異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第217話 くっころ男騎士とへいわなエルフのむら(1)

「アル様! ご無事ですか」

 

 僕に続いて着地したソニアが、心配そうな様子で駆け寄ってくる。軽く手をあげてつつ「問題ない!」と答えた。

 

「それより、星導士様は?」

 

 僕は周囲をキョロキョロ伺いながら聞いた。なにしろあの人は別組織の人間だし、星導士という役職自体がなかなかに偉い。こういう状況では、イの一番に守らねばならない人だった。

 

「ここに居ますよ~」

 

 そこへ、パタパタと音を立てながら星導士様が飛んでくる。彼女はフィオレンツァ司教と同じく、翼人族だ。鳥人ほどではないにしろ、単独で空を飛ぶことができる。

 

「ああ、良かった。厄介ごとに巻き込んで申し訳ありません、星導士様。御身は必ずお守りいたしますので、我々から離れないようにお願いいたします」

 

 援護や情報提供をしてくれたあたり、"正統"側は敵ではないと判断できるが……全面的には信頼できない。ここは、固まって動くべきだろう。それに、翼人は腕などというデッドウェイトがあるぶん、飛行能力は全面的に鳥人に劣るからな。下手に飛行していたら、狩られてしまいかねない。

 

「はいはい、よろしくお願いしますよ」

 

 バリバリの戦闘地帯に突入したにもかかわらず、星導士様は顔色も変えていない。図太いというか、なんというか……。

 

「よし、ではまずは地上部隊と合流しよう。戦力がたった二名では、話に……」

 

「お(はん)ら、何者じゃ! 名を申せ!」

 

 ソニアに指示を出そうとしたところで、鋭い声が飛んでくる。見れば、エルフの一団がこちらに矢をつがえた弓を向けている。全員が革鎧を着こみ、腰には矢筒とエルフ特有の奇妙な木剣を差していた。エルフの戦士団だ。僕を守ろうと即座に前に出ようとするソニアを手で制しつつ、僕は叫ぶ。

 

「リースベン城伯、アルベール・ブロンダンだ! 貴殿の官姓名もお聞かせ願いたい!」

 

「リースベンちゅうと、リューティカイネンどんの国か! おい、武器バ降ろせ、敵じゃなか」

 

 一団のリーダーらしきエルフがそう命令すると、エルフたちはいっせいに弓を降ろした。

 

(オイ)は正統エルフェニアん頭領をやっちょる、フェザリア・オルファンじゃ」

 

「おお、貴殿が……」

 

 どうやら、いきなり正統エルフェニアのリーダーと遭遇することができたようだ。僕は彼女をまじまじと確認してみる。外見年齢は僕より若干若いくらいで、ポニーテールにまとめたプラチナ・ブロンドと、凛々しい表情が特徴的だった。

 彼女はたしか、エルフェニア皇族の末裔を名乗っているんだったな。その話の真偽は分からないが、確かにどことなく高貴さを感じさせる容姿だ。エルフの姫騎士って感じだな。

 

「お(はん)、甲冑など着こんじょるが男じゃろう。部下に案内させっで、いったん安全な場所まで退け」

 

「そういう訳にはいかない。昨日のうちに派遣した騎士たちとまだ合流できていないからな。部下を見捨てて逃げるような真似はできん」

 

「……まあよか、ちてきやんせ」

 

 一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後、オルファンしは僕たちを手招きした。どうやら、部下たちのところまで案内してくれる様子である。

 

「部下たちはどうしている? 無事なのか」

 

「お客人を危なか目に合わすっわけにはいかん。今は後方で待機してもろうちょる」

 

 ……このエルフども、思ってたのよりだいぶ理性的だな。てっきり、戦闘に参加させられてるものだとばっかり思ったが。僕としては、この戦闘にはあまり介入したくない。参戦したところでメリットは薄いし、あのカラスの言葉が本当なら今彼女らが戦っているのは"新"のほうのエルフェニア軍だ。下手に戦端を開いて、そっちと戦争状態になるのは避けたい。

 

「なるほど、ご配慮に感謝する。……質問ばかりで申し訳ないが、今貴殿らが戦っている相手は何者だ? 新エルフェニア帝国とか名乗っている連中だろうか?」

 

 僕は村の中心部のほうに視線を向け、聞いた。そこでは、激しい戦闘が起きている様子だった。悲鳴、怒声、剣戟の音、さらには魔法により発生したと思わしき暴風の音まで鳴り響いている。

 

「そうじゃ、僭称軍ん連中や。……こん頃カラスや竜を飛ばし過ぎたせいで、隠し村ん位置がバレてしもたんじゃ」

 

 ……わあお、バリバリ内戦状態だ。火中の栗だなあ。拾いたくはないが、石油がなあ……欲しいよなあ石油。……それはさておき、カラスや竜を飛ばし過ぎたと言ったか。竜というのは、おそらく我々の翼竜(ワイバーン)だろう。村の場所が敵に漏れたのは、我々の責任でもある訳か……。

 

「もうちょっとでサツマ(エルフ)芋ん収穫時期じゃちゅうとに、こりゃ村ん放棄は避けられんな」

 

「また餓死者がでっなあ」

 

 戦装束のエルフたちが、ボソボソとそんな話をしている。オルファン氏はひどく渋い表情になって、言い返した。

 

「男ん前で情けなか話をすっな!」

 

 なんともキッツい話だなあ。確かに、周囲のエルフたちは誰もかれもひどく痩せこけている。そうとう栄養状態が悪いのだ。そりゃ、治安も悪化するよな。日本だって、かつては飢饉のたびに一揆がおきてたわけだし。

 

「ひわっ!?」

 

 などと考えていると、鋭い風切り音と共にいくつもの矢が飛んできた。反射的に星導士様を庇いつつ腰のサーベルを抜き放ち、直撃コースにはいっていた矢を叩き落す。柄を握る手がビリビリとしびれていた。相当な強弓から放たれた矢のようだ。

 

「ヌゥ、新手か!」

 

 エルフたちは一気に殺気立ち、木剣や弓を構えた。矢が飛んできたほうに目を向けると、二十名ほどのエルフの集団がこちらに弓を向けている。おそらく、"新"の連中だ。

 彼女らは再び一斉に矢を放ってきた。こちら側のエルフが唄うような調子で魔法の呪文を詠唱し、暴風を発生させる。飛んできた矢は、すべてその風によって吹き散されてしまった。

 

「チェストーッ!」

 

 だが、敵方もそれは予想していた様子である。彼女らは蛮声と共に木剣を抜き、一斉に突貫してきた。恐ろしく前のめりな戦いぶりだ。

 

「オルファンどんとお見受けいたす。手柄首を頂きに参った」

 

 先陣を切ったエルフ兵が、そう叫びながらオルファン氏に襲い掛かる。

 

「きさんらごときに落とさるっほど柔い首じゃなか!」

 

 怒声を上げつつ、オルファン氏は己の木剣で敵の剣を受け止めた。双方の剣が交錯した瞬間、爆発的な暴風が発生し敵エルフ兵が吹っ飛ばされていった。どうやら、木剣にエンチャントされていた魔法が発動したようだった。エルフどもが持っている木剣はすべて魔法の品物である、というダライヤ氏の話は本当だったようだな。

 頭の片隅でそのようなことを考えつつも、僕はサーベルを握る手に力を込めた。敵は、僕たち相手にもお構いなく襲い掛かってくる。

 

「星導士様、あそこの木陰に隠れていてください。乱戦が始まったら、庇いきれませんので」

 

「は、はーい! おお、こわいこわい……」

 

 非戦闘員を退避させ、僕はサーベルを掲げて敵エルフたちに向けて叫んだ。

 

「こちらはリースベン城伯、アルベール・ブロンダンである! 貴殿らの行動は、当方の安全を害している! 攻撃を続行するようであれば、自衛のために反撃をする!」

 

 こいつらが"新"のエルフたちなら、むやみに攻撃を仕掛けるのはマズイ。一応、こちらの立場を明らかにして制止を試みた。……が、相手の反応は無情だ。

 

「こんわろ、男じゃど! 避妊薬はあっか?」

 

「カビ生えたで捨てもした!」

 

「まあよか、当たったやそん時はそん時じゃ。久しぶりん男や、生け捕りにすっど!」

 

 わあ、セックスのことしか頭にねえぞこいつら。当たった(・・・・)らエルフ特有の不老性を失ってしまうというのに、いくらなんでも刹那的過ぎやしないかね?

 

「その言葉、宣戦布告とみなす!」

 

 とはいえ、こちらもムザムザ犯されてやるわけにはいかない。……いや、正直興味はあるけどね? でも、流石にそれは領主として不味いだろ。仕方がないので、僕はサーベルを振り上げた。磨き上げられた刀身が木漏れ日を浴び、ギラリと輝く。

 

「当方に迎撃の用意あり! キエエエエエエッ!」

 

 攻撃は最大の防御である。僕は地面を蹴り、敵に突撃を仕掛けた。ソニアが「アル様ァ!」と叫んだがお構いなしだ。僕の戦闘スタイルでは、敵に先手を許す方がマズイからな。

 

「グワーッ!」

 

 さしもの蛮族エルフも、男がいきなり奇声を上げながら襲い掛かってくるとは思わなかったのだろう。彼女らが一瞬ひるんだ隙に、先頭のエルフ兵を一刀両断する。まずは一人。しかし、敵はまだまだいる……


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