平行未来観測女   作:丸米

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11 なんか、戦いが始まって、開戦したんですよね。

 ──迅の視界を得て、未来の情報を得た事で。

 

 天王寺恒星は、幾つもの情報を得た。

 己の視点から見た未来の中。

 自分は──警戒区域の中でA級と戦う未来が視えた。

 

 ボーダー本部内の個人戦ブース内の模擬戦ではない。実戦を行っている視界。

 

 そして。

 ──あの時の侵攻以上の戦力が投入された、大規模な戦闘。

 

 断片的な情報の欠片たちを様々に繋ぎ合わせ、そして日々を過ごす中で──その答えを探す。

 

「──城戸司令」

 

 そして。

 冬となり、答えは見つかった。

 天王寺は──ボーダーの頭領。城戸正宗総司令と向かい合っていた。

 大きな傷が顔面に刻まれた男。

 その表情は何一つ動くことは無い。喜怒哀楽、そのどれも。

 かつて味わったことのない程の圧力を感じるが──それでも、真っすぐに向き合う。

 

「──取引をしませんか」

 

 ──玉狛が保護をしている近界民の少年。空閑遊真。

 彼が持つ黒トリガーこそが、闘争のもととなると。

 

 

 

 未来というのは不定形で曖昧な代物。

 迅悠一が持つ”未来視”という能力は、その不定形で曖昧な代物にある程度の輪郭を与えるものであると天王寺は考えている。

 しかし、それは輪郭でしかない。

 

 別の言い方をするなら、河川のようなものだろうか。

 過去から現在という地点を通り、未来へと流れゆく水。

 流れる河川の先には様々な経路がある。本流から枝分かれした支流が幾つも並び立ち、そして──選んだ経路によっては、激流に飲み込まれるかの如き最悪も潜んでいる。

 

 故に思う。

 未来視という能力は。それを扱うに値する人間としての力が存在しなければ何の効力もない。

 

 河川の先が見えた所で。

 船がなければ流れるまま濁流にのみ込まれるだろう。支流の先を見渡す眼力がなければ船頭は務まらない。未来を知るというのは、結果ではなく過程。その過程の中で如何に備え、枝分かれする道筋の中から最善を選び取るか。──最善へと導く、人間としての力が求められる。

 

 迅悠一はそれを持っている。

 彼は彼にとっての最善を掴み取る為の手段を備えている。

 

 ならばこそ。

 自らもまた──未来という情報から、備えをしなければならない。

 

 

 膨大な未来の情報を整理する中で。

 彼女の中で見知らぬ人物の姿がちらほら浮かび上がってきた。

 

 一人。メガネを付けた少年。

 二人。白髪の、小柄な少年。

 三人。ぴょこんと一つ立った髪の毛が特徴的な、小柄な女の子。

 

 着目したのは、二人目の少年。──幾つかの光景の中には。全身を覆う、ボーダー規格にないトリガーを使用していた光景が幾つもあった。

 この少年には、二つの矛盾した光景があった。

 

 一つ。トリオン兵と交戦する光景。

 二つ。ボーダーの隊員と交戦する光景。

 

 ボーダーに存在しないトリガーを使うとなれば、当然少年は近界民だろう。

 しかし近界民たる少年が、トリオン兵を駆逐する光景もあり。

 しかしボーダーの隊員と戦っている光景もある。

 

 この光景に着目し、日々を過ごす中で──情報が集まってくる。

 市街地へのイレギュラー『門』の多発。

 そして、ボーダーの規格ではないトリガーによる、トリオン兵の破壊。

 

 ──あの少年だ、と。天王寺は思った。

 

 

 ここまで情報が集まってくると、未来の光景に繋がりが生まれてくる。

 あの少年は市街地のトリオン兵を自らが持つ黒トリガーで破壊し。

 そしてその黒トリガーの存在を知ったボーダーが調査を行い。

 

 ──最終的に。黒トリガーを奪う目的か。もしくは近界民を排除する為か。どちらかの目的でボーダーがこの少年に襲撃をかけるのだろうと。

 

 そして。

 自分が見た光景の中では。自分は、A級部隊に対し、迅と共に立ち向かい、戦っていた。

 

 これが──恐らく。迅の未来視を己の副作用で共有しなかった際に実現する可能性の高い未来。

 

 しかし。

 ──申し訳ないが。反旗を翻させてもらう。

 

 

 

「取引、か。──では。君は何を差し出し、そして我々に何を要求するのだね」

「私は迅悠一から得た未来の情報と、それを基にした提案を。そして司令には──二宮隊のA級復帰を求めます」

「.....情報と言うと.....具体的には?」

「情報というのは。──次の作戦。間違いなく迅さんが妨害に来るという事です」

「....」

 

 次の作戦、という言葉から。

 ──城戸の頭の中にあった。遠征中のA級部隊が帰還次第行うつもりであった極秘任務の内容を天王寺が知っていることを理解した。

 

「その上で提案です。──私と、二宮隊。こちらも戦力に組み込みませんか?」

「.....成程。言いたいことは解った」

 

 城戸の任務に二宮隊を使う代わりに、その報酬として二宮隊をA級に戻す。

 そういう提案を──天王寺は行っていた。

 

「そう悪い事ではないでしょう? いつまでも二宮隊をB級1位の場所に置いておくのは健全ではないでしょう。元々遠征選抜も問題なく通過した部隊です。戦力としても申し分ない」

「.....悪い提案ではないが、まだこちらにも懸念材料がある。君と二宮隊が、迅と共謀している可能性も否定できまい。君は迅を経由して情報を仕入れたのだろう?」

「はい。その疑念はもっともだと思います。二宮隊はそもそも懲罰でB級に落とされた部隊。単独で極秘任務に参加できるほどの信頼を得ているとは思えない。──だから」

「何だね?」

「とびっきり優秀で、かつ。監視役としてピッタリの人物を我々に付ければいい。──その人物に判断させるんです。迅さんと我々が共謀しているかどうかを」

 

 その名は。

 

「──東春秋隊長です」

 

 

 ──という訳で。

 現在。二宮隊に、東と天王寺。

 総勢五人が、この黒トリガー争奪戦に参加する事となった。

 

 12月18日。

 A級1~3位部隊を乗せた遠征艇が帰還するその日。

 ──そこからの数日以内に作戦が行われるとの事だったが。まさかまさか、帰還当日から決行とは。

 

 

 作戦としては。

 A級部隊が本部から玉狛支部へと向かう道中に迅及び、忍田本部長側の戦力──A級5位嵐山隊がそれを止めに当たる。

 A級がそれらの戦力を止めているうちに──別区画でスタンバイしている別動隊の二宮隊+αが玉狛支部へと急襲をかける。

 

 迅と、そして──本部長指揮下の嵐山隊。

 その戦力が足を止めているその間に、支部に殴り込みをかけ──黒トリガーを奪取する。

 

 

 と、なれば。

 立ちはだかるは──

 

「.....わざわざやられる為だけに、ご苦労様」

 

 支部への道中。

 天王寺の眼前には、緑を基調とした隊服の女性が現れる。

 ショートカットの髪の背後には、羽根のような髪が後ろに流れている。

 

 その女性の手には──二振りの、手斧が握られている。

 このトリガーを使う隊員は──恐らくもう、この人物しかいないのだろう。

 

「こんばんは小南さん」

 

 小南桐絵。

 おおよそ4年前に入隊した天王寺よりも、もっとはるか前。現在のボーダーが設立されるはるか前──旧ボーダー時代から戦い続けてきた歴戦の戦士。

 

「二宮隊に。アンタは.....天王寺か」

「はい。こうして面と向かってお会いするのははじめてですね」

「迅に負けた奴でしょ? ──それで、何の用?」

 

 会話をするごとに。

 互いの敵意が、その目に宿っていく。

 

「要求は一つです。──玉狛が匿っている人型近界民をこちらに寄越してください。そうすれば戦いは終わりです」

「断るわ。なんでウチの子を、あのおっさんなんかに渡さなきゃいけないのよ。顔洗って出直せ!」

「でしょうね」

 

 ──そうそう。

 ──そうでなくちゃ困る。

 

「──交渉決裂か」

 

 二宮がそう呟くと、

 

「そうよ。──それじゃあ、ちゃっちゃとぶった斬るわよ.....!」

 

 そう小南の声が響くと同時。

 

 天王寺の周囲を囲むような──”壁”がせりあがる。

 

「──エスクード」

 

 壁は三枚。天王寺と二宮隊を分断するように作り出されたその壁の背後。

 

 二人の男が、現れる。

 

 

「──戦闘開始だ」

 鎧の如き筋骨と、精悍な顔つきをした男と。

 

「援護します」

 地面に手を付ける、端正な顔立ちの男。

 

 

 ──玉狛第一隊長、木崎レイジ。並びに元太刀川隊、烏丸京介。

 ボーダー全部隊において。最強と称される部隊が、ここに集結した──。

 

 

 戦いは。

 天王寺と二宮隊が分断され──天王寺と小南が正面からぶつかり合い、残る二宮隊三名が木崎と烏丸に挟まれる形。

 

 小南が天王寺の懐に入ると共に。

 天王寺は背後にアステロイドキューブを生成しつつ、小南の前進に合わせ一つステップ。

 ステップと同時に身体を捻り半身を隠し、右手を背後に持って行く。

 

 アステロイドで動きを止め、その隙に右手から斬撃を与える。その連携が頭をよぎった瞬間。

 小南は──アステロイドの撃ちだしのタイミングと合わせ、弾道から回避。

 弾道から回避すると共に。天王寺の右手から来る斬撃を手斧──双月で防がんとして。

 

「......?」

 

 その右手には。

 何ら得物は握られていない。

 

「アステロイド」

 

 半身で隠した右手には、

 得物は握られていない。

 

 小南の回避動作からの防御に合わせた──本命のアステロイドが、生成される。

 

「....やるじゃない」

 

 察知した小南が防御体制から即座にバックステップを入れると共に。

 エスクード越しの木崎に軽くアイコンタクト。

 

 二射目のアステロイドは、分厚いシールドで防がれる。

「....流石だ」

 あのアイコンタクト一つで、木崎のシールドを自身に張らせたのだ。この一瞬だけでも、玉狛の連携の練度の深さが伺える。

 

 

 

 小南と天王寺の攻防と並行し。

 

 二宮隊と、木崎・烏丸との戦闘も開始されていた。

 

 

 烏丸は己と木崎の前にもエスクードを設置すると共に。両者ともにその陰に隠れ、突撃銃を掃射。

 上空に放たれた弾丸は。木崎のは上空に円弧を描くような弾道で、烏丸のは直角的な曲がりの弾道で。それぞれ上空より飛来する。

 

 弾丸が上空に放たれると共に二宮隊はそれぞれ散開する。

 

「アステロイド」

 そして。

 二宮のアステロイドが──木崎・鳥丸の前面のエスクードを破壊すると共に。

 

 烏丸側には辻の旋空。

 木崎側には犬飼の突撃銃による掃射。

 それぞれが攻撃を仕掛ける。

 

 烏丸は旋空を回避する為に足を動かし。

 木崎はシールドを張りつつ、突撃銃の掃射で反撃を取る。

 

「二宮さん」

 

 天王寺が一つそう呟くと同時。

 二宮はハウンドを展開し小南に向け放つ。

 

「......鬱陶しいわね!」

 

 小南はハウンドの曲がりを読み切り、追尾機能が弱まるタイミングを見計らい回避動作。

 シールドをここで切れば追加の一撃に対してジリ貧になる事が理解できているのだろう。

 

 しかしここで天王寺と小南の距離が空く。

 

 その隙に天王寺はエスクードを飛び越え──木崎のもとへ向かう。

 

 即座に木崎の左手側に移動しつつ──二分割のアステロイドを放つ。

 

 一射目を足を動かし回避。

 回避先に撃ち込まれた二射目は──

 

 衝撃音と共に、消し去った。

 

「....」

「.....え?」

 

 困惑の一言と共に──そう呟いていた。

 

 木崎レイジは──回避動作と共にトリガーの入れ替えと、そして予備動作を終え。

 アステロイドに対し。右拳を突き出した。

 放たれた正拳は、グリップを握っており──トリオンの噴出と共に放たれ──アステロイドの弾体を消し飛ばした。

 そのグリップは、見覚えがあった。

 

「.....レイガストか」

 

 それは三つある攻撃手用トリガーの一つである、レイガスト。

 本来は盾のような形状のトリガーで。硬質化し盾として運用する形状と、その外装をブレードに変え武器として運用する二つの状態を切り替え──防御と攻撃をモードで切り替えながら戦う事をコンセプトにしたトリガーである。

 そして──レイガストには、弧月における旋空のようなオプショントリガーが存在する。

 

 スラスター。

 エンジンのように、トリオンを噴射させ加速させるオプショントリガー。これにより、レイガストの使用者を高速移動させたり、レイガストそのものを高速で飛ばしたりといった運用が可能となるものであるが。

 

 この木崎レイジという男は。

 このスラスターの噴出を己が拳撃を加速させる手段として使っているのだ。

 何という──無茶で奇抜な使い方。

 

「そうか」

 

 とはいえ。

 その戦い方ならば──近接は、小南よりもやりやすい。

 

 アステロイドが弾き飛ばされた瞬間から、天王寺もまた弾き出されたように飛び出す。

 その動きに対し──木崎は、更に拳撃を突き出すが。

 

 その拳が突き出された先。

 当たると確信し放った拳が──空を切る。

 

「む...」

 

 飛び出した状態から膝を曲げ身体を地面に投げ出しながら。

 その突き出した拳の手首を握る。

 握る動作と並行しアステロイドを生成し──その手首を掴みながら、天王寺は木崎の背後へとステップを踏みながら回る。

 後ろ手に木崎の手を掴み背後に回り。

 アステロイドの盾にするように、木崎を前に突き出した。

 

「....上手いな」

 

 木崎は即座に腕を横薙ぐように振りかざし、天王寺を振り払うと。

 レイガストの盾モードを展開し、アステロイドの弾丸を防ぐ。

 

 タンタンタン。

 乾いた三連射がその瞬間──木崎の足下に放たれる。

 

「ありゃ──防がれるか」

 

 それは一連の攻防の隙に木崎の横手側に移動した犬飼による、足元への射撃。

 天王寺の猛攻に対し意識を持っていかれながらも──冷静に木崎は犬飼の存在を認識し、銃口の向きから射撃位置を読み、足元へシールドを張っていた。

 

「──これ以上、好きにさせないわよ!」

 

 二人に囲まれている木崎を援護せんと。

 小南桐絵が──斬りかかる。

 その両手には──身の丈を軽く超える、大斧が握られている。

 

 木崎の前に踊り出した小南は、大斧をぐるり横回転しつつ振り回し天王寺を追い払い。

 その間にトリガーを変えた木崎が、突撃銃を手に天王寺へと放つ。

 

 ──よし。

 

 天王寺は。

 合図を受け取った。

 それは、別の誰かの視界。

 

 その瞬間──天王寺は。

 一人、玉狛支部側へと走り出した──。

 

 そう。

 この戦い──二宮隊側は、支部に向かい、黒トリガーを回収することが目的なのだ。

 

「....逃がしちゃダメ! とりまる!」

「了解」

 

 烏丸のエスクードがその進行方向を防ぐように出現し。

 その壁の上空をカバーするようなハウンド。

 

「天王寺。シールドは必要ない。そのまま走れ」

「了解です」

 

 ひり出されたエスクードの上を、迷わず天王寺はジャンプし昇る。

 上から襲い来るハウンドを二宮のシールドがカバーし。

 

 更に突撃銃で天王寺を追撃せんとする烏丸には、犬飼の突撃銃によるカバーが入る。

 

「この....!」

 そして。

 その背後より追跡をかけようとする小南の前には──辻の旋空が横切る。

 相手に対する攻撃ではなく、その動きを止める為の旋空。サポートを目的とした一撃。

 

 

 この瞬間。

 

 二宮隊全体のカバーが入る事により、天王寺は一人──玉狛支部へ一人走り出す事に成功した。

 

「俺が追います!」

 

 距離的には、烏丸が最も近い。更に動きが妨害できるエスクードも持っている。

 犬飼の射撃に対し武器を解除しシールドを展開し、その上で射線上にエスクードをひり出し──烏丸は、天王寺の背中を追う。

 そうして。

 

 天王寺を追いつつも、背後からの二宮隊の追撃も警戒。

 天王寺と二宮隊。双方に意識を払いつつ追跡をかける。

 

 

 その瞬間。

 

「.....!」

 

 自らの頭部が弾け飛ぶ感覚が、烏丸京介に襲い来る。

 

 

「な....!」

 

 

 ──襲撃者は、二宮隊と天王寺だけではなかったのか!? 

 

 

「──いい()()だ、天王寺」

 

 彼方に潜みし狙撃手が。

 烏丸京介へ──必殺の弾丸を叩き込んだ。




天王寺恒星 暫定パラメータ
トリオン7
攻撃9
援護防御9
機動9
技術10
射程4
指揮2
特殊戦術3

Total53
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