異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第71話 くっころ男騎士と終局

 わーい、生まれて初めてどころか二度の人生を通して初めてプロポーズされたぞ! なんて喜んでいる暇はない。いくら顔が良くて地位が高くても性格がイカレポンチすぎる。普通にノーセンキューだ。

 

「くっ……殺せ!」

 

「ははは! どこかで聞いたセリフだな。しかし、キミほどの男を殺すなど……」

 

「……とでもいうと思ったか! 誰が死ぬかよバカヤロー!」

 

 もちろん、死ぬ気なんかない。勝ち戦で死ぬことほど馬鹿らしいことはないからな。僕は叫びつつ、サーコートの左袖から生えた短い紐を引っ張った。すると、突如として服の表面が爆ぜて連続した爆発音が響く。このサーコートの裏地には、大量の爆竹が縫い込まれているのだ。

 

「ンンッ!?」

 

 さすがのアレクシアも、これには面食らう。動揺して身を固くした隙に、体をひねって強引に拘束から脱した。押し倒されているうちに、体のしびれはだいぶ回復していた。

 

「よくもアル様に! 許さんッ!!」

 

 慌てて僕の腕を掴もうとしたアレクシアに、ソニアの飛び蹴りが突き刺さる。先帝陛下は地面をバウンドしながら十メートルは吹き飛んだ。

 

「うっ、この……ッ!」

 

「うちの代官様になんてことしやがる!」

 

「殺せ! いや、生け捕りにして生まれてきたことを後悔させてやる!」

 

 ふらふらと立ち上がろうとしたアレクシアだったが、そこへ長槍を手にした歩兵隊が殺到してくる。いかに優れた剣士でも、徒手空拳で長槍兵に勝てるはずもない。何本もの槍の穂先で殴られ突っつかれた彼女は、流石に悲鳴を上げた。

 

「痛っ、あだっ! この、やめんか! 我を誰だと……」

 

「極上の手柄首に決まってるだろうが! 首よこせ首!」

 

 一人の兵士が拾ってきてくれたサーベルを構えつつ、僕は大声で叫んだ。

 

「お引きください、陛下! もうこの戦いは駄目です!」

 

 槍兵から逃げ回るアレクシアの肩を、ひどく焦った様子の帝国騎士が引っ張った。それに続いて傍仕えと思わしき騎士が集まり、槍兵隊からアレクシアを庇う。

 

「こんな首狩り族みたいな男と戦っても、百害あって一利もありません! ここは退くべきです!

 

 首狩り族と来たか。まあビビってもらえるんならなんでもいいや。サーベルを振り上げ、威嚇してみる。帝国騎士は明らかに警戒した様子でもう一度アレクシアを引っ張った。

  しかし、敵も明らかに焦っているな。完全に思考が撤退の方向へ傾いている様子だ。正面から戦えば絶対に勝てないような精兵でも、こうなってしまえば対処は容易い。戦闘において最も重要なのは、装備でも練度でもなく士気なのだ。

 

「あの爆発も気になります。もしかしたら、ニコラウス殿と同じクラスの魔術師が敵方に居るのやも……」

 

「う、うむう」

 

 アレクシアは唸った。まあ、敵としては一番気になるのはそこだよな。この世界では爆弾という概念はあまり普及していない。手榴弾レベルの小爆発ならまだしも、大きな爆発なら魔術を用いた方が手っ取り早いからだ。そのため、先ほどの路肩爆弾も魔術によるものだと誤認しているようだ。

 爆弾は一発限りだが、魔術は術者の魔力さえなんとかできれば再使用できる。またあんな攻撃を受ければ……という恐怖は、僕たちもつい先ほど味わったばかりだ。帝国兵の肝もさぞ冷えていることだろう。

 

「万一前後から挟み撃ちでもされたら、いかに我らと言えど……あなた様は、このような場所で果てて良いお立場ではありません! ご決断を!」

 

 じりじりと距離を詰める長槍兵たちを剣で牽制しつつ、帝国騎士は嘆願する。長槍兵の後ろには、小銃を構えた銃兵隊や騎士たちも居る。主君を守らなければならない立場の彼女たちからすれば、さぞ胃の痛む光景だろうな。

 

「……致し方ないか。ミスリルはともかく、アルベールの方はまた今度勧誘すればよい話ではあるし」

 

 ……今、ミスリルって言ったか? やっぱりバレてるじゃないか! いったいどこのどいつがおもらししたのか、戦争が終わったらキッチリ調べなきゃならんな。オレアン公の配下にスパイが紛れ込んでいる、というのが一番妥当な線だろうが……まったく、頭が痛くなってきた。

 

「よし、総員一時撤退せよ! 態勢を立て直す!」

 

 僕はその言葉を聞いて頬が緩んだ。アレクシアは判断を誤った。この状況での正着は、こちらの攻撃を正面から受け止め逆襲することだ。一時的に押されるかもしれないが、こちらの兵力は限られている。いずれリソースが尽きて戦況は逆転するだろう。近衛隊は、あくまで一時的な混乱をきたしているだけなのだ。

 そんなことはもちろん、アレクシアも理解しているだろう。しかし彼女はその判断ができない。なぜなら、後方で起きた爆発の正体がまだわかっていないからだ。居もしないこちらの戦術級魔術師を警戒しているため、積極策は選択し辛くなっている。

 

「撃てーっ!」

 

 この隙を逃せば勝機はない、僕は叫んだ。一斉に銃声が響き、近衛の騎士たちの甲冑に銃弾が命中した。しかし、倒れる者はいない。本当に丈夫な甲冑だよな……。

 とはいえ、撃たれた方も平静ではいられない。彼女らは悲鳴こそ上げなかったものの、慌てた様子でアレクシアを後退させ始めた。ここまでくれば、あとはグイグイ戦線を押し込むだけだ。態勢を立て直す隙なんか与えない。

 

「帝国の腐れ外道どもにはここで引導を渡す! 総員、突撃!」

 

 これまでの防戦でフラストレーションがたまり切っていた味方の兵士たちは、獣のような叫び声をあげて敵陣へ殺到した。当然、敵も精鋭。反撃は苛烈で、こちらの兵は次々と切り殺される。しかしそれでも傭兵たちは怯まなかった。戦友の屍を踏み越え、槍や剣を振るう。なにしろ相手は帝国最高峰の騎士たちだ。それを倒したとあれば、騎士身分へ取り立ててもらえる可能性すらある。

 対する帝国兵は、明らかに動きの精彩を欠いていた。何しろ敵は男騎士、死ぬまで奮戦したところで得られるのは栄光でも名誉でもなく嘲笑なのだ。何が何でも死守してやるという気概が沸いてくるはずもない。それどころか、隙があればあわてて撤退しようとする者すら居る。士気の差は歴然だった。

 

「殺した敵兵の戦利品はすべてお前たちの物だ! ボーナスタイムだぞ、気張って行け!」

 

 最前線のすぐ後ろで、僕は傭兵隊へハッパをかけた。その声に背中を押されるようにして、傭兵たちは攻め手をさらに激しくする。結局、三十分もしないうちに近衛隊の撤退は潰走へと姿を変えた。

 

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