異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第412話 くっころ男騎士と作戦会議

 その日の夕方。リースベンの幹部が集まる定例会議で、僕はアガーテ氏から狩猟会に誘われたことを話した。僕としては、狩猟会にぜひとも参加したいところだったが……部下たちの意見も聞かずに独走するわけにはいかないからな。しっかりと意見のすり合わせをしなくては。

 

「なるほど、実質的な敵情視察ですね」

 

 説明をし終えた僕に開口一番そう言ったのは、ソニアだった。長年副官として働いてくれているだけあって、僕の意図などお見通しといった雰囲気である。

 

「ああ。この火種が燃え上がって、こちらが介入せざるを得ない状況になった場合……主戦場になるのはズューデンベルグ領だからな。平和なうちに一度訪れて、ある程度地理や地形を把握しておいたほうがいいだろう」

 

 ズューデンベルグ領やそのお隣のミュリン領には頻繁に鳥人による航空偵察をかけており、写真や地図も揃いつつあるが……その手の情報は、あくまで参考程度のものだからな。やはり、自分の目でしっかりと戦場(では今のところないが)を見ておくのは重要なのだ。

 

「場合によっては、地形のみならず敵方の陣容も観察できるかもしれん。ミュリン伯側としても、リースベンには興味があるだろうからな。こちらがアクションを起こせば、それなりの反応を示すはず……」

 

 できれば、敵の総大将……ミュリン伯爵とやらの顔も拝んでおきたいところなんだよな。可能かどうかはさておき。敵を知り己を知れば百戦危うからず、という言葉もある。入念な情報収集は平時においても怠るべきではない。

 

「なるほどのぅ。アルベールは、自分を餌に敵の釣りだしを狙っておるのか。相変わらず大胆じゃの」

 

 香草茶のカップを片手に、ダライヤが薄く笑う。

 

「有効ですが、危険な手ですね。場合によっては暗殺も警戒すべきでしょう。"狩猟中の事故"など珍しくはありませんし」

 

 反論めいたことを口にするのはジルベルトだった。すでに戦争状態に陥っているならまだしも、まだ一度も交戦していないような段階でいきなり僕の直接排除を狙ってくる可能性は流石に低いように思えるが……まあ、警戒するに越したことは無い。実際問題、ミュリン伯爵以外にも僕を疎ましく思っているようなヤツはそれなりにいるだろうし……。

 

「というかそもそも、アルくん本人が出席する必要はないんじゃないか? たとえば名代としてソニアを派遣するとか、そういうプランもあるわけだがね」

 

隣に座ったアデライドが、僕の脇腹をツンツンとつつきながら言う。どうやら彼女は、僕がリスクを負うのが嫌なようだ。……ううーん、ソニアに代打を任せる、か。決して悪くない案だが……今のうちに、一度くらい僕みずからズューデンベルグに行ってみたい、という気分もあるんだよな。

 

「……そういうわけにもいかない。前回の星降祭の時は、伯爵閣下本人がこのリースベンに来てくれたわけだからな。ゲスト側に回ったとたんに名代に丸投げしたりすれば、こちらがディーゼル家を軽んじているように見えるかもしれない」

 

「他の者ならともかく、ソニアであれば軽んじているとは思われないんじゃないかねぇ。なにしろあのノール辺境領のもと継承者なわけだし……」

 

 アデライドの口調は、お前の思惑などお見通しだぞと言わんばかりのものだった。むぅん、手強い……。

 

「アデライドの言う事にも一理はあるが……わたしが前に出過ぎると、アル様がまるで傀儡のように見えてしまうという弊害があるぞ。わたし個人の意見を言えば、アル様がナメられるのは我慢がならないのだが」

 

 そこへ助け舟を出してくれたのはソニアだ。彼女の言葉に、アデライドは小さく「むぅ」という声を漏らす。

 

「確かに、我々が出しゃばりすぎるのも良くないがねぇ」

 

「そうでなくとも、僕自身がズューデンベルグを訪れるのはそれなりのメリットがあるよ。それだけこちらがディーゼル家を重視していますよ、というアピールにもなるし」

 

「はぁ……。二人がそういうのならば、私一人が反対しても仕方が無いな。しかし、くれぐれも身辺には気を付けてくれよ。結婚前に夫を失うなど勘弁願いたいからねぇ」

 

「もちろん」

 

 僕は笑顔で頷いた。むろん、僕とて安全を軽視するつもりはない。ないが……専属護衛であるネェルが傍にいてくれたら、たいていの脅威は打ち払ってくれるような気はする。もちろん、毒殺等の搦め手などには注意すべきだろうが。

 

「では、主様が狩猟会にご出席なさるのは既定路線として……供のものはいかがしますか?」

 

 ジルベルトの言葉に、会議の出席者は顔を見合わせた。

 

「……我々が出しゃばりすぎるのは良くないとは言ったが、アルくんだけを前に出すのもよろしくないからねぇ。私かソニアかのどちらかが同行するのがスジだろうが……狩りをするのならば、ソニアを連れていくのが適当ではないかな」

 

「私か……」

 

 考え込んでいる様子で、ソニアは自身のアゴをゆっくりと撫でた。どうにも、アデライドの提案には乗り気ではないようだ。

 

「確かに狩猟や護衛の面を考えれば、私がアル様の傍仕えを務めるのが適当だろうが……狩りはあくまで名目だし、護衛に関してもネェルがいる。ここはむしろ、政治的な嗅覚が強いアデライドのほうが適任なのではなかろうか」

 

「わ、私かぁ!?」

 

 思いがけない返答に、アデライドは顔を引きつらせた。なんか嫌そうな反応だな……。少し考えて、その理由に思い至った。僕は宰相閣の耳元に口を近づけ、他の者に聞こえないよう声を潜めて聞いた。

 

「もしかして、狩猟自体に行きたくない感じだったりする?」

 

「う……まあ、な。弓もクロスボウも苦手だ。練習をしてみたことはあるが、まともにマトに当たったためしがない。ましてや、動き回る標的に当てるなど奇跡が起こらないかぎりムリだろう。私が狩猟会なぞに出ても、恥を掻くばかりだ……」

 

 これまた小さい声で、アデライドはそう答える。ああ、それは仕方が無いな……。公衆の面前で不得意なことをやるのは嫌だよな。僕も婚活パーティで似た経験をしたことがあるからわかるよ。ソニアの言う事にも一理あるが、ここはアデライドの意見を採用するか。

 ……それに、アデライドは貴重な事務要員。僕と彼女が揃って領地を明けたら。帰ってきたときにどれほどの仕事が積みあがっているのかわかったもんじゃない。アデライドであれば安心して領主名代を任せられるし、ここは留守番を頼むことにしようか。

 

「ソニア、そう謙遜することは無い。君だって、このところ政治向きの仕事を着実にこなしているじゃないか。それに、さっきも言ったが今回の旅行の主目的は、戦場になりそうな土地の自然視察だ。筆頭幕僚である君を留守番にまわすことはできないよ」

 

「ああ、確かにそうですね。私も、ズューデンベルグの実際の地形や街並みを見ておいた方がいいか……。では、アデライド。そちらに留守番をお願いしても大丈夫か?」

 

「ああ、任せてくれ給えよ」

 

 露骨にほっとした様子で、アデライドは頷いた。僕は内心苦笑しつつ、視線をジルベルトのほうに向ける。

 

「想定される戦場を事前に見ておいた方が良いのは、現場指揮官も同じだ。ジルベルト、君にも同行を頼みたいんだが大丈夫か?」

 

「ハッ、お任せを」

 

 厳かな表情で、ジルベルトは敬礼をした。相変わらず真面目なヤツだなぁ……。

 

「それじゃ、ワシも同行しようかのぉ。狩りなぞ百年ぶりじゃ。腕が鳴るワイ……」

 

「君も来るのか……」

 

 腕まくりをしながらそんなことを言うダライヤに、僕は思わず頬を引きつらせた。できれば、このロリババアにもリースベンに残ってもらって、山のように積みあがった執務を片付けてもらいたいところなのだが……。

 

「忘れておるようじゃがワシはオヌシの秘書ではなく新エルフェニアの頭領じゃ。つまり、オヌシの言うところの現場指揮官! 連れて行かぬ理由は無いと思うがのぉ?」

 

「都合のいい時だけ皇帝に戻りやがって」

 

 ダライヤの言う事にも一理あるが、ちょっと不安だな。だってこいつ、勝手に独走する悪癖があるし。ズューデンベルグなんかに連れて言ったら、余計な策略を廻らせかねない。……だけど、ダライヤの知恵袋が有用なのも事実なんだよなぁ……。致し方ないか

 

「ならいっそのこと、フェザリアやゼラにも同行をお願いしようか」

 

 ダライヤの抑えにまわることができる人間は少ない。フェザリアは、その数少ない例外の一人だ。ダライヤが同行するというのなら、彼女の助力も欲しい所だろ。そしてダライヤもフェザリアも誘っておいて、ゼラだけ仲間外れというのも不味いからな。蛮族三人衆は全員招集することにする。……しかし各蛮族の頭領が全員不在となると、領内の統制がすこしばかり不安だがな。その辺りの対策も、早めに考えておかねば。

 

「ン、(オイ)か。任せちょけ」

 

「現場の連中の様子も確認したいですけぇのぉ。それがええじゃろうね」

 

 それまで黙って会議の成り行きを見ていたフェザリアとゼラが、そろってニヤリと笑う。そういう訳で、ズューデンベルグへの旅行は結構な大所帯になることが確定してしまった……。

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