異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第328話 くっころ男騎士と決戦兵器(2)

「対空戦闘用意!」

 

 こちらにむけて一直線に飛んでくる"もったいなかカマキリ"を見て、僕はあわてて叫んだ。この巨体で飛行能力を持っているなどというのはかなり予想外だったが、よく考えれば翼竜(ワイバーン)鷲獅子(グリフォン)のような大型飛行モンスターだって存在するのだ。巨大カマキリが空を飛んでも不思議ではない。……いややっぱ不思議だよ! これだからファンタジーは……!

 まあしかし、その翼竜(ワイバーン)鷲獅子(グリフォン)が存在しているおかげで、我々には対空攻撃のノウハウがある。指揮壕やその周囲の塹壕に居た兵士たちは、突然の命令にもモタつくことなくライフルや弓矢を構えた。

 

「あいつには、鳥人兵でなんとかできるかな?」

 

 僕は近くにいたスズメ鳥人に、小さな声で聞いた。するとその娘は、真っ青な顔をしてブンブンと首を左右に振る。

 

「ムリムリムリ、スズメやカラスでは百人で掛かってん蹴散らされっとがオチやっど!」

 

「……だよね」

 

 なにしろ相手は陸戦でエルフやアリンコを圧倒する化け物だ。非力な鳥人たちではとても相手にならないだろう。大型ジェット戦闘機(ホーネット)軽飛行機(セスナ)で挑むようなものだ。

 手持ちの飛行ユニットでアレに対抗できそうなのは翼竜(ワイバーン)騎兵だが、彼女らは今迫撃砲の運用要員の輸送という重大任務の真っ最中だ。即座に迎撃に移ることができる状態の翼竜(ワイバーン)騎兵は一人もいない。今さら伝令や手旗信号で任務変更を伝えても手遅れだろう。

 そうなるともう、迎撃は陸上戦力だけで行うほかないということか。なんとかなってくれるといいんだが……。そんな風に悩んでいるうちに、最前線の兵士たちが発砲を始めた。パンパンと気の抜けた銃声が連続する。

 

「……うわあお」

 

 僕は思わず、感嘆の声を上げてしまった。カマキリが巨体に見合わぬ機敏な回避機動を取り始めたからだ。ああもジグザグに動かれては、狙いが絞れない。

 

「カマキリ虫人はエルフの天敵とさえ呼ばれる生物じゃ。射撃で撃ち落とされぬすべを、本能レベルで理解しておる……」

 

 ダライヤ氏の説明を聞いて、僕はため息をつきそうになった。なんなんだ、この土地は。エルフやアリンコですら大概なのに、その上が存在するのか。住民の戦闘力の水準が高すぎるだろ……!

 

「指揮壕の守備兵は発砲を温存せよ! 空中撃破は難しいそうだ!」

 

 愛用のライフル銃を取り出しつつ、僕は命令した。このライフルは元ごめ式(後装式)の連続発射が可能なモデルだが、これはあくまで試作品。他の兵士が持っているのは旧型の先ごめ式(前装式)ライフルである。一発の装填に二、三十秒かかるような代物だから、発砲するタイミングは慎重に選ばねばならない。

 

「……」

 

 自分のライフルに紙製薬莢を装填し、狙いを定める。カマキリはグルングルンと無茶苦茶な機動を取っており、まともな照準などつけられたものではなかった。舌打ちをこらえつつ引き金を引くが、案の定外れる。ボルトハンドルを引いて薬室を解放し、紙製薬莢を詰める。

 その時には、すでにカマキリはかなりの距離まで接近していた。重苦しい羽音を立てながら猛進してくる巨大カマキリは、怪獣か何かに見えた。滅茶苦茶怖い。スズメ伝令兵が「ぴぇっ」と呻いて腰を抜かす。

 

「撃ち方はじめ!」

 

 僕が叫ぶのと同時に、指揮壕の兵士たちが一斉に銃弾や矢を放った。カマキリはこれを、急降下で回避。よけきれない者は、鎌で弾き飛ばした。降下した拍子にその巨体が地面に接触し、物凄い音を立てる。

 

「グッ!」

 

 カマキリはそのまま、半透明の(はね)を力強く羽ばたかせて加速した。猛烈な土煙を上げつつ、緑の巨弾が指揮壕に肉薄する。

 

「ウワーッ!?」

 

 兵士たちが悲鳴を上げた。カマキリが指揮壕に取りつき、天蓋を持ち上げたからだ。木枠に乗せていた土嚢が周囲にまき散らされ、下にいた者を襲う。

 

「チェストカマキリ!」

 

 叫びながら、ライフルの引き金を引く。ほぼ同時に、ダライヤ氏が歌うようなリズムで呪文を唱えた。鉛弾と風の刃が、同時にカマキリに襲い掛かる。

 

「――――!」

 

 声にならない叫びを上げつつ、カマキリは持っていた天蓋を投げ捨てた。そして襲い来る銃弾と風刃を鎌で弾き飛ばし、背中の翅をブンと振る。

 

「なにぃ!?」

 

 猛烈な土煙が我々を襲った。凄まじい風圧である。これでは、まともに前が見えない。体重の軽いスズメ鳥人など、「ぴゅいあーっ!?」と悲鳴を上げながら吹き飛ばされてしまう始末だった。

 こいつ、こんなデカブツの癖に目潰しまで仕掛けてくるのか……! 小賢しい奴めと呻きつつ、僕は目を庇いつつ兜のバイザーを降ろした。こちらの動きが止まっている隙に、カマキリはその四本の足をワサワサと動かして指揮壕内に侵入してくる。そして、僕たちの方に向けて突進してきた。

 

「化け物め!」

 

 憎々しげに吐き捨てながら、ソニアが両手剣を抜き放った。そして、僕を庇うように前に出る。全身甲冑を纏った身長一九三センチの巨体が、城塞めいてカマキリの前へと立ちふさがった。

 とはいえ、相手は真正の怪物である。いかなソニアとはいえ、分が悪いのではないか。僕はカマキリを改めて観察した。下半身はカマキリ、上半身は人間という、クモ虫人(アラクネ)と同タイプの虫人である。上半身だけ見ればまるで彫像のように美しい女なのだが、両腕だけはトゲトゲした恐ろしい形状の鎌になっていた。

 しかしその大きさは尋常ではない。人間部分だけでも、北方に住まう巨人族なみにデカいのである。そして下半身もいれればちょっとしたトラックほどの大きさになる。

 

「ソニア、気を付けろッ! コイツは尋常の敵ではないぞ!」

 

「御身の安全が第一です、アル様!」

 

 格好いい事を言ってくれるが、あまり無茶はしてほしくない。僕は顔をしかめつつ唸った。

 

「コイツと比べりゃ、グリズリーも子猫ちゃんみたいなもんだな……」

 

 アラスカで狩猟中に遭遇した巨大熊のことを思い出しながら、僕は吐き捨てた。アイツは四四マグナム(スーパーブラックホーク)をぶち込みまくったらなんとか倒せたが、このカマキリには通用しそうにない。ましてや剣や原始的な後装式歩兵銃などで対抗するのは無茶が過ぎる。せめて携帯型無反動砲くらいは必要だろ。

 しかし、無いものねだりをしても仕方が無いのである。僕はソニアを誤射しないよう気を付けながら、ライフルをぶっ放した。流石にこの距離で外すことは無い。ライフル弾は狙い通りカマキリ娘の顔面に向かって飛んだが、彼女は鎌を一閃して鉛玉をはじき返した。

 

「こ……のッ!」

 

 だが、その隙を逃すソニアではない。彼女は両手剣を振り上げ、カマキリに襲い掛かった。甲殻に守られていない腹部めがけ白刃が迫る。

 ところがカマキリは、前脚の蹴りでこれを防いだ。両手剣と緑の甲殻がぶつかり合い、火花が飛ぶ。体重の差はいかんともしがたく、ソニアは弾き飛ばされて後退した。

 

「ムッ!」

 

 そこへ、お返しとばかりに鎌の一撃が迫った、ソニアはバック宙でこれを回避。連続攻撃を仕掛けようとするカマキリだったが、再装填を終えた僕がライフルを撃ち込んでこれを牽制する。

 

「行くぞ!」

 

 銃弾は鎌によって弾かれてしまったが、ソニアは追撃としてカマキリの胴体部分に逆袈裟斬りを仕掛けた。流石は王国最強、そう賞賛したくなるような電光石火の一撃だった

 

「グワーッ!」

 

 しかし、ソニアが王国最強騎士であるように、カマキリもリースベン最強生物である。両手剣は真剣白刃取りめいて鎌に絡めとられ、ソニアは体勢を崩してしまう。そのまま、彼女はカマキリの鎌で捕獲されてしまった。ちょうど、本物のカマキリが獲物を捕まえた時のような格好だ。

 

「ソニアッ!」

 

 僕は思わず叫んだ。周囲の兵士たちがソニアを救うべく銃剣や木剣でカマキリを攻撃したが、片腕だけで蹴散らされてしまう。捕まったままのソニアが叫び声の上げながら暴れるが、カマキリはお構いなしに彼女を口元に運んだ。

 ソニアが食われる。そう直感して僕はサーベルを抜いたが、カマキリはそうはしなかった。頭についた小さな触覚がピコピコと激しく動き、ソニアの甲冑の装甲を叩く。そしてすぐに興味を失った様子で、鎌に力を籠める。分厚い鉄板がつぶれるような、不吉な音が響く。

 

「やらせんっ!」

 

 そこへ、ダライヤ氏が矢を射かけた。カマキリは用意にそれを弾き飛ばしたが、一瞬拘束が緩んだ隙をついてソニアが鎌の中から脱出する。

 

「ウワーッ!?」

 

 悲鳴を上げつつ、ソニアは地面に転がった。そのまま慌てて立ち上がり、カマキリの足元から逃れる。カマキリ娘はそれを興味なさそうに一瞥し、そのまま視線を逸らした。どうやら、何とか窮地は脱したようだ。ほっと安どのため息をつくが、危機はまだ尾をっていなかった。

 

「う、うわっ!?」

 

 今度は僕に向かって、カマキリが襲い掛かってきたのである。反射的にサーベルで迎撃したが、居合の達人めいた速度で振るわれた鎌により、愛剣は容易く弾き飛ばされてしまった。そのまま、僕はソニアと同じ運命をたどる。鎌で捕獲され、口元に運ばれたのだ。

 

「ヤメローッ! ヤメローッ!」

 

 僕は身体強化魔法を使いつつ全力で抵抗したが、拘束は緩まない。挟み込まれた胴鎧がギチギチと不安になるような音を立てていた。潰されるんじゃないかという不安が、僕の脳裏によぎった。

 そんな僕を完全に無視して、カマキリ娘は顔を僕に近づけた。よく見れば、思ったよりあどけない可愛らしい顔をしている。そしてその口元には頑丈な口枷が嵌まっていた。アレのせいで、このカマキリは噛みつき攻撃ができないのである。少しホッとするが、危機は去っていない。その小さな触覚が再びピコピコと動き、何やら僕を探ってくる。

 

「ん」

 

 どうやら、今度はお気に召したらしい。カマキリ娘は小さく頷き、翅を広げた。こいつ、僕を捕まえたまま飛び立つつもりだ!?

 

「ぐっ……カマキリ風情が!」

 

 ダライヤ氏が呻き、呪文を唱えつつ弓を放った。その矢がカマキリの足元に刺さると、そこにあった水たまりがカマキリの脚ごとピキピキと凍り付いた。見事な拘束魔法だったが、カマキリ娘がぐっと力を籠めると氷は砕け散ってしまう。そのまま彼女はドシドシと重苦しい音を立てて助走を開始し、テイクオフ。その緑色の巨体が宙を舞う。

 

「アル様ーっ!」

 

 ソニアの叫び声が聞こえるが、もはやどうしようもない。僕はカマキリ娘に連れ去られてしまった。

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