シャドウバースのDOCローテーションで遊ぶ竜ヶ崎ヒイロがアンリミテッドのアーティファクトデッキと戦うだけ。
──教室
竜ヶ崎ヒイロは目が痛くなるほど強い日差しを浴びているというのに眠そうに瞼をこすっていた。昨晩遅くまでゲームでもしていたのか、目元には僅かな隈が見受けられる。成長期の睡眠不足は身長に深い打撃を与えると言うのに大したものだ。
恥も外聞もないのだろう。竜ヶ崎ヒイロは周囲の眼も気にせず大きくあくびをした。
「また夜更かしじゃんね?」
じゃんね。と言う特徴的な言葉遣いをする友人は一人しかいない。進藤カズキである。
「まあな。なんせシャドウバースに休みはない。手を鈍らせないように毎日デッキと語り合うのが真のシャドウバーサーって奴だ。それに……」
ヒイロは自慢の宝を見せるように大事そうにポケットからスマホを取り出す。その表情は友人のカズキでも滅多に見ないほどにニマニマと崩れていた。みっともない顔だ。
だというのにヒイロは隠しもせずにスマホの画面をカズキに見せつけた。
ヒイロが楽しそうなのはいつものことだが、ここまで楽しそうなのは他に類を見ない。カズキは興味津々にスマホの画面を覗いた。
「これって! DOC期のグランドマスターの称号じゃんね!」
ついつい大声が出る。
カズキの反応にヒイロは自慢気だ。照れを隠すように頭を掻きながらグランドマスターになった昨夜のことを語り始める。
「いやぁ、昨日は調子よくって一日で1000MPも盛れたんだよ。デッキと心が一体化してる気がしてどんな相手でも勝てるって確信があった」
確信。
グランドマスターを志す者たちは全て強敵だ。それなのにヒイロは強気に確信したと言ってのけた。
よっぽど昨晩はシャドウバーサーとして覚醒していたようだ。
話を聞いていたカズキはグランドマスターに至る男の含蓄のある言葉に深い感銘を受けているようだった。
「さすがはヒイロじゃんね! 俺も負けてられないじゃんね!」
ヒイロを声高に褒め称えるカズキも負けず劣らずのシャドウバーサーである。
ここが学校なのを忘れてスマホを取り出し、シャドウバースを起動していた。
「カズキなら絶対今期もグランドマスターになれるぜ。だって俺の友達だからな」
「ありがとうじゃんね!」
カズキがシャドウバースを初めたのを見て、グランドマスターになったヒイロもシャドウバースを始めた。いくらグランドマスターになったからといってシャドウバースが終わったわけではない。更なる高みを目指すのはシャドウバースをこよなく愛するヒイロとしては当然だろう。
「そういえば、ヒイロは『アンリミテッド』って組織はしってるじゃんね?」
シャドウバースに集中しているはずのカズキが思い出したかのように話題を振った。
「『アンリミテッド』? きいたことないな」
「ヒイロでも聞いたことないんじゃんね。グランドマスターになれるほどの強者なら知ってると思ってたじゃんよ」
「その『アンリミテッド』ってのは何か有名な組織なのか?」
ヒイロの問いかけにカズキは考えるように唸った。
「有名ってのは少し違うじゃんね。俺も多くを知ってるわけじゃないじゃんけど、話によると闇のカードを使う闇の組織らしいじゃんね」
「闇のカード? なんだそれ」
「俺もよくわからないじゃんね。ただ、戦った人達がそう言ってるらしいじゃんね」
カズキの言葉によると”闇”という表現が正しいのかは不明のようだ。とはいえ、噂話になる程度には”闇”と呼ばれるに相応しいカードなのだろう。どこから仕入れてきた情報なのかは分からないが不気味なカードであることは違いなさそうだ。
だが、それは奇妙な話である。
「シャドウバースのカードは災いの樹に刻まれた伝説の物語をカードにしてるって話だよな? 俺達の世界とは異なる世界の異なるモンスターをフォロワー、スペル、アミュレットに写してシャドウバースのゲームに落とし込んでるとか何とか。その理に乗っ取ってる限りは他のカードと何も違いはないと思うけどな」
「俺もそう思ったじゃんね。だから闇の組織らしいじゃん」
どうやら闇のカードになんらかの秘密があるのは間違いないようだ。ヒイロとカズキはそう結論付けた。
ただの噂話を信用するなど普通に考えて馬鹿なことだろうが、この二人はシャドバ馬鹿で有名な二人である。シャドバには無限の可能性があると信じてる二人にとって、正体不明のカードを使う正体不明の組織の存在を疑うなど有り得なかった。
そして、そんな面白そうな話を聞いたヒイロの次の言葉は決まっている。
「なあカズキ、そいつらって強いのか?」
「もしかしてヒイロは戦いたいじゃんね?」
「戦いたいに決まってんだろ? だって俺の知らないカードを使ってくる敵だぜ? ランクマッチで同じデッキと当たり続けたんだから戦いたいに決まってるだろ?」
栄誉あるグランドマスターではあるが、その道は困難極まる。特にDOC環境は過去に類を見ない過酷な環境だった。
その過酷さを乗り越え、グランドマスターの高みに達したヒイロにとって、新しいカードとの出会いを逃がすことなどできない。
ヒイロの眼はキラキラと輝いていた。
しかし、事はそう上手くは運ばないのが世の常だ。
「でもヒイロ、俺はその闇の組織がどこにいるのか知らないじゃんね」
「ってことは……」
「戦うのは難しいじゃんね」
当然だろう。
カズキはただ『アンリミテッド』の噂を聞いていただけでそれ以上の情報を知っているはずがない。いくらヒイロがグランドマスターの資格を持っていようが『アンリミテッド』と戦うことはできない。
ヒイロは眼に見えて落ち込んでいた。
「で、でも、探せばきっと見つかるじゃんね! 闇のカードなんて目立つカード使ってる連中だし聞き込みでもすればきっと!」
カズキは励まそうとガヤガヤと口を動かすもヒイロの反応はイマイチだった。
テンションが下がってまた眠そうに瞼をこする。昨晩の無理が祟ったのかもしれない。
「『アンリミテッド』かぁ」
ヒイロは窓の外でサンサンと輝く太陽に目を向けた。余りもの眩しさに片手で陽の光を遮る。
「イグニスドラゴン……。俺に力をくれ……」
まだ昼間なのに黄昏ているヒイロに、一人の少女が声をかけてきた。
「『アンリミテッド』に興味があるの?」
白銀の長髪をツインテールにした背の低い少女だった。真っ赤な双眸が特徴的でヒイロとカズキは一瞬、その少女に見とれてしまった。
先に思考を取り戻したヒイロが慌てて少女に尋ねる。
「知ってるのか?」
「貴方達よりは」
声に一切の色がなく、ただ淡々と口を動かしている。端正な顔立ちと相まってまるで人形のようであった。
一見すれば不気味な少女であるが、シャドウバースに全てを捧げた男には関係ないらしい。ヒイロが少女に力強く詰め寄った。
「教えてくれ! どうすればそいつらと戦えるんだ!?」
少女の華奢な肩をがっしりつかんで詰問でもするかのように問いただす。出るとこに出れば完全にアウトな行動だった。
対し、少女は冷静に、冷徹にヒイロの手を退かす。
それから、くるんと回ってヒイロとカズキに背中を見せた。
「放課後、屋上で待ってる」
それだけ言い残して少女は教室を去っていった。
少女が去って、ヒイロとカズキは互いに眼を合わせる。
「あいつって誰だったんだ?」
「ヒイロは何も知らずに女の子の肩を掴んだんじゃんね?」
「しょうがないだろ? あいつが急に『アンリミテッド』の話なんかするから興奮してさ」
反省の色は無し。カズキはいつものことだと無視した。
「あの子は大木須だったじゃんね? 確か下級生じゃんよ」
「ふーん、まあ放課後が楽しみだな!」
──放課後 屋上
「さあ! 来たぞ大木須!」
放課後、ヒイロは少女の指定通り屋上に来ていた。ヒイロが着いた時には既に少女は屋上にいて、フェンス越しに校庭を見下ろしていた。
くるりと回って少女がヒイロに眼を向ける。相変わらずの真っ赤な瞳である。
「じゃあ、始めましょう。シャドウバースを」
言って、少女はスマホを取り出した。
ヒイロもそれに倣ってスマホを取り出す。本当なら少女に『アンリミテッド』のことを聞くのが目的なためシャドウバースをする必要はないが相手が挑んできたのなら拒む理由はない。
「「バトル。シャドウバース」」
屋上でヒイロと少女のシャドウバースが始まった。
「よろしく!」
ヒイロの挨拶。
「あなたを教えて。」
少女の挨拶。
◆1 turn.
ヒイロが先行でゲームは始まり1ターン目は互いに何もプレイしなかった。
カズキ「相手はネメシスクラスじゃんね。DOC環境だとあんまり見ないしヒイロの敵じゃないじゃんね」
◆2 turn.
ヒイロ「俺は竜の託宣を発動! ターンエンド! へへっ、先行2ターン目に竜の託宣を使えるのは殆ど勝ったも同然だぜ」
少女「ターンエンド」
◆3 turn.
ヒイロ「俺は竜の託宣を発動して、火炎の竜闘士を召喚! 効果でデッキのドラゴンフォロワーを+0/+1する! ターンエンド!」
少女「ターンエンド」
カズキ「ん? 3ターン目なのに相手は何もしてこなかったじゃんね。もうこれはヒイロの勝ちじゃんね」
ヒイロ「手札事故じゃないか? でも、シャドバは何が起こるか分からねぇからおもしれぇんだ!」
◆4 turn.
ヒイロ「俺はイグニスドラゴンのアクセラレートを発動! これでppは7で次のターンに8ppのカードを使えるぜ。そしてデッキのドラゴンフォロワーを強化するカード、火炎の竜闘士と原初の火炎も発動! これでデッキのドラゴンフォロワーは前のターンも合わせて+0/+3だ! ターンエンド!」
少女「ターンエンド」
カズキ「もうこれはヒイロの勝ちじゃんね」
ヒイロ「シャドバは何が起こるか分からねぇからおもしれぇんだ!」
◆5 turn.
ヒイロ「俺のターン、ドロー!! きたああああ!! 俺はオラクルドラゴンを召喚!! オラクルドラゴンの効果で2体のオラクルドラゴンを呼ぶぜ! これで俺の場には⅝,⅝,⅝,⅓,1/3のフォロワーがいる! ターンエンド!」
カズキ「先行5ターン目にこのフォロワーはもう無理じゃんね。俺の後5の撤退ミストリナ&ベイリオンでどうにか返せるかどうかのレベルじゃんね。でもネメシスクラスではミストリナ&ベイリオンは使えないから、もう勝てないじゃんね」
ヒイロ「シャドバは何が起こるか分からねぇからおもしれぇんだ!」
少女「私のターン。加速装置、加速装置、機構の解放、オートメーション、スピネノアーティファクト、アーティファクトコール、生命の量産、アナライズアーティファクト…………」
カズキ「な、何が起きてるじゃんね。ppが回復するなんてミストリナ&ベイリオンみたいなことしてるじゃんね」
ヒイロ「シャ、シャ、シャドバは何が起こるか分からねぇからおもしれぇんだ!」
少女「マーキュリーイージス・シオンのアクセラレート発動。そしてレディアントアーティファクトを進化」
ヒイロ「俺の先5ターンオラクルドラゴンが……!! まさか、これが!」
少女「そう、これが『アンリミテッド』」
そして、ヒイロは少女に敗北した。余りにも無慈悲に負けたのが余程悔しかったらしい、床に膝をつき歯を食いしばっていた。
「シャドバは、楽しいんだ」
ヒイロはシャドバを楽しんでいたようだ。だが、その言葉に反して『アンリミテッド』の無慈悲な力に心が砕けそうにもなっていた。
やはり体力20点を守護を破壊されながら1ターンで全損させられたのは心に響いたのかもしれない。
そんなヒイロに何の感情を抱いたのか、人形のような少女が呟いた。
「私は『アンリミテッド』の覇者。グランドマスターの更にその先にあるシャドウバースの境地。負けたことを悔いる必要はない」
表情に一切の変化がない。心は何処かに置いてきたとでもいうのだろうか。シャドウバースの覇者はまるで人とは呼べない存在だった。
「お前は……」
「私は大木須。また」
言って、少女はその場を去った。