異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第343話 くっころ男騎士と村長

 混乱した農民たちはフィオレンツァ司教に任せ、僕たちは村長と直談判をすることにした。教会の管理者である司祭殿に部屋を用意してもらい、なんとか一息つく。……ちなみに、司祭殿も村長と同様にクソ忙しそうな様子だった。村全体が完全に狂乱状態だな、まったく……。

 

「……という経緯で、我々はエルフやアリ虫人たちをリースベン領に受け入れることにしたのだ」

 

 教会の片隅にある小さな応接室で、僕はこれまでの経緯を村長に説明した。もちろん、完全に正確な説明というわけではない。事実をそのまま伝えたところで、納得しがたい部分もあるだろうからな。ダライヤ氏の"良いエルフ・悪いエルフ"説をベースに、事実を我々に都合よく再解釈した代物である。

 

「そりゃ、どうにも難儀な話ですね」

 

 香草茶を一口飲んでから、村長は難しい表情で唸った。まあ、そりゃあそうだろう。今までの彼女らにとって、エルフは悪辣な害獣のような存在だった。いきなり「善良なエルフだって居るんだ」などと説明されても納得できるはずがない。しかもその連中が領内に移住するとなれば、なおさらである。

 

「何のかんの言っても、要するに我らの作った麦を連中に食わせにゃならんというわけでしょう? 押し入り強盗が居座ったあげく、メシまで要求してくるというのは何とも無体な話だと思うんですがね」

 

 ジロリとダライヤ氏を睨みつける村長。密室ということで、ロリババアはフードを取ってその尖った耳を露わにしていた。このエセ幼女は僕などよりよほどこの手の交渉事が上手なので、エルフの代表者として説得役を任せているのだ。

 

「オヌシらの言いたいことは、わかる」

 

 肩をすくめつつ、ロリババアはため息をついた。エルフ族がリースベンの入植者に対して狼藉を働いてきたのは、事実である。今さら援助を求めたところで、なかなか納得しがたいものがあるのは仕方が無いだろう。

 とはいえ、もとはと言えばリースベンはエルフェニアの土地である。彼女らから見れば、リースベン領民たちも土地をかすめ取った侵略者だと言えるだろう。イメージとしては、白人入植者とネイティブアメリカンのような関係に近い。当然、エルフからすれば言い返したい気持ちもあるだろう。

 ただ、ここでエルフたちが被害者ヅラをしたところで、リースベン領民たちの態度が軟化するはずもない。老練なダライヤ氏は、そのあたりはしっかり理解している様子だった。リースベンの連中にも悪い所があった、などという意見はおくびにもださない。

 

「しかしこれは、将来的に見ればオヌシらにとっても利のある話じゃ。我らエルフェニアがリースベンと併合されれば、エルフをオヌシらの法で縛れるようになる。その上集落をも管理下に置けるとなれば……エルフ盗賊による被害も、大幅に減少することになるじゃろうな」

 

「エルフによる盗賊被害が根絶される、とは言わないんだな」

 

竜人(ドラゴニュート)や獣人には野盗の類は存在せぬのか? そんなことはないじゃろう。種族を問わず、悪党は存在するモノじゃからのぅ……」

 

 困ったもんじゃ。そんなことを言いながら、ダライヤ氏は香草茶を飲み干した。そして給仕役の見習い助祭に空っぽのカップを差し出し、お代わりを要求する。

 

「……外に大量の兵隊を並べておいてそういうことを言うあたり、何とも悪辣だねぇ。万単位というのは冗談にしても、千人以上は居る訳だろ? こちらがそっちの話を断ったら、襲い掛かってくるんじゃないかね」

 

 不信げな表情で僕に視線を送りつつ、村長は唸った。お前実はエルフに敗北して、操り人形になってるんじゃないか? とでも言いたげな表情である。

 ……まあ当たらずとも遠からず、なんだよな。エルフどもが一丸となって僕たちと戦うことを選択すれば、絶対に勝ち目がないわけだし。そういう武力差があるからこそ、エルフどもに対してあまり苛烈な策は取れないという部分はある。僕が主導権を握れているのは、あくまでエルフたちからの好意があってこそのことだ。

 

「勘違いするでない。あの連中の大半は農民じゃよ。……ま、それも当然のことじゃろう。戦士ばかりでは、社会は成り立たんからのぅ」

 

「武装していると聞いているが」

 

「オヌシらリースベン農民とて武装くらいするじゃろう? 自警団、じゃったか。……ただ武装しているだけの農兵など、戦においては大して役には立たぬ。そのようなことは、オヌシら自身が一番よくわかっておることじゃろう?」

 

 わあ、このロリババアとんでもない詭弁を使い始めたぞ。胸は薄いくせに面の皮は主力戦車の正面装甲なみじゃねえかよ。確かに、エルフの戦士は平時はクワを握り有事には弓と剣を握る半士半農の存在だ。たしかに、分類的には農民と言えなくもないだろうが……。

 

「騎士一人を倒すのに、オヌシらの自警団ならば何人必要かのぅ? それを思えばエルフ農民の千人や二千人程度、恐れるに足らぬと思うのじゃが」

 

 残念ながらエルフェニア農兵の練度は我らがガレア騎士に匹敵するレベルなんだよなあ。平地ならガレア騎士が優勢だが、森林戦なら圧倒される可能性が高い。それが千名以上いるのだから、もう絶望的である。

 そんなことはダライヤ氏とて理解しているだろうに、この言いようである。自分たちの脅威度をあえて低めに見積もらせて、村長の疑念を解く作戦だろう。やり口が完全に詐欺師だ。

 

「いや食い詰め農民がそんなに居るのは普通に脅威だろ……」

 

 半目になりつつ、僕はそう文句を言った。とはいえ、エルフどもの脅威が過剰に喧伝されるのは僕としても困る。領民たちの間でエルフ脅威論が強くなり過ぎれば、結局エルフどもとの闘いは避けられなくなるからな。

 簡単に殲滅できるほど弱くはないが、主従の逆転を目論むほどの勢力は無い。民衆がそういう塩梅に理解してくれる程度の脅威度が一番丁度良いのだ。

 

「とはいえ、無用な戦いは僕としても仕掛けたくはない。こちらに臣従してくれるというのならば、あえて刺激する必要はないだろう」

 

「戦となれば、農地を戦場にせざるを得ないわけですしね。今頃は確かに麦踏みの時期ですが、軍靴でそれをやるのはあなた方も避けたいでしょう?」

 

 僕の言葉に、ジルベルトが援護射撃をしてくれる。麦踏みという言葉を聞いた村長は、思いっきり顔をしかめていた。たとえ彼女の本音が『エルフどもなど皆殺しにしてしまえ』というようなモノであったとしても、それを自分の村の周りで実行されるのは非常に迷惑だろう。下手をすれば種をまいたばかりの冬麦畑が全滅してしまいかねない。

 

「僕としても、いつまでも大飯ぐらいのドラ娘を養ってやろうという気はない。将来的にはいくつかのグループに分けて開拓村を作らせ、自給自足してもらうつもりで居るが……すくなくとも、当面の間は面倒を見てやらねば僕たち自身も困ったことになる」

 

 安っぽいテーブルの天板を指先で何度か叩いてから、僕は村長の方を見た。

 

「これはエルフどもを蛮族から文明人へと脱皮させる、またとないチャンスだ。上手く行けば、もう蛮族対策に頭を悩ませる必要はなくなるだろう。申し訳ないが、君たちも手を貸してほしい」

 

「しかし、そうは仰いましても……我々も、生活に余裕がある訳ではないわけで」

 

 難しい表情で、村長が唸る。実際、食料不足にあえいでいるのはリースベン領民たちも同じことだ。エルフほど飢えているわけではないにしろ、余裕は全くない。蛮族などに食料を分け与えたくは無いという村長の気持ちも理解できる。

 

悪党(・・)どもの火計のせいで、我らの村は何もかにも燃えてしもうた。己の力のみで生きていこうと思えば、もはや略奪に走るしかない。じゃが、我らエルフ族は平和を愛する種族、そのようなことはしたくない……!」

 

 悩む村長に向けて、ダライヤ氏が嘘八百を並べ立てた。そして椅子から立ち上がり、床へとひれ伏す。土下座の姿勢だ。

 

竜人(ドラゴニュート)の村長殿、どうか我らに慈悲を、再起の機会をもらえぬか……! 頼む……!」

 

 迫真の演技である。ルンガ市を焼いたのは一応味方のフェザリアだろうが! 事実を都合よく歪曲しやがって……。

 

「む、むぅ……」

 

 だが、そんなことはつゆ知らぬ村長は、難しい顔をして唸るばかり。彼女の中では、良心と疑心が相争っているのだろう。たしかに、今のダライヤ氏は戦禍に飲まれた村から焼け出された哀れな童女のようにしか見えない。良心ある者であれば、誰だって手を差し伸べてやりたい気分になることだろう。

 本当に悪辣だなこのクソロリババア。呉越同舟の組織ゆえに将来的な分裂はさけられなかったとはいえ、あのタイミングで"新"が割れたのはお前の策略のせいだろうが。

 

「しかし、私にはこの村を守る義務がある……! 貴様らエルフは、はっきり言って信用できん。村人を傷つけるやも知れぬ相手に手を差し伸べるわけにはいかんぞ」

 

 難しい表情でそんなことを言う村長。ま、そりゃそうだよね。これが無害な隣人であれば気分よく手を貸せたのだろうが、残念なことにエルフはドの付く有害な隣人である。助けてといわれたところで、そう簡単には頷けまい。

 

「村長」

 

 そこへ、後ろに控えていたレナエルが声をかけた。彼女はひどく胡散臭いものを見るような目つきでダライヤ氏を睨みつけつつも、言葉を続ける。

 

「確かに、エルフどもはろくでもない連中です。野蛮だし、乱暴だし……」

 

 いきなりの罵倒だったが、ダライヤ氏はウンウン、わかるわかると言いたげな様子で何度も頷いた。お前もそのエルフだろ!

 

「しかし……ただの無法者ではありません。私は、彼女らと戦場を共にしました。そこでの彼女らは……弱きものを守るためは己の命を投げ捨てることも厭わない、誇り高き戦士でした」

 

「……」

 

「すくなくとも、一切の良心を持たぬオオカミ……という訳ではないようです。ですから、その……少しくらいは手を貸してやっても良いのではと、私は思いした」

 

「むぅ」

 

 猟師狐の思わぬ発言に、村長は口をへの字にした。

 

「……エルフの手によって危うく弟を失いかけたお前が、そんなことを言うのか?」

 

「事実は、事実ですので。戦場で、私はエルフどもに何度も助けられました。その分の恩くらいは、帰さないと気持ちが悪い……ので」

 

「……なるほど」

 

 難しい顔をしながら、村長はしばし考えこんだ。その視線がレナエルとダライヤ氏、そして僕の間を右往左往する。たっぷり五分間も黙り込んでから、彼女はやっと口を開いた。

 

「……まあ、話くらいは聞いてやろうじゃないですか。で、どのような援助がご入用で?」

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