・嘔吐表現あり
・今回は旧SCPです。元記事は改定されています。
吾輩は家へと向かって飛んでいた。日が暮れる前には着くように。
それは我ら鴉が作る一般的な木の枝等で作られたものではなく、人間が組み建てた屋敷と呼ばれるものだ。
屋敷の主人、そして吾輩の相棒であり家族とも呼べる奴の名は悲鳴嶼行冥。
吾輩達、鎹鴉は誇りを持ち鬼を狩る奴らの口となり手足となり、そして目となってきた。
特に行冥は目が見えない、他の鴉達が手紙を運ぶように吾輩は言葉をそのまま運んでいる。
そんな中親愛なるものへの言葉を運ぶのは光栄な事だ。それが相手を思っての言葉ならばなおさら。
屋敷から遠く離れた場所にいる行冥の言葉をそのまま、あと少しで届けれる。
ほら、家が見えてきた。
屋敷上空で旋回を行い、あやつがどこにいるのかを確認する。
庭や玄関先にはいない、時間帯的に厨房かと思ったがその気配はない。
ならばどこぞの部屋の中だろう。羽ばたきながら滑空をして屋敷に近付く。
「カァー、行冥ヨリ連絡ダ!」
声を出せば吾輩の声を聞いたあやつがどこからか顔を出すだろう。
良く座っている縁側からか、本を読んでいる自室か、掃除でもしていれば全く別の場所からになるだろうが。
…しかしどこからも出てこない。足跡すら聞こえない。
と、いうより動いている音もない。
居眠りをしていたり厠に入っている程度ならまだ良い、都合が合わなかっただけで起こしたり待てばいいだけだ。
考えうる最悪の場合、それは倒れている場合だ。
具合を悪くし動けない場合。
怪我や病気、更に気を失ってる場合も考えれる。
あのひ弱なあやつは何がどうなるかわからないのだ、頑丈な行冥と違って!
だから吾輩はこうして何度も往復をするのだ、やっと出来た大切な家族なのだから。
開いていた窓から中へ入る。
建物で飛ぶことは不可能ではないが面倒だ、跳ねながら進む方が結果的に早いだろう。
室内にはおらず廊下へと出る。
そのまま跳ね進んでいれば廊下の隅に猫の塊が。
体の大きな白猫虎猫を先頭に、毛を逆立てまっすぐに吾輩を睨んでいる。
鳥と猫ならば奴らの方に利がある、しかし奴らの中で一番大きな猫ですら子猫の時から知っている。
じゃれついてくるのは許すが吾輩を食べようとする事はしないよう時に爪をたて教えたはず。
遊びでも食べる真似すらしないだろうに、それどころかなぜそんなに警戒している?
「オ主ラドウシタ?アヤツ…マイ子はドウシタ?」
吾輩の問いかけむなしく奴らは威嚇しか答えを返さなかった。
なぜだ?何が起きているのだ?
廊下をそのまま進む。
陽が大分傾いてきた…これ以上明かりが落ち室内が闇に包まれば鳥目である我ら鴉には厳しくなる。
一歩跳ね、廊下の角を曲がれば厨房へと続く道がある。
その廊下に花柄の着物が力なく横たわっていた。
そしてその周りを囲むように三羽の鴉の姿が。
床の上に、顔の前に、体の上に。
獲物を取り囲み、まるで食さんとばかりに。
「貴様ラ何ヲシテイル!!!」
大声を上げ大きく翼を広げ飛び掛からんとする吾輩に奴らは気付き、羽ばたきながら跳ね退く。
窓枠に。火の付いていない竈の上に。固められた土間の上に。
離れはしても未だ距離にして
なぜだ?なぜ狙われている?
「貴様ラナニモノダ!?ナゼコヤツを狙ウ!」
吾輩の問い掛けに奴らはまともに返さなかった。しかしわめきたてなければ吾輩の隙を見てまた、狙おうとしているようで。
声をかけるのを止めるわけにはいかなかった。
『……孤独』
「…今何ト言ッタ?」
一羽だけがポツリと何かを呟いた。
そしてそれからどれだけ何を言おうとも奴ら喋ることはなく、ただただこちらを。背後のまい子をじっと見つめていた。
** SCP-194 **
…いや、攻撃をしてこないのならばいつまでもコイツらに構っている場合ではない。
事実として倒れていたまい子をじっとどうにかしなければ。
振り返り顔色を確認すれば真っ青を通り越し土色だ、閉じた目の下は黒く頬が痩けている。
病気?どうなっている?…三日前に見た時はこんな風ではなかった!なぜこんな急に弱っている?
「カァー、オイシッカリシロ!目ヲ覚マセ!」
くちばしで何度も頬をつつく。病気だったとしてそれを治す方法も知識も何も吾輩は持っていない。
本当ならば医者に見せるのが一番良いのだろう、だが連れていく力も手段もない。麓の町の顔見知りの医者ならば吾輩を信じ話が出来るかもしれぬ、だがここに呼ぶのにどれだけの時間がかかる?
それだけの時間放っておく事は…奴ら鴉がいる間は出来るわけがない。
「…ぅ……!」
「!!起キタカ!シッカリシロ!話セルカ、薬ガイルナラドレガイル??」
諦めずつつき続けていれば小さく呻いたあと、軽く身じろぎをして目をゆっくりと開けた。
まず良かった、最悪の最悪である意識を完全に飛ばしていたわけではなかった。
しかしまだだ、まだ目を覚ましただけ。
これから様々な判断をしなければならない。起き上がれるのか、何が必要なのか。薬や水を組んだ器程度なら何とか運んでみせるがそれ以上の重さのものだったならば厳しいが。
早打つ吾輩の心臓とは真逆の止まってしまいそうな遅さの瞬き。
具合は悪いだろう、最悪だろう。だが、せめて何か望みを…
「……も……う…」
吾輩のようにくちばしを持たない唇が震えながらゆっくりと動き。
「 んで しまい、た い」
「……ハ?」
名状しがたい言葉をつむいだ。
言葉してはいつの時代もありふれ、呟くものもいるだろうもの。
その言葉に罪はない、弱音を吐く事を罰する規則もない。
だがしかし、それは。
「コ、ンノ…タワケガ!!!」
お主はその言葉を吐いていい存在ではない!
頬を思い切りつつき、つねあげる。
ギリギリと血をにじませる寸前までつねりあげ、離す。
「ソノ言葉ハ我ラヘノ侮辱!オ主ノ痛ミハ感レナクトモ、オ主ヲドレダケ思ッテイルカワカラヌカ!」
「 」
まい子は動かない。力ない目で、何も写さない目で空中を見つめていた。
「行冥ガ手ヲ伸バシタノハオ主ニ生キテホシイカラダ!オ主ガイナクナレバドレダケ悲シム人ガイル事カ!行冥モ!猫達モ!町ニイル人々モダ!」
「……かな、し……」
「ソウダ、吾輩トテ……我ラハ、見知ラヌ誰カデハナイ…我ラハ、人間ト、トリト、猫ダガ、オ主ハ…」
血は繋がらない。種族も違う。常に優しく穏やかな世界ではない。
だが、それでも。
「決シテ、一人デハナイ」
パチン、と何かが弾けたような切れたような音が聞こえた気がした。辺りを見渡してももちろん何もない。
だが。まるでそれが合図だったように。
厨房のあちこちに止まっていた鴉が羽ばたきはじめ、開いていた窓から飛び立っていく。
…は?えっ、なぜ、また急に?
理解が追い付かないまま、奴らはいなくなった。羽の一枚も残さずに。
「…ぅっ、えっ…!」
「!?ドウシタ!?」
その羽ばたき音が遠ざかっていくのと同じくまい子がえづきはじめる。
力なく寝転がっていた体をうねらせ、上半身を跳ね上がるように起こし上げて。
「ぅえっ、が、はっ…!」
ボタボタと滴を落としながら幾度と痙攣し続け、堰を切ったようにそのまま廊下の真ん中へ胃液を落とした。
何も体内に残っていないのか出てくるのは透明な液体のみ。そして。
ビチャッ、ベチャッと出てきた黒い黒い塊。
…これはなんだ?
食べ物ではない。寧ろ見慣れている、それ。これは。これは…
我らが鴉の、羽根ではないだろう、か?
…それがなぜまい子の体内に入っていた?
いや、そもそも、命の灯火が消え尽くそうとしていた訳でもないまい子の側になぜ食さんとばかりに奴らが…
「…ぁ、れ?……私は…どうし…?」
「!気ガツイタカ、マイ子!」
「あれ、え?……ここは…?」
力なくとも起き上がっていた、口から未だ体液をこぼしていたまい子が……まるで眠りから覚めたように顔を上げ辺りを見渡していた。
その瞳は髪色と同じく赤茶に輝き、夕焼けの薄暗い灯りを取り込み光っていた。先ほどまでの死人のような色とは違って。
声をかけた吾輩を見下ろし、幾度と瞬きを繰り返したあと首をかしげて。
「貴方、は行冥様の鎹鴉の…?」
「ソウダ、吾輩ダ。行冥カラノ伝言ヲ持ッテキタノダ」
「ああ……それはそれは。ありがとうございます」
にこりと柔らかく、笑いかけてきた。口元の体液を隠すようにぬぐったのは無意識の行動だろうか。本人すら気付いていない。
…そうだ、これがいつもの反応だ。
具合が悪くともそれを寧ろ隠し続ける猫のような姿、それがこやつだったではないか。
…先ほどまでのは、何だったんだ?
「行冥ハ今、刀鍛冶ノ里デ武器ノ調整中ダ。アト二日ハカカルダロウ、トノ事ダ」
「それは仕方ないですね、武器の調整はしっかりしないと危険ですから」
「……マイ子オ主…大丈夫ナノカ?」
「へ?何がです?」
吾輩の体を心配する言葉ですら意味がわからないと首をかしげるまい子。
それは倒れた事が何でもなかったと強がると言うより……
「オ主、モシヤ心細カッタノカ?」
「へ?えっと……うーん、どうでしょう?一人の時ちょっとだけ病院や薬ばかりに頼って情けないなぁ、って……あれ、いつ思ったんだっけ?」
…?……。
まさか、そんな。
「…モウ夕方ダ。アノ獣達ニ飯をヤッタノカ?」
「え?ご飯?ご飯……は、あれ?お昼……朝?あれ?私はいつ……えっ?…あああ、あれ!?ご飯の用意をしないと!?」
つい先程まで力なく倒れていたとは思えないような早さで立ち上がりすぐそばの厨房へとかけていく。
あれやこれやと騒ぎながらバタバタと用意をしている。
その後ろ姿からは、先ほどの死の臭いなど欠片も感じとれない。
「あわわ、ご飯の用意をっ、あれ掃除や洗濯物はどうし……あれ?えっ?…いやそもそもなんで私はあんな所で座って…え?でもああ、掃除もしなくっちゃ放置は出来な…!」
大慌てで様々な用意をしながら困惑している後ろ姿を声もかけず眺めていた。
整理する時間が必要なのではと感じたからだ。
しかし何か目に見えない気配を感じ取ったのか廊下の隅にいた腹ペコの猫達がこちらに歩いてきている姿が見えた。
吾輩の姿を見ても、警戒も、先程までの敵対要素も何もなく……ただの空腹の子供のように。
その猫達の姿を見て、忙しげな後ろ姿を見て、確信した。
「マイ子、オ主…先程吾輩ニ向カッテ何ヲ言ッタカ覚エテイルカ?」
「…えっ?先程…?…」
窓を閉め、竈に火を炊き、土間を踏みしめていた動きを全て止め、吾輩の言葉をゆっくりと噛み締める。
うんうん、と考え込んだあと困ったように笑いながら吾輩をまっすぐに見つめて。
「私……何か言いましたっけ?」
…間違いない。まい子は倒れた事が何でもなかったと強がると言うよりも…
虚栄でも嘘でも強がりでも何でもなく。
倒れていた事そのもの事態を覚えていないようだった。
それは……ああ、わかっている。
長らく鬼殺隊に遣え、鬼を相手にしてきた我らですら感じたことのないこの感覚。
なんともまぁ、恐ろしいものだ。
SCP-194 腐肉喰いの一団
オブジェクトクラス:Euclid(ちょっとヤバい)
見た目は普通の鴉。穀物より肉が好き。
SCP-194は内気な性格な人や社会から離れた孤独な人につきまとう。そうでない人はSCP-194につきまとわれたらそんな人になってしまう。
SCP-194の羽根をSCP-194からのプレゼントとして食べ始め、食べ始めてから一週間経つと体が変化しはじめ最終的に194になってしまう。ただ過半数の人間はその前に体の変化の痛みに耐えきれず、死んでしまう。
鎹鴉はこの後心配してしばらく離れなく、猫達は腹減ったとつきまとった。
SCP-194 http://scp-jp.wikidot.com/deleted:scp-194
著者:不明
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