鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

27 / 61
拾伍話 同じ姿の人間のようです(後編)

 

 

 「ちょ、っ、ッけほっ、待っ、ゲホゲッ、ぅえっ」

 

 過去体力を使う勝負事で勝った事なんて合ったかどうかすら怪しい、私の体力の無さを舐めてはいけない。今回のこれだって…実力で勝った訳じゃない。有利だった彼女は私に合わせて戻ってきて共に歩いたし、さっきだって私が先に走りだしたから…

 それを全て弁明しようとするも今の今まで走っていた私の体は言うことを聞かない。塞がったような喉からは激しい咳しか出ず、肩を頭を揺らすような咳のせいか明暗する立ちくらみがする。

 

 そんな必死な私に彼女は笑いながら近付いてきて、今度は落ち着かせるように背中を手のひらで軽く叩いてくれる。

 

 『大丈夫、落ち着いて。体が弱いまい子が、頑張った結果なんだからそれはもう勝ちだよ。すごい、よく頑張ったね』

 「はぁ…っ、ぁ……。…あ、ありがとう…」

 

 頑張った事が勝ち…そこまで言われてしまえば、いくら私でも理解する。勝たせてもらった事をいつまで否定し続ければそれもまた失礼な事。だからありがたく受け取らせてもらい、お礼をいう。

 しかし、その言い方はまるで…私が頑張らなければ、諦めていれば彼女は引き返す事なく勝っていたと言わんばかりのもの。私の話を聞いて……なら、彼女はもしかして…

 

 私が仮説を立てた事がわかったのか彼女は笑みを更に深くして、何かに気が付いたように空を見上げる。

 

 『あっ、雨が止んだね。それにほら、向こうに虹が見える!』

 「……綺麗な虹…」

 

 背に置かれていた彼女の手が空を指差す。その指のまま見上げればあれほど覆い尽くしていた黒い雲は一欠片もなくなり、あるのは何よりも透き通る青空とそこに架かる虹が広がっていた。

 広い広いそれを見ていると、何とも言えない感情に満たされる。綺麗、すごい、それだけじゃなくて、もっと…

 

 

 『お疲れ様、元気で』

 「…さようなら」

 

 彼女がそう言った時、顔を見た時理屈ではない感覚が支配した。目から涙がこぼれ落ち口からは勝手に別れの言葉を紡いでいた。

 なぜだかはわからない。わからないけれど…恐らくもう二度と彼女には会えないのだろうと。会ってはいけないのだと感じてしまったから。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 一瞬。数秒。意識が混濁する。

 再び何事かと気が付いた時、私は室内に立っていた。地面でも木製の橋の上でもない…畳の上に。

 

 顔を動かし、見渡せばそこは室内で、それも……猫の引っ掻き傷がある箪笥も到底手が届かない場所に置かれた荷物も…全て全て見慣れもの。

 

 ……これは。帰って、きたのだろうか?

 

 彼の、行冥様の治療を終えたあの場所に。家に。足元には救急箱がひっくり返したように転がっていたが、治療していた相手が見当たらない。今は、いつ?時間は?

 

 白昼夢を見ていた可能性は最初から欠片も考えなかった。

 なぜなら私の体は激しく運動をした後のような疲れが残りなにより頭の先から足先までぐっしょりと濡れ、滴を畳の上に落としていたから。

 

 私は橋の上で競争をして、勝って、戻ってきた。悩みを抱え込んでいた胸の内を全てさらけだし、すっきりさせて。

 だからその結果としてわかった、彼と大事な話をしよう。だからその為に……えっと、行冥様はどこに?

 

 「!」

 

 そうだ、いつまでもこんな所で突っ立ってる訳にもいかない!ぼんやりしてる場合じゃない!

 私今びしょびしょなんだから、ここにいると水が染み込んで畳が駄目になってしまう!

 

 慌てて廊下に移動しようとして、その前に足の裏を確認して足袋を脱ぐ。木の橋と土の上を歩いたその足袋はかなり汚れていた。ああ、畳も汚れてるなんて事…!後で掃除しなきゃ。

 

 「行冥様~?」

 

 廊下に出て呼び掛けてみる。裸足で木の床の上に立てばペタペタとした足音に水滴が混ざって非常に宜しくない。せめて拭ける布を先に取りに行かないと。いや着物を脱いで着替えるのが先かな、両方するにしても…

 

 「…ん?」

 

 そのまま廊下を出来るだけ濡らさないようつま先立ちで進もうとゆっくり歩いていれば、家から少し離れた場所で何かが動く音がした。音からして大きな生き物かな……あ、行冥様かな?

 

 「行冥様そこにいらっしゃいま…」

 「!!まい子!」

 「ひゃあ!」

 

 庭先に繋がる場所まで進み、声をかけようとしたその瞬間目の前に大きな影が突然現れつい悲鳴を上げてしまう。ひょっとしなくともそれは行冥様で間違いないのだけれどもついその大きさと動きの素早さに驚いてしまう。

 現れた行冥様はなぜか薄汚れていて、頭に葉っぱなどをくっつけている。森にいたのかな…それも葉っぱが付くような行冥様にとって狭いような場所に。

 

 

 「どこへ行っ…なぜこんなに濡れている?……いや、それより怪我などはしてないか!?」

 「だ…大丈夫です、無傷です……えっと、少し雨の中走っての競争をしてきたので……」

 「………」

 

 焦っている様子の行冥様。この様子だともしかしたら私が橋の上にいた一時間ほど、私はこちらにいなかった。そもそも突然いなくなったのだろうか。それだとしたら……ああ、焦らせ探させてしまったのかな。大変に申し訳ない…

 そして訊ねられたそれにまとめて答える。彼女に宣言した通り誤魔化さず、嘘をつかず本当の事を。

 

 当然いなくなったと人が再び現れた時に全身濡らし、訳のわからない事を言う。理解はなんて難しいのだろう。行冥様も困惑したように眉を潜めている。

 

 「…そうか、何にせよ無事で良かった……競争して、戻ってこれたという事は勝てたのか」

 

 けれど彼は私の言う事を困惑しつつも信じてくれた。そして……やはり、解られてしまう。この少ないやり取りで、私が時間をかけないとわからなかった結論をすぐに見付けてしまった。

 この様子ではあのまま入れ替わっていたら、すぐにわかられていたのではないだろうか。

 

 「はい、勝ちました。驚きですよ私が走って勝つなん…」

 「無事で、良かった」

 

 その事実に。遅くとも選べ気付けたそれに対し得意げな顔を作り自慢するかのように言おうとした言葉は塞がれた、大きなその腕と体に抱きすくめられたから。

 硬い筋肉と深い息のような声に何も言えなくなる。

 

 …ごめんなさい。心配させていたなんて、こんなに。間違おうとした私をこんなに。

 

 「ッ!」

 

 熱い衝動のまま彼を抱き返そうとしても大きな彼の背に腕は届かない。それに気付いたの片腕で私を軽く抱き上げ、もう片腕で背を支えてくれた。

 近くなったその優しさに甘えるように首筋に抱き付く。濡れる。……あっ、しまった。

 

 「すみません、濡らしてしまいました…!」

 「構わない、そも私とて汚れているだろう。あちこち……いやそれは良い。これ以上体を冷やす前に早く湯浴みでもした方がいい」

 

 そう言うが早く室内へ、濡れたままの私を歩かせないように抱き上げたまま草履を脱いで歩き出す行冥様。うわぁ天井が近い。遥か下では私と同じく素足で歩いているのになぜ足音が聞こえないのだろう。不思議。

 

 

 私の悩み…話し合いをするのは……これらごちゃごちゃとした目の前の副産物、全て終わった後にしよう。難しく考えるのではなく、彼と、穏やかに。

 

 それが、賢明なのだから。

 

 

 

 

 




 SCP-473-JP 僕からのバトンタッチ

 オブジェクトクラス:Euclid(ちょっとヤバい)

 SCP-473-JPは高度15m、全長4.5km、全幅1.9mの木製の海上橋。日本国内にすむ人間がランダムに突然橋の上に飛ばされる。数分後その人物と瓜二つの人物が現れ、悩みなどの話をした後競争をする事になる。競争の間、雨が降るが競争に支障は出ない。
 元の人間が勝てば、勝利したことを褒められ元の場所に戻る。悩みはスッキリ解決している。
 瓜二つの人物が勝てば、敗北したことを慰める。慰められたことで飛ばされた人間はスッキリする。そして瓜二つの人物が元の人間の代わりに元の場所に戻る。加筆された補遺473-JP-02のオチが凄い。財団は時に残酷。
 
 
 


SCP-473-JP http://scp-jp.wikidot.com/scp-473-jp

著者:SOYA_one 様

この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。