異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第68話 くっころ男騎士と敵の正体

 それからは僕も戦闘に参加し、敵兵と押し合いへし合いを続けた。敵傭兵団は、やはり手強い。練度としては伯爵軍の精鋭部隊にすら勝っているように思える。おそらくは、どこぞの大貴族の子飼いだろう。なんでそんな奴らがこんな田舎の地域紛争に……オレアン公の差し金か? などと思ってしまうのだが、今はじっくり考え事をしている余裕はなかった。

 何しろ敵は数も質もこちらに勝っている。伯爵軍と戦っていた時と違い、こちらの戦死者もジリジリと増えていく。極端に戦場が狭いので、なんとか戦えているだけだ。広い場所に出たら、一瞬で摺りつぶされるだろう。

 

「……後がありませんね」

 

 長槍兵に襲い掛かる敵兵に銃弾を浴びせていた僕に、ソニアがそっと呟く。正面からの圧迫を受けてジリジリと後退していた僕たちの部隊だったが、とうとう切通のある場所まで押し込まれていた。

 この切通の向こうは二日目に伯爵軍を迎え撃った台地がある。そこまで押し出されたら僕たちはおしまいだ。攻城魔法によって銃兵隊の半数が死亡している。あの時の戦術を再現するには火力が足りない。もっとも、一度成功した戦法をそのままなぞったところで、敵はある程度対策してくるに決まっているが……。

 

「あと何分持たせたらいい?」

 

「十五分」

 

「よろしい」

 

 キッツイなあ。今までは後退しながらの戦闘だったから、それでも被害は抑えられた。しかし、その場を動かずに堅守するとなると、どれだけの味方がやられるやら見当もつかない。こちらは既にボロボロで、その十語分のうちに致命的な損害を被る可能性は非常に高い。

 ……本当にどうしようか。攻勢に転じられるだけの戦力を保ちつつ、あと十五分持久し続ける。だいぶキツイ。正攻法は思いつかないな。僕が前に出て敵を挑発しまくったら、また一騎討ちに応じてくれるかな? ワンチャンあるような気がするが、一騎討ちでの時間稼ぎはすでに一度やってるしな……

 

「しょうがないか」

 

 まあ、最悪僕に攻撃を集中させ、それで隙を作るという手もある。何しろ僕は激レア職、男騎士だからな。割と殺さずに生け捕りにしようとする敵が多い。そこに付け入る隙がある。

 そんなことを考えていると、いつの間にか戦場の喧騒が消えている。敵陣に目を向けると、兵士たちが潮が引くように後退していた。はて、と悩む暇もなく一人の偉丈夫が前に出てきた。特徴的な漆黒の鎧。あの黒騎士だ。

 

「アルベール・ブロンダンは居るか? いるのであれば、我の前に出てくるがいい!」

 

「ほう、ご指名か」

 

 ソニアに目配せすると、彼女は静かに頷いた。敵の方から時間を浪費してくれるなら、こんな有難いものはない。長槍を構えて警戒する歩兵たちを押しのけ、前に出る。

 

「僕がアルベール・ブロンダンだ。何用か!」

 

「もちろん、降伏の勧告だ。貴殿らはもう壊滅を待つだけの身だ。まさか、最後の一兵まで戦うつもりでもあるまい」

 

 朗々とした声で語る黒騎士。こいつがこの傭兵団の頭だろうか? そうではなくとも、態度から見れば幹部級なのは明らかだ。こいつをおちょくれば、時間は稼げそうだな。

 

「断る。こちらは小さな傭兵団と貧乏騎士の寄り合い所帯だ。身代金を払えるものなど、片手の指で数えられるほどしかいない。降伏したところで、大半が殺されてしまうだろう!」

 

「無論、そんなことはしない。諸君らの安全は我の名誉をもって保証する」

 

「名も名乗らん相手の名誉など、信用できるものか!」

 

 いや、本当にお前は誰だよ。あれだけの装備と人員を持つ傭兵団だ。只者じゃないのは確かだろうが。

 

「おっと、失礼した。我はクロウン。この傭兵団の長だ」

 

道化師(Clown)? 露骨な偽名だな」

 

「ハハハ……いかにも、その通り。本名はみだりに名乗らぬことにしているが、信用できんというのなら仕方がない。きみはこんな戦いで殺すにはあまりに惜しい人間のようだからな」

 

 黒騎士が後ろに目配せする。すると、大きな旗を担いだ兵士が現れる。兵士は竿に巻き付けられていたその旗を解くと、高々と掲げて見せた。旗に描かれた紋章は、金獅子。見覚えはある。いや、この大陸西方地域でこの紋章を知らない貴族など存在しないだろう。

 

「リヒトホーフェン家の家紋……!?」

 

 リヒトホーフェン家。それは、二百年にわたって神聖帝国の皇帝位を独占し続ける名家中の名家だ。僕たちガレアの騎士からすれば、宿敵と言っていい手合いである。こんな辺境で目にすることなどあり得ない紋章を前にして、僕の背中は粟立った。

 

「我の本名は、アレクシア・フォン・リヒトホーフェン。神聖オルト帝国の先代皇帝である」

 

「……」

 

 おいマジか、という目をソニアに向ける。彼女は無言で頭を左右に振った。これが嘘なら、彼女はタダでは済まないはずだ。先代皇帝を名乗る不埒な輩が傭兵団を率いている。そんなことが神聖帝国の帝室に露見したら、どう考えてもそのメンツにかけて全力で潰しに来るはずだ。

 そんなリスクを背負って、僕たちにわざわざ先代皇帝だと詐称するメリットは流石に無いのではないだろうか。おまけに、あの異様なまでに高い練度と上等な装備。さらには戦術級魔法をたった一人でぶっ放す魔術師……詐欺目的にしては気合が入りすぎだ。……非常に残念ながら、自称アレクシア氏の発言は真実であると考えた方が自然だった。

 

「ふざけるなよ……」

 

 僕は思わずうめいた。ディーゼル伯爵家だけでも厄介極まりないのに、なんでこんなことになるんだよ。


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