鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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拾漆話 ラーメンを食べるようです(後編)

 

 

 「…旨かった、御馳走様」

 「!」

 

 食べ初めてから二十数分、器を抱えスープを飲んでいた行冥様が口を離したあと小さな息を吐き、誰に聞かせるわけでもなく食べ終わった挨拶を小さく呟いた。

 何だか久々に聞く気がするその低音に話しかけようとしたけれどタイミング悪くワカメを食べていて…急いで飲み込もうとすれば喉元が苦しくなり、慌てて氷の浮かぶお冷やで流し込んだ。

 

 「…大丈夫か?」

 「けほっ、すみませ…平気れす……」

 「話すのは落ち着いてからで大丈夫だ」

 

 そう言っても、先ほどみたいな少し不安になるような事が起きるなら…こんな咳き込みくらい。

 でも食事処で激しい咳き込みは確かに失礼になる、数回お冷やを飲み、ゆっくりと体を落ち着かせていく。大丈夫、咳き込みには慣れている。

 

 「はぁ、すみませんでした。落ち着きました」

 「いや、それなら良いのだが……どうした?何か言おうとしたのか?」

 「……美味しいですね、と声をかけた事に気付いていましたか?」

 「ああ、何か聞こえたような気もするが……食べる事に夢中になっていて返せなかった、すまない」

 「……いえ…?」

 

 困ったように眉をハの字に変え、口元は薄く微笑み申し訳ないとばかりに謝る行冥様。別に無視をされた事の謝罪が欲しかった訳ではないから軽く受け取る。

 それより何より不思議だ。行冥様がそんな…結果的とはいえ無視をするなんて。体の中が疑問のクエスチョンマークで埋め尽くされていく。そんなにお腹が空いてたのかな…そんな様子は無かったけれど。

 

 「よほど美味しかったのですね」

 「そうだな、確かに味が深く…あっ食べていて構わない」

 「すみません、いただきます…」

 

 返事も億劫になるほどのラーメンの虜になっていたのかと、なかば肯定気味に訊ねる。私の言葉に数回頷きながら…待ちの体勢だった私に食事を再開するように言ってくる。

 確かに行冥様は食べ終わったけれど私はまだだ、先に食べ始めたのにあまり待たせてしまうのは申し訳ない。まぁ、食べるのが早くないから結構常の事ではあるけれど。

 

 「海鮮に肉と野菜…様々なものが入っていたが喧嘩せず、それぞれの味を引き立て旨味を増幅させていた。私としては何かはわからなかったが魚の身が旨かったな…」

 「えっお魚も入っていたのですか」

 「うむ、かなり身が大きく柔らかかったが味は大味でなくしっかりしていた」

 「ほえー、まだ隠されていたとは…凄いですね頑固オヤジさん…」

 

 ここから見える厨房を見てもやはりそれらしき人は見えない。支店だとしてそのメニューを受け継いで出せているのは凄い事なのだから。

 彼の珍しく饒舌な評価を聞いている内にラーメンどんぶりの中身はどんどん減っていき、レンゲでくるりとスープの中を探してもほとんど何もなくなるまで食べきれた。かわりにお腹がかなり苦しくなってしまったけれど、これは嬉しい悲鳴。ああ、美味しかった。

 

 「御馳走様……はぁ、お腹一杯です…」

 「少し休憩していくか?」

 「いえ、まだお客さんがいるようですし動けば平気ですよ」

 

 入り口を見れば待機用の椅子に座らずに立ったまま待っているだろうお客さんがいる、一人だからカウンターの方に案内されるかもしれないけれど…お客さんがまだ来るのに食べ終わった人がいつまでもいていい訳がない。

 苦しいのは苦しいけれど歩けないほどじゃあない、動いている内に消化していくだろう。

 

 

 「あっ」

 「む?」

 

 行冥様がテーブルの上に置かれた伝票を左手で摘まむのを見て、慌ててその手に重ねるように手を置いた。私の顔ほどある大きな手は両手ですら覆いきれず、自らの手に乗せられる私の右手と左手を見て私を不思議そうに見た。彼の右手はテーブルの影で別のものを握っているから動かせないはず。

 手を重ねた意図がわからないのだろう。その事に関して何も言葉を返さずただ無言で微笑み右手で指先をほどき、絡ませるように手を握った。少し目が見開かれ、数回瞬きをした後微かに頬の色に色彩が足された。

 

 「まい…」

 「ここは私が」

 

 何か言おうと開かれた口は、繋がれたままの手の下にあった伝票をさっと奪い取った左手を見て納得したように息を吐いた。細められた目が抗議にも憂いにも見えて……どうしたのだろうと首をかしげる。

 私の猫達にご飯を買って貰った上におごって貰うのは申し訳ないから私が支払うという意味だと伝えても何だか微妙に納得のいっていない顔と返事をされた。…??

 

 「…行冥様?」

 「そうでは……いや、まあいい。次は私が払おう」

 「はい…?」

 

 なんだろう、私の知らない内にお金を一定期間使わないと罰せられる法律とか出来たのかな。とりあえず立ち上がった彼に続き私も立つ。

 しかし天井に届きそうだなあ。高さのない下手な場所…公共機関の乗り物とかは届く所があり常に屈んでいないといけない人だから改めて大変だと思う。

 

 「すまない私がここにいれば邪魔になるだろうから、先に外に出ておく」

 「はい。少しだけお待ちください。あっ、財布……わっ…!」

 

 行冥様の背を見送りレジに進む途中で、肩にかけていたバッグから財布を取り出していれば割り込まれるかのようにレジ前に滑り込まれる。確かに中途半端な位置に立っていた私が悪い、彼の後に支払おう。

 お金を払うスーツ姿の後ろ姿を見て気付く。私達の前にいてカウンターに座り行冥様と同じ頑固オヤジのラーメンを頼んだ人だと。行冥様と比べるのは不公平だけど…それにしても少しゆっくり食べていたのだなと思う。自慢ではないが私食べるの本当に遅いのに。

 

 支払い終わったその背が出入口に向かうのを途中まで見送り、レジに向き直る。告げられた金額丁度を出そうとするも小銭がなく仕方なく大きな札で出す。ポイントのつくカードや電子は使えないらしい。残念。

 お釣りをもらい、財布の中にしまいその財布も鞄の中にしまいこみ……出入口の扉に手をかけ開き、自動ドアをくぐる。

 

 

 

 「急いで救急車を!」

 「なになに、えっマジ!?」

 「ヤバいんじゃないか、これ…」

 

 

 「…え?」

 

 穏やかな音楽のかかっていた店内から出た外は、人々の戸惑ったざわめきで埋め尽くされていた。

 見れば私の前三メートル先…スーツ姿の男性がコンクリートの地面に倒れ込み到底健康とは思えない顔色をして、陸に打ち上げられた魚のように大きく跳ねるように痙攣していた。

 その周りを囲むように野次馬がちらほらと…下手に触れないからだろう。ある程度の距離を取り、意味のない言葉でざわめきを作り出していた。

 

 

 背の高い彼はすぐに見付けられる、私が出てきた事に気付き近付いてきた行冥様と合流して何があったのか訊ねる。

 

 

 「どうしたんですか!?」

 「わからない……私の後に彼が出てきたのだが、すぐに胸元を押さえ倒れ込んだと思えば…」

 「きゅ、救急車は呼んでますよね誰か…」

 「…とは、思うのだが」

 

 ざわめきは周りを巻き込み更に大きくなっていく。何事かと訊ね、集まる人の群れで埋まり倒れた人はもう見えなくなってしまった。行冥様ならまだ見えているだろうけれど…

 これだけ人が集まり、好き勝手にスマートフォンを取り出し画面を向けているその様子を見て…しているだろうという考えとしていないのではという不安がせめぎあう。

 悩んだ結果、していても構わない、してない場合が怖いとスマートフォンで電話をする。通報しなきゃ。場所と症状を説明し…訊ねられて言葉に詰まる。原因…?何なのだろう…わからない。

 

 「はい、はい…お願いします……」

 「……どうだ…?」

 「んー…取り敢えず説明は出来たと思いますが…知り合いでもないので原因と言われても上手く答え……ぁっ」

 「…?」

 

  電話を切り、スマートフォンの待ち受けになっている猫達を眺めていれば遥か上からかけられた声に引かれ、見上げる。首が折れそうな高さの彼が太陽の影を作っていて……その暗さに、一つの可能性が思い浮かぶ。

 周りのざわめきが急激に遠く感じる。視界が急激に暗くなり、感じた悪寒そのまま彼の腹部の服を掴む。

 

 「行冥様は…大丈夫ですか?」

 「……何が、だ?」

 「し…食中毒、とか……あと、以前カニやエビを食べてあたった経験など…」

 

 普通に考えて、冷静に考えてそうだ。ご飯を食べた後に倒れたとしたら……可能性が高いのは食中毒、もしくはアレルギー反応によるものではないだろうか。

 

 「……。…ああ、そう、か。……いや、私は平気だ。体に異常はないし、そのような経験もない」

 

 いきなり服を掴み、訊ねる私の声色があまりに不安げだったんだろう。下げていた眉が数秒後納得したように微かに動き、再び下がった。これだけの質問で意図を理解したものの、そうであったとしたら…の可能性を考え、倒れた彼への同情心で悲しんでいる。

 

 

 「だがもし……そうだとしたら。ただ運悪く、何も知らずに食べ……たまたま今回初めてのアレルゲン反応だとしたら…なんとまぁ、哀れで悲しき事だ…」

 

 はらはらと涙を頬に落とし、一歩間違えば自分がそうなっていたかもしれない恐怖や安堵より…倒れた彼への慈愛の涙を流せる彼はやはり凄いと思う。

 勿論これは私の勝手な推測で根拠と言えるものは何もない、妄想の域をでないもの。それでも……

 

 

 なんだか、当たらずとも遠からずな気がするのは……私の自惚れなのだろうか。

 

 

 その後、倒れた彼は救急車によって運ばれていったのを見送った。友達でも知り合いでもない私達は彼が後にどうなったのかなんて知る事もないだろうなぁ…

 

 食事時から随分と時間が過ぎた中、意味も手を繋いで可愛い可愛い猫達の元へと帰っていった。

 

 

 後日、通報をした事から辿られたのかスーツを着た不思議な人達に謎のインタビューをされるのは別の話。

 

 

 

 

 




 SCP-254-JP 頑固オヤジのバリカタラーメン

 オブジェクトクラス:Keter(本気でヤバい)

 ラーメン屋の壁にあるお品書きの中の一つ『頑固オヤジのバリカタラーメン』を頼んだときに起こる異常。
持ってこられたラーメンがどれだけおかしなもの(麺が針金、スープが水銀や血液、具が███)だったとしても頼んだ本人も周りの人も気にしない。もし食べようとするのを邪魔した場合どんな事をしても食べきろうとする。




scp-254-jp [[jumpuri:scp-254-jp > http://scp-jp.wikidot.com/scp-254-jp]]

著者:namikaze73 様

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