鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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弐話 ものすごく恥ずかしがりやなようです(後編)

 

 半町(約55m)ほど離れた場所の、更に空にいた鎹鴉に私達の斜め後ろからものすごい勢いで"それ"は飛びかかった。

 高さも距離も到底人間では、身体能力の高い行冥様ですら飛べるか怪しい高さに軽々と。

 

 

 そもそも、私の目では姿形すらろくに見えず理解出来なかった。

 なにか大きく素早いものが空に急に現れた……と思った瞬間。

 

 

 「いたっ!」

 

 何か硬いものが顔と後頭部を打ち付けられる。

 目の中が一瞬明暗に揺れ、おでこと鼻に結構な痛みが走る。

 

 

 咄嗟に閉じたであろう目を開けば……数珠?それと影になって暗く見える肌だろうか。

 

 …つまり、私は勢いよく抱き寄せられた。

 

 勢いそのまま首筋にしたたかに顔面を、後頭部には左手に持ってくれていた巾着袋が当たったからこうなった。

 

 

 その行動に対し怒る事も問う事もしなかった。出来なかった。

 なぜならば。

 

 

 『ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!』

 

 ほんの少し、私の足でさえ十数秒でたどり着くような至近距離に"なにか"がいる。得体の知れないなにかが。

 

 それが大きな声をあげ騒ぎながら、鴉に何かをしている。にぶい音が、ぐちゃぐちゃと何かの音が響いている。

 何をしているかなんてわからないけれど…ひときわ大きな鴉の断末魔が聞こえてきても、出来る事は何もなくて。

 

 

 「まい子、今から地面におろす。その場から動かずそのまま目を閉じていなさい」

 「…ぇっ、え?行冥様!?」

 

 ふわりと体が浮いて、そのあとゆっくりと足元に雪道の感触が草履越しに当たる。

 咄嗟の事で狼狽えてしまい、見上げながらたずねるも返事はない。

 

 そんな動揺にまみれた心とは反対に、体は言われたとおりに目は開けないようにしてはいた。

 だから今現在の何が起きているのかの状況把握には耳に頼るしかなかった。

 

 

 カシャリ、恐らく巾着袋が地面に落とされた。

 ドサリとの重い音、背負い籠を背中から下ろした。

 チャラジャラリ。間違いない、金属の鎖の音。武器を取り出した。

 

 

 ……あれと、戦うのだろう。

 鬼ではない、何かもわからない、あれと。

 

 

 彼は、私が"それ"を見てはいけないと判断した。

 

 それ、はその生き物がしていた行動の事なのか、生き物そのものなのか、これから起こる戦いの事なのかはわからない。

 けれど見えない目で見る彼がそう判断したのなら、私の無事を思ってしてくれた事を無下にする訳にはいかない。

 

 目を瞑り続ける。見えないように。

 守られた私は何も見ていない。見てはいけない。

 

 

 

 「如是我聞一時仏在舍衞国祇樹給孤獨園与大比丘衆……南無阿弥陀仏…ふ、ぅ…!」

 

 集中力を高める為だろう念仏を唱え始め聞き慣れているそれがふいに途切れたあと、金属の擦れる音が急激に遠ざかった。

 

 

 ……私は行冥様のように反響音やわずかな音の違いで付近の把握は出来ない。ただでさえあの巨躯なのに走る足跡すらほぼ無いというのに。

 そもそも手足の震えはひどいし、心音が胸から頭に移動して鳴っているみたいにうるさくて周囲の音すらろくに何もわからない。

 

 

 この鎖の音は何をしている音?

 この金属音は何したら鳴る音?

 あれの声が聞こえなくなったのはなぜ?

 倒したの?いなくなったの?今この時何が起きているの?

 

 

 そもそも私が本当に立っているのかすら曖昧に感じてきて、草履の下から感じる冷気に指先で触れたくなる。

 けれど動かないように、と言われた言葉のまま微動だにせずそのまま立ち尽くしている。

 

 寒さなのか何なのか震えている体そのままに。

 

 

 「!」

 

 サクリ、と雪を踏み締める音が私の目の前で鳴った。

 行冥様、とかけようとした声が止まったのは恐ろしい考えが浮かんだから。

 

 

 彼が負けるとは微塵も思わない、けれど目の前いるのが彼でないとは限らない。

 

 

 遠目での影像ですらわかるくらいあれは大きかった。それこそ行冥様と同じかそれ以上と言わんばかりの大きさだった。

 閉じているまぶたの裏に浮かぶ。

 

 

 真っ白な体がだらりとした体勢でこちらを覗き込んでいる姿が。

 

 

 「ぎ、行め…」

 「まだ目を開けてはいけない、今から抱き上げるが瞳は閉じたままでいなさい」

 「…は、はい!」

 

 聞き慣れた落ち着いた低音。無意識に縮こまり込めていた肩の力を抜けば冷たい風が体を攻撃してきた。

 一連の流れで忘れていた寒さに小さく声を上げれば、どうしたと心配されてしまう。恥ずかしい!…何でもないと強引に誤魔化す。

 

 「あの、お怪我は…」

 「平気だ。どこにも傷はない」

 

 荷物を背負った音がしたあと頼れる腕に抱き上げられ、目線の高さが上がったのが何となくの感覚でわかる。

 そして回された腕がなんだか、いつもより強い気がする。決して痛くはないけれど。

 

 「すまないが急いで戻るため多少負担になるかもしれんが、堪えてくれ。 …鴉も後で葬ってやらねばな」

 「あ、先に鴉を埋葬してあげた方が良いのでは。私はまだ平気ですよ、その、寒さとか…」

 「駄目だ」

 

 どうやら少し速度を上げて走る為に力を込めて抱かれたらしい。彼が本気で走ればあっという間に家へと辿り着くだろう。

 けれどそんなに急がなくとも。確かに未知の恐怖を味わったし、風が吹く度に体は冷えてはいくけれど…無残な屍をそのまま置いていくなんて。

 

 そう告げるもはっきりと断られる。

 なんだか、行冥様はまだ気を張って……

 

 

 「殺せていない、逃げられた」

 

 「…えっ」

 「そもそもあれは…生き物相手の感触ではなかった。……飛ばすから掴まっていなさい」

 「……はい」

 

 彼の首に腕を回せばとてつもない速さで周りの景色が流れだす。

 吸い込む空気の冷たさと、押し潰されそうな胸の中がぐるぐるかき回されて…呼吸が苦しくなる前に更に力を込めて抱き付いた。

 

 

 風を切っていた彼が早さを緩め、シャクシャク、ザラザラと何かを踏み締めている音がする。

 これは、この木材とガラスと金属が動く音は…扉?玄関扉だろうか。

 

 

 そうして玄関扉の開いた音がする。中に入った、扉の閉まる音が鳴る。

 

 しかしそこで私の予想は外れる。

 玄関で降ろしてもらえると思っていた、なのに彼は片手ですんなりと私の草履を脱がせそのまま上がり框を越え廊下を越え廊下を歩いていく。

 

 戸惑う私の声を聞き入れず、時折梁を避けるため屈みどこかの襖を開いて部屋に入る。

そこでようやく降ろして貰える。足袋越しに感じる感触は畳。室内とはわかるけど…ここは?

 

 「もう目を開けても良いだろう、すまなかった勝手な真似を」

 「…い、いえ。むしろご迷惑をかけまして…」

 

 開眼の許可を貰い、恐る恐るまぶたを開けばそこは間違いなく我が家の中だった。

 周りを見渡せばそこは囲炉裏のある部屋。火の無いそれは外と変わらないほど冷たく静まり返っている。

 

 あの子達…猫達の姿はない。恐らく毛布がある部屋で団子状態に固まっているのかもしれない。

 

 「ここならば不意に"何か"を見るような事もないだろう。勿論故意に窓の外を見るような真似はしないでくれると信じているが。そして…火を付けて室内を暖めていてくれないだろうか。私は少し辺りを確認してくる」

 「え、あっ…はい、お気を付けて……」

 

 背負っていた荷物と私の巾着袋を床に下ろし、廊下へと続く襖に手をかけ音もなく出ていく。

 

 ……。

 確認する、とは家の周りの事だろうか?ならば、あれ、が家の周りに万一いる可能性があるという事だろうか?

 いやそもそも武器が入っている背負い籠はここに置いて…

 

 

 そこまでじんわりと思考を巡らせていればあっさり行冥様は戻ってきた。姿を見て納得する。

 その腕と手の中には家族全員を抱えていたから。彼らは何かを感じているのか、ただ眠たいだけなのかもがく事もせずじっと抱かれていた。

 

 「この子達を頼む。私も時間をかける気はないが、鎹鴉がきた場合は報告をするため多少遅くなる。聞き慣れない物音がした場合目を閉じ、私の声がするまでそのまま待機していなさい」

 「はい、行冥様。 …あの、先程いったい何が起き……ぇッ!?」

 

 行冥様は下ろした背負い籠の蓋を開け、中に直していた武器を取り出す。

 鎖の付いた手斧と鉄球。その鎖が途中で無理矢理引きちぎられたように変形し、千切れていた。

 

 繋がっていないそれを彼は手に取り、一瞬悩んだあと手斧を右手に、鉄球のついた鎖を左手に持った。

 あの…太く硬い鎖を千切るような相手と彼は戦ったのか。そしてまた、戦いに行くかもしれないのか。

 

 

 「…ッ!行冥様!」

 

 込み上げてきた激しい感情と共に彼の腕に飛び込む。

 邪魔になる、彼はやるべき事がある、わかっている。けれど、せずにはいられなかった、言わずにはいられなかった。

 

 

 「どうか、どうかご無事で…!」

 「…うむ。平気だ、すぐに戻ってくる…」

 

 行冥様は、一瞬迷ったあと床に手斧を置いたあと抱擁してくれた。まるで今なら出来るとばかりに強く強く。

 

 そういえば。

 彼は今の今まで泣いていないのではないだろうか。あの猫達がたわいも無いじゃれあいをしているだけで涙を流す彼が。

 

 

 それほどまでに。気を張っている。

 私を、片手で足りる家族を、人々を守るために。

 

 ああ。なんて優しい、尊い人なのだろう。

 

 

 「待っています。どうか、御武運を…!」

 

 にゃぁん、と。私の声に被せるように私達の家族が声をあげる。

 暖まってきた室温とは違う震えのまま私は彼を強く強く抱き締めた。

 

 

 

 

 




 SCP-096 "シャイガイ"

 オブジェクトクラス:Euclid(ちょっとヤバい)

 身長2.38mの真っ白く痩せ細った人形の生物。手が長く口は大きく開く。
 顔を見られたらその相手がどこにいようとも、例え地球の反対でも、山の頂上でも深海でも、その場に走ってたどり着き殺害したあと■■する。
 顔を見るの判断は直接、写真関係なく大きさもどれだけ小さくとも見たら駄目。似顔絵は大丈夫。
 ガトリング銃で600発撃たれても怪我すらしない。でも顔を見なければ何もしてはこない。



 目の見えない悲鳴嶼は基本無事、顔を見れないから。
 鎖で拘束するも鴉相手に■■しおえたSCP-096は日輪鎖を引きちぎり、誰もいないだろう山奥へと歩いて消えていった。
 しばらく悲鳴嶼も警戒してたが、SCP-096はのんびりと元の生息地■■に戻っていった。
 SCP-096が■■村に来たのはとある写真がとある富豪一家の手に流れて入ってきたから。




 SCP-096 http://scp-jp.wikidot.com/scp-096

 著者: Dr Dan 様

 この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。


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