異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第376話 くっころ男騎士と現実

 白旗を上げた先に待っているものは、一方的に不利な講和会議と相場が決まっている。そんなことはもちろん前世から理解しているのだが、僕が白旗を上げた相手……つまりダライヤが持ち出してきた"条件"は完全に理解の範疇を越えた物であった。

 

「フェザリアと……ウル!?」

 

 なんとこのロリババアは、僕の嫁をさらに増やそうというのである。根っからの非モテクソミリオタの僕としては、まったくもって理解しがたい現実であった。しかもこの二人はタダの女性ではない。方や部下数百名を抱える亡国の皇女、かたやエルフェニアにおける鳥人連中の実質トップである。どちらにしろ、現在のリースベンにおいてはかなりの重要人物であるのは間違いない。

 

「うむ、その通りじゃ。んふ、そのような恨みがましい顔でワシを見るな。半分くらいはオヌシが悪いのじゃぞ?」

 

 ダライヤから身体を離して睨みつけると、彼女は皮肉げに笑いながら肩をすくめた。なんともあくどい表情である。……今まで彼女は、こういう顔を僕に見せることはあまりなかった。たぶん、コレがダライヤの素なのだろう。ま、多少は意識的に悪ぶっている部分もあるんだろうがね。

 

「ワシとオヌシが結婚して子が出来た場合、その子は有能無能のいかんに関わらずかなりの重要人物になる。それはわかるな?」

 

「まあ……ね。現実的に考えると、新エルフェニアの次代頭領になるんじゃないだろうか」

 

 古代民主制は遥か過去に滅び去り、近代民主制はいまだ萌芽が見えて来たばかり……というのが、この世界の現状である。やはり、一番モノを言うのは血筋なのだ。お飾り状態であるとはいえ一応新エルフェニアの皇帝であるダライヤとリースベン領主である僕の子は、そのまま新エルフェニア皇帝になると考えるのが自然である。

 まあ、皇帝云々の称号名は変わる可能性が高いがね。階位システムは早めにガレア式に切り替えておかないと、少々ややこしいことになってしまう。新エルフェニアくらいの規模の勢力ならば、子爵位くらいが適当だろうか? まあ、動員できる兵数だけ見ると伯爵級なんだが……。

 

「その通り。それはまあ、良い。エルフのぼっけもんどもも、オヌシの子であれば納得して命令に従うじゃろう。新エルフェニアの統制は、以前より遥かに向上するハズ」

 

「そうだね。で? それがフェザリアやウルとどうかかわってくるんだ?」

 

「新エルフェニアだけにオヌシの子がいるのはマズいじゃろう、序列的に」

 

「……あっ」

 

 ウンまあ、言われてみればその通りだわ。フェザリア率いる正統エルフェニアは、別に戦争で"新"に敗北したわけではない。にもかかわらずダライヤとだけ(といっても、すでに僕にはほかに三名も婚約者がいるわけだが)結婚するというのは、これからは"新"を優遇しますよと言っているのに等しい。当然、"正統"のエルフどもはいい顔をしないだろう。即座に内戦が再燃、という事態にはならないだろうが……遺恨になるのは間違いあるまい。

 

「まあ、フェザリアの奴は結婚するにはまだやや若いようにも思えるが……」

 

 指をくるくると回しながら、ダライヤは説明する。エルフにとって、結婚というのは己の人生に終止符を打つ行為だ。そう簡単には、結婚の決断はできない。……その割に、避妊具も使わずに僕を犯そうとしたエルフ兵は結構な数居たがね。戦場で死ぬことを厭わぬ戦士は、結婚して寿命で死ぬこともいとわないということだろうか? 頭蛮族にも限度があるだろ……。

 

「オルファン皇家は歴史の長い家じゃ。オヌシらの仕えるヴァロワ王家とやらよりもな。……にもかかわらず末裔が一人だけ、というのはなんとも不安じゃ。情勢が安定しておるうちに、子を四、五人くらいこさえておいた方が良いじゃろう。お相手候補の素性も良好となればなおさらじゃ」

 

 なんともイヤらしい視線を僕の下半身に向けながら、ダライヤは言った。どこにむけて話しかけてるんだよお前は。

 

ブロンダン家(ウチ)は三代前は平民の素性の良くない家だが」

 

「どんな名家も最初はそんなものじゃよ」

 

 鼻で笑うような声音でそう言ってから、ダライヤは肩をすくめた。そして、おもむろに僕の膝の上に乗ってくる。ソニアら竜人(ドラゴニュート)たちがよくやる、人間湯たんぽの姿勢だ。僕は苦笑して、彼女を上着の中に入れた。

 

「まあ、オルファンもオヌシのことは好いておるからの。実のところ、ヤツから『仲を取り持ってくれ』とも頼まれておる。可愛い教え子の希望じゃ。できればかなえてやりたい」

 

「ええ……マジ?」

 

「マジじゃよ? ヤツから熱っぽい視線を感じたことがあるじゃろう。フェザリアは真面目にオヌシとの結婚を考えておるよ」

 

「ワァッ……」

 

 こんな野蛮系男子のどこに好く要素があるのだろうか? ……いや、エルフ的には蛮族っぽい部分が加点ポイントになるのかもしれん。ううーん、それにしてもなんなんだろうね? これ。僕は非モテを自認していたのに、ここ一か月ほど異様なモテっぷりである。いや、スオラハティ母娘やアデライドに関しては、彼女らの好意に僕が気付いていなかっただけなのだが……。

 

「そ、それはわかったが……ウルの方は?」

 

「アイツを押さえれば、鳥人族全体をエルフから切り離してリースベンに着かせることができるのじゃぞ? 鳥人族はたいへんに強力な種族じゃ。エルフ(部下)の部下として運用するより、ブロンダン家の直属にしておいたほうが将来的に何かと得じゃ」

 

「動機が真っ黒やん」

 

 お家の将来的に何かと得だから結婚しなさい。なんとも悪党じみた発言である。いや、政略結婚なんてものは極論そういうモンだけどさ。一応取り繕うくらいはするよ? みんな。

 

「ウルの奴はこの頃、"正統"についておった鳥人どもの取り込みも始めておるからのぅ……たいへんにお買い得じゃぞ?」

 

「セール品かよ。ウルの気持ちはどうなるんだよソレは」

 

「あ奴は最初からオヌシを狙っておったから問題ない。ウルのヤツに手づから飯を食べさせてやったことがあったじゃろう?」

 

「え? ああ、ウン……」

 

 鳥人のウルは、翼人とちがって腕がそのまま翼になっている。仕方なく食事などの際は足を使って器用に食器類を扱うのだが……僕と一緒に食事をとるとき、ウルは高確率でぼくに『あーん』を求めてくるのである。

 まあ、当のウルとはこの頃あまり顔を合わせていないのだが。僕自身結婚騒動で大変なことになっていたし、ウルも何やら忙しそうにしていたため、業務連絡以上の会話をするようなタイミングが無かったのだ。

 

「アレなぁ、鳥人族の求婚じゃぞ?」

 

「は?」

 

「カラスにしろスズメにしろ、ああ見えて気位の高い種族じゃ。他人の手を借りて食事をするような真似は、恥だとされておる。その例外が、夫婦や親子なのじゃよ」

 

「うえぇ……」

 

 思わず、僕の口から妙な声が漏れた。ウルのやつは、出会った当初からそういう割と頻繁に『あーん』を求めていたのである。そんな時点から、僕を狙っていたというわけか……? うわ、うわあ……。

 

「ま、せっかくアプローチを受けておるんじゃ。頷いておいた方が良いじゃろう。むろんオヌシが難儀に思うのも致し方のない話じゃが……リースベンの安定化のためじゃからのぉ?」

 

「ンヒィ……」

 

 そんなことを言われても困るのである。わーいハーレムだー、などと喜べるような神経は、僕には無かった。実際のところ、女性ひとりでもだいぶ荷が重いのである。にも拘わらず、知らぬうちにお相手がやたらめったらと増えていくのだからたまらない。僕は繁殖種馬か何かか?

 

「……まて、よく考えたら……リースベンの安定化云々のことを言うのなら、同様の対応をアリンコにも取らなきゃならんのでは?」

 

 今回の件で服属した蛮族は、エルフや鳥人だけではないのである。そう、アリンコもだ。彼女らは頭数だけで言えば"正統"すら上回る規模であり、決して無視できる勢力ではない。

 

「うむ、やっと気づいたか。おそらく、近いうちに連中からその手の打診がくるじゃろう。流石に、アリンコどもだけ仲間外れにするのはマズかろ? こちらもまた、頷く他ないのではなかろうかのぉ……」

 

「ウゲーッ!!」

 

 僕は頭を抱えて悶絶した。マジの繁殖種馬じゃん。どうしてこうなった!

 

「言っておくが、この件に関してはオヌシの自業自得の面もかなり大きいのじゃぞ? なにしろオヌシは、武力ではなく話し合いでこのリースベンを平定してしまったわけじゃからのぅ。今さら強権は振るえぬ。皆が納得する形で政治を進めねばならぬということじゃ」

 

「それは分かっていたつもりだが……まさか、こういう結果につながるとは」

 

 僕はガクリとうなだれ、ダライヤの頭にグリグリと頬擦りをした。この件に関しては彼女の陰謀というより僕のウカツが原因なのだが、やはり多少は恨めしく思ってしまう。いわゆる八つ当たりというヤツだ。

 

「ひひひ……なぁに、心配することはない。この婆が支えてしんぜよう。オヌシが疲れ果ててしまったときは、ワシがたぁーっぷり甘やかしてやるから、安心するのじゃ」

 

 なんとも邪悪な笑い声を漏らしつつ、ダライヤがそんなことを言う。ああ、クソ。このババア、わざと僕を追い詰めて自分に依存させようとしてやがるな? そういう性癖なのか何かの陰謀なのかはわからんが、とにかく厄介だ。畜生。

 ああ、でも……こんな陰険ババアが、寿命という時間制限もない状態でこのリースベンにのさばり続ける状態も、それはそれで滅茶苦茶マズいんだよな。むろん現状はダライヤに現役を退かれるとそれはそれで大変に困るが、領内が安定したら即座に子を成して引退していただきたい。そういう意味では、結婚という選択は間違いではなかった……ような気もする。

 

「ああ、もう……! 埋め合わせはしっかりしてもらうからな、覚悟しとけよクソババアめ……!!」

 

 僕はそう言って、胸の中の腹黒ロリババアをぎゅーっと抱きしめた。

 

「おう、おう。婆にすべて任せるのじゃ。まずはどうする? また膝枕か? 添い寝も良いのぉ。それとも酒か、あるいは……ひひっ、寝床で慰めてやろうか?」

 

「そうだな。まず手始めに、"新"内部の意見統一をお願いしようかな? 君たち、仮想敵を失ったせいで組織がガタガタ言い始めてるじゃないか。また分裂でもされたら溜まったもんじゃない。緩んだタガは皇帝たる君にしっかりと締めなおしてもらう」

 

 実際、新エルフェニアの内情はあまり良いとは言い難い状態だった。もともと、オルファン家に対抗するためだけに結成された部族同盟のような組織が新エルフェニアだ。"正統"との戦争が終結した今となっては、組織の存在意義自体が怪しくなってしまっている。

 とはいえ、統治者としてはそんな有様じゃこまるんだよな。"分割して統治せよ"は金言だが、やはり限度というものはある。"新"には、戦争のための同盟から平時の統治のための行政組織に変わってもらう必要があった。

 むろん、頑固なエルフどものことである。組織改革を行えば、当然反発してくるだろうが……ダライヤには、その矢面に立ってもらうことにしよう。死ぬほど厄介な仕事だろうが、僕を支えると言ったからにはその手伝いはしてもらわないとな?

 

「えっ、いや、そういうのは……結婚したら、第一線からは引退するのがエルフの習わしじゃし……」

 

「僕を支えてくれるんだろ? 頼むよ……君だけが頼りなんだ」

 

 そういってダライヤにしなだれかかると、彼女は「ンヒィ……」と先ほどの僕そっくりな悲鳴を上げた……

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