異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第527話 くっころ男騎士とロリババアエルフ

「ぬふふふふ……第一局の成果は、ひとまず上々といったところかの?」

 

 僕の膝の上に収まったロリババアは、ひどく上機嫌な様子でそう言った。時刻は既に夜中になっている。ミューリア城での晩餐会を終えた我々は、寝床へと戻ってきていた。ミューリア市にある一番高い宿の、一番いい部屋だ。

 カルレラ市の自宅の寝室よりもはるかに広く豪奢なその部屋には、僕とロリババア、そしてソニアの三人が詰めている。全員、寝間着姿だった。今晩はこのまま就寝する予定だ。もちろん、この三人でだ。この頃、僕はすっかり一人で寝る習慣が無くなっていた。

 

「だいぶ困ってたようだな、選帝侯閣下は」

 

 膝にちょこんと座ったロリババアの頭に顔をうずめつつ、僕はそう言った。彼女は風呂から上がったばかりで、良い香りがする。ロリババアと会うのは僕がミューリア市から出陣して以来になる。久しぶりの再会ということもあって、少しばかり彼女に甘えたい気分になっていた。

 

「そりゃあそうじゃろう。今やエムズハーフェン家は河賊を厳しく取り締まる側じゃが、かつては逆の立場じゃった。いきなりその過去をほじくられれば、誰であっても動揺する。むしろ、外向きの仮面を崩さずに対応できたツェツィーリア殿は流石というほかないの」

 

「試金石代わりにそんな大暴投をぶつけるとは、流石はダライヤだな。……一応言っておくが、褒めてはいないぞ」

 

 僕に頬擦りされるロリババアを羨ましそうにみながら、ソニアが言った。その目には微かに嫉妬の色がある。……この様子だと、寝床に入った後あれこれといたずらされてしまいそうだな。婚約して以降のソニアは、プライベート空間であればアデライド顔負けのセクハラを仕掛けてくるようになっていた。

 

「おう、おう。別に褒める必要はない。事実、あまり宜しくない手管なのは事実じゃしのぉ。汚れ役は、この婆に任せておけば良いのじゃ」

 

 外見にそぐわぬ冷たい声でそう言ったあと、ロリババアは僕に向かってチョイチョイと指を振った。そして、顔をこちらに向けて目を閉じる。キスしてくれ、ということらしい。離れ離れになっていた間、寂しい思いをしていたのは僕だけではないようだ。もちろんその要望に応えない理由はない。僕は彼女の唇に優しく口づけした。

 

「……なんかアル様、ダライヤだけにはやたら甘えますね。なんなんです?」

 

「いや、その、ウン……」

 

 とうとう嫉妬を隠さなくなった声音でソニアが指摘する。なにしろ事実なので、言い訳しにくかった。だって、しゃーないじゃん。このロリババア、人の心の隙間に入り込むのがうますぎるんだよな。やはり、この人の前ではダメ人間になってもいい、という安心感はデカいよ。

 

「ひひひ、出し抜いてしまってすまんのぉ? 伊達に歳を食っているわけではないのじゃよ、ワシも」

 

「しばくぞ」

 

「おお、怖い怖い。まあ、安心せぃ。ヒトの心をとろかす手管であれば、教えてやってもよいからのぉ。有難く学ぶのじゃ」

 

 ひひひと笑いながら、ダライヤは偉そうなことを言う。ソニアはフグのようにぷくっと頬を膨らませ、無言で僕の背中にのしかかった。そのまま、首筋をかぶがぶとあまがみしてくる。痛くはないが、むず痒い。思わず苦笑して、彼女の頭をぐりぐりと撫でた。

 

「……おい、ダライヤ。例の手管とやらについて教えろ。お前だけが状況を把握しているのは気に入らない」

 

「誘惑の手管のことかの?」

 

「それはアル様の居ないところで聞く。あのカワウソ女に使ったヤツの方だ」

 

 ソニアの口調は端的だった。……いないところで聞くって何よ、ナイショ話?

 

「いきなりああいう手段に出て、選帝侯が怒り狂ったらどうするつもりだったのだ。厄介なことになっていたのではないか?」

 

「そうなったらそうなったで、やり方はいくらでもあった。相手がどう反応しようが、最終的には我らの益につながればそれでよいのじゃ。そのための手は打っておるのでな。ま、安心せぃ」

 

「どうだか……」

 

 ため息を吐くソニア。吐息が耳に当たってたいへんにムズムズする。しかし、アレだね。最近のソニアは交渉やら謀略やらにも興味を示すようになってきたな。頼もしいことこの上ないが、彼女におんぶにだっこというわけにもいかん。僕は僕で、しっかり勉強し始めた方がいいだろうな。

 

「それに、今回あのツェツィーリア殿が示した反応は最上に近いモノじゃったよ。思った以上に良い結果になるかもしれん」

 

「ふうん。確か、選帝侯閣下は初代様とやらの武勇伝が聞きたいと言っていたな。あれが、良い反応なのか」

 

「うむ、そうじゃ。ゲアリンデの名を聞いた時の反応からして、ツェツィーリア殿も初代の悪行は知っておるはず。その上で武勇伝だの歴史の再編纂などという言葉が出るということは、つまり……」

 

「エムズハーフェン家にとって都合の良い、嘘の武勇伝を語ってくれると。そういう期待をしているわけだな?」

 

 納得した様子でソニアが頷いた。

 

「うむ。少なくとも、そういう取引ができる相手としてワシを見ているのは確かじゃな。過小評価されすぎて交渉の席にすら付けないような有様とか、あるいは畏れられすぎてワシの一挙手一投足すらも深読みされてしまうとか、そういう状況が一番よろしくない。手強い交渉相手としてみられるのが一番良い塩梅じゃろうな」

 

「なるほどな」

 

 納得した風に答えてみても、実際のところ僕の頭ではすべてを理解することはできないというのが正直なところだった。口を動かしながら、よくもまあそんなところまで気を回せるものだ。

 

「やっぱり、政治ってやつは難しいな。僕もそろそろ本格的に勉強しなきゃ不味いよなぁ……」

 

「おっと、勘違いするでないぞ。此度のツェツィーリエ殿との会話は、政治でもなんでもない。たんなる交渉前のさや当てじゃ。そして、交渉と政治を一緒くたにしてはいかん。むろん、優れた政治屋は優れた交渉術を持つものではあるがのぅ」

 

 尻をもぞもぞさせながら、ダライヤはふふんとどや顔でいった。やめなさい、膝の上でもぞもぞさせるのはやめなさい。わかっててやってるだろ君。

 

「そうなの?」

 

「うむ。政治というのは、基本的に二つの要素からなる。一つは人脈の構築と維持、そして二つ目がその人脈を活用して必要な便宜を引き出すことじゃ」

 

 教師のような口調でロリババアは解説した。こういうシチュなら、伊達眼鏡でもかけてくれるとアガるんだけどな。ヴァルマみたいにさ。

 

「逆に言うなら、面倒な交渉抜きでこの二者を達成できるというのなら政治に交渉はいらん。まあ、そんな都合の良い状況はまず起こらぬがのぅ……」

 

「……それって、アル様では? 交渉抜きでスオラハティ家やアデライドなどの後援者を得て、そのままいくさの技量で出世したわけですし」

 

 ソニアの指摘に、僕は思わず苦笑した。言われてみれば、確かにその通りだ。事情を知らない人が見たら、僕はとんでもなく政治、あるいは交渉の美味い人間に見えるかもしれない。……いや、たんに色仕掛けが上手いだけの悪男扱いされる可能性の方が高いかもしないけどな。

 

「ま、そういうことじゃ。……ま、確かにこの手の技術は磨いておくに越したことはないがのぉ。じゃが、あのカワウソ殿はオヌシらのようなヒヨッコが相手をするにはいささか手強すぎるからの。此度はワシに任せておくのじゃ」

 

「ういっす」

 

 餅は餅屋に任せるべし。まあ、当たり前と言えば当たり前だな。実際、リッペ市での会議では僕はエムズハーフェン選帝侯閣下に完敗している。だからこそ、ここまで戦線を下げてダライヤと合流したのだ。いまさらしゃしゃり出てロリババアの邪魔をする気はない。

 

「とはいえ、今後の方針くらいは聞いておきたいな。さすがに、丸投げという訳にもいかないからさ」

 

 ただし、このロリババアは放置しておくと本当にロクなことをしない。しっかりとした監視は必須だった。とはいえ、これは有能な人間あるあるだからなぁ。こればっかりは仕方がない気もする。

 

「方針と言っても、のう? 残す仕事は、せいぜい賠償金の支払いの有無とその金額くらいじゃろう。この程度の仕事などは朝飯前に済ませる程度のシロモノじゃから、オヌシが気にする必要はない」

 

 つまらさそうにそういうダライヤだが、こんな発言を真に受けるのはロリババアの性格を理解していない人間だけだ。コイツ、明らかに何か悪だくみをしてやがる。

 

「おい、あまり派手なことをして、敵を増やすような真似はするなよ。ただでさえ、ウチは方々から睨まれてるんだ。これ以上妙なことをやらかしたら、いよいよ尻に火がつくかもしれんぞ」

 

「わかっとるわかっとる。敵など作ったりせぬから、安心せい」

 

 ダライヤはそう言いながら手をひらひらと振った。……大丈夫かなぁ? これ。正直、かなり心配なんだが……

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