異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第438話 くっころ男騎士と城塞都市(1)

 その後、我々はレンブルク市へむけてえっちらおっちら進軍した。距離的にはそう遠くはないのに、とにかく時間がかかる。やたらと農村にひっかかるせいだ。エルフ内戦の時にも行軍には難儀したものだが、こちらはこちらで大変だ。

 正直面倒くさいが、安全確認を怠るわけにはいかないので仕方が無い。放置した農村から敵の遊撃隊が飛び出して来たら、大事になってしまう。どんな軍隊でも、行軍中に横っ腹を付かれれば脆弱なものだ。

 

「あれがかの城塞都市……」

 

 望遠鏡を覗き込みながら、僕は言った。視線の先にあるのは、噂通りの立派な石壁を備えた大きな街だ。何メートルもあるような大きな大理石製の壁が街をぐるっと取り囲み、外敵の侵入を拒んでいる。街道に直接つながった正門は何と鉄製で、今は固く閉ざされていた。さらに、市壁の上には物見やぐらがわりの尖塔やらバリスタ……設置型の大型クロスボウなどの姿が見える。なるほど、確かにこれは堅城だ。早々のことでは突破できないだろう。

 僕たちはこの城塞都市からやや離れた場所に、部隊を布陣させていた。レンブルク市周辺は丘陵地帯なので、三千名近い大所帯だと結構狭苦しい。まあ、リースベン戦争のときに戦場になった山道よりは遥かに広いがね。

 もちろん、レンブルク市側も我々の接近には気付いているだろう。石壁の上では、忙しそうに兵士たちが行きかっている。ただ、十分に距離を取っているのでバリスタや魔法などはまだ飛んでこない。まあ、こちらの攻撃も届かないんだが。にらみ合い状態、というわけだ。

 

「南部は争いの絶えぬ土地だが、この街は建設以来一度も敵の手に落ちたことがないそうだ。レンブルクはミュリンの誇り、消して敗れぬ奇跡の盾……そう歌う吟遊詩人もいる」

 

 僕と同じように望遠鏡を目に当てながら、アガーテ氏が説明した。

 

「ディーゼル家の御先祖様も、三度ほどここに攻め入っているが一度たりともあの市壁の突破には成功していない。……ご先祖も同じように、こうやってレンブルク市を遠くから眺めていたんだろうか? なんとも感慨深い話だ」

 

 投石器や破城槌程度では、たしかにあの石壁を破壊するのは困難を極めるだろう。抗魔付呪(エンチャント・アンチマジック)が施されているのなら、攻城魔法も効果が薄いだろうし。

 リースベン戦争で遭遇した、あのチートじみた男魔術師……ニコラウスくんの魔法なら、どうだろうか? 単独で発現させたとは思えぬ、あの重砲じみた戦術魔法。あれは強力だった。あれだけのごり押しパワーがあれば、この石壁も破壊可能かもしれないな。

 ま、残念なことに、今回の戦争でも彼は敵側なんだが。ニコラウスくんはリースベン戦争で足を失っているが、彼は剣士ではなく魔術師だ。義足などを用いて戦線復帰してくる可能性は十分にある。要警戒だな。

 

「ディーゼル軍の力量は僕も心得ています。それを撃退するとは、なかなかの難敵ですね。ですが、残念なことにあの街は単なる前菜に過ぎません。メインディッシュが後ろに控えておりますから、コレだけで満腹になるわけにはいきませんよ」

 

 レンブルク市内にミュリン軍の主力がいないのは確認済みだ。イルメンガルドの婆さんが、この街の防御力をアテにして我々の足止めを図っていることは明白だろう。アガーテ氏の読み通り、時間稼ぎをしつつ主力部隊の増強を狙っているのだろう。我々はさっさとこの街を突破し、敵主力を撃滅してイルメンガルド氏の心を折らねばならない。

 ……なにしろこの街のみならず、ミュリン軍そのものが前菜なのだ。こんなところで物資や兵力を浪費していたら、後々の戦いに障りが出てしまう。典型的な消耗戦である攻城戦に付き合うなど論外だ。

 

「手順通り、軍使を派遣して降伏勧告を行いましょう」

 

 ソニアがそう提案した。攻城戦の際のみならず、戦いの前には一応軍使を派遣して相手の交戦意思を確かめるのがこの時代の戦争の通例だ。なんなら、大将同士が前に出て罵倒合戦を始める場合もある。

 

「ぜってぇ~頷きませんわ~。時間の浪費ですわ~」

 

 皮肉げな様子でヴァルマが肩をすくめた。正直僕も同感だったが、頷くわけにはいかない。

 

「余裕のない時こそ、慣例はきちんと守るべきだろう。それが淑女というものだ。まあ僕は男だが」

 

 慣例、慣習を無視した行動をとり続けた人間が村八分にされるのは、江戸時代の農村もこの時代の領主貴族も同じだ。敵が多い自覚はあるが、だからこそ隙と捕らえられるような行動は慎まねばならない。

 

「降伏勧告の書状はもう用意してある。肝の据わったヤツに持たせて、レンブルク市に送ってくれ。まあ、流石に使者を手をかけるような真似はすまいが、一応警戒は緩めないよう言い含めておけよ」

 

 それから、一時間半後。レンブルク市に派遣した軍使が帰ってきた。ミュリン軍や市民から危害を加えられないか心配だったのだが、幸いにも死者はもちろんケガをしたものも居ないようだ。……生卵や生ごみを投げつけられたような形跡はあったが。流石に軍人がこのような真似をするとは思えないので、おそらくは一般市民がやったことだろう。敵性都市に部下を派遣するのはこれだから嫌なんだ。

 

「返答は?」

 

 憮然とした表情の軍使に、僕は無意味な質問をぶつけた。当然のごとく、彼女は首を左右に振る。

 

「トカゲやら乳牛やら芋くさ蛮族やらに下げる頭は持ち合わせていない、だそうです」

 

「キマッてるなぁ。え、なに? 守備部隊を預かってるのって、もしかしてアンネリーエ殿?」

 

「いえ。イルメンガルド殿の三女殿です」

 

「あの、家みんなあんな感じなのかな……」

 

 僕は少しばかりゲンナリして、ため息をついた。もしかしたら、ミュリン家の中ではイルメンガルド氏が一番マトモな手合いなのかもしれない。敵とはいえ殺さないよう注意したほうがいいかもしれないな。あの人が死んだら、事態の収拾がつかなくなる可能性がめちゃくちゃ高いぞ。

 

「まあ、それはさておきだ。君たち、よく頑張ってくれたな」

 

 僕はそう言って、軍使役に抜擢されていた騎士三名とそれぞれ握手をした。生ごみをぶつけられたせいか三名の身体からはすえたような臭いが漂っていたが、構うものか。

 

「危険と屈辱をものともせず、よく任務を果たしてくれた。ありがとう、感謝する。君たちは僕の誇りだ。……湯沸かしの許可を出そう、後方で身を清めてくるといい」

 

 騎士らの肩を叩き、笑いかける。はにかみながら下がっていく彼女らを見送ってから、僕は部下たちを見回した。

 

「さて、さて。差し伸べた手は振り払われた。ならば、やるべきことはただ一つ。城攻めだ」

 

 レンブルク市の連中が高圧的な態度を取るのは、自分たちの街の防御力に絶対の自信があるからだろう。実際、小競り合いの絶えぬこの土地で不落を維持しているのは、誇っても良い事実だ。彼女らが増長するのも致し方あるまい。

 だが、天狗の鼻は高ければ高いほどへし折り甲斐があるというものだ。彼女らのプライドの源泉たるあの白亜の城壁が崩れ去れば、同じような態度は二度と取れまい。僕は視線を指揮用天幕の外へと向けた。

 そこにいるのは、我がリースベン軍の誇る砲兵隊だ。山道の中ほどには多くの大砲が砲列をなしており、磨き上げられた青銅製の砲身が南国特有の苛烈な陽光を浴びてギラリと輝いている。その周りには、無数の砲兵たちが忙しげに働いていた。

 展開した大砲の数は、全部で十五門。内訳は完成したばかりの新型、一二〇ミリ重野戦砲が三門。リースベン軍の主力砲である八六ミリ山砲が九門、そしてヴァルマが持ってきた八六ミリ騎兵砲が三門。いずれもライフリングを備えた新型砲で、レンブルク側が持っているバリスタ(クソデカクロスボウ)よりも射程が長い。アウトレンジから一方的に攻撃が可能、ということだ。

 ちなみに、リースベン軍ではこのほかにもライフル兵中隊一つにつき三門の六〇ミリ迫撃砲が装備されている。いわゆる歩兵砲というやつだ。こちらはこちらで連射性の高い極めて強力な兵器なのだが、何しろ射程が一キロ未満だ。これでは敵バリスタの射程に入ってしまうので、今回は展開していない。

 

「あんなの、つかうより、ネェルが、突っ込んだ。ほうが、早く、ないですか? 弾薬、節約しなきゃ、駄目なんでしょ?」

 

 後ろに控えていたネェルが、そう聞いてくる。実際、その案も一応検討した。なにしろ彼女はすさまじい単体戦闘力を持っているうえ、空も飛べる。石壁などひとっ飛びだ。

 

「なぁに、切り札は最後まで温存しておくものさ。出番が来るまで、鎌を研いでいてほしい」

 

「ううむ。アルベール君が、そういうなら、結構ですが」

 

 残念そうに、ネェルは顔を引っ込めた。まあ、砲兵隊の攻撃だけでは敵が屈服しなかった場合、ネェルの出番もあるかもしれないがね。しかし、できれば彼女は温存しておきたい手札だ。どんな強力な手札も、連発していたら効果が薄くなるからな。"最初の一回目"をいつにするのかは、慎重に検討する必要がある。

 そもそも、この盤面でネェルを突っ込ませると、高確率で彼女は孤立する。翼竜(ワイバーン)だの鳥人だのといった他の航空戦力は、陸戦能力に難があるからだ。ネェルが空を飛んでいるうちはいいが、石壁を乗り越えて守備兵どもと交戦し始めたら援護できなくなってしまう。

 どんな強力なユニットも、単独で行動は厳禁。これは軍事の常識だ。戦艦だって空母だって戦車だって、護衛を引き連れているのが普通だ。ネェルの力を借りる時も、同じように運用する必要があるだろう。

 

「それに、今回は重野戦砲隊の初陣なんだ。晴れ舞台は彼女らに譲ってあげようじゃないか」

 

 僕はそういって、砲列の真ん中に布陣する大型砲に目をやった。コイツに比べれば、八六ミリ砲などおもちゃのようなものだ。

 

「さあて、砲兵諸君。お仕事の時間だ。僕の可愛い部下にゴミなんぞを投げつけやがった連中に、砲弾を投げ返してやれ! 対城塞射撃、準備開始!」

 

「撃ち方用意! 弾種、徹甲弾!」

 

 僕の号令に従い、砲兵たちが大砲に砲弾を装填し始める。さて、さて。レンブルク市の市壁と僕の大砲、どちらが強いか比べてみようじゃないか。

 

 

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