「──とりまるがやられた!?」
小南が、驚愕の声を上げる。
「....まだ。敵がいたか」
木崎は、少しばかり表情を歪めながらそう呟いた。
──二宮が連れてきている、と考えると。生半可な腕ではないのだろう。
戦況が一気に悪くなった。
敵の戦力が一つ増え。そしてこちらの戦力が一つ消えた。
──今や2対5。それも全員、A級に遜色ない実力の持ち主。
天王寺は鳥丸を釣りだしで仕留めると同時、戻ってくる。
──玉狛第一を全員仕留めた上で、支部に向かうつもりなのだろう。
「──すみません。やられてしまいました」
「....仕方がない。事前に狙撃手を想定できなかった俺が悪い」
現在。
木崎は二宮と真正面からの撃ち合いを行い。辻と犬飼が小南を挟撃している形。
二宮と木崎の撃ち合いは、トリオン量と射手としての技量に優れる二宮が優勢。小南と辻・犬飼の戦いは──
「ぐ....!」
──小南のストッパーが外れた事で、辻・犬飼の二人であっても攻めきれずにいた。
小南は、ここまで封じていたメテオラを解禁。
メテオラによる爆撃と、それに伴う煙で視界を制限し──高い機動力を以て猛攻を始める。
「──キッツいなぁ。頑張れ辻ちゃん。こっち側に天王寺ちゃんと東さんが移動してくるまでの我慢だ」
「解ってます」
マスタークラスの両者でさえ、──本気になった小南相手では攻め入る事もできない。
しかし。それでも勝算はある。
釣りによる狙撃を敢行する為に玉狛支部側に位置していた天王寺と東が、天王寺が支部へと到達次第こちら側に移動してくる。それまで時間稼ぎさえ出来れば
メテオラが地面に叩きこまれる。
煙の中、それでも集中を切らさず──小南の斬撃を辻は防ぐ。
「え?」
その背後。
辻は──煙に紛れた何者かに、その背中を貫かれた。
トリオン供給器官を真っすぐに貫いたその刃は、スコーピオン。
メテオラの煙が晴れ、緊急脱出により辻が消え去った後。
そこにいたのは──
「──お待たせ、こなみ先輩にレイジさん」
黒いC級用の隊服を着込んだ──小柄な少年の姿。
「ここからは──おれも戦わせてもらう」
空閑遊真、来襲。
※
「遊真....! 何でアンタここにいるのよ!?」
「迅さんに事前に言われていた。──その為のトリガーも渡された」
驚いているのは、敵側だけでなく。
味方である玉狛第一も、同じ。
「おれの事で皆戦っているんでしょ? ──ならおれが戦わない訳にはいかない」
その姿を見やると。
「──黒トリガーを使わなくてもいいのか?」
そう二宮は尋ねる。
「使うな、って迅さんに言われているし。──それに」
遊真は、笑う。
「ウチの師匠達には──そんなもの必要ない」
そうか、と二宮は言う。
「ならば──かかってこい」
そう言うと同時。
上空から──住居の屋根から飛び込んでくる天王寺の姿が映る。
「──お待たせいたしました、二宮さん!」
天王寺恒星が戻ると同時。
「俺も所定の位置についた。──はじめようか」
東春秋の声も、また同時に響く。
二宮がアステロイドを構え、そして──天王寺が木崎に向け走り出すと共に。
全員が、動き始める。
※
天王寺恒星が木崎に向け走り出す。
二宮は、その瞬間視界を小南の方向へと向けアステロイドの弾体を生成。
瞬間──木崎は、自分を抑える役割が二宮から天王寺へと移ったのだと感じた。
──木崎レイジは、
攻撃手・銃手・狙撃手。
三つの兵種全て──8000を超える個人ポイントを取得している。
彼のスペック全てを引き出すために。彼のトリガーは、チップ数を大幅に増やした特別性のものとなっている。
──天王寺は近接での射撃戦に長けている。
先程の攻防で、木崎ははじめて相対する天王寺恒星の特性をある程度掴んでいた。
スコーピオンとアステロイド。
この特性を活かし、器用に切り替えながら戦っている。
スコーピオンで近接での意識付けを行い、動きを止め、アステロイドを放つ。
この際に。──木崎に関しては手を掴みアステロイドへの回避動作を取れないよう動きを封じる動きをしていた。
レイガストを用いた拳撃を回避しながら。
──風間のようにスコーピオンを扱う技量が抜きんでて高い、というよりは。体術の能力が抜きんでて高く、そこにスコーピオンとアステロイドを組み合わせて戦っているのだろう。
ならば。
近づけさせない。
木崎は引きながら突撃銃を手に取る。
アステロイドの威力からしても、トリオンはこちらの方に分がある。純粋な中距離戦ならば負ける要素はない。
そうして天王寺に銃口を向け引こうとする瞬間。
その背後にいる二宮が、一瞬。
一瞬だけ。
──天王寺に視線を向けた。
その瞬間。
天王寺と、その先にいる木崎レイジに向け──アステロイドを放った。
背後。
その唐突に放たれたアステロイドに対し──至極当然のように、天王寺は弾道から逃れるよう、横に飛び去る。
「....な!」
──天王寺恒星は、”平行視”の副作用を持っている。
それは、他者の視界が自分を視た瞬間に、その他者の視界を得るというもの。
その特性は、集団戦によりその効果をもたらす。
なぜならば、彼女を見るという行為をするだけで、何らかの合図を送る事が可能であるから。
二宮が木崎から小南へと視線を移し、天王寺が木崎へと走る。
そこから──視線を天王寺側に向けるだけで、副作用を発生させ、二宮のアステロイドの射出のタイミングを瞬時に伝えられる。
「く....!」
木崎はシールドを展開し弾丸を防ぐと共に、突撃銃からアステロイドにトリガーを変更。
この後の展開が読めたからだ。
天王寺は横っ飛びし、着地した瞬間から──ロケットのように木崎に向けスコーピオンを手に飛び込んできたからだ。
レイガストとスラスターを用いた拳撃が、天王寺に飛んでくる。
しかし──先程の攻防で、天王寺はその攻撃の間合いを読めている。
拳が突き出される瞬間に足を止め、その勢いを以て地面にしゃがみ込み──足払い。
足払いする踵にはスコーピオンが生成され、木崎の足を削る。
「──レイジさん!」
更に追撃せんと前進する天王寺に、小南からのメテオラが入る。
爆撃の煙が視界を防ぐ中──警戒するは。
背後。
視界に紛れようとも、副作用が言ってくる。
敵はそこだ、と。
天王寺はノールックでアステロイドを生成すると──背後に放つ。
「おお」
背後より、メテオラの煙に紛れ急襲せんとする空閑遊真は、即座に弾道から離れる。
その動きに合わせ、
犬飼は空閑に対し弾丸を放ち、
そして──二宮もまた、アステロイドの射出準備を行う。
「──させるか!」
高威力の弾丸を警戒してか、小南はメテオラを二宮に放つ。
生成したアステロイドを仕舞い、メテオラをシールドでぶつけ──手前側で爆発させ、引く。
小南は即座に二宮を追わんと足先に力を入れるが──本能が、それを止める。
危機本能のまま、──己の左手側にシールドを張る。
「....小南!」
その動きを見て、木崎は小南側にスラスターを発動し、自身の肉体を挟み込む。
そこから──レーザーのような光を纏った弾丸が小南へと向かい来る。
小南のシールドが砕かれ。
そこから割り込んだ木崎のレイガストで──なんとか、食い止められる。
「流石の読みだな」
その弾丸の先。
東春秋の姿が、ある。
しかし。
ここで──木崎・小南共に狙撃の対処のために足を止めた事で。
二宮が、動く。
その両手に──アステロイドの弾体を、浮かべて。
──来る。
二宮匡貴の、フルアタック。
片方の弾体は、細かく。
片方の弾体は、大きく。
それぞれ分けた弾丸を、両手に並べて。
その様を見た空閑遊真は、即座に二宮を止めんと襲撃にかかるが。
天王寺のアステロイドからのスコーピオンの斬りかかりでその足を止められる。
天王寺のカバーにより、空閑の足を止めた事で。
二宮を止める者は、誰もいなくなった。
「....」
ならば。
こちらも──全力を出さざるを得ない。
木崎レイジは、ここまで自分たちを追い詰めた眼前の敵に敬意を払いながらも。
それでも──まだ切っていない手札が、あった。
「──
そのトリガーの名を、告げる。
※
玉狛支部は、ボーダー最強の部隊と言われている。
それは各々の隊員の能力もそうであるが──彼等は、玉狛支部独自のトリガーを用いているからでもある。
汎用性や継戦機能が重視される、本部仕様のトリガーとは全く異なる思想。
短期での火力や、特異性を重視した設計思想のトリガー。
烏丸京介が使用する”ガイスト”
小南桐絵が使用する”
そして──木崎レイジが用いる、”
木崎は、その手札を切った。
それは、文字通りの武装。
全ての武装が、木崎レイジという肉体に生成されている。
両手にはそれぞれガトリング砲台と突撃銃。その両肩にはミサイル台に弾砲。背中側から伸びたアームにはレイガスト盾が握られ、木崎の前方を守る。
「──ここで、お前だけでも仕留めさせてもらう」
「....」
その手札が切られた瞬間。二宮もまた──悟ったのだろう。
キューブが放たれ。
火砲が射出される。
シンプルな光弾と、多種多様な物量の塊がぶつかり合う。
トリオンの光を纏ったそれらは、互いの弾丸とぶつかり合い、破裂音を撒き散らし、そして──両者の身体を、平等に削っていく。
二宮のフルアタックに対し、木崎はある程度アームのレイガストで防ぐことが出来たが──二宮側は、フルアタックゆえ防御手段がなく。
先に緊急脱出をしたのは──二宮側であった。
そして。
木崎レイジは──全身を貫かれ、大量のトリオンを消失しながらも。
何とか生存を果たしていた──。
しかし。
大量の弾丸の応酬の中冷静に木崎の側面を取っていた犬飼澄晴が、ハウンドと突撃銃のフルアタックを放つ。
二宮のフルアタックによりアームを折られ、盾のレイガストを失っていた木崎は、これを防ぐ手段なく──緊急脱出。
「あちゃあ....ここで二宮さんが仕留められたか」
「.....小南さんもですが、存外あの近界民も厄介ですね...」
単純に、乱入してきた近界民がかなり強い。
恐らくチップが複数ある特別性であるが、C級用トリガー。スコーピオンに、シールドとバッグワームくらいはついていると考えられるが──黒トリガーを使わずとも、あの強さ。
「.....二人とも。悪い知らせだ」
東春秋から。
報告が飛んでくる。
「反対側のA級部隊は、全滅。──全員迅と嵐山隊に倒された。迅は健在。嵐山隊は時枝以外健在。──時間が経てば、こちらに来るぞ」
「.....そうですか」
ならば。
「──ここで仕留めなければ、先がない」
よし、と一つ息を吐き。
天王寺と犬飼は、走り出す。
先行した天王寺に対し、小南と遊真が迎え撃つ。
アステロイドで遊真の動きに制限をかけつつ──天王寺は小南へと斬りかかる。
──あの近界民と連携を取られたうえでは勝てる訳がない。そしておそらく、小南単体であっても太刀川と同格の使い手であろう。
自分が倒せるとは考えてはいない。
ただこちらには──あちらにはない、銃手と狙撃手がいる。
天王寺は両振りの手斧を持つ小南に対して、鈎爪付きのスコーピオンを取り出す。
「変わった形してるわね...」
それを小南の首に振ると見せかけ──斬道を変化。手斧の小振りさを逆手にとり、得物を引っかけつつ手首を落としにかかる。
「....そんなもの喰らわないわよ!」
手首がスコーピオンに落とされるよりも前に、小南は手斧を強く振る事で弾き返す。
そして。
天王寺の副作用が──犬飼からの視覚を得る。
自身の位置。
その左手側。
──アステロイドを防護し終えて、迎撃態勢をとる空閑遊真の姿。
その対称の位置に、犬飼が陣取っている。
それを合図と受け取り、天王寺は己の上体を下げ──犬飼の射線を作る。
「おっと...!」
アステロイドを防ぎ、ようやく攻撃に参加せんとした瞬間。天王寺がいた位置から襲い来る、犬飼の掃射。
「.....成程。あの女の人に、とことんおれを近づけさせないつもりか」
たとえ、自分の位置に射線が入ろうと。
いやむしろ。
自分という肉体が隠れ蓑となり──射撃を通りやすくする。
そういう活用法が、天王寺の副作用にあった。
さあ。
この一瞬だ。
──決めろ!
東春秋の狙撃が、放たれる。
恐らく、狙撃位置も読まれた状態で当てる事は難しいと判断したのだろう。──トリオンが高ければ高い程、弾速が増加する”ライトニング”の弾丸が小南に放つ。
狙撃のタイミング自体は読んでいたのだろう。一つ背後にステップを行い、回避。
だが。
そのステップは──天王寺がアステロイドを生成するには、十分な隙となる。
後は同じ。
このアステロイドを生成すると共に──スコーピオンを手に追撃をかける。
「....ここで終わりってんなら」
小南は。
両手に持った手斧を──二つ、柄をくっつけ。
「──アンタも、道連れよ」
小南は大斧を生成。
バックステップしながら腰を捻る動作を完了し──斬撃。
「ぐ.....!」
天王寺のスコーピオンが届くよりも前に、その一撃が己を斬り裂き。
そして──放たれたアステロイドは、小南の肉体を貫いた。
「遊真....! これで、勝ち切りなさい!」
そして。
緊急脱出直前。
小南は──メテオラを生成し、分割することなく己の足下に叩きつける。
「了解」
自爆による爆風と煙が充満する中。
空閑遊真はバッグワームを起動。
「──やっぱりバッグワームつけてたか」
残された犬飼がその狙いを読み、煙から離れようとするが──。
スコーピオンの刃が煙の中より飛んできた。
「あーあ」
それを回避する瞬間。
弾丸のように飛び出してきた空閑遊真が──犬飼の肉体を貫いた。
「....まあ、最後っ屁くらいは吹かせてもらおうかな」
そうして。
犬飼は──空閑遊真の肉体を、両手でつかむ。
瞬間。
東春秋の狙撃により、空閑遊真のトリオン体もまた貫かれる。
そうして。
犬飼は緊急脱出し──そして。
緊急脱出機能が備わっていない空閑遊真の肉体は、そのまま生身のまま投げ出される。
「.....終わりか」
東春秋は、一つ溜息を吐く。
空閑遊真を仕留めはしたが──もう捕らえられる人間が残っていない。
自分が持っている狙撃トリガーは安全装置が付いていて、生身の肉体相手には気絶させる機能しかない。
そして。
「いやー。──頑張ったな、遊真」
丁度その時。
迅悠一が、この場に到着した。
もうこれ以上の抵抗は無駄だろう。そう判断して──東春秋は息を吐いた。
「だがまあ。──二宮隊にとっては、十分な成果になっただろう」
そう呟いて。
東春秋は──自主的に緊急脱出を行った。