赤色の薬。どんな病気も怪我も治す。成分を調べても何も変わったところはなく、複製はとあるSCP以外では出来ていない。そのSCPでも完璧に複製は出来ない。残り47錠。
SCP-500があればかなり無茶をさせられるので、これから悲惨な事もあるかもしれません。
SCP-500 http://scp-jp.wikidot.com/scp-500
著者:snorlison 様
この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。