異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第318話 くっころ男騎士とお説教

 それからは、なかなか忙しかった。遺体の埋葬や供養(アリンコ共の宗教観がよくわからないのでフィオレンツァ司教に任せるほか無かった)、警備体制の見直しなどをアレコレやっていたら、気付けば夜明けである。

 正直寝不足なのだが、状況が状況なので寝なおすこともできない。とりあえず今すぐ片づけねばならない仕事を早朝のうちに終わらせた僕は、朝食をとってからダライヤ氏を呼び出した。

 場所は、今なお拡張の続く塹壕陣地の隅……物資の集積庫として利用されている場所だ。今の時間帯は、作業をしている者などもおらずガランとしている。褒める時は人前で、注意するときは二人きりで。人心掌握の基本である。

 

「どうした、わざわざこのような人気(ひとけ)のないところに呼び出して……。もしや、これがいわゆる逢瀬というヤツかのぅ?」

 

 やってきたダライヤ氏は、開口一番そんなふざけたことを口走った。僕は厳しい表情で、ピシリと言ってやる。

 

「お説教です」

 

「ハイ」

 

 シュンとしつつ、ダライヤ氏は傍にあった木箱の上に正座する。変わり身が早すぎる。さては、なぜ呼び出されたのかちゃんと理解してるな? だったら妙な策略なんか最初から使うなよ。

 

「今回貴方を呼び出したのは他でもありません、ゼラ氏暗殺事件の件でお説教をするためです」

 

「ハイ」

 

 暗殺事件って言っていいのかね、アレ。死んだのは影武者で、本人はまだ生きてるらしいけど。とはいえ、この件の真相はまだ一般には公開していない。とりあえずしばらくは、ゼラ氏は死んだということにしておいたほうがいろいろと都合が良いからだ。

 幸いにも、関係者以外でゼラ氏が入れ替わっていることに気付いている者はいないようだった。まあ、一般兵はわざわざ捕虜の顔をまじまじと観察したりしないので、誤魔化すのはそう難しくはないのである。

 

「いろいろ言いたいことはあるけど、まず第一に……なんで独断でこんなことやったの? 事前に相談なり報告なりするべきじゃないかな常識的に考えて」

 

「い、いや、まあ、その通りなんじゃが」

 

 先ほどのふてぶてしい態度から一転、ダライヤ氏はしどろもどろになりつつ目を逸らした。

 

「ゼラ殿を殺させるわけにはいかんかったし、ついでに間諜のあぶり出しもできるなら一石二鳥じゃし……」

 

「そういう事言ってるんじゃないの、僕は。なんで報告も連絡もしなかったのって聞いてるの」

 

 別に、策自体は悪いものではないんだよな。捕虜を身代わりにするようなやり方は、大変に気に入らないが。とはいえ、どうしても必要ならば気に入らない手でも使わねばならないというくらいの分別は、僕にだってある。事前に献策を受けていれば、そのままこの作戦案を承認していた可能性は十分あった。

 今回の件の一番の問題点は、独断専行なんだよな。勝手にアレコレされちゃ困るんだよ、マジで。別に、相談できるタイミングがなかったとかそういう訳ではないからね。わざと勝手な真似をしたんだ、このロリババアは。

 

「まあその、なんというか、ホラ……あまり外聞の良くない策じゃからのぅ? ワシら(エルフ)はまったく気にせんじゃろうが、オヌシの仲間たちやアリンコ共がどう思うか……。すべてワシの独断でやったということにしておいたほうが、いろいろと都合が良いのではないかと……」

 

「じゃあ何、僕がこの件で誰かに責められたら、全部ダライヤ殿のせいってことにしていいワケ?」

 

「うむ、ありていに言えばその通りじゃ」

 

「馬鹿言ってんじゃないよ」

 

 僕は深々とため息を吐いた。このロリババア、僕にトカゲの尻尾切りをやらせようってのか? まったく冗談じゃない。そういうの、一番嫌いなんだよな。マジで冗談じゃないだろ。

 

「いい? 僕はね、責任者なの。部下の責任を取るのがお仕事なの。キミらが何かをしでかした場合、責任を取って詰め腹を切るまでが僕の職分のうちなの。ワカル?」

 

「ハイ」

 

「だからね? ダライヤ殿がやったことなので僕はまったく無関係ですぅ、なんて言った瞬間、僕は職務放棄をしたってことになっちゃうの。マジの無駄飯喰らいのごく潰……イモ潰しになっちゃうの。ワカル?」

 

「ハイ」

 

「働きもせずに国民の血税を食いつぶすだけの生活を続けて安穏としていられるほど、僕の神経は太くないの。ねえ、わかる?」

 

「ハイ」

 

 ダライヤ氏はダラダラと冷や汗を垂らしつつ、視線をさ迷わせていた。やっと、自分が僕の地雷を踏んづけていたことに気付いたようだ。

 いやもうね、本当に勘弁していただきたい。軍人はマトモな死に方が出来ないことも多い仕事ではあるんだけど(前世の僕とかね)、だからこそ誇りを抱いて死にたいのよね。自己嫌悪に苛まれながら果てるとか最悪だろ。最後の瞬間くらい、胸張って逝きたいんだよこっちは。

 

「そもそも忖度ありきの独断専行とか認めたりしたら、統制がメチャクチャになっちゃうだろうが。こういうのは、融通が利かないくらいガチガチにしといたほうがいいんだよ」

 

「いやまあ、それは……その……ワシが責任を取って職を辞せば……」

 

「責任を取るのが僕の仕事だって言ってるでしょうが! というかナチュラルに辞めようとするんじゃないよ!」

 

 強い口調でそう主張すると、ダライヤ氏は塩を振りかけられた青菜のようになった。……でもなあ、本当に反省してんのかね、コレ? どうも信用できないなぁ……。

 

「……まあ、今回は事後承諾ということで許すけどさあ……次は無いからね。どうしても相談できるような状況ではない時を除いて、きちんと報告・連絡・相談は徹底するように。イイネ?」

 

「わかりました」

 

 例外事項を設けると、なんか悪用してきそうで怖いんだよな、このロリババア。でも、かといってすべてをガチガチに縛ると思考の柔軟性が失われるし……。統制を保つ、柔軟性を維持する。どっちも両立しなきゃいけないのが組織運営の難しい所だ。

 

「なら良し。お説教はこれでおしまい。……ところで一つ聞いておきたいんだけど、今回の一件ってどこまでがダライヤ殿の仕込みなの? 全部自作自演?」

 

「いやっ! さ、さすがにそこまではやっておらんぞ! 影武者を殺したのは、確かにヴァンカの刺客じゃ」

 

「本当? 今なら怒らないから、正直にゲロッておいたほうがいいよ?」

 

「本当じゃ! 本当! そもそも、騎士複数名を無傷で同時制圧できるような手練れの透破(すっぱ)は、ワシの配下にはおらん!」

 

「えっ」

 

 僕は一瞬思考が停止した。ダライヤ氏の配下に、手練れの忍者がいない?

 

「いやいや、それは嘘だろ。僕に透破の護衛を付けてくれてたじゃないか。あの人たち、かなりの達人だろ?」

 

「えっ、なにそれ、知らん……ワシはそんな命令だしとらんぞ……?」

 

「えっ」

 

「えっ?」

 

「は!?」

 

 ダライヤ氏は目を見開いている。とてもじゃないが、嘘をついているような表情ではない。……じゃあなんなんだよあのエルフ忍者どもは! どっから生えてきたんだよ!

 

「……もしや、ヴァンカ配下の透破では?」

 

「いやいやいや、なんでヴァンカ殿が僕に護衛を付けるんだよ。おかしいだろ!」

 

 命を狙ってくるなら、まだわかる。しかしあのニンジャどもは、明らかに僕を守るために立ち回っていた。彼女らがヴァンカ氏の命を受けて動いていたなど、ありえないと思うのだが……。

 

「なんというか、あ奴は夫の死でちょっと……いや、だいぶおかしくなっておってのぅ……。エルフの内乱で、男が傷つくことが我慢ならぬのじゃろう。部下が暴走してオヌシに手を出すのを防ぐため、護衛を配置したのでは……」

 

「だったら最初から戦争なんか起こすなや!!」

 

 この戦争のせいで、僕はもちろんルンガ市の男たちも随分と危険にさらされている。男を巻き込みたくないのなら、そもそも破滅的な行動は取っちゃいかんだろうが!

 いやもちろん、"新"が割れたのはダライヤ氏の策謀のせいでもあるのだが……そもそも、ヴァンカ氏が過激派どもを煽ってなけりゃ、こんなことにはならなかったんだからな。それに加えてレイプ魔みたいなアリンコ軍団まで招集してるのだから、情状酌量の余地はない。

 

「それが本当ならあの人だいぶヘンだよ!」

 

「今さらじゃろ!? ワシだって好き好んでかつての親友を陥れたわけではないのじゃ!」

 

 ヤケクソ気味に、ダライヤ氏が叫ぶ。わあ、うすうす感付いてたけど、マジでヴァンカ氏ってヤベー人だったんだな……。そりゃ、思考がトレースしにくいわけだよ……。

 

「……こりゃ、ヴァンカ殿の思考パターンを加味したうえで作戦を練り直すべきだな。ダライヤ殿、悪いが手伝ってくれ」

 

 ダライヤ氏はヴァンカ氏とは親友関係にあったわけだし、決裂した後も政敵同士としてバチバチとやりあってきたのである。彼女のパーソナリティについてはかなり詳しいハズ。そのダライヤ氏の知見があれば、現実に即した形で作戦を修正することができるだろう。

 

「うむ、うむ。了解じゃ。早々に汚名返上の機会が巡ってきたのぅ。腕が鳴るワイ……」

 

 ニンマリ笑って、ダライヤ氏はグッと力こぶを作って見せた。まあ、元が華奢なのでカワイイだけのポーズと化していたが。

 

「頼んだぞ、ダライヤ殿。真っ当な方向で努力してくれるなら、褒賞をケチったりはしないからな。信賞必罰ってやつだ」

 

「つまり、口づけ以上のこともやってくれる……ということかのぅ?」

 

「……えっ」

 

 にやと笑って、ダライヤ氏は身を乗り出してきた。

 

「いや、その……夫婦でもないのに、あんまりガッツリ肉体的に接触するのは……」

 

「つまり、夫婦になればヨシ……ということじゃな? んふ、んふふふ……信賞必罰。オヌシは先ほど、確かにそう言ったのぅ? 忘れるでないぞ? んふふふふ……」

 

 怪しげにほほ笑むダライヤ氏を見て、僕は戦慄した。こ、こいつ、まさか褒賞として僕を貰う気では……? いや、まさか、しかし……。

 ……というか、お説教をした数分後にはこれかよ! やっぱ全然反省してないじゃないかチクショウ! あー、もう、これだからエルフってやつは……! あとでソニアに全力でダライヤ氏のケツをシバくよう頼んでおかねば……。

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