鬼と世界とSCP   作:アルビノ鮫

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因果応報(いんがおうほう) 意味:人はよい行いをすればよい報いがあり、悪い行いをすれば悪い報いがあるということ。 もと仏教語。

自業自得(じごうじとく) 意味:自分の行いの報いを自分が受けること。一般には悪い報いを受ける場合に用いる。もと仏教語。

改邪帰正(かいじゃきせい) 意味:悪い行いをやめて、正しいことをするように改心すること。


参拾伍話 たわわに実った腕があるようです(後編)

 

 それと同時に近くの木から生えている腕や幹を破壊する程の激しい衝撃が私を包み込んだ。音と衝撃が世界を破壊し尽くしたのか、抱え込んでいた腕は力無く萎れ、私はそのまま宙に放り出される。

 

 重力そのまま地面に叩き付けられる筈の私は、何故だかその前に。地面に落ちる前に、彼……行冥様に受け止められ、そして、抱き寄せられていた。地面には、叩きつけられなかった。

 

 

 ……あれ。なんだろう、これ。何が起きてるんだろう。

 

 

 目の前に彼がいる。

 

 ……彼がいる?本当に?彼はこんなに、揺れる人だったろうか。彼はもっとどっしりと地面に立っていなかっただろうか。

 ……違う、私の視界が、意識が揺れているんだ。彼は揺れていない。なのにくらくらと、なにもわからない。

 

 

 「嗚呼!なんという事だ、何故このような事に…!」

 

 私は、きっと私は押し付けるよう抱え込んでいた腕が自身の部分を破壊された事により木の幹から私を捨てられた。腕が。そして今度は放り出された先で彼……行冥様に抱えられている。

 彼の体に染み込むかのように低い声色と共にこの太い二本の腕が……木と同じく、いや寧ろそれ以上もっと強く抵抗をしても全く受け付けないだろう程に強く抱いていた。それは力だけでは無くて……まあ、抵抗なんてする気も気力も、無いけれど。

 

 

 ……あ、れ?……え。本当に?本当に彼なの?

 前に。どれくらい前かもわからない前に助けに来てほしいと願った、彼?

 

 彼がなぜここにいるの?何で今、私を、抱いて、いる?

 ぐるぐると回る視界の中にいる彼は、手際よく腕が、ぐるぐると肩辺りから布地の羽織をギチギチに巻き付けて。意味がわからないのに目があった彼は私に、穏やかに焦った顔付きと口元で微笑んだ。くれた。笑って。

 

 景色が物凄く早くに過ぎている。動いて、遠くに。彼の指が、口に、喉に触れて。何?

 

 

 私は……。彼は。寒い、視界が揺れて、凍えそうになって、でも、来てくれた。

 

 

 ……あ、あ。そうだ、確かに願った。彼が、来てくれる、事を。

 

 

 「……りょ……、しゃ……」

 

 掛けようとした声は三日寝込んだ後の声色よりも酷く掠れ、舌先が何も動かずに言葉を発した。

 そんな言葉にも関わらず揺れて歪んでいる視界の中の彼は微笑み、私を抱く腕を強めてくれた。

 

 傷み?痛み?吐き気、酩酊してる、みたいで。

 あ、あ。

 

 

 

 そこで私の意識は、弾け飛んだ。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 行方知れずとなったまい子を探していた私があの場に辿り着け、なんとか間一髪間に合ったのはただ単に()()()()()()他ないだろう。

 

 

 

 私は彼女に対し宣言した通りに行わねばならない出来事全てを無事に、そして後片付けまで含めて全てを終わらせてから彼女がいるだろう村へと向かった。やはりどうしても、どれだけ急ごうとも時間は掛かってしまった。それでも彼女は私を責めないだろう。

 

 だから何事も無かったと答えて欲しかった。あれだけ悪意に満ちた出迎えだったとしてもそれに晒されず、何とか穏やかに柔らかく微笑む声色で返事を返して欲しい。そう、願わずにはいられなかった。

 

 そうして目的地に到着したが……日が暮れる時間帯や彼女の性格から考えて、一人のんびりと滞在も観光もせず汽車で戻るだろうまい子と入れ違いになってしまったやもしれぬ。そう考え彼女が招かれた目的地の屋敷に向かい、訊ねた。

 今彼女は何処にいるのかと。帰ったと言うならばいつ頃帰宅したのかと。

 

 

 ……そんな私の何気無い、ごく普通の質問に対して村人は。

 

 

 そんな者は知らない。そもそも訪れても招いてさえいないと言葉を紡がれたその瞬間、会話どころか対話すら不可能だと判別するしかなかった。

 

 手掛かり処か、悪意しか紡がない者達と会話を続けはしなかった。嗚呼、なんという事なのだろうか、これ以上言葉を紡ぐ必要性が見付けられなかったのだから。

 隠れるように物陰にいた、我が家を訪ねてきた男性を()()()()()て問う。腰を抜かしたという彼を引っ張りあげ立たせ、手の中で数珠を鳴らして。

 

 水に濡れた声で彼は教えてくれた、大まかの居場所を。理由や目的は何も一つ教えてはくれずに。

 崩れ落ちる彼そのまま、出せる限りの全速力で向かう。その場から移動して見つけ出せない可能性を考慮し、山全てを隈無く洗い出すつもりで。

 

 

 

 そして、発見した。

 

 辺り一面を腐敗尽くしたかのような閉じられた空間内に、むせ返る程の真新しい血生臭いを振り撒き、今にも命の灯火を消さんとばかりの愛しい……それを。

 

 どういった理由でかはわからないがまい子に巻き付いていた木の幹や枝を彼女に当たらないよう破壊し、放り出されたまい子を受け止めた。

 

 意識が朦朧としている。呂律も回っていない、それは流した血液の量のせいでないようだ。どうにも妙な反応で……いや、それより。

 

 傷口に触れないようにしようにも……絶え絶えな息が届きそうな距離にきて、触れてわかる。触れる肌部分で傷がない箇所がない。大きな、そして小さな傷が至るところについている。

 そして極めつけは……右腕の切断。それも、音や感覚からして鋭い刃物で一刀両断されたものではなく……

 

 何が……起きたのだ、私が目を離した間に。

 

 

 そして四肢の一本を失った事で流した血の量が本当に良からぬ事でしかない、まずい。呼吸を使えぬ一般より弱き体では、触れている今でさえ刻一刻と体温が冷えていくのを感じる。 

 まい子から止めどなく流れる生暖かい血を止める為に、はためく血塗られた右袖部分を引きちぎり、神経等を痛め付けずとも出血を少なくするよう締め付けるように強く巻き付け結ぶ。

 そしてそのまま、隊服の胸元にある衣嚢(いのう(ポケット))から例の薬を取り出し水気も何もないまま彼女の喉元へ突っ込む。いきなりの異物である私の指を押し返す抵抗すらもなく、薬は喉元へと無事に放り投げられ飲み込まれていった。

 

 これで、一応は……

 

 

 破壊した部分とはまた違う、別箇所の()()()であろう部分が植物とは思えない程の動きで飛びかかってくる。そんな事が出来る植物がいるのか、など今はどうでも良い。

 

 その枝を飛び退いて避け、彼女を抱えてその場を走り去る。後ろに先程の木々の気配を感じてはいたが、早い段階でその気配は消え去った。どうやら枝にとっての神木から離れれる距離が取れるのはそう遠くはないようだ。

 せいぜい……うむ、十七間(約30m)程だろうか。走り抜けるならばそう遠い距離ではないが……彼女にとっては、そうだろうな。

 

 

 そうして私達は山中の道なき道を進み、どうにか湧水の流れる水源へと辿り着いた。水量もさほどない微かな音を聞き分けて見付けれたのは本当に幸運他無いだろう。

 流るる僅かな水面付近に静かに座り、手の中で身動ぎ一つせず大人しい彼女に触れる。呼吸はほんの僅かではあるが穏やかになっており……半ば強引の無理矢理に飲ませた薬が効いているのだろう。

 

 「……まい子、今から水を口元へと運ぶ。大丈夫だ、ゆっくりで良いから少しずつ口に含みなさい」

 

 それでも気を逸らしてしまえば聞こえなくなりそうな程弱々しい呼吸音には代わり無い。一刻を争う事態だったとはいえ、指を無理に奥へと突っ込んでしまったのは本当に申し訳ない。

 喉元を傷付けてしまっても飲ませた薬の効果で治るだろう……だがそういうものでもないだろう。

 

 割りきれないそれを仕方なく黙殺する。私の心境などどうでも良い。懇々と湧き出る触れた皮膚が喜ぶ程の冷たく心地よい水を手のひらに掬い、彼女の口元へと運ぶ。

 

 肌に感じる感覚、そして身動ぎや呼吸音の変化から彼女は恐らく目を覚ましている。それも少し前から。

 だがどうやら意識がハッキリとしていないのだろう。言葉を発しない口元が少しだけ開いて閉じてを繰り返していた。

 

 弱った体を癒す為に。起きてはいるもののはっきりせず停滞する意識、それをしっかりさせる為に流るる冷たい水を口に少しだけ唇に触れさせた後ゆっくりと流し込む。

 

 

 それがゆったりと流れ込み、口の中へと含まれ彼女が飲み込まんと少し身動ぎをしたのを確認し、手のひらの水を辺りに流し捨てる。だが。

 

 「……ッ、か、はっ…!」

 

 まい子が苦しげに水に吐き出した。自身ではどうしようもないとばかりに何度も噎せ返っている。……今の弱りきった彼女一人では穏やかな流れの無い水すら飲み込めないのを確認した後。

 再び水を手のひらに掬い、今度は私自身でそれを口に含んだ。そしてそのまま手の中にいる、苦しげに大きく呼吸を繰り返している彼女が落ち着くのを少し待った後に唇を重ねた。

 そして、そのまま。喉元の渇きと傷付きを癒すように。喉元の動きを確認し……一度上手くいけば、もう一度とそれを数回小分けにして繰り返す。

 

 

 そうしている内に緩やかに時間は経っていた、包み込むような僅かなる明かりが薄らいで来たという事はもう間も無く日の入りなのだろう。

 腕の中のまい子は穏やかに呼吸を繰り返し、時折単語ではあるが話し掛けてこれるまで回復をしていた。数回まだ休んでいなさいと諌めたが彼女も不安だったのだろう、様々な原因で震える左手を伸ばしてきた。

 血の気の薄い、冷たい手に取り体の負担にならぬよう抱き寄せればゆっくりと口を閉じ、そのまま凭れ来る。

 

 危険な峠が越えたのを確信し、無意識に溜めていた息を深く深く吐き出す。呼吸に乱れは無くとも、根深いところで精神は揺さぶられずにはいられなかったのだから。

 手の届かぬ場所で……あのような事になれば。もう少し早くどうにか出来ていたのではないかと。そもそも、やはりあの時に……

 

 

 「ぎょ、めいさ、ま」

 

 思案の闇に飛び込みかけていた私を引っ張りあげたのは手の中の小さな弱々しい声だった。

 

 「む?……無理しなくて良い。まだ、休んでいたらどうだ」

 「へい、きで……それよ、りなにより、の、しんしゃ、を」

 「……嗚呼。ああ。有り難う、そしてすまない。君を腕にしているのに別の思索をしてしまった」

 

 途切れ途切れの、流るる水音にかき消えてしまいそうな弱々しい声を聞く為に屈んだ私の耳に寄せるように彼女は囁いた。 

 深謝、それはつまり。……今は私は細い、今は一本しかない腕に思考の闇から引き上げられた。

 

 ……嗚呼、なんという事だ。南無阿弥陀仏。そうだ。意味の無い深みの思考の渦に飲まれてはいけない。

 後悔しない日は無くとも、同じ失態を繰り返さないようにするしかないのだから。

 

 

 礼の言葉に彼女は咳き込むような声色で笑い、そして数回そのまま本当に咳き込んだ。日が落ちてきた事で気温も冷えてきた、もう動いても支障はないだろうと判断しゆっくりとした早さで立ち上がる。

 

 「まい子。今から家へと戻る為に動く、出来る限りの負担をかけないようにはするが……」

 「は、い。おねが……しま、す」

 

 そこまで言葉を紡いだ後、疲労たっぷりの息を彼女は吐いた。それは苦痛混じりではあれどもどちらかといえば体の重さに耐えかねているかのような……

 やはり妙だ、腕一本がかなりの根元から無くなっているというのにその怪我の痛みをほとんど感じていないように思える。一応痛みを与えないよう本に気を付けて触れてはいるが、それでも。

 今でさえ、体全体が脱力しているかのように力が抜けているようだ。彼女を数え切れない程抱き上げてはいるが、どれだけ具合が悪かったとしても……このように筋肉そのものの力が抜けた事はなかった。

 

 この様子ではしばらくの間、そう家へと辿り着いても立つのは愚か座る事すら儘ならないだろう。

 あの薬は人間では決して有り得ない消失した腕を元には戻すが、流した血液を瞬時に復活させるはしない。いずれもゆっくりと苦痛と時間を掛けて治療する。

 

 この……謎の脱力を治せるのはいつになるだうか。

 ……まい子の身に本当に何があったのか、訊ねれるのも相当後になりそうだ。

 

 

 彼女の頬から口に向かって掛かっている細い髪の毛を払いのけ、指先に何気なく触れた傷跡を少し撫で辿り……歩みを進めた。

 

 「む?どうした」

 

 そうして進む内に首元の数珠に何かが軽く触れた感覚がした。彼女が精一杯力の抜けた腕を持ち上げ、私を呼んでいるのだろう。

 進む足の速度を少し緩め、彼女の口元に耳を寄せて重りがくくりつけられたような小さな言葉を聴く。

 

 「……む、ら…」

 

 発せられた言葉から、言いたい事を即座に理解する。

 

 「……嗚呼、当然に立ち寄る気は無い。私自身の動向も散策されているやもしれぬ、駅にも寄らず直帰する」

 「……ぅ…」

 「うむ、そうだな。自宅を知られているのだから、再び何かしらの接触をしてくる事も想定しておかねば」

 

 村人の目的も、想定していた結末も想像で補う他無い。しかし……どう甘く見たとしても、彼女に対して行った行為が正当化される訳ではない。

 配偶者……家族である私が助けに来る事は想定していたとしても、無事にこうして命あるまま助けれる事は想定も想像もしていないだろう。まい子に危害を加え傷つけていた()()()から助けれたのは……偶然辿り着け助け出せる力を持っていた、私達の幸運なのだから。

 

 

 私だけ駅に向かい、去り行く姿を村の誰かに確認させればそれで終わるだろう。これだけ大掛かりならば、ほぼほぼ村ぐるみでの犯行と考えて良いのだからどこかしらから伝わるだろう。

 彼女を見付けれず、無様に帰ったと。死刑囚となった……私の名声など最早どうでもいいものなのだから。それで済むのならそれで良い。

 

 しかしこんなに弱りきっている彼女を何処かに置いていくなど、出来ない。村全体が信用のならない場所で一人……放っておけない。

 身一つで移動し戻る事は可能だ。寒さに震える彼女を暖めるよう抱え、無事に……その為には。

 

 

 考えねば。共に姿が見えなくなり、普通ならば命あるままは有り得ない私達が、無事に戻り元通り過ごせる方法を。誰かが確認しにでも来た場合どう対処をしようか。そもそも私がいない、まい子が一人の場面では……む?

 

 「どうした?」

 

 先程と同じように彼女が左手を上げた。しかし数珠まで届かず胸元にパタリと力なく当たる。それに構わずまい子は言葉を続けた。

 

 「……、……で、すよ」

 「……何だと?」

 

 か弱い小さな言葉はこう聞こえた。彼女自身は償っ……大丈夫、だと。そして続いた言葉は……こう、聞こえた。それは四字熟語、で。……。

 ……どうしてそんな、事を?改めて訊ねても返事はなく、弱々しく息を吐くだけだった。

 

 

 今の言葉が力を振り絞った最後の言葉だったのだろう。この後数回訊ねても言葉にならない言葉でしかなく、その内に……穏やかな吐息へと変わっていった。

 

 

 ……彼女の事を全てを理解しているとは思わない。事情も生い立ちも知識として知ってはいるが、それでも彼女自身が感じた感覚そのまま味わう事も……振る舞う事も出来はしない。

 

 何故このような事になったのか。何故あのような存在がいるのか。それらは……彼女が知る事なのだろうか、語られてわかる事なのだろうか。

 納得は……するのだろうか。このもやつく心情が。

 

 

 ……彼女の発した苦々しい四字熟語が、頭を駆け巡る。彼女が紡いだ言葉が真実なのか、今の私には判断出来ない。

 

 

 人間は儚く、弱く、尊い。

 

 しかし悪意を持ち他者を貶め傷付けるも……人間だ。

 

 

 ……南無、南無阿弥陀仏……南無阿弥陀仏……

 

 

 

 

 

 

 










 SCP-2988 果実喰らいの過誤

 オブジェクトクラス:Euclid(ちょっとヤバい)

 SCP-2988は北アメリカ・[削除済み]に存在する1本の木。外見はアメリカポプラに似ているけれど、黒色の葉・黒色から灰色のまだら模様の幹を持ち、普通アメリカポプラにない皮は黒色、果肉はオレンジ色果実を実らす。SCP-2988は高さ26mで幅はそれぞれ8m。果汁は麻酔・催眠作用を持ち、幻覚・めまい・吐き気を感じた後、各部のしびれや運動障害に見舞われる。
 幹には人間および獣の腕が生えており、半径4m以内に立ち入った人間を腕で拘束し果汁を飲ませ動けなくしたあと両腕を引きちぎり、本体を地面に叩きつけ殺して自身の栄養にする。腕はSCP-2988の腕の中の一本になる。
 SCP-2988の腕は、自然に離れ離れた場所に自身を植えそこから新たなSCP-2988になる。


 これ滅茶苦茶長い物語の中の一つのSCPオブジェクトなので、興味がある人は調べてください。



SCP-2988 http://www.scp-wiki.net/scp-2988

著者: OZ Ouroboros様 

この作品はCC BY-SA 3.0ライセンスの下に公開されています。


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