鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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玖話 みちを知りたいようです

 

 

 それは何でもないいつもの日。

 

 朝食を食べ終わり食器も洗い片付け終わり、そのままの流れで始めた毎日の日課、掃除。今日は外の掃除をしようと草履を履き外へ出る。

 

 「すまないまい子…手伝いたいのだが…」

 「大丈夫です、行冥様はみんなと戯れていてください」

 

 いつも鬼殺隊の柱として忙しく出回っている行冥様が家にいる、ならば今日は構ってもらえるとばかりに足元や手元にまとわりつく猫達。

 その事に困りつつも嬉しそうな彼をそのまま残し、いつもの通り清掃を終わらせてしまおうと箒を持ち玄関扉を開けて外に出る。

 

 

 空は青く遠くまで晴れ渡り遠くには大きな入道雲がゆったりと動いていた。ああ、今日も暑くなりそうだ。

 

 

 玄関に巣を張ろうとしていた蜘蛛を箒で軽く追い払い、地面に落ちた葉っぱを集めていく。街から遠く離れ、尋ねてくる人なんて滅多にいない玄関を綺麗にして何の意味があるのか…なんてぼやきが聞こえてくるような気がするが関係ない。

 それに答えるとしたらこうだろうか「意味なんてない、ただやる事そのものが好きで、やっている」のだと。住まいが綺麗になれば誰だって嬉しいだろう。

 

 

 辺りの木々から落ちたばかりのみずみずしい葉とカラカラに乾いた葉の混ざりあったそれを掃いていた時。

 突如それはやってきた。

 

 

 『あの、すんません…』

 

 背後から聞こえてきた声に、驚き固まる。

 

 行冥様…ではない。そもそも家の中にいる彼が外にいる筈もない。周りに家がなくここで聞く日本語は自分の声か行冥様か鎹鴉の声くらいで…低い声に分類されるのは行冥様だけで…

 けれど行冥様の声とは全く違うそれ。ならば誰?反射的に少し混乱をしたのも仕方ない事だと思う。

 

 ゆっくりと、恐る恐る振り向く。これで誰もいなければ…こんな朝っぱらの陽の高い内からお化け騒ぎかと怯え泣くしかなかったけれど。

 

 

 そこに間違いなく人はいた。

 

 行冥様ほどではないが高い背は六尺ほど。格好は闇に溶け込む影のように真っ黒で、帽子を被り着物の上に羽織っているものは西洋の上着だろうか。鞄を手に持ち九尺ほど離れた場所に立っていた。

 

 『おはようございます、ちぃっと聞きたいんやけども…』

 「あ、はい。おはようございます…」

 

 再度聞こえてきたのは先ほど聞いた声と同じもの。砕けた訛りのある口調とにこりと明るく笑ったその姿に警戒心がやんわりと解け、少しだけ安心をした。悪い人でないかはまだわからないけれど陽の光を浴びて影を作っている足もあるし少なくとも幽霊ではないだろうから。

 

 麓の町では見た事がない顔。旅の人…だろうか。少しだけ無意味じゃないかと考えていた玄関先の掃除も、こうして実際に訪問客が来てくれた事で救われた気がする。

 掃除もしていない汚れまみれの玄関なんて例え一度しか訪れない旅の人でも見せて良いものじゃない、それは行冥様の顔と評判に泥を塗るのと同じ事なのだから。

 

 

 「私にわかる事でしたら良いのですが」

 『はい、場所なんやけど…東京府靑梅の███沿いにある███に行きたいんやけども、経路わかるんやったら教えてもらえません?』

 「靑梅の████?」

 

 あれ、それどこかで聞いた事がある地名のような…あっ、そうだ行冥様の出身地だ。以前少しだけ聞いた事がある。

 けれど勿論行った事はないし、聞いたとしても住所を聞いただけで地形も何も知らないからなぁ。行冥様に聞いた方が詳しく解るだろうし、案内経路を言えるかもしれないけれど言って良いものなのか、どう……

 

 

 あっ、いや……?

 

 

 「███でしたらまず麓の町に降りていただいて東の町外れにある██の道を進み、六つほど先にある█を曲がって██里先にある地元の人達が目印にしている大きな岩で出来た███の所まで行きますと███の███で██まで行けば、見えてきますよ。歩きだと大変なので人力車などを使うのが宜しいかと」

 『ああ、これはこれは。かーなりの詳細までありがとうございます』

 

 私の口頭だけでなく、身ぶり手振りでの説明に彼は何度も何度も頷き、喋り終わった時に満面の笑みを浮かべて感謝の意をのべてくれた。

 私のつたない説明で理解してくれたのなら良かった。もしわからなかったらまた途中で誰かに尋ねて欲しい、そう思ったのと同時に思う。

 

 

 なぜ私は行った事も見た事も聞いた事もない場所の説明を出来たのだろうと。

 

 脳内に滞りなく浮かんだそれを、説明出来……いや、そもそもなぜそれが脳内に浮かんで…?

 

 

 「まい子?」

 「!行冥様…」

 

 ジャリ、と小石を踏み締める音が敷地内から聞こえてきた。その音の大きさからして猫ではなく、体ごと回転して見れば今度こそ間違いなく行冥様だった。

 方向からして縁側からこちらへやって来たのだろう。手に何も、猫も持たず身一つでやってきたらしい。ああ、丁度良い時に来てくれた。

 

 「行冥様、靑梅に行きたいという方が来られていまして。もしよろしければ案内経路を話していただけませんか?」

 「……来ている?どこに?」

 「え?」

 

 不思議そうに眉を寄せ、私と玄関外、辺りを見渡す行冥様。どこに、とは?すぐそこ、九尺ほど先に…

 

 

 …振り替えった先に姿は影も形もなかった。ただただ、開けた敷地があるだけで。

 

 

 「…えっ」

 

 いくら影のように真っ黒な服装をしていようともこんな一瞬、数秒でいなくなるほどの距離に行けるはずがない。足音も荷物の動く音も、気配も何もしなかった。

 そんな事、鬼殺隊のような呼吸を使う人でないと、いや使えたとしても柱くらいの身体能力がないと…いやそうだとして、その行冥様に気付かれずいなくなるのは不可能だ。

 

 

 

 

 

 ** SCP-537-JP **

 

 

 

 

 

 「……もしかしたらこんな朝っぱらから私、白昼夢を見たのかもしれません…」

 

 ならば初めからそんな人なんていなかったと考えるのが正解では…?明るいし足もあったから幽霊じゃない、なら…私が夢でも見ていたんじゃないか。

 うん、そうだよこんな辺鄙な所に道を尋ねてくるような人なんているはずが…

 

 「…いや、私も微かに声を聞いたから実際にいたのでは…とは思うが……」

 「ええ…止めてくださいよ、それはそれで怖いですじゃないですか…」

 「す、すまない…?」

 

 暑くなってきたはずなのに背筋に変な悪寒が走って、たまらなくなり行冥様の傍に近付き裾をつかんだ。困惑している声が頭上から聞こえる。 

 私が話したあの人は何だったのか。幻影?幻影を見たのだろうか。まぁ幻影ならそれはそれで良い。害さえなければ良い。

 

 

 ただ……靑梅の事を、ほぼ何も知らないそこの事を喋れたそれが。今も頭の中にあるここから靑梅のとある目的地にいける案内経路があるそれが。

 

 以前どんな時でも良いから聞いた事があるのかを行冥様に確認した方が良いのか、しても良いのかそれだけが問題だった。

 完全否定されたら……その時は本当に、どうすればいいんだろう。

 

 

 

 

 

 




 SCP-537-JP みちを教えて

 オブジェクトクラス:Keter(収容出来ない)

 影が浮き出たよな1.8mの人型のオブジェクト。かなり強い関西なまりの日本語とたどたどしい英語を話す。
 SCP-537-JPは人間と遭遇した際に目的地として場所を訪ねる、その時聞かれた人間はその場所のことを知らなくとも脳内に場所と経路が浮かび上がる。
 その場所へ行く正しい道を教えるかどうかはその人次第。教えるとSCP-537-JPはお礼を言ったあと消失する。攻撃やイタズラをすると戸惑い、困った顔で消失する。

 正しい場所を教えなくとも、SCP-537-JPが危害を加えてくることはない。
 ただただ、その場所に行きたいだけ。
  
 




SCP-537-JP http://scp-jp.wikidot.com/scp-537-jp

著者:Red_Sun 様

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