今では、もう日課になっていた。
この挨拶も、あの時とは違う暑い日差しに照らされていた。
高木雅利が最初に、小豆沢こはねと出会ったのは、
四年前の春過ぎ、自身が小学四年生の時だった。
珍しく早起きして、朝食も食べて、
桜も散りかけていた時の季節だった。
学校に着いた時、目に入って来たのは、
門をくぐって、すぐの校舎の端に置かれた、
うさぎのゲージの前にうずくまっていた、
可愛らしい女の子だった。
目が合って、三秒ほど交わさると、すっと離された視線。
それが、なんだか、気に食わないようで…
詰め寄って、声をかけてきた。
「飼育委員?」
「そ、そうです…」
恐る恐る紡がれる言葉に、相変わらず、いつも通り、
自分の声が威圧感を感じた。
風に揺られて、そっと問いかけてみた。
「名前は?」
「こはね…小豆沢こはねです…」
僅かに聞き取れた、その名前が、その当時、
どれだけ、輝いて聞こえたか、それは今でも変わらない。
「俺は高木雅利」
「へっ?」
気づけば、名乗っていた名前を繰り返すように、
ゆっくりと、言葉にする、こはね。
「雅利くん…?」
「呼び捨てでいいよ」
呼ばれた名前に、少し動く心が終わりかけの春を再び知らされた。
それから、あの時のぎこちない会話の日から、
毎日のように、早起きして、飼育ゲージにいる、
こはねに喋りかけていた、自分が懐かしい…
「おはよう、こはね」
「お、おはようございます…」
「先輩なんだから、敬語なんて、いらないのに…」
「じゃ、じゃあ、おはよう」
「うん、その方がいい」
なんて、毎日、ワクワクしていた、自分がいたのは、確かだ
認めたくもないけど、半分くらい。
あの日から、四年ちょっと、今は夏だ、
高木雅利が小学四年生の時、こはねは、小学六年生。
こはねが中学に入学することになってから、
会える時間が、一気に減ったが、あまり、気にしていなかった。
むしろ、たまに会うくらいが、ちょうどよかった。
そうやって、言い聞かせることで、
たまにしか、会えない日々にも、次第に慣れていった。
だからこそ、あの日とは違う笑顔で…
「おはよう!」
こはねの柔らかい笑顔も、風に乗った太陽の光に照らされる。
こはねが、呼んでくれるようになってから、
この名前も、好きになっていった。
「今日は、どこに行きたい?」
「ずっと、一緒に行きたいと思っていた、カフェ!
いい天気だから、歩いて行きたいな~って、思っていて!」
「そうなんだね、
あのね、雅利くん、今でも飼育委員やっているんだ」
「そうなんだね、やっぱり、動物かわいい?」
「うん、毎日、癒されています」
「こはね、動物が好きだもんな」
「好きじゃないの?動物?」
「俺は好きだけど、好かれないだけ」
「ふふっ、雅利くんって、面白いね!」
「うん、ありがとう」
なんて、他愛もない話が続くのだった…