異世界転生して騎士になった僕(男)は、メスオークどもからくっころを強要されていた。    作:寒天ゼリヰ

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第88話 メスガキ騎士と猥談

 それからの日々は、慌ただしく過ぎていった。私、カリナ・フォン・ディーゼル……改めカリーナ・ブロンダンは、毎日毎日気絶寸前になるほどの強烈な訓練が課され、へろへろになっていた。

 

「ふひい……」

 

 代官屋敷の中庭にある練兵所で、私はぶっ倒れていた。訓練着はちょっと絞るだけで大量の水気が出てくるほど汗でべちょべちょだ。アルベール、もといお兄様の『泣いたり笑ったりできないようにしてやる』という言葉は脅しでもなんでもなく、その訓練内容は凄まじいものがあったわ。

 朝は日が昇る前から起床ラッパ(と、お兄様が剣の鍛錬で上げる謎の奇声)でたたき起こされ、ランニングやら腕立て伏せやら水泳(今まで泳いだ経験なんてなかったから、危うく溺れかけた)やら様々なトレーニングをやらされる。しかもその合間合間に計算問題をやらされるのだからもうびっくりよ。疲労困憊状態でも頭を働かせられるようにするための訓練……らしいけど。

 訓練はバカみたいに厳しいし、おまけにベッドシーツのシワや軍靴の汚れに対してまでいちいち文句を言われる。そこらの貴族の子弟なら癇癪を起しそうなほどのひどい生活環境だけど……私は充実していた。

 

「ふへへへ……」

 

 自然と笑みがこぼれる。脳裏に浮かぶのは、当然お兄様の顔。なにしろ兄妹だ。スキンシップと称してセクハラしても許される間柄である。実際、休憩時間にちょっとベタベタしてみても、お兄様は嫌がらなかった。結婚云々は勘違いだったけど、これはこれで最高でしょ。やっぱり私、大勝利じゃない。

 

「エロくて綺麗な兄なんて、もうファンタジーみたいなもんでしょ。(エロ)本じゃないと許されないヤツだと思ってたわ」

 

 隣に転がっているロッテに自慢する。たんなる小間使いだったはずの彼女は、気付けば私と同じ訓練兵のような扱いを受けていた。給金が上がると聞いて、二つ返事で了承してしまったらしい。

 

「カリーナはそればっかりッスねえ」

 

 ロッテは私を呼び捨てにする。相手は平民、そして私は伯爵令嬢。以前なら、絶対こんな言葉遣いは許さなかった。でも今は、自然と受け入れられる。一からやり直さなきゃいけない、という意識があるせいだろう。ま、そもそも今の私は偉そうにできる立場じゃないけどね。

 

「羨ましくない?」

 

「……ショージキ、羨ましいッスね!」

 

「でしょ! 堂々と抱き着いても許されちゃうのよ、私!」

 

「い、一日代わってほしいッス……」

 

「駄目に決まってるでしょ」

 

 お兄様はスケベだ。もちろん、スケベなのは性格じゃなくて雰囲気が、よ。ただでさえ妙な色気があるのに、平気で薄着になる。露出が増えても全く頓着しない。たぶん、女社会である軍隊に慣れ過ぎて感覚がマヒしてるんでしょうね。

 でも、こちとら思春期真っ最中。目の前にそんなスケベな男がいたら、当然痴的好奇心をくすぐられてしまう。私も、もちろんロッテもそうだ。私たちの間で交わされる猥談の主役は、とうぜんいつもアルベールお兄様だった。

 

「いやー、しかし……ごつい男って、正直あんまり興味がわかなかったんだけどね、気付いたらなんかイケるようになってたのよね。むしろアレがいいっていうか……」

 

 鍛えているだけあって、お兄様は結構筋肉質だ。着やせするタイプなのか服の上からではわかりづらいけど、薄着になりがちな夏場ともなると誤魔化せない。

 男は小柄で童顔が良い、という風潮は神聖帝国にもガレア王国にもある。そういう意味では、お兄様はあまり一般受けする容姿じゃないんだけど……変に色気があるのよね。綺麗で清純な顔つきなのに、エロいことをしてもなあなあで許してくれそうな雰囲気というか。それが私たちの性癖をおかしくしてるんだと思う。

 

「いや、ほんとそうッスよ。初対面じゃ、なんだこのゴリラ、なんて思ってたんスけど。……女の筋肉はムサいだけなのに、不思議と男の筋肉はエロい。なんなんスかね?」

 

「アンタそれヴァルヴルガさんに聞かれたらシバかれるわよ……」

 

 ロッテの保護者である熊獣人を思い出しながら、私は唸った。あの人は、母様と並んでも見劣りがしない素晴らしい筋肉を持っている。

 

「今日は朝から屋敷を出てるので大丈夫ッスよ」

 

 しかし、ロッテはヘラヘラしていた。この娘、妙なところで肝が太いのよね。いや、休憩中とはいえ練兵場の真っただ中で堂々とこんな話をしている私も大概なんだけど。

 

「話は戻るッスけど、やっぱりさわり放題ってのはマジで羨ましいッスね。こう、首筋とか、スーッと指先で撫でたりしてみたいんスけど。それでちょっと、エロい声とか出されちゃったりして」

 

「あー、確かにそれはイイかも」

 

「自分よりデカい男をテクニックだけで鳴かせまくるのも、結構ロマンだと思うんスよ。お前なんて指先一つでメロメロだぜ、みたいな……」

 

「焦らしに焦らしまくって、自分から挿入をせがませるくらいはやりたいわよね。ワカルワカル」

 

 なんて話していると、足音が近づいてきた。慌てて体を起こすと、私たちの教官役の騎士がいた。お兄様の部下の一人、ジョゼットさんだ。

 

「君たちねえ……さっきから聞いてれば、まったく馬鹿らしい」

 

「アッスイマセン!」

 

「気の迷いです! ごめんなさい!」

 

 自分たちの上官で卑猥な妄想をするなど、許されるはずもない。お兄様の部隊では鉄拳制裁は禁止されているけど、罰走くらいはやらされるかもしれない。私たちは顔を青くした。

 

「アル様のあの凛々しいお姿を見て、そんな感想しか出てこないの?」

 

「ごめんなさい」

 

「そんなアル様にご奉仕される、そういうシチュがいいんじゃないの」

 

「は?」

 

「仕事とベッドで主従が入れ替わる、こんなに興奮するシチュエーションは無いと思うのよ」

 

 ……わかる! でも、まさかお兄様の腹心のひとりがこんな馬鹿らしい話題に乗ってくるなんて思わなかったから、私の頭は真っ白になっていた。

 

「あの……怒らないんですか? 私たちのこと」

 

「そりゃ、本当なら るべきだけど……」

 

 ジョゼットさんは怒ったような顔で言った。

 

「私をふくめた騎士隊のみんなが、子供のころからアル様と一緒に訓練を受けたのよ? 同性みたいな距離感で話しかけてくる異性が四六時中傍にいたら、そりゃあ性癖もめちゃくちゃになるというものよ! 劣情を抱かれても、そりゃあアル様の自業自得なのよ!」

 

「ああ……」

 

「あなた達を叱ろうにも、私を含めてみんな一度はアル様をオカズにした経験があるのよ。今さらどのツラ下げて説教しろって話よね。もはや通過儀礼みたいなものなのよ、アル様でエロい妄想をするのは」

 

 ……い、いやな通過儀礼もあったものねえ。


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