異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第357話 くっころ男騎士と母娘喧嘩の真実

「つまりその……わかりやすく言えば……私たちは、母娘で同じ(ひと)を好きになってしまった……というわけなんだ」

 

 そう語るスオラハティ辺境伯の表情は、なんとも複雑だった。恥じらい、怯え、不安……様々な感情がごちゃ混ぜになったような、なんとも不可思議な顔であり、彼女の本意はいまいち読めなかった。ただ、少なくとも冗談半分でこのようなことを言い出したのではないのは確かなようだ。

 

「……」

 

 僕は黙り込む他なかった。夜這いをしようとした、などと言っているあたり、この"好き"が友愛や家族愛の類ではないのは確実だ。辺境伯が、異性として僕を好いている? 正直、どう反応していいのかわからなかった。

 もちろん、僕とて辺境伯のことが嫌いな訳ではない。そもそも、僕の現世における初恋の人はこの人だ。とはいえ、それは肉体年齢に引っ張られた稚気じみたもの。もちろん、今となってはそのような感情はとうに整理を付け、思い出を入れる箱の奥底へとしまいこんである。

 

「……その、よくわからないのですが。どういうきっかけで、そのような感情を?」

 

 辺境伯は未亡人だ。しかも夫が亡くなったのは十年以上前のこと。新しい恋を見つけたくなったとしても、誰が彼女を責められようか。だが、その対象が僕となると流石に驚きだった。いつの間に、そんなことになったのだろうか?

 ソニアが実家を飛び出したのが五年前。夜這い未遂事件がその直前の出来事だとしても、辺境伯が僕に異性愛を抱いたのは、少なくとも五年以上前だということだ。だが、当時のことをいくら思い出しても、彼女が僕に好意を抱くようになるきっかけとなった出来事などまったく心当たりがなかった。

 

「一目ぼれなんだ」

 

「一目、ぼれ」

 

 僕は茫然とスオラハティ辺境伯の言葉をオウム返しにした。

 

「なんというか、その……初対面の時、僕はまだ年齢一桁の子供だった記憶があるのですが」

 

「うん……その、なんというか……その年齢一桁の子供に、私は恋をしちゃったんだよ」

 

「ワッ……!」

 

 ショタコンじゃねえか! ……あ、でも僕も見た目幼女なダライヤ氏にだいぶ心を乱されてるわ。全然人のことを言えた義理じゃないわ。

 

「勘違いしないでくれ! 私は、断じて幼い子供に欲情する人間ではない! ただ、その……当時の君が、あまりに私の理想そのままだったものだから……」

 

「辺境伯様の、理想」

 

 僕は、当時の自分を思い出してみた。剣を振り回し、用兵術を学び、新兵器の図面を書きまくる、小学校低学年くらいの年齢の男児。どこに好きになる要素があるんだよ。同年代の下級貴族の令息たちは楽器とか刺繍とかをならってる頃合いだぞ! 我ながらオテンバが過ぎるわ!

 

「私は、その……恥ずかしい話だが」

 

 僕の怪訝な顔を見た辺境伯は、言いづらそうに説明をはじめた。その顔は真っ赤に染まっている。宰相が僕の隣で「自分だってダメダメ告白じゃないか」などと小さくボヤいた。

 

「私は子供の時分から、悪い魔法使いに攫われた王子様に自己投影してしまうような、ヘンな女だったんだ。強くて優しい騎士さま、そういう男性が、理想だったんだよ。当時の……いや今もそうだが、とにかく君はその理想のままの存在だった。好きにならないはずがなかったんだよ」

 

「あ、ああー……」

 

 そういう、ね? いや確かに、そういう男性はこちらの世界では貴重やもしれん。戦士として戦場に出るような男性自体まずいないし、その中でも騎士を名乗れるような肉弾戦上等の人間となると……そんなヤツは、僕以外聞いたことがない。まあ世界は広いから、探せば他にもいるのだろうが、少なくともガレア王国には僕一人きりだろう。

 

「私のようなおばさんに突然このようなことを言われても、アルからすれば気持ちが悪いだけだろう。本当にごめんなさい……。けれど私は弱い女だから、気持ちを伝えないまますべてを終わらせることだけは、どうしても耐え難かった」

 

「気持ち悪いなんて、そんな」

 

 僕は慌てて、辺境伯のほうに向きなおった。確かに彼女の告白は衝撃的だったし、僕が人生一周目の人間だったら流石にドン引きしていたかもしれない。ただ、僕の人生は二周目だ。前世の享年はちょうど今の辺境伯くらいの年齢であり、精神的には僕の方が年上ですらあるのだ。……いや僕の精神年齢は昔からガキのままで止まっているので、精神年齢ではなく魂年齢と言い換えるべきかな?

 

「辺境伯様は、大変に素敵な女性です。言いづらいことですが、僕の初恋の相手は……辺境伯様でした。そんな貴女に想われていたなど、身に余る光栄としかいいようがありません」

 

 そう言って、僕はスオラハティ辺境伯の手を両手でぎゅっと握る。

 

「自分を傷つけるような言葉を、おっしゃらないでください。僕は昔も、そして今も、貴方を気持ち悪いと思ったことなど一度もありません」

 

 さすがに夜這いは駄目だろとは思うけどな。まあ未遂だし許せるわ。許せるわと言うか、未遂で終わらなかった場合、当時の僕なら普通に受け入れてた気がするし。この世界の基準で言えば、ハッキリ言って僕だって淫乱扱いになると思うしな。変態はお互い様だろ。

 ……ん? 夜這い未遂……? その結果大喧嘩……。え、え、つまり、スオラハティ母娘がこんな風になったのって、僕のせいってことか!? え、うわ、マジ……? あんなに良く接してくれた二人を、僕が……?

 

「ど、どうしたんだ、アル。そんなに顔を真っ青にして。や、やはり迷惑だったか……すまない……」

 

「い、いえ、違うんです辺境伯様。ただ、自分のせいでこうも事態がこじれてしまい、なんとお詫びしたらいいのかと……」

 

 謝って済むレベルじゃないだろ。スオラハティ家が無ければ、僕は昇爵などせず貧乏騎士の息子として一生を終えていただろう。封建制のわが国でスムーズに昇進するのは、前世の比ではなく難しい。しかも僕は男だしな。それがこうも順調すぎるほどに出世できたのは、大貴族の後押しあってのことだ。

 いや、受けた恩はそれだけではない。辺境伯からは息子として、ソニアからは親友として、僕は大変に優しく接してもらってきたのだ。スオラハティ家は僕のもう一つの家族だった。そんな優しい家庭が僕のせいで無茶苦茶になったなどというのは、いくらなんでもあんまりだろ!

 

「君は悪くない、アル。すべては私のせいだ。私が年甲斐もなく妙な気を起こしてしまったばかりに……。君が気に病む必要はない、そんな顔をしないでくれ」

 

 辺境伯は悲しげに笑って、僕をふわりと抱きしめた。

 

「安心しなさい。これは、私がしでかしたことだ。だから、すべてを元通りにする義務が私にはある……」

 

「カステヘルミ」

 

 かなり驚いた様子で、アデライド宰しょ……アデライドが腰を上げた。

 

「お前、どういうつもりだ。私と一緒に愛を告げる、そういう話だったじゃないか。その言い草は、まるで……」

 

 まって宰相、あなたさっき僕をソニアと共有するって言ってたよね? そこにさらに辺境伯を加える気だったの!? どんなインモラルな関係だよ!?

 

「そうだよ、愛は確かに告げた。ひどく一方的なものになってしまったが、不相応な恋や愛など一方通行で十分だ。私は満足だよ」

 

 いつの間にか、辺境伯の目からは涙がこぼれていた。ひどく悲しい、それでいて優しい声でそう言ってから、彼女は僕を抱きしめる腕に力を籠める。

 

「ごめん、ごめんね、アル。気持ち悪いおばさんで、ごめんね……。この気持ちには、今日で仕舞いを付けるから。明日から、お前とソニアのお母さんに戻るから。あるべき姿に戻して見せるから。だから、だから……最後に、一回だけ……キスをして、ください」

 

 泣き笑いの表情でそんなことを言う辺境伯に、僕は絶句するしかなかった。どうやら彼女は、自分よりも娘の恋路を優先する腹積もりのようである。……おそらくは一世一代ほどの気持ちで発されたであろうお願いを、断ることなどできない。僕は無言で、辺境伯の唇を奪った。彼女はそれを優しく受け止め、笑い、そして再び小さく呟いた。

 

「ごめんね……」

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