鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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・ねこはいます


ねこですよろしくおねがいします

 

 

 

 

 とある村がある。

 

 その場所に一人の鬼が住み着いていると情報を得た鬼殺隊は村に向かった。

 鬼は確かにそこにいた。全ての村人は既に手にかけられており、幾人もの隊員が決意と怒りのまま鬼へと向かっていった。

 

 隊員達は多数の犠牲を出しながらその鬼の頸に、手が届いた。

 その鬼は、最後の力を振り絞りとある建物の中に逃げ込んだ。

 

 鬼殺隊の隊員達はその建物へと飛び込んだ。その建物の中には一つの井戸があった。鬼の姿が見えない隊員達は井戸を覗き込んだ。

 

 

 その中に、いたのは……。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 森での敵の動きを様々な想定した修行を終え、家へとたどり着いたその時バサバサと羽ばたきながら滑空してくる音が遥か上空から聞こえてきた。

 その本体である鴉は木を通り過ぎ私の肩の上に止まる。そして大きな大きな声で叫び始めた。

 

 

 それは柱として私に伝えられる良くある出来事で、望ましくない事だった。

 

 

 隊員達が幾人も行方不明になっている、と。

 生き残った隊員達は鬼の頸を跳ねたというのに、どうも様子がおかしい。鬼が生き残っており血鬼術をかけられている可能性があるのではないか、と。

 

 だから私に、岩柱として調査と解決をしてほしい…と。

 

 

 

 「お帰りなさいませ、行冥様。すぐにお出掛けになられますか?」

 「うむ、戻ったばかりで申し訳ないが…」

 

 家の扉をくぐればと戻ってきていた気配を感じていたまい子が出迎えてくれた。鎹鴉との会話は聞こえてはいないだろう、それでもこれからの行わなければならない事は理解してくれている。苦労をかける……。

 そして追いかけっこをしているのか床に爪をたてながら走り回っている複数の猫達の足音が遠くから聞こえる。彼らは出迎えてはくれないらしい。

 

 「ここから距離がかなりある███村だからすぐには戻れないだろう。すまない、留守を任せる」

 「はい、頼りないですが大船に乗ったつもりで任せてください。行冥様も気を付けてください、ご武運を」

 「うむ……行ってくる…」

 

 彼女の頭をなぞり、頬まで続け撫でる。くすぐったかったのか小さく声を上げて笑ったまい子につられ笑い、その儚い小ささと弱さに涙が流れる。

 嗚呼、触れて改めて決意する。確かに帰ってこなければならない。そして出来る限り無事に、守れるものを手からこぼれ落とさないように。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 たどり着いた村には鴉の報告通り村人はおらず、隊員がいた。痛ましいその惨劇に胸を痛めていれば私を目にした隊員達が声を震わせながら声をかけながら駆けつけてくる。

 

 

 『柱だ…岩柱が助けに来てくれた』

 『わざわざ申し訳ない、俺たちを助けに来てくれたんだ』

 『ああ、良かった。よろしくお願いします』

 

 

 様子がおかしいとの連絡を受けていたが、確かに動揺をしている様子はあれど会話は何の問題もなく出来た。流れのまま確かに鬼は倒しているとの報告を受ける。ならばなぜ私は呼ばれた?

 

 

 彼らに連れられ、とある家…それは小さな小さな小屋に案内された。

 中にあったのは一つのもの。……音の反響からしてそれだけを守る為に建てられたのだろうか、この……()()を。

 

 

 隊員達から囃し立てられる。中に、()()と。

 

 

 ……何がいる、のだろうか。それも、井戸の中に。逃げ込んだという鬼の頸は跳ねたのだろう?他に、何が。

 そもそも覗き込んだとして私には……。……いや、それでいいなら覗き込むくらい構わない。

 

 多数の隊員達が声をあげる。同じ言葉を口にする。

 

 

 覗き込んだ。

 

 

 

 いつもと変わらない、視界全てを占める暗闇の中に………

 

 

 

 

 白い、()()を見た。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

  

 一昨日降っていた雨が関係しているのか…日が登ってもおりた木陰に落ちた(しも)は溶ける事もなく草木の表面を白く染めていた。

 ああ、吐く息すら白く冷たい。なんて寒いのだろう。凍えて、震えて……何もしたくなくなってしまう。洗濯をした所で干した衣服が凍りついてしまいそうだ。

 

 

 「えっ、ああちょっと!喧嘩しちゃ駄目だって!」

 

 そんな寒さに憂いている時。立場が対等である白猫と虎猫の二匹が取っ組み合いの喧嘩をし始める。何でもないじゃれあいならともかく本気でやり始めたそれに血を見る前に止めに入る。

 その為に声を張り上げた為なのか、こんこんと寒さに負けた咳を数回すれば喧嘩していた猫達が私の方を何事かと向く。

 

 それでも見慣れている為だろう。咳を続ける私をほうって猫達は喧嘩を止める事もなく、互いに手を足を出し、噛み付く真似をしながら喧嘩をし続けしていた。

 手を出し、止めようにも一向に喧嘩は止まらない。白猫も虎猫も床を転がり、鳴き声や威嚇の声をあげ喧嘩し続けていた。

 

 なぜこうなったのか。それは誰にもわからない。

 寒いからなのだろうか。寒いから互いにくっつきあい、そしてふとした何気ない出来事で取っ組み合う。それなのだろうか。

 

 

 とにかく止めねば。血を見る前に。噛み付き始める前に。だから私は必死に止めに入った。手を出し、口を出し、引き剥がして。

 なのに力及ばず彼らは大声で叫びながら喧嘩を続けていた。興奮し激化し始めた猫達は取っ組み合い、爪をたて……

 

 そして。

 

 

 

 「こら、止めなさい……喧嘩両成敗だ、南無阿弥陀仏…」

 

 突如素早く室内に現れた行冥様に押さえ込まれていた。猫達は大粒の慈愛の涙をこぼされながら首根っこを捕まれ、畳に縫い付けられていた。

 

 

 「……お、お帰りなさいませ、行冥様…?」

 

 たった今、今の今までいなかったにも関わらず現れるなり瞬時に物事を解決したその存在に対して不安げに挨拶を繰り出した。

 彼の速さならば行動として何の疑問もない。けれど戻られた声も、存在も、何も気付かなかった……気付かなかっただけ、だろうか。

 

 …なぜ玄関で何も言わず部屋に上がってきたのだろう?

 

 

 彼は……間違いなく、行冥様、だけれども。

 

 

 「…うむ。今戻ったまい子。心配をかけただろう、申し訳なく思う」

 「いえ、そんな。…ご無事で何よりです行冥様」

 「ああ、ありがとう。よろしくお願いします、まい子』

 「……?…今なんと、行冥さ……」

 

 感じた一つの違和感は降りてきた大きな手のひらが、頭を髪を頬を撫でる度にゆるりとほどけ……そして熱い吐息に溶けていった。

 それらが離れる時には息が揺れ、彼の胸元に倒れ込み違和感など頭の片隅にも残っていなかった。背をさすられる度に熱い息が溶けていく。嗚呼、幸福な眩暈がする。

 

 

 耐えきれずこんこんと、咳が漏れ出る。

 

 「むっ、大丈夫か?寒いのか…暖かくせねばならないな…」

 「へ、平気れす……あのっ、それよりお怪我などは…?」

 「私は大丈夫だ。そもそも鬼とは戦っていない、私が到着した時には無事に討伐されていた」

 「えっ…ならばなぜ貴方が呼ばれたのですか?」

 「うむ…それがだな……」

 

 彼が神妙な顔で頷いた。そして瞬きをするわずかな間に、いつの間にか座り込んだ彼の膝の上に乗せられていた。どうやら私が認識出来ないほど素早く持ち上げられ、乗せられたのだろう。相変わらず凄いなぁと思う。

 この速さならば玄関からここまで音もたてず来るのも楽勝だろう、そもそもこの体躯で足音すらしないし。

 

 そんな彼だから危険な鬼退治として呼ばれたと思っていたのに…すでに退治されていた?ならばなぜ?…どういう事なのだろう。首をかしげ、彼の続きの言葉を待った。

 

 

 「隊員達の様子が妙だと私が呼ばれたのだが、特にそんな様子はなく…な。ひとけの無い村の中を彼らに案内され、私は一つの建物に入った」

 

 行冥様の落ち着いた低音を大人しく聞き入る。右手で私の頭や背を撫でながら、左手は止めに入った猫達に群がられながら。あんな風に少し乱暴に止めに入ろうとも、普段心の底から可愛がっている事を理解している猫達が彼を嫌わない事に安堵する。

 左手が猫達を撫でる。撫でられる事が大好きな虎猫が嬉しそうに喉を鳴らし始めた。

 

 「そこにあったのは、一つの井戸だった」

 「井戸、ですか…?」

 「うむ。彼らはその場所で鬼を退治したらしい。その井戸は石造りで…深さはかなり深かったと思う。音の反響から水は遠く…水が残っていたかどうかもわからぬほど深かった」

 

 彼の語り口に合わせて脳内にその映像が思い浮かぶ。井戸を納めるための恐らく小さな木で作られた小屋。窓は無いかあっても小さく灯りがない室内は暗く静まり返っている。

 人がいない村のなんだかおかしな井戸…きっと石造りの表面は所々苔むしていて上には木の蓋が乗せられているのだろう。それをガタガタを取り外し、覗き込んでも暗がりの室内では底が確認出来ないのだろう。

 

 毛繕いをしていた白猫が。撫でられるのが終わった虎猫が、鳴いている。

 

 

 「私は他の隊員達に囃し立てられるまま、蓋を開け中を覗き込んだ。勿論何を見ようとした訳でもない。鬼は退治したというし、何を見ようと言う訳でもなかったのだから…」

 

 

 撫でていた手が、止まった。

 

 

 

 「……だが」

 

 

 行冥様の眉がハの字に動き、つり上がった瞳が細く細くすぼめられる。笑って…いる?

 

 

 「中には……いた。そう、確かにいたのだ。あれは確かに……()()が」

 

 

 語り口に呼び寄せられ、暗がりに現れたのは……えっ?

 

 「……猫、ですか?猫……?え、えっ、井戸の中に猫ちゃんがいたのですかっ!?まさかそんなっ」

 『うむ、確かにねこがいた。あれは確かにねこだった」

 「そんな大変ですっ、落っこちてしまったのですね!なんて可哀想な…それでその子はどうなったのです!?」

 

 彼が。何より優しい彼が井戸に落ちてしまった猫を放っておくとは思えない。言わずとも助けたのだろうが、それでも聞かずにはいられなかった。

 だってもしこの子達が…!この可愛い可愛い白猫や虎猫…他の猫だって例外じゃなく彼らがそんな目にあったとしたら私は……精神がいてもたってもいられなくなり行冥様にすがり付く。私の突然の奇行に戸惑う事もせす、彼は優しく微笑んだ。

 

 

 「大丈夫だ、ねこは無事だ。ねこは自分の意思でそこにいます。好きな時に出てきて、私達の前に現れてくれるのだから。だからそれは、ねこでした』

 「そ…そうなのですね。無事なら良かったです…」

 

 他の隊員達が行冥様をそこに導いたのは井戸に落ちた猫を助けるためだったのかと思ったけれど…違ったみたい。そもそも普通の人より身体能力が高い隊員達なら猫を助ける事も簡単だろうし、違って当然か。

 しかし井戸に自分の意思で留まっているなんて、少々変わった猫ちゃんだなぁと思う。暑さをしのぐ為にひんやりした場所へいくのは猫の習性ではあるけれど、この寒い季節に井戸の中になんて。

 

 

 『そうだ。ねこはいる。ねこはいます。間違いなくいる、ほらこうして…喧嘩はすれど私を歓迎し迎えてくれているのだからねこはいる』

 「……?……行冥様?…あ、そういえば一つ疑問があるのですが」

 『どうした?ねこは自分の意思でそこに留まっているのだから連れて帰ってはいないが、ねこならばここにいるだろう』

 

 

 行冥様を、見上げる。

 目が、合う。彼の目は、何も映さないのに。

 

 

 「なぜ、その猫が自分の意思でそこにいるとわかったのです?」

 「………」

 

 

 言葉が、返ってこない。

 

 

 「まるで、その()()と話でもしたかのような……まさか、考えすぎ……です、よね?」

 

 

 鋭いつり目と、目が合う。

 

 

 「それに……あの、先程からこの子達を撫でている時に言っていた……その、猫……いえ、あの…()()…と、は?」

 

 

 瞳が、柔らかく弧を描いた。

 彼の大きな大きな手が。私の顔をすっぽり覆えそうな大きな両手が頬から頭をそっと支えてきた。首筋まで残る傷痕を撫で上げるように、優しく優しく。

 

 

 『…まい子』

 「…はい、行冥様」

 

 私の名を呼ぶ彼の低い声色が、痺れそうなほど優しい。腰を折り曲げて吐息が触れ合いそうなほど近付いてきて。

 

 

 そして。

 

 

 

 

 『ねこは、ここにいる。きみの、そばにも』

 

 

 

 ………。    。

 

 

 

 

 『ねこはいる。可愛らしく愛らしいねこはすぐそばにいる。ほら、この子達もねこだ。きみも、尊く愛い存在で、ねこなのだ。そう……ねこは、います』

 

 

 ………。ねこ……ね、こ。

 

 ね、こ。猫…?いや…()()……だ。

 

 

 

 

 この足元に、手に擦りついてくるのは……なに?

 

 

 

 可愛らしい、甘えてくる鳴き声。柔らかい毛並み。暖かい体温。所々骨ばったゴツゴツした体。

 

 なぁん。にゃぁん。にゃん。

 

 

 ……ね、こ?

 

 

 

 『ねこは、います』

 

 

 

 行冥様の瞳の奥に、()()()が見えた。

 

 

 

 ………。

 

 ……ああ。

 

 

 

 ねこ、だ。

 

 

 足元にいる、白の、虎の……ああ、猫、猫、ねこ、ねこ……私に擦りついてくるのは……そう、そう、だ。

 

 

 

 ()()…だ。

 

 

 

 白猫も、虎猫も……そうじゃ、ない。

 

 毛がない、大きなぎょろりとした目を持った……ねこ、だ。

 

 

 

 この子達は………そう、そう…だ。

 

 

 

 『…()()……です、ね。行冥様…』

 

 『う、む……そうだ、まい子。この子達もねこ、なのだ…』

 

 

 

 気付かなかった。知らなかった。そうだったんだ。

 

 

 

 この子達は、ずっとそばにいたこの子達は…猫じゃなくて……()()だったんだ。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 ねこは、いた。ねこはいます。

 

 

 行冥様は召集されて、産屋敷様の所へ出掛けていった。███村にいた隊員達と共に。その場には他の柱の方もいるのだろう。

 

 ねこと共にいきます。行きました。

 

 

 そこで彼は話したのだろう。大勢の人の証言と共に。ねこはいると。

 

 

 そしてどうなったのか私にはわからないけれど、ねこはいます。

 

 

 柱の皆さんは鬼を退治をしていくけど、ねこは相変わらずにいます。

 大勢の鬼と、ねこはいます。

 

 

 その内に誰しもが語りだした。

 

 "ねこ"はいると。みんな、みんな、ねこを感じている。見ている。見られている。ねこがいる。

 

 あの目でこちらを見ている。

 ぎょろりと、毛の無い肌を動かし、こちらを見ている。

 

 

 

 街の人が。遠くの村で。子供が。老人が。みんな、みんな、話している。

 

 

 ねこがいると。

 

 

 

 そうしている内に、出てきた。います。鬼の、始祖。

 

 

 鬼舞辻無惨。

 

 

 

 それが、その首が。語る。

 

 

 

 ()()の存在を。

 

 

 

 『ねこは、います』

 

 

 

 

 ああ、もうみんながみんなねこを見ている。

 

 

 ねこは、ねこは。

 

 

 

 ねこは、います。

 

 

 

 

 日の光に燃えても、体が溶けても、抑えられても……そう。

 

 

 大勢の人が呟いた、ねこはいます。

 

 周りの人全てが、遥か遠くの人全てが呟いた。ねこがいます。

 

 鬼の始祖が日に溶けても、ねこはいます。

 

 

 家の中にも、目の中にも、ねこはいます。

 

 

 

 ねこはいます。

 

 

 ねこは、います。

 

 

 ねこはいます。

 

 

 

 

 ねこは、いました。

 

 

 

 

 

 




 SCP-040-JP ねこですよろしくおねがいします

 オブジェクトクラス:safe(まぁ安全)

 SCP-040-JPは██県の旧██村にある井戸小屋。勘違いされがちだけれどもSCP-040-JPはねこではなく井戸の方。小屋の中を見ると見た人物は「ねこがいた」という概念に囚われ始める。カメラ等の映像では見ることはできない。けれどねこはいます。
 中を見た人物は全ての猫が「ねこ」に見え始める。「ねこ」は毛が無く、人間のような目がついておりどの方向から見ても目が合うという。 そして常に「ねこ」に傍にいるように感じる。目を閉じたとしても目の角膜内に存在が見えるため、常にねこはいます。
 そしてその「ねこ」の存在を他者に広めようとし始めます。これは会話、映像、文、絵など関係なくそれを理解した瞬間から「ねこ」が見え始めます。ねこがいますので。
 このミーム汚染は止められません。ねこです。よろしくおねがいします。


 ねこは有名であらゆる意味で可愛がられているけれど、不可思議で、ほんのり恐ろしいのが好みです。
 ここまで広まったら多分収束厳しい。でも無惨も曝露者になったし多分鬼もいなくなるし、ある意味ハッピーエンド?ビターエンド?メリーバッドエンド…?


 


SCP-040-JP http://scp-jp.wikidot.com/scp-580-jp

著者:ginger3738 様

この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。
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