異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第207話 くっころ男騎士とエルフ芋

 腹ペコエルフの集団に対し、僕が提供したのは軍隊シチューと呼ばれるガレア王国の伝統料理だった。これは大鍋にありあわせの材料を大量にブチこみ、濃い味付けをして煮込んだだけの代物である。

 名前や調理法からわかる通り、これは兵隊や肉体労働者向けの大衆料理である。隣国の使節団に提供するには、少々……いや、多大に問題があるような代物だが、エルフたちが「とにかく早く食べたい!」と言い出したのだから仕方がない。凝った料理は準備と調理に時間がかかるのである。そこで選ばれたのが、リースベン軍の兵士の昼飯として準備されていた軍隊シチューだったのだが……。

 

「見れ、豚肉が入っちょっぞ!」

 

「ひゃー! 豚肉なんて、何年ぶりじゃろうか。たまらんの!」

 

 もっとも、当のエルフは庶民料理だろうが大喜びの様子である。みな笑顔を浮かべながら、ガツガツと猛烈な勢いで鍋の中身を食い散らしていく。喜んでくれるのはうれしいが、本当にエルフたちの食料事情が心配でならない。使節団クラスがこれってどういうことだよ。帝国なんて名乗っちゃいるが、本当にマトモに国のていを成している組織なのか……? 実は世紀末ヒャッハー集団だったりしないよな?

 

「じゃっどん、ほんのこて一国ん長が男じゃとは。大婆様に聞いた時は騙されちょるんじゃらせんかち思うたくれなんじゃが」

 

 などと考えていると、一人のエルフがそんなことを言った。先ほど開口一番にメシを要求した挙句喧嘩をおっぱじめ、ダライヤ氏の風術により窓外に吹き飛ばされたヤツだ。彼女は頭に大きなタンコブを作っているが、それ以外にケガはない。この部屋、二階にあるんだけどな……まったく丈夫な連中だよ。

 しかし、このエルフ……外見的には、エルフ使節団の中では一番の年かさ(とはいっても、僕と同年代かちょい上程度だが)に見えるんだよな。しかし、彼女より遥かに年下の少女っぽいエルフからは若造扱いをされていた。ウルの言葉によれば、エルフはある程度の年齢に達すると加齢・成長が止まるそうだが……その時期には、個人差があるのかもしれないな。

 

「気に入らんかね?」

 

「むっつけき大女と喋っくれなら、若か男に相手をしてもろうた方が楽しかでな。今ん方が良か」

 

 うちはホストクラブじゃねーぞ! おもわず叫びそうになって、こほんと咳払いをして誤魔化す。

 

「……そういえば、アルベール殿」

 

 そんな僕の様子を見かねたのか、ダライヤ氏が苦笑しながら声をかけてくる。彼女は持っていたスプーンを皿の上に置き、腰に巻き付けたポーチの中をゴソゴソと漁った。

 

「ウルに聞いたのじゃが、なんでもエルフ芋に興味があるとか。手土産代わりに実物を持ってきたから、受け取ってもらいたい」

 

「おお、有難い」

 

 ウルはカルレラ市に滞在している間、何度か仲間らしきカラス鳥人と接触している姿を確認している。一応彼女は連絡員という名目で僕らのところに派遣されていたわけだから、これを阻止するようなことはしていなかった。

 

「ふーむ」

 

 受け取ったエルフ芋とやらを検分してみる。……どこからどう見てもサツマイモだ。その特徴的な赤紫色の皮に土が付着していないことを確認してから、意を決して生でかじってみる。……味はやや甘く、独特のイモくささが感じられた。前世で食べ慣れた風味である。やっぱサツマイモだコレ!

 

「あ、アル様!」

 

 毒を警戒しているのだろう、ソニアが血相を変えて立ち上がった。即座にそれを手で制止する。この血の気の多い連中のことだ。毒殺なんてしゃらくさい真似をするくらいなら、直接剣を向けてくるに違いない。

 ……まあ、このエルフ芋とやらが生食厳禁の作物である可能性もあるがね。しかしこいつが本当にサツマイモなら生で食べたところで何の問題もないし、実際持ち主であるダライヤ氏は僕を止めようともしていない。おそらくは大丈夫だろう。

 

「……どうじゃね、お味は」

 

「嫌いじゃないけど、焼くか煮るかしたほうがおいしいかも」

 

「じゃろうなあ。ワシも蒸しエルフ芋が好物での、一度やってみるといい」

 

 ニンマリ笑って、ダライヤ氏が頷いた。

 

「エルフ芋はこの地の気候と土壌によく合った作物じゃ。我が国と貴国の友好が成った暁には、育て方をそちらに伝授しても良いと考えておる」

 

 おっと、いきなり仕掛けてきたな。確かにサツマイモ……もといエルフ芋は栄養に乏しい土壌でもそれなりの収量が見込めるすばらしい作物だ。今のリースベンの農民は、気候に合っていない麦を四苦八苦しながら育てている状態だからな。コイツの導入に成功すれば、食料の生産量は劇的に向上するだろう。

 ……そんな高性能作物・サツマ(エルフ)芋を育てるノウハウを持っておきながら、新エルフェニア帝国とやらはこちらから食料を略奪しなくてはならないほど困窮しているわけだからな。なんともきな臭い話だ。やはり、ダライヤ氏は何かを隠している。僕はサツマイモを生のままボリボリとかじりつつ、考え込んだ。

 

「リースベンの領主どんは、女々しかお方じゃのう。エルフ(サツマ)芋を生んまま丸かじりすっなんて、(オイ)らでもめったにやらんど」

 

「こんお方は、五倍ん敵にもひっまず突撃すっすごかぼっけもんちゅう話じゃ。並みん男じゃち思うちょったら、やけどすっど」

 

「ほほーっ、一度手合わせしよごたっもんじゃな」

 

 ……なにやらエルフどもがアレコレ言っているが、気にしない気にしない。前世の地元じゃめったにやらなかったが、生サツマイモも普通に食えはするんだよ。ちょっと消化には悪いけど……。

 

「むろん、我々としても貴卿らとは仲良くしていきたいと思っている。だが、それには超えていくべきハードルが無数にあるだろう」

 

 二度と我々の集落や街道で狼藉を働かないこと、そして彼女らの盗賊働きで被害を受けた民衆へキチンと謝罪すること。この二点は最低条件だ。ここを無視して友好だなんだと言ったところで、今までエルフたちに煮え湯を飲まされ続けてきたリースベンの民は納得しないはずだ。

 

「ま、そのあたりはおいおい、な? こちらにしてもそちらにしても、相手に要求したいことはいくらでもあるじゃろう」

 

 ダライヤ氏はにっこりと笑ってウィンクした。このロリババア、外見上は文句の付け所のない完璧な童女なのが非常に厄介だ。こういう愛らしい仕草をされると、自然とこちらまで相好を崩してしまいそうになる。ペースが掴みづらいことこの上ないんだが……。

 


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