異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第64話 くっころ男騎士と立て直し

 第一防衛線からの撤退は二度目ということで、比較的スムーズに進んだ。僕はコレットを抱えたまま、なんとか切通を超えて台地まで後退することに成功する。

 

「ソニア!」

 

 そこで頼りになる副官の姿を見つけた僕は、大きな声を上げた。ピカピカに磨いてあったはずの全身鎧は土まみれのひどい状態になっているが、動きから見て大きな怪我をしている様子はない。安堵のあまり身体から力が抜け落ちそうになるが、なんとか堪える。本当に無事でよかった。

 

「ご無事でしたか」

 

 ソニアのほうもそれは同じらしく、いつものクールな表情を崩して目に喜色を浮かべた。そしてちらりとコレットの方を見る。

 

「そっちは?」

 

「僕を庇ってこんな有様だ」

 

「ほう」

 

 感心した様子で、ソニアはニヤリと笑う。

 

「新兵の癖になかなか根性が入っていますね」

 

「ああ、ここで失うには惜しい人材だ」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 コレットは顔を真っ赤にしていた。男にお姫様抱っこ(この世界風に言うと王子様抱っこか)された状態でここまで連れてこられた彼女は、周囲から注目の的になっていた。この世界の価値観としては恥ずかしくてたまらないだろうが、緊急避難なので許してほしい。今さらだが、抱っこより背負った方がよかったよな絶対。本当にすまない。

 

「代官様! そいつを預かりましょう」

 

 傭兵の一人が出てきて言った。よく見ると、以前僕の前にコレットを連れて来た狼獣人だ。彼女に任せておけば大丈夫だろう。

 

「任せた。お前は後方に下がっていい、手当てしてやってくれ」

 

「ええ、任せてください。衛生兵に預けたら、すぐに復帰しますんで」

 

 頷く傭兵をコレットを押し付け、僕はソニアに視線を戻した。彼女のことは気になるが、今は敵を押さえるのが最優先だ。

 

「とにかく、現状そのままではなんともならん。戦いの主導権は明らかに向こうが握っている」

 

「砲兵隊の撤退指揮にかかりきりになってしまい、現状の把握があまりできていません。説明をしていただけませんでしょうか?」

 

 ソニアは自分を恥じるような口調で言った。とはいえ、最前線に配置していた砲兵壕から人員と大砲を無事に撤退させるというのは、かなりの難事だったはずだ。特に大砲は、今僕が考えている作戦では絶対に必要になる要素の一つだ。彼女を責めることなどとてもできない。僕は軽く笑って頷いた。

 

「今のところ、騎士と傭兵の混成部隊に防御を行わせている。早めに増援を寄越さないと、突破される可能性が高い。騎士隊はそちらに全力を投入するほかないな」

 

 どうも敵の練度は伯爵軍の重装歩兵部隊よりも高いようで、ずいぶんと苦戦している。今は地の利と残存する銃兵隊の支援によってなんとか持久しているものの、放置すれば一時間もせず壊滅する可能性もある。精鋭部隊には精鋭部隊をぶつけるほかない。

 しかし、あの傭兵団はいったい何者なんだ? 鷲獅子(グリフォン)の運用といい、異様な練度の兵士たちといい、明らかに普通ではない。

 

「よろしくないですね。騎士隊を防御戦闘にかかりきりにさせると、こちらが取れる選択肢が大幅に制限されることになります」

 

「ああ、まったく愉快なことだ」

 

 本音で言えば、愉快どころかまったく面白くない。許されるなら、クソッたれめと大声で叫びたい気分だった。

 序盤戦で大勝できたのは、新戦術や新兵器を用いることで伯爵軍に受動的な対応を強い、能動的な行動をするためのリソースを奪っていたからだ。それに対して、今はこちらが受動的な動きしかできない状況に追い込まれている。これは非常にマズイ。

 

「とはいえ、今は耐えるしかない。台地に引き込んで逆襲、なんて手はもう使えないからな」

 

 ライフルの射程を知っていたあたり、敵傭兵団は伯爵軍と戦訓の共有を行っているはずだ。敗北したパターンをそのままなぞってくれるはずがない。その上、こちらはライフル火力が著しく減退しているからな。あの時と全く同じ作戦を取るのはこちらの戦力的にも無理だ。

 

「だからこそのプランCだ。僕はまだ勝利をあきらめていない。だいぶ分の悪い賭けになるが、付き合って欲しい」

 

 プランCは、もうにっちもさっちもいかなくなった時に一発逆転を狙うために立てた作戦だ。当然、成功率はあまり芳しいものではない。すべてをあきらめて白旗を上げるよりはマシ、程度のものだということだな。

 

「ええ、もちろん。わたしはアル様の副官、凱旋パレードだろうが地獄だろうが、どこへでもいつまでもお供いたしますので」

 

「……ふん、嬉しいことを言ってくれる」

 

 やめろよそういうの。ちょっと泣きそうになっちゃっただろ。この副官は、まったく……。

 

「よし、じゃあすまないが総指揮はお前に任せた」

 

「……えっ?」

 

「いや、本当に悪いと思っている。しかし、何が何でも排除しなきゃいけない敵が一人いる。わかるな?」

 

「……あの魔術師ですか」

 

「そうだ」

 

 口をへの字にして腕を組んだ。

 

「ヤツのせいで戦局が逆転したんだ。あのクソデカ攻城魔法をもう一度撃たせるわけにはいかない。僕がヤツを排除する」

 

 あんなのがまたブチこまれたら、今度こそ僕の部隊は潰走以外の選択肢を失ってしまう。あんな大魔法はそうそう連発できないと思うのだが、戦闘が二日三日と長引けば戦線復帰してくるだろうしな。それに、万が一ということもある。ヤツの排除は必須事項だ。

 

「……わかりました、お任せください」

 

 こういう時に、打てば響くようにこちらの意図を察してくれるのがソニアの素晴らしい点だ。彼女は決意に満ちた瞳で頷く。

 

「ちなみに、一応お聞きしますが……いったいどういう手段で魔術師を倒すおつもりですか? ヤツはおそらく、敵の後衛にいるはずです。肉薄するのは非常に難しいと思うのですが」

 

「もちろん、肉薄なんかしない。正攻法で行くよ、狙撃だ」

 

 僕は戦略級魔法なんて使えないが、銃ならこの世界の誰よりもうまく扱える自信がある。ひと一人を殺すのに、大威力の魔法なんか必要ない。銃弾が一発あれば十分だ。

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