鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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・明治時代にはラーメン自体定着していないため、現代設定です


拾漆話 ラーメンを食べるようです(前編)

 

 

 

 猫とは。気まぐれで気分屋ではあるが、姿が可愛い生物。そう呼ばれるのが一般的…ではあるものの、飼い主は誰もがこう思っている。

 

 私の家の子は、違う。

 

 何せ私の家の子は少し室内を歩くだけで後を尻尾を立てながら着いてきてくれる。姿が見えなくなるだけで寂しそうな大きな鳴き声を上げる。キャットタワーや猫じゃらしより私と遊ぶ方が好き。

 

 ならば私の家の子は…猫というより、猫の姿をした天使なのでは…??可愛すぎるあの子達は、天使なのでは?

 

 

 「どう思いますか、行冥様??」

 「……南無…」

 

 私の意気揚々とした質問に対して彼、悲鳴嶼行冥様は何も答えなかった。変わりに私が購入したものの、重いだろうからと優しさで彼が手に持つ猫缶や猫フード等がビニール袋の中で微かに崩れた音をたてた。

 優しい彼は私の家の猫の荷物だというのに、重たいそれを変わりに持ってくれて、私の明確な答えのないそれを……聞き取り涙を流していた。…むぅ、泣かせたい訳じゃなかったのに。そもそも訊ねたそれは……うん、単なる親バカ的な、あれだ。

 

 「すみません、意地悪な質問をしましたね」

 「いや大丈夫だ、何でもない…」

 

 涙をこぼす彼の頬に取り出したハンカチを当てようにも身長差があり上手くいかない。それでも私の戸惑う姿を確認して、優しい彼は少しだけ屈んでくれる。ああ、なんて優しいのだろう。

 家の猫達の可愛らしさに魅いられ、何度も足を運べど彼の大きな背丈に慣れないのか猫達は彼に対して慣れず隠れてしまう。それでも彼はくじけず何度も何度もお布施のごとく猫缶やチューブ状になった猫のおやつを差し入れてくれていた。

 その為に近頃は猫達も彼に対する警戒はとかれ、もう少しで膝の上に乗りかけていたのだから。

 

 その為に…今日また、元々の購入予定より遥か多くの猫缶やおやつをごっそりと買い、彼と共に私の家を目指して進んでいた。

 

 

 そんな最中。

 

 

 くぅぅう……

 

 

 正午の針を過ぎた時計に煽られるかのごとく、空腹だとお腹が鳴った。彼…行冥様の二メートルを越える高さにまで届くように。

 

 「…食事をして、帰ろうか」

 「すみません行冥様!!」

 

 腹の虫の音を異性に聞かれるなんて言語道断、ましてや……とにかく彼は何も気にしてないとばかりに受け流し、その上優しく提案をしてくれたそれを…私は受け流す訳にはいかなかった。

 

 彼の許しを得た事で、私は食事処を探していた。何という訳じゃない。

 並べられる数列や聞き慣れない言葉、第六感が弾くそれらを受け入れる訳にはいかなかったから。

 

 歩みを進めながら彼とは話していた。もし丁度の良い場所がないのであれば、部屋に帰っての自炊も悪くないと検討をして。

 しかしながらその話し合いは結局無意味になってしまった。

 

 

 「…ラーメンはどうですか?美味しそうです」

 

 歩きながらたまたま目に入ったラーメン屋の看板、表札、メニュー表…それらに気付いたとたんに鼻先に届いた香りがまるで空腹を覚えた私のお腹をくすぐるように刺激してきたから。

 もはや私は食べる気になっていたものの、彼が嫌ならば諦める事も想定にはいれていた。

 

 「うむ、確かに。しかし…気付かなかったなこんな場所にあったのか」

 「少し前に出来てましたね。その時はこうして外まで香る事もなくスルーしてましたが」

 「五感に直接訴えるほど効果的な宣伝効果はないという事だな…南無…」

 

 けれど彼は了承してくれ、そのまま店へと足先を変えた。店の前に飾られ風にはためいていたのぼり旗にオススメであろうメニューが描かれている。海鮮ラーメン…あ、美味しそう。それを食べようかな……

 

 一つ目の自動ドアが開き、二つ目の横スライド式のドアを行冥様が手で開き彼の好意で先に踏み入れさせてもらう。

 店内はさほど広くなくカウンター席が8席、畳の座敷席が2席だった。そのどれも埋まっていて、更に店内には待機中のお客さんが二人。…うーん、お昼時の食事処を舐めていたと少し後悔する。

 

 「満席ですね…どうしましょう?」

 「私はまだ待てるが…よほど空腹なら別の店へ行くか…?」

 「うーん…いえ平気です。それに座敷席があるなら行冥様はその方が良いでしょう?」 

 「すまない助かる…まぁ、客席の空きと順番次第ではあるが」

 

 彼の足の長さではカウンター席は厳しい。下手するとカウンターの手前に足を出さないと座れもしない状態になってしまうから。だから座敷席に座れればそれが一番良いのだけれど…

 

 

 そうして待つ事数分。一度カウンター席に行くか訊ねられるも座敷席がほぼ同時に空いた為、数分待つだけでそちらに行けたのは運が良かったのだろう。

 案内をしてくれた定員さんが次に来るのはお冷やを持ってくる時だろうか、その時には注文をしたい。お腹ももう何度も鳴って主張してきているのだから。

 

 「もう決めたのか?」

 「外ののぼり旗に書いていた海鮮ラーメンが気になったのでそちらにしようかと思っています」

 「あぁ、確かに書いていたな……私は、あの壁掛けメニューが気になっている」

 「ん…?……ふふ、確かに面白いですね」

 

 行冥様の目線の先を追えばそこには『頑固オヤジのバリカタラーメン』の文字が。何味なのかもわからないのに、確かに気になる。シェフの気まぐれサラダみたいなもので、メニュー名で頼みたくなってしまう。

 けれど…のぼり旗を立てて宣伝している海鮮ラーメンの値段が800円に対し、そのメニューは1800円…?何が入ってそんなに値上がりするのだろう。

 

 「失礼します、お決まりですか?」

 「あっ、海鮮ラーメンを一つと…えっと」

 「あちらの一つだけ達筆な字で書かれたのを一つ……」

 「はい、畏まりました。海鮮一つと頑固オヤジのバリカタ一つで、失礼します」

 

 そんな疑問を彼と軽く共有しようとしていればお冷やを持ってきた定員さんがついでに注文を尋ねてくる。結局最初に決めていたメニューを注文すれば手元の紙に軽く書き込み、カウンター越しの定員さんに大きな声で伝えていた。

 頑固オヤジ…って店長さんかな?誰だろう…あの頬にホクロがある人だろうか。オヤジというにはまだ若そうだけど……

 

 「誰か探しているのか?」

 「メニュー名の頑固オヤジって誰かなと…皆さん若そうなので。あの人なのかなぁ、と」

 「ああ……もしやここは支店なのでは?ならば当人がいなくともメニューのみ受け継いでも可笑しくはない」

 「なるほどその可能性ありますね!」

 

 どうやら私は長く厨房を見ていたのだろう、彼に不思議そうに訊ねられ笑いながら勝手な想像を話す。私は別に味にうるさいわけではないから本店だろうと支店だろうと美味しいならば構わない。勿論美味しいに越した事はないけれど。

 そして注文をして品物が出てくるまでの時間、改めて先ほど思った疑問を彼と共有しよう。答えはどうせ来るまでは出ない、不毛なものだけれど。

 

 「行冥様の注文したラーメンには何が入っていると思います?」

 「む?そうだな、中身で予測できるのが麺が固いだろうという事のみ…値段が海鮮のほぼ倍となる高級品が入っているのでは?」

 「なんでしょう……金箔とか?」

 「それは雰囲気には合わなそうだが…」

 「そうですか?」

 

 金箔は高級品だ。ソフトクリームにだって金箔が散りばめられれば値段がぐんと上がるのだからラーメン鉢の真ん中にドバッと乗っているのは可能性の一つとして……いやでも確かにそんなお店ではない、のかな?

 それは街角の小さなラーメン屋ではなく、高級店の大きなお皿の真ん中にちょこんとだけある料理の上の方が合いそうだもの。私には敷居が高い、何となくのイメージでのお話。

 

 「ではなんでしょう、こだわりとして麺やスープが凝りに凝って一日何杯かしか出せないとか…」

 「それならばそう書いていてもおかしくはなさそうだが。見たところ……数量制限はなさそうだ」

 「そうですねぇ、他のメニューにも何も書いてませんし…」

 

 そもそもこのラーメン屋、テーブルの上に写真の乗ったメニュー表がない。壁に書かれたお品書きを見ての注文しかないタイプの、まさに頑固オヤジのお店!…なのかな?

 そんな結論の出ない話はいつの間にかいつものように猫可愛いという話に変わっていた。スマートフォンを取りだし可愛い可愛い我が家の猫達の写真自慢をしている内に時間はあっさりと過ぎていた。

 

 

 「お待たせしました、こちら海鮮です」

 

 そして運ばれてきたラーメンを受け取る。正直に言えばそんなに期待はしていなかった、ここは海鮮が有名な町ではないし、比べれる写真もない…精々エビ等が乗っているか海鮮物で出汁をとった程度だろうと。

 

 

 しかし現物は期待を大きく上回るのが来た。

 エビは確かに乗っていたけれど小エビではなく通常サイズのエビが一尾、その横には五百円玉サイズのホタテと殻付の牡蠣が一つ、黒々としたワカメ。湯気立つ熱気が煽る味噌の香りが鼻孔をくすぐり口内にヨダレを生み出す。

 町中の何気なく入ったラーメン屋で食べるにしては文句のつけようもない、とても食欲をそそるたまらないラーメン。

 

 「なんて美味しそうな…!」

 「確かに食欲がそそられる……私に構わず先に食べなさい、麺が伸びてしまう」

 「ありがとうございます…それでは、お先に失礼して…いただきます」

 

 割りばしを一膳取り、縦に構えて…割る。ぁっ……妙な形で割れちゃった…ちょっと不満。

 でもまぁいいや、食べるのに支障ないし……とりあえず最初はスープから飲もうかな。器に付いていたレンゲで掬い…数回息を吹き掛け覚ました後、飲む。

 …うんッ、美味しい!海産物の出汁を微かに感じるし、この味噌も味は濃い目だけどあっさり飲める。

 

 次は麺。細めのちぢれ麺がスープを絡めとって熱そうで、それも冷ますために数回息を吹き掛けてから口にする。麺を啜るその行為はあまり上手くないけど頑張って啜る。途中で切ったりしないように。

 

 取り込んだ熱と共に味が体に染み込んでくる、ああ美味しい。

 

 

 「美味しいです、行冥様!」

 「南無そうか…良き事だ」

 

 美味しいものを食べたから顔がとろけそうに笑ってしまう。そんな様子を見てどういった感情の涙なのかわからないけれど涙を机の上にポタポタと落とす行冥様。腕につけた数珠がじゃらりと鳴った。

 

 

 私が食べ初めて数分後。私達の前に待っていた二人のうちの一人、カウンターに座っていたお客さんが行冥様と同じメニューを頼んでいたようで先に一つ持ってこられ、そしてほぼ同時に。

 

 「はい、こちら頑固オヤジのバリカタラーメンです。伝票こちら置いておきますね」

 

 行冥様の前に、それを置いた。食べながら定員の声につられ目線が彼の元に置かれたラーメンに移動し…驚いた。

 

 

 スープの色合い的に豚骨醤油、数枚重なった分厚いチャーシューはその厚みにしては噛まなくとも良さそうなほどプルプルに溶け、旨味の漏れだした肉汁がたっぷりの背脂と共に持ち上げられ食べられるのを今か今かと待っている。

 中央に山の形に作られている白ネギとモヤシの上には真っ赤な二つのカニの爪と二尾の大きなエビ。何かを象っているのかな、赤富士とか。

 半分に切られた味付け卵は黄身も白身も色濃くとろとろ、店名がプリントされた海苔は大きく良く良く見ればメンマにも焼きごてでも使ったのか焦げあとで店名が刻まれている。

 

 

 …豪華!とても、とても美味しそう!これなら倍近くの値段も納得…というよりこの値段でいいの?そう思ってしまう。

 現物を見てしまえば私もそちらにすれば良かった、そう思ってしまうがすぐに脳内で訂正する。具材たっぷりのそれは、逆を返せば量が多く私では食べれず残してしまうかもしれないと。

 それでも、美味しそうだと思うだけなら何の間違いもない。

 

 「美味しそうですね…はい、どうぞ」

 「うむ……それではいただこう」

 

 割りばしを一膳、行冥様に渡す。それを華麗に真っ二つに割る。流石……それにしても手に対してかなり小さいけれど使い辛いだろうなぁ。

 

 「……どうですか、お味は?」

 

 レンゲでスープを飲み、その上でレンゲを離した右手で唇をマナーとして隠しながら彼に話しかける。一度スープを飲み、ちょうどたくさんの細麺を口に啜っていた為に今は話せないだろうと、少し待つ事にした。

 咀嚼中に話し始めるような事はしないだろうから。

 

 「……?」

 

 しかしそれを飲み込み、口の中を空にしても彼は私に返事を返してくれなかった。卵を箸で挟み、大きな口の中へ一口でパクリと。そのあとは再び麺を……あれ?聞こえなかったのかな。

 

 「行冥様?」

 「………」

 

 再度話しかけても、待っても、返事は帰ってこなかった。ただラーメンを食べ続けていて…いやまぁ、それ目的に店内に入ってきたんだから当然なんだけれども……食事中は話しては駄目とか?騒ぐほどは話さないし、そもそもいつもは普通に会話をしていたのに…?

 どうしたのかな、ひょっとして返事もしたくないほど何かしらで怒らせた?…いや、それはないなぁ。行冥様は元々穏やかで怒る事はほぼないし、怒ったとしても無視をするではなく懇々と対話をするお人。

 

 

 ならばなぜ?そういえばいつもは一口目は食材への感謝と味の感動で涙を落としていたのに、今は……

 

 ……??

 まぁ、いいや。後で聞いてみよう。火傷しないようにゆっくりと、更に私は食べるスピードも遅いから麺が伸びに伸びてしまう。

 そうならないように、口一杯にしないよう、舌先を火傷しないように食べていった。

 

 

 

 

 ** SCP-254-JP **

 

 

 

 

 




 ─ 後編に続く
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