異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第345話 カタブツ子爵と悪だくみ

「ちょっとちょっとちょっと! いったいどういうおつもりですか!?」

 

 わたし、ジルベルト・プレヴォは、ソニア様を強引に天幕の外に引きずりだしてからそう聞いた。混浴の件で、わたしはすっかりたまげていた。ソニア様ご自身が主様と混浴しようというのは、まだわかる。もっともらしい理由をつけて主様をまるめこみ、己の獣欲を見たそうとするのはこの方がよく使う手だからな。

 だが、それにわたしが巻き込まれるというのは流石に予想外だった。未婚の男女が同じ風呂に入るなど、ありえない話だ。ソニア様と違って、わたしにはキチンとした貞操観念があるのだ。そのようなふしだらな真似はできない。

 

「あ、あ、主様と混浴ぅ!? いったい、また、どうして……ええ?」

 

 とりあえずソニア様を街道脇の木陰に連れ込んだはいいものの、わたしの思考はまったくまとまらなかった。正直に言えば、風呂の話題が出た時点で主様の裸身を妄想することが止められなくなっていたからだ。

 これはわたしがスケベなのではなく、戦地から返ってきたばかりということで、性欲が溜まっているせいである。当たり前だが、作戦中や行軍中には性欲解消などできないからな。仕方のない事だ。仕方のない事なのだ。スケベなのは主様であってわたしではない。

 

「性欲が溜まりすぎてトチ狂ったんですか!?」

 

「言うに事を欠いてトチ狂ったはないだろ!?」

 

 わたしの剣幕に困惑していたソニア様が、思わず叫んだ。そして二人して、あわてて周囲を見回す。こんなくだらぬ話をしているところ部下に見られたら、大事である。主様に見られたのならもう致命傷だ。

 幸いにも、周囲の兵士たちは野営地の設営のために忙しく、こちらを気にしている余裕などないようだった。二人そろって胸を撫でおろす。

 

「ジルベルト、正直なところを聞きたい。貴様はアル様と混浴したくないのか? あの裸身が、見たくはないのか?」

 

「見たいですが! 見たいですが、しかし、それは……!」

 

 むろん、わたしも健全な女である。そりゃあ混浴だってしたいに決まっている。主様の裸身はソニア様の盗撮写真に写されたものを何度か目にしたことはあるが、やはりナマで拝見したいという気分はもちろんあった。

 だが、淑女としてはそのような欲望を表に出すのは流石にどうかと思うのだ。色ボケのソニア様と違って、わたしには慎みと言うものがある。

 

「だったら、良いではないか。将来の夫のハダカだぞ、見て何が悪い!」

 

「しょ、将来の夫!? ソニア様と、主様が……ということですか?」

 

「それもそうだし、アル様と貴様もそうだ」

 

「……は?」

 

 ソニア様の言っていることが理解できず、わたしは首を傾げた。色ボケを極めすぎて処女にもかかわらず性病にかかり、頭にまで毒が回ってしまったのだろうか?

 

「……ジルベルト。わたしは今まで、自分一人で何でもできると思っていた。だが、先日の一件で、それがとんでもない自惚れであることに気付いたのだ」

 

「先日の一件というと……」

 

「アル様があのカマキリに拉致された事件だ。あの時、わたしは無様にも取り乱し、アル様の部下としてふさわしくないような真似をしてしまった。貴様に喝を入れてもらわなければ、どうなっていたことか……」

 

 ソニア様はしみじみとした声音でそう言ってから、両手を私の肩に乗せた。

 

「ジルベルトは、腹の据わった真の軍人だ。わたしとは違う。だが……わたしもいつまでも未熟なままではいられない。アル様のお傍にいられるためにな。……そこで、貴様に頼みがある」

 

「……なんなりとお申し付けください」

 

 ソニア様がそこまで私を買ってくれていたとは! さすがに驚いて、わたしは少し感動してしまった。ソニア様は色ボケだが、間違いなくガレア王国きっての天才騎士だ。そんな彼女にここまで言われるというのは、なんとも面はゆい話である。

 

「わたしの義姉になってくれないか?」

 

「は?」

 

「いわゆる、そう……義姉妹というヤツだ。義妹として、わたしは貴様から軍人としての心意気を学びたい。そう……アル様とカリーナのようにな」

 

 この頃すっかり見違えるようになった牛獣人の騎士見習いの名前を出してから、ソニア様は私の目をじっと見てきた。……彼女ほどの騎士にここまで言われて、断れる騎士はいるだろうか? いいや、いまい。わたしはほとんど反射的に頷いていた。

 

「わ、わたしなどでよろしいのでしたら、是非とも」

 

「ああ、ありがとう。義姉上。あなたならば、そう言ってくれると信じていた」

 

 ソニア様はニコリと笑い、わたしを抱擁した。そして、耳元でこう囁く。

 

「で、だ……姉妹であれば、夫を共有するのは不自然ではあるまい?」

 

「え……? いや、確かにその通りではありますが……」

 

 女余りはエルフどもだけの専売特許ではない。ガレア王国でもやはり男性は貴重で、貴族であっても教会の推奨する一夫二妻以上の重婚をしている者も多かった。中でも多いのが、姉妹間で夫を共有するやり方だ。

 

「悪くはない……考えだと思うのだ。どうせ、我らはリースベンの二本柱。公私に渡って、二人でアル様をお支えするのも悪くはないだろう」

 

「ソニア様……」

 

 そっぽを向きながらそんなことを言うソニア様に、わたしは思わず目頭が熱くなった。

 

「義姉妹なのだから、様はつけなくて良い。……それに、エルフどもの問題もある。ダライヤといい、フェザリアといい、明らかにアル様を狙っている様子。我々も、うかうかはしていられない。これは単なるカンだが、いい加減に勝負を決めないとまずい気がしてきた」

 

「ウカウカしていたのはソニア様だけでは?」

 

「義姉妹になっても毒舌は変わらんなぁ!? それに貴様も愛を告げようとして途中で挫折していたではないかっ! 人のことをどうこう言えた義理か!?」

 

「……」

 

「……」

 

「やめませんか、この話は」

 

「あなたの方から振ってきた話題だろうに……まあいいが」

 

 深いため息をついてから、ソニア様……いや、ソニアは薄く笑った。

 

「まあ、何にせよだ。お互い溜まっているのは一緒だろう? これだけ難儀をしたのだから、将来の夫の裸身を肴に一杯やるくらいの役得があっても良かろう、ということだ」

 

「アッ、そういえばそんな話でしたね……」

 

 義姉妹云々のせいで誤魔化されていたが、よく考えればもともとはそういう話だった。……なんでこんな下世話な話を発端として、一生を左右するような重要な決断をしなくてはならなくなったのだろうか? 本当に意味が解らない。

 

「それに、混浴はアル様ご自身のためにもなる。覗きや変質者の乱入などの恐れがあると、アル様もゆっくり落ち着いて身を清めることもできないだろう。しかし我らがお傍に居れば、兵や蛮族どもも余計な手出しはできまい」

 

「な、なるほど……あくまで本命は、主様の護衛……というわけですか」

 

「その通りだ」

 

 ソニアはいけしゃあしゃあと頷いた。変質者はお前だろうと言いたくなったが、わたしも人のことを言えた義理ではないので口をつぐんでおくことにする。しかし、主様と混浴、混浴かぁ……。

 

「……そういうことでしたら、わたしにも否やはありません。全身全霊を尽くして、主様の心身をお守りする所存」

 

 たんなる不埒な欲望を満たすためだけの混浴であれば、むろん止めるが……そういう事情ならば致し方あるまい。わたしは仕方なく、そう、仕方なくソニアの策に乗ることにした。……仕方なくだからな!

 

「わたしも大概だがお前も大概だなあ……」

 

「何かおっしゃいましたか?」

 

「いや何も」

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