異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第509話 くっころ男騎士とゲームセット

 気付けば、東の空から太陽が顔を出していた。初夏のさわやかな朝日が、血みどろの戦場を照らし出す。死屍累々という言葉そのままの悲惨極まりない景色だった。とはいえ夜通し戦い続けたせいで敵も味方もすっかりくたびれ果てている。もはや干戈を交える元気もなく、おざなりに剣や槍を構え牽制合戦を続けるのがせいぜいだった。

 

「いい加減……倒れろ! 雌猫ォ!」

 

「貴様こそ粘るではないか、雌ドラゴンめ……!」

 

 いい加減に両軍ともいったん引いて態勢を立て直すべき状況だったが、そういうわけにもいかない。なにしろ両軍のトップとナンバーツーの一騎討ちがいまだに続いていたからだ。ソニアもアーちゃんもいまだに健在で、ファイティングポーズを崩していない。とはいっても、籠手を着けた手で殴り合いをしたものだからお互いボコボコのメタメタなひどい有様だ。体力自慢の竜人(ドラゴニュート)と獅子獣人とはいえいい加減限界が近いらしく、両者フラフラしている。

 

「体力馬鹿もここに極まれり、だなァ……。普段ならば賞賛するところだが、流石に飽いてきたぞ……」

 

「だったらさっさと降伏すれば良いだろうが……」

 

「もう引き分けということにしてアルベールは我らの共有物ということにしないか?」

 

「何回目だその提案は……断ると言っているだろうが……!」

 

 憤慨しつつも、ソニアは拳を構えたまま動かない。ダメージが足に来ているのだ。下手に動けばいよいよ限界が来て腰が立たなくなってしまいそうな様子だった。

 

「頭の固い女だ……ふん、これが終わったら貴様の目の前でアルベールを抱いてやる……後悔するなよ……」

 

 対するアーちゃんもソニアと大差ない有様だった。流石に今の彼女であれば僕でも正面から勝てそうに見える。たぶん手籠めにしようと襲い掛かってきてもなんとかなるだろう。……いや、"勝利の景品"としては、大人しく抱かれねばならないのだろうか? いや、いやいや。わざわざそんなことに付き合ってやる義務はあるまい。

 ……はぁ、大概僕も疲れ果てているな。頭がマトモにまわっていないように思える。なにしろ徹夜二日目……いや、三日目か? とにもかくにもヘトヘトだ。そろそろ限界が近い。酒の一杯でも飲んで布団に籠りたい気分になっていた。

 

「……まあ、それは敵さんも同じことか」

 

 敵陣のほうをチラリと見ながら僕は呟いた。精強なクロウン傭兵団の面々も、流石にこれほどの長期戦ともなると槍を構えることさえ億劫そうな様子になっている。まあ、そのおかげでソニアらの一騎討ちをノンビリ観戦していられるわけだが。

 

「舌では敵を打ち倒せんぞー! 拳を出さんか拳を!」

 

 そんな中でも元気なヤツが一人いた。ジョゼットである。銃身の曲がった小銃を掲げ、罵声だか声援だかわからないような言葉をソニアに投げかけている。おい、ジョゼット。そのライフルは僕のものだぞ。まさかまた棍棒にしやがったのか? 最新兵器を一夜のうちに二挺も用廃にしやがったぞこのボケナス。

 

「敵ながら良いことを言うじゃないか……!」

 

 が、ジョゼットの声援で奮起したのはソニアではなくアーちゃんだった。彼女は地面を蹴り、ソニアに殴り掛かった。最後の力を振り絞ったのだろう、ズタボロの外見からは信じられないほどの鋭い一撃だった。

 

「……ふんぬ!」

 

 が、どうやらそれはソニアの狙い通りだったようだ。彼女は紙一重でアーちゃんの拳をかわし、彼女の顔面に強烈なパンチを叩き込んだ。

 

「アバーッ!」

 

 文字通り鼻っ柱を叩き折られたアーちゃんは、鼻血を噴きながらブッ倒れた。そのまま、白目を剥いて動かなくなる。ソニアは拳を構えたまま荒い息を吐きつつしばらくそんな彼女を眺めていたが、起き上がってくる気配がないのを見て拳を天に掲げた。

 

「敵将! 討ち取ったりィ! 愛の勝ちだ!!」

 

 自陣の方から大きな歓声が上がる。対する敵陣からは、呻くような落胆の声が聞こえてきた。一騎討ちが終わらなかったからこそ惰性で続いていた合戦だ。これでいよいよこの戦いも終わりだろう。僕はホッと安堵のため息をついた。

 

「ホラホラ、王子様。勝者にはキチンとご褒美をあげないと」

 

 兜のバイザーを上げたジョゼットが、ニヤニヤ笑いを浮かべながらそんなことを言って来る。誰が王子さまやねん。

 

「はぁ……」

 

 とはいえ、ソニアが大変に頑張ってくれたのは事実であった。僕は大きく息を吐いて、ソニアに歩み寄った。すると彼女はやっと気の抜けた表情になり、そのまま崩れ落ちる。あわてて助け起こすと、ソニアはふにゃりと笑う。その顔は壮絶な殴り合いのせいでひどくボコボコになっていたが、ソニアの笑みはむしろひどく誇らしそうな様子だった。男を守ってついた傷は女の名誉なのである。

 

「御覧になられましたか、アル様。ソニアは見事に勝利いたしましたよ……」

 

「ああ、ああ。よく頑張ってくれた。格好良かったぞ」

 

「へへ、へへへ」

 

 少女のような声音で、ソニアは笑い声を漏らした。少しだけ考え込んでから、僕は彼女の唇にキスをする。鉄臭い香りが口いっぱいに広がった。

 

「んー」

 

 ソニアは嬉しそうにキスを返してくる。自陣からは冷やかしの声が、敵陣からブーイングが上がった。ハハハ、戦場で何やってんだろうな、僕たちは。

 

「さぁて、クロウン傭兵団諸君! 君たちの主君は倒れたわけだが、諸君らはどうする? まだ戦う気があるというのならば付き合うが」

 

 ソニアの頭を膝に似せつつ、僕は挑発的な笑みを浮かべた。むろん、虚勢である。いい加減に僕も限界だった。とはいえ、敵に弱気の顔を見せるわけにはいかないだろ。ここは強気で行く。

 事実上の降伏勧告を喰らったクロウン傭兵団はザワついた。それを見たアリンコ隊が無言で隊列を密にし、槍を構える。その穂先はクロウン傭兵団の方に向けられていた。流石はゼラだ。圧力のかけ方を心得ている。

 

「……アレクシア陛下、もといクロウン様が敗れた以上は是非もない。同じ相手に二度も膝をつくのは業腹だが、白旗を上げさせてもらおう」

 

 クロウン傭兵団から一人の女が歩み出てきて、兜を外してからそう言った。目を凝らしてみると、リースベン戦争の講和会議でも見た顔だ。たしか、クロウン傭兵団の副官だったか。アーちゃんが倒れている今、彼女こそがクロウン傭兵団の実質的なトップだろう。

 

「たいへん結構! それでは、こちらも矛を収めよう。皆の者、勝鬨を上げよ!」

 

「オオーッ!」

 

 疲労困憊でへろへろになりつつも、我が兵士たちは歓喜のこもった勝鬨の声を上げる。それを聞いた僕は、肩の荷が一つ降りたような心地になった。さあて、アーちゃんを倒しクロウン傭兵団を下した以上、後の敵は知将・エムズハーフェン選帝侯だけだが……。

 そこでふと、僕は遠くから何かの羽音が聞こえていることに気付いた。敵が鷲獅子(グリフォン)でも飛ばし始めたのかと思い、天を仰ぐ。赤と青が入り混じった払暁の空の中を、異形の物体が飛翔している。巨大な節操動物にしかみえないアレはもしや……

 

「ネェルか!」

 

 僕はソニアの頭を膝に乗せたまま、空のネェルに向けて手を振った。旗手が気を聞かせて、ブロンダン家の家紋の入った旗を高々と掲げてくれた。それに気付いてくれたのだろう。ネェルはヘリコプターめいた独特の羽音を立てながらグングンと接近し、土煙を上げて着地した。

 

「ウワッ、化け物か!?」

 

「そ、総員合戦用意!」

 

 クロウン傭兵団のほうがにわかに騒がしくなる。なにしろネェルは全身が返り血に染まった大層スプラッターな格好だった。正直、いくさ慣れした古兵ですら恐怖を感じるような恐ろしげな風体である。そんなヤツが空から降り立ったら、そりゃあビビりもするというものだろう。

 

「彼女は僕の部下にして友人だ! 貴殿らが停戦を順守するかぎり決して危害は加えない!」

 

 僕は苦笑しながら、クロウン傭兵団の面々にそう言い放った。そして、ネェルの方を見て片手を上げる。

 

「やあ、おはようネェル」

 

「おはよう、ございます。良い朝ですね。……おや、ソニアちゃん。ずいぶんと、手ひどく、やられて、いますね? 大丈夫、でしょうか」

 

 開口一番にソニアの心配とは、相変わらず気の回るカマキリちゃんである。ソニアは薄く笑い、なんとか起き上がって頷いた。

 

「ああ、大丈夫だ。むしろ、嫌いな奴をボコボコにできたおかげで気分は上々だとも」

 

「なるほど、それは良かった」

 

 いまだに地面で伸びたままのアーちゃんをチラリと見て、ネェルはほほ笑む。可愛らしい笑みだが、凄惨な返り血のせいでなかなかにコワイ。

 

「それはさておきだ。君がわざわざこっちへ来たということは、向こうの要件も始末がついたってことかな?」

 

 ネェルはわが軍の最高戦力だ。だからこそ、最重要任務である敵総司令の捕縛に投入したわけだが……この様子だと、そちらの仕事も終わったみたいだな。案の定、彼女はにっこり笑って頷いた。そして、背中に括り付けていたナニカを鎌の先にひっかけ、こちらに見せびらかす。

 

「このとおり、獲物は、しっかり、捕まえましたよ? あとで、しっかり、褒めたたえて、くださいね」

 

「きゅう……」

 

 ネェルが出してきたのは、縄でグルグル巻きにされて目を回す小柄な美女だった。その頭には、小さなケモミミがついている。あれは……カワウソ獣人だな。着込んでいる甲冑の特徴から見て、なかなかの貴人のようだ。もしやアレは……。

 

「敵指揮官、ツェツィーリア・フォン・エムズハーフェン選帝侯閣下は、ネェルが、生け捕りに、しました。いぇーい」

 

 そう言って、ネェルは誇らしげに笑った。

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