鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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参拾壱話 猫の寝床のようです

 

 

 

 

 行冥様は数日帰っては来ないだろう。その間に見違えるほど家を綺麗にしよう、盲目である彼には見えないけれど。

 

 そう誰に言う訳でもなく思い、まい子は気合いを入れるように傷痕が残る頬を両手で軽くた叩いた。

 

 

 鬼殺隊の最高位の柱の一人に位置する悲鳴嶼行冥。彼の担当区域の隅の隅、そこで人間業とは思えない奇妙で怪しげな事件が起きたらしい。

 何でもその村に置いてあった大きな像が動き、村人が数人消え、辺り一面に血液らしきものがばら蒔かれていたとかなんとか……それを調べに、そして解決をする為に彼は出掛けていた。

 

 

 悲鳴嶼のいない大きな家の中、一人屋敷内の掃除をすべくと人間の身内であるまい子は廊下を桶と雑巾を持ち歩いていた。そして気になった部分の廊下や柱を濡らし絞った雑巾で拭き掃除をする。

 床の一部分を力を入れて吹こうとして、肩から一括りにした焦げ茶色の髪の毛が胸元へ流れ落ちる。それを背中側へと邪魔にならないように回せばその行動で埃が舞い上がったのか、喉元がどうにもいがっぽくなったのか、まい子はこんこんと軽い咳を出した。

 埃が目に見える程積もらせ転がせるような事はしない。けれど、住む人数に対してここはかなり大きな屋敷ではある。多少対応出来ない場所があるのも否めない。

 

 今日はその部分を徹底的に掃除をしようとまい子は張り切っていた。花柄の羽織りや着物の袂をたすき掛けで固定し、体力尽きくたびれる寸前になるまで張り切り、満遍なく掃除を続けようと決意をして行動していた。

 

 

 「あっ、あぁあぁ、もう……どうしていきなり喧嘩をするの?」

 

 それなのになぜ決意した通りに上手くいかないのだろう。

 

 近くの街から離れた山の中の屋敷、正午からは西に位置する縁側には穏やかで暖かな日差しが差す。

 残りの悲鳴嶼の家族。猫である彼らに気にいられた為にズタボロにされた柔らかな布地は見にまとわれ、仲良く暖かな縁側で絡み付くように昼寝をしている猫がいた。

 虎模様と白の仔猫。そんな二人はいつの間にか目を覚まし、そして何があったのかわからない内に気がつけば取っ組み合いの喧嘩をしていた。爪を立てながら大声を上げ、短く滑らかな毛を逆立て尻尾を大きく膨らませていた。

 

 「ほら、落ち着いて。大丈夫大丈夫……たった二人の同族の家族なんだから仲良くね」

 

 血を見るような喧嘩ではなかったものの、そうなる前にまい子は彼らを引き剥がしそれぞれの猫が落ち着くようになだめていた。

 常に見ていた訳ではない為に喧嘩の理由などわからない。けれど片方の猫が布地を我が物顔で身にまといながら下敷きにし、もう片方が悲惨にも聞こえる声色をあげながら彼女の膝元にまとわりついて来たのを考えれば……そういう、事なのだろう。

 

 

 負けた事でか落ち込むような素振りを見せる彼の毛並みを撫で、代わりになりそうな布地を渡せど気に入らず納得いかないのか無視される。

 あちゃあ、駄目か。そうまい子は苦笑いを浮かべ再度彼の尾辺りを軽く撫で叩いた。

 

 それならばもっと良いものを、今度こそ喧嘩にならないような気に入るものを渡そうとまい子は頷き決意をした。彼女の優先順位は何よりも悲鳴嶼で、それから家族であり猫である彼らに続くのだから。それはまぁ時と場合によりけりではあるが。

 

 

 廊下の掃除を終え別の場所に移動する彼女の足元にまとわりつきながら敗者の猫は着いてきている彼をそのままお供に倉庫へと足を進めた。

 

 少々埃っぽく少しごちゃついている倉庫内の掃除ついでに足元から部屋の入り口近くの廊下へと移動した猫の彼に何かを渡そう。

 ほんの少し紐がはみ出ている型崩れした我楽多(がらくた)でもいい、優しい敗者の彼が喜ぶものは何か無いだろうかとまい子が掃除ついでに探していた時だった。

 

 

 「あら…?」

 

 埃を被っていた木箱を移動させようと持った時に奥に同じく埃を被っている見た事の無いものが見える。二、三個軽いものを別の場所に移動させ、それの招待に手に取り気付く……稲藁で作られた籠だと。

 全体の形はふうわりとまぁるく、壺や花瓶かのような形。されども真ん中に入り込めるような四角い穴が開き、中はくつろげそうな程ゆったりとしており、そしてそれは花瓶ではない。

 

 

 これは何なのだろう?まるで……いや、まさか、もしかして。

 

 彼女の想像した通りなら……これは、猫の為の寝床、だろうか。

 

 ……なぜ、こんな所に?

 

 きょとんと腑に落ちない顔でまい子は首を傾げた。

 

 

 猫達を大事に思う悲鳴嶼が買ってきたのならこんな所に隠すように置く事はないだろう。猫達に対して驚かす為の贈り物とは思えない。そもそも埃を被るものより奥の奥にあるそれは、猫の彼ら二人が来るより前にあっただろう物だから。

 それならば、なぜ?……いくら首を傾け悩めども、結論は出ない。入り口近くの床に香箱座りで寝転ぶ猫を見下ろせども彼は知らぬ存ぜずとばかりに何も言わなかった。

 

 

 とりあえずそれを手に取り、まい子は床でくつろぐ彼の少し離れた元へゆっくりと置こうとして気付く。瞳を閉じ身じろぎ一つしない幼い彼はいつの間にやら眠っていると。

 起こさないよう音を経てないように稲藁籠を廊下の外へと持ち出し、近くの部屋の窓際に置く。寝ている彼や縁側でくつろぐ彼に見せるのはまた後で、と。

 

 

 数十分後。高く上がっていた日の向きが少しだけ変化したその合間。彼女の常人より弱き体で精一杯、出来る限りの倉庫の掃除を終えても彼はまだ眠ったままだった。

 まだまだ幼い彼らがことりと眠りにつく  ── 後世ならば電池が切れたようにと表現するだろうそれ ── のは妙ではない。目一杯体力の続く限り遊びに更け力尽きれば眠る。それこそが仔猫である彼らのやるべき事なのだから。入り口近くの床や縁側で眠りこけていた彼らになんの罪もない。

 

 

 「……えっ…?」

 

 だから、まい子が先程置いた稲藁籠を取りに倉庫から近くの部屋へと移動しその部屋の中に入り込んでいた見知らぬ猫を見付けたとて…誰にも責める権利は無かった。

 稲藁籠の中に入り込んでくつろぐ茶色のキジトラ猫。その側に寝転ぶ毛の短い黒猫と、所々白色が混ざる黒のぶち猫。

 

 見た事もない、そして寄り付く事もなくも時折野良で見かけた事のある猫が突如まるで十年来そこに住み着いていたとばかりに家の中でくつろいでいたとしても。

 

 

 「……えっ、と。何が起き……んんッ、可愛らしい…!」

 

 どうしてそのような状況になっているのか理解出来ず動揺まみれの声色を出しながらも、そのくつろぎ敵意の持たない愛らしい六つの瞳で見詰められれば蕩けそうなほどの幸福感を受けた床に崩れ落ちたまい子には何もわからなかった。

 野生も何も関係の無い。猫の、稲藁籠に入る姿の何と愛らしい事か。

 

 

 どこまでも続く高く青い空の下、大きく旋回し遠くまで響く鳶の声だけが響いていた。

 

 

 

 

 ** SCP-637-JP **

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 悲鳴嶼行冥は疲れきっていた。

 

 体は土埃にまみれ、引き摺りそうな長い手足に目に見えぬ重責と叱咤と責任転嫁という重しがついている為に。

 連日連夜の鬼殺隊を知らぬものには説明の出来ない現象とその対処に終われた日々で心も体も疲れはてていた。

 

 それでも慣れた道のりを進み、見えぬ視界に映る自宅をとらえ悲鳴嶼は殆どのものには聞かせない安堵の息を吐いた。

 

 人よりも遥かに大きな体を持ち、遥かに強い力を持ち、如何に他者を思う気高い心を持とうとも守るべき弱き者達の言葉に打ち砕かれそうになる事もある。終わりの見えない暗がりの中ひたすら這いつくばり歩いているに等しいと思う事もある。

 だがそれでも闇の中に存在する微かで、掛け替えの無い光に触れ手にする為に。無実の罪から救い出してくれた例えようのない恩人を、何も知らずに十把一絡げでも生きる人々を、花咲くように笑う人を助ける為に……悲鳴嶼は歩みを止める事はない。

 

 

 「ただいま戻った」

 

 悲鳴嶼の大きな指先を玄関扉に手をかけ横に滑らせれば、木の擦れる鈍い音を鳴らしながら扉が開く。そのまま足を踏み入れ後ろ手で扉を閉めながら家の中へと声をかける。悲鳴嶼の大きくなく低い声色が室内へと響いていく。

 

 「……?」

 

 常ならばその声を聞き付け、奥からはたはたと走らなくても良いと常々言っているにも関わらず小走りで駆け寄ってくるまい子の姿が来ていた。しかし、そんな音も気配も全くしない。

 多少遅れて来てもおかしくない時間を待てども彼女は来ない。悲鳴嶼は出掛ける前のやり取りを思い返す、特に喧嘩をして揉めていたり気分を損ねるようなやり取りをした覚えはなかった。それどころかいつも通り無事と武運を祈られていただけ。

 

 

 となれば……出迎えられない理由があるのだろう。それならば思い付く可能性はいくつかある。

 

 一つ、偶然に聞こえずに無視されるような形になってしまっただけ。

 一つ、出迎えられないような状態…例えば着替えの途中に手惑っている等で不本意ながらなっている。

 一つ、返事の出来ない状態になっている。例えば……良い可能性として、眠っている。悪い可能性として、体調を崩して倒れている、とか。

 

 

 上り框を跨ぎ、悲鳴嶼は足を踏み出し廊下を急ぎ進めた。人よりも遥かに大きな巨体が歩みを進めても鬼殺隊の柱である彼の足音は軋みの一つもせず、寝室前まで辿り着きそのまま襖を開いた。中を音の反響や畳の上にあるものを探り……目当ての存在がいない事を確認して翻す。

 

 その際に声を少しだけ大きくして何度もかけ続けるも、未だに返事はない。戦闘中に決して乱れる事が許されない心の奥が小刻みに揺れ始めている。

 

 聞こえずもとも、返事の出来ない状態でも、睡眠中であったなら構わなかった。それならば見付けた際に一つ二つの何気ない会話のやり取りで終わるのだから。

 だから、それ以外は。返事が出来ないような 状態だけは。付近に民家はないぽつねんと佇む屋敷に訊ねて来るような人物は滅多にいない。何か問題があったとしても……誰も気付けない可能性がある。

 

 悲鳴嶼の脳裏に体の弱い彼女が力なく血反吐を吐き廊下や室内に倒れている光景が思い浮かぶ。そしてその姿すら、盲目である彼には良くも悪くも細かく描写は出来ない。

 

 

 「どこにいる、まい子!」

 

 屋敷内全てに響き渡るような声をあげた。

 

 それでも返答は、ない。背筋に言い様の無い悪寒が走る。熱を持つ手のひらを強く強く握りしめた。それでも足を止める事はしない。

 

 

 そもそも屋敷内の空気もどこか妙だと悲鳴嶼は思っていた。どこか歪んでいるような、澱(よど)んでいるようなそんな妙な雰囲気を感じていた。彼女が吐いたであろう血生臭いにおいを嗅ぐ訳ではないのが唯一の救いだが、それよりも何だか獣臭い可笑しな臭いが……

 そんな考えが悲鳴嶼の頭を掠めた時、意識した訳でもなく反射的に体が足の歩みを止めた。見えない目が異変を見て、鼻先が耳元が、制止を促していた。

 

 一歩、一歩。恐る恐るとばかり足を進めた先、正午からの暖かな日差しが降り注ぐ縁側とそれに繋がる襖を隔てた室内が見える廊下。

 

 

 「……は…?」

 

 

 その場所は、片手の数では足りないほどの猫がたむろし、溢れかえっていた。

 

 

 「……どういう、事だ?」

 

 出掛ける前に挨拶をした猫の数は家族として迎え入れたたったの二人。それもまだまだ幼い仔猫の姿。しかし廊下や部屋に通じる畳や縁に寝転んでいる中には見えぬ目で見る限り成猫が混じっている。

 家に住み着いていない野良が人間のにおいも気配も満ち溢れている屋敷内でくつろいでいるのは……どう考えても可笑しいとしか思えない。

 

 そもそも、その屋敷内の人間の筆頭であるまい子はどこにいる?どうしてこのような状態になっているのに何も行動を起こしていないのか。

 

 「にぁん」

 「む?」

 

 悲鳴嶼の疑問に被せるように、その内の一匹の猫が声をあげながら彼に近寄ってきた。高い声色はまだ幼い証で、そしてまるで不安げなその聞き覚えのあるその声に悲鳴嶼は膝をつき彼へと手を伸ばした。

 大きな手のひらと指先に額や喉元を擦り付ける猫を悲鳴嶼は出来る限り穏やかに優しく撫で上げる。

 

 その毛並みからして彼は虎柄の猫だと判別出来る。彼の性格は穏やかで寂しがり。悲鳴嶼ではなく、常に傍にいるまい子に良く懐いていた。

 だからこそ、彼がこうして一人で悲鳴嶼に寄ってきているのがなんだか妙で仕方なかった。返事をしない事は理解していた、それでも訊ねずにはいられない。

 

 「……もしや。まい子が、どこにいるのか教えてくれたり、するのか?」

 

 出来る限りの戸惑いを見せず穏やかに彼へと悲鳴嶼は訊ねた。猫である彼が言葉を理解し、人間の言葉として返事が返って来るなんて事は決して有り得ずとも訊ねずにはいられなかった。それほどまでに見た目や心情に現れない程に悲鳴嶼は戸惑っていた。

 

 そんな事が出来る訳がないのに。

 

 そして猫である彼は、彼の言葉を理解し返事をするような事はしなかった。それでもまるで悲鳴嶼の言葉に答えるかのように彼の手を擦りあげ、招くように縁側から続くほんの僅かに空いている襖の隙間を通り室内へと入っていった。

 その姿を追うように悲鳴嶼は僅かに空いている襖に手を掛け、音をたてずに開いた。音の反射で把握した室内には彼の記憶にある通りの物しか置かれていなかった。

 

 

 目の見えぬ彼の為に無駄なものが何も置かれていない室内に覚えの無いものがある。中央に堂々と鎮座するように置かれたそれに悲鳴嶼は手を伸ばし、触れた。妙な温かさと柔らかさを感じるそれは。

 

 「……これは、稲藁で作られた、籠か…?」

 

 しっかりと作られた稲穂を編まれて作られた籠に似た小さな、縁側に集まっている猫が入り込みくつろぐには申し分ない物。柔らかな湾曲を描くそれをなぞるように手を動かし……悲鳴嶼は首をかしげた。

 

 こんな形をした物など……購入した記憶も使わないとすぐに判断し倉庫へと直した記憶も無かったのだから。ならば、これはどこからきたのだろう。外に勝手に出掛け買い物をするような真似をする事も出来る事もないまい子の、他に誰が。

 

 

 「んぁ、なぁん」

 

 悲鳴嶼の思考に割り込むかのように、室内に一つの声が響いた。

 中央に鎮座していた稲藁の傍に置かれていた布地の隙間から顔を覗かせた猫が稲藁に触れていた悲鳴嶼の手の甲に鳴き声を上げながら摺りより、何度となく声を上げながら顔を擦り付けていた。

 

 「……お前達はどこからやって来た猫なのだろうな。なぜこの……」

 

 その短い毛並みには馴染みはなく、また声色も覚えがなかった為に家族として迎え入れた二人のどちらでもないとは悲鳴嶼にはすぐに判別出来た。

 しかしこの異様な懐き具合は何なのだろう。差し出した手の甲や手のひらに幾度となく顔や体を擦り付けていたり、かん高く頼りなさげに揺らぐ弱々しい声色はまるで何かを必死に教えんとばかりに発せられているのは。

 

 猫の足音が、畳を擦る爪の音が聞こえない。何か音を吸収するものの上に乗っているのだろう。猫のその滑らかな毛並みの猫から手を離し、下に敷かれていた布地に悲鳴嶼は手を伸ばした。

 それが稲藁で作られた籠と同じように記憶に無いものだったのなら奇妙な不可思議に首をかしげるしかなかっただろう。

 

 

 「……は?」

 

 しかしその布地の手触りは悲鳴嶼には何よりも覚えがあった。寒がりである者の熱を逃がさないよう厚みのあるその布地を手探りで辿り、そして確証の持てる場所に触れた。

 数日前に家を出発する前に間違いなく触れた、首筋に値する箇所の着物の布地に。左襟、そこに偶然絡まるように残っていた……一本の細い、髪の毛。

 

 指を滑る艶やかさの残る長い髪の毛の感触は覚えがあった。それもつい、今すぐに触れたそれは間違いなく……

 手を差し伸べれば、猫は再度頭を擦り付けてくる。その毛並みに触れ、額や背中を撫で上げる。

 

 まさか。いやでもこれは…間違いない。同じ、感触。

 そうだとすれば、これは。この、手の中にいるいつもよりも遥かに小さなこの命、は?

 

 

 「……まい、子…?」

 「んなぁん」

 

 悲鳴嶼の口からこぼれ落ちるように漏れた言葉に返事をするように、猫は鳴き声をあげた。感情の読み取れないようにも、嬉々とした声にも読み取れるような声色で。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 「なぜこのような事になっていたのか、は。わからないのだろうな……」

 「しんぱいを、かけにゃして……もうしにゃけにゃ……うう、うまくしゃべれにゃい…」

 「喋るなど些細な事。無事で良かった。だがもし戻るのか後一日遅ければどうなっていた事か、嗚呼南無阿弥陀仏……」

 

 悲鳴嶼の膝の上で、小さな猫の姿から徐々に人の姿へと時間をかけて戻っているまい子は謝罪の言葉を紡ぎながら彼の膝へと体を擦り付けていた。

 彼が飲ませた例の、あの薬の効果で獣でも人の姿でもない、奇妙な体で思う存分甘えるような形で。

 

 「ところでぎょうめいさにゃ、ねこたちに、ねどこをかいにゃした?」

 「む?寝床?……いや、覚えがない。この稲藁で作られたこれの事か」

 「にゃい。しかし……ではにょこからあらわれにゃのでしょう?」

 「南無……奇妙な発想ではあるが、これが何かしらの原因に……いやそんな事が……無くはないな」

 

 少なくとも、猫に変化した人間を戻せる薬があるのならば。そう膝の上の小さな人でも獣でもない彼女の背を撫で、彼は涙を落としながら息を吐いた。

 彼女が元の姿に戻った暁にやらればならない事を思って。

 

 

 まずは無数の猫によって色々荒らされ汚された部屋の掃除と、元凶であろう稲藁の籠の処理と処分方法を。

 

 

 

 

 




 SCP-637-JP 猫ちぐら

 オブジェクトクラス:Euclid(ちょっとヤバい)

 SCP-637-JPは稲わらを編んで作られた猫用の寝床。
 SCP-637-JPを猫が直接見た、触れた場合SCP-637-JPを寝床にするようになり、5・6日程で完全にSCP-637-JPから出なくなる。そして7日目に消失する。その対象がいない場合付近の猫をおびき寄せるようになる。
 担当していた職員が四つん這いになり、キャットフードを食べ、猫のようにふるまうようになった事例がある。6日かけて完全な猫になり、7日目に消失した。

 この時のまい子は5日目から6日目でした。
 


SCP-637-JP http://scp-jp.wikidot.com/scp-637-jp

著者: inemurik様  

この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。

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