平行未来観測女   作:丸米

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そろそろネタが尽きてきたという事は、ネタがないという訳ではない。どう見えるかだ。もう何も見えないが、何も見えないという訳ではない。どう見えるかだ。








本文は割と早めに出来ていたがサブタイ捻りだすのに丸一日かかったというのは紛う事なき事実です。


13 死んでもいいとは言ったが、死んでもいいとは言ってない

「.....」

 

 緊急脱出の後。

 即座に──状況を確認。

 

 玉狛第一の部隊員は全員緊急脱出。

 更に、──空閑遊真自身も撃破。

 

 その上で。

 黒トリガーは──奪取されることは無かった。

 

「おつかれ、天王寺ちゃん」

 

 犬飼澄晴が声をかける。

 

「はい、お疲れ様です」

 

 生身の肉体のまま、天王寺は──二宮隊の作戦室にいた。

 

「....ほぼ全て、理想的な流れになりましたね」

 

 そう。

 全て──理想的な流れであった。

 

「だね。この状況は。仮に迅さんと戦っていたあちら側が生き残っていれば、人型近界民を拿捕して黒トリガーを奪うことが出来た状況だ。つまり、別動隊としての役目を果たした──という事になる」

「ええ。その上で近界民を殺害することもなかった」

 

 今回。

 天王寺恒星は──二宮隊にA級へ復帰させる為の実績作りのために、状況を利用させてもらった形だ。

 だが、その実績を作る為の茶番だと思われるわけにはいかなかった。そう東に判断されれば、ただ無駄足を踏むだけになってしまう。

 だからこそ、本気だった。

 徹底して本気で、玉狛と戦った。

 

 ──そうした上で、迅ならば。手を打ってくれるであろう。そう確信をもって。

 

 玉狛支部への襲撃も予期し、玉狛第一の部隊をあらかじめ配置。その上で空閑遊真にも予めトリガーを渡して参戦させる。これらの事前準備が功を成し──両部隊相打ちかつ、空閑遊真を守り切ったという最高の着地点につけた。

 

 

 

 

 その後。

 黒トリガー争奪戦は──迅悠一が本部に風刃を差し出す事で、解決した。

 

 元より、支部に二つ黒トリガーがある事によるパワーバランスで揉めた問題であった。本部に適合者がいる事が確実な風刃が返却されるとあらば、特段の問題がないと判断されたのであろう。

 

 そして。

 

「──二宮隊は来月からA級の復帰。次期ランク戦もそれに準ずると。そう城戸司令から通達が来たね」

「それはよかった」

 

 一つ息を吐く。

 これにて──天王寺の目的の一つが達成された。

 

「これで──二宮隊は、もう一度遠征を目指すことが出来る訳ですね」

「そうだね。それはいいんだけど──」

 

 犬飼は、少しだけ意地悪気に目を細めて──尋ねる。

 

「それで。天王寺ちゃんはこれからどうするの?」

「え?」

「遠征に行って鳩原ちゃんに会いたいのは、天王寺ちゃんも同じでしょ? ──なら。今まで通りとはいかないでしょ」

「...」

 

 その通りだ。

 本当にその通りなのだが──

 

「.....そうですね」

 

 二宮隊の問題も片付いたのだから。

 自分としても──身の振り方を考えなければならない。

 それは、解っているのだけれど。

 

 まだ。

 まだ──やるべき事は残っている。

 

 

 

 

 ・         ・         ・

 

 

 

 

 ──俺は、アイツの事を本当にいい奴だと思っているんだ。それは今になっても変わらない。

 

 同い年の同期で。

 同じ部隊に入った。

 嵐山准という男が、いる。

 

 今のボーダーが出来上がってからすぐに入った同期で。人当たりよくて家族思いないい奴で。仲良くならない理由がなかった。

 同じ隊を組んだ。

 そして広報部隊となった。

 

 B級嵐山隊は、ボーダーの顔としての活動も兼任するようになったのだ。

 

 その後の事。

 広報部隊として、会見を行った時だ。

 

 慣れていない環境で結構俺は緊張していたっていうのに。アイツは全くそのそぶりも見せない。本当に胆力からしても違うんだと思った。

 

 その時だ。

 

 ──家族が無事なら何の心配もないので。最後まで思いっきり戦えると思います。

 

 襲撃があった時。まずは家族の命を守ると。そう記者の質問に答えた嵐山が、後に続けた言葉。

 

 その時。

 言語化しようもない程の、恐怖がそこにあった。

 

 最後とは何だろうか。

 そう思考を巡らせれば──間違いなく、”自分が死ぬまで”という文言が付いてくるわけで。

 

 

 

 ──覚悟、という言葉には段階がある。

 ──多分。俺にも何らかの覚悟は決めてきた。この街を守りたいって意思はある。近界民と戦う事だって覚悟してきた。

 

 それでも。

 言い得ない恐怖をあの時。自分の親友に感じたのは。

 

 ──アイツは、戦いの中で自分の”死”を当然のように受容している。

 ──家族や誰かのために自分が犠牲になる事も。さも当然に受け入れていて。その上で、笑っていられる人間なんだ。

 

 自分よりも、遥かに高次元の覚悟。

 その時に困惑も含んだ恐怖を感じ取ったのは──間違いなく。あの時に自分と、あの男との間にある差異を感じ取ってしまった。

 

 だから逃げ出した。

 その差異を目の当たりにして。自分と比較してしまって。

 

 柿崎国治。

 現、柿崎隊隊長。

 未だに──あの日の事を忘れられずにいる。

 

 

 

 ・         ・        ・

 

 

 

 天王寺恒星は──現在仮想空間内にいる。

 

 彼女は現在片膝立ちで、見慣れぬ得物を手にしていた。

 それは、黒い柄から伸び上がった、刀型のトリガー。

 その刀身には──揺らめく光のマフラーが付属している。

 

 天王寺は、ジッとその場にいた。

 

 そして。

 

 

 ──自身の左手側の視界が、脳裏に映る。

 

 脳裏に映った瞬間より。

 天王寺は即座に体軸を動かし、トリガーを振るう。

 

 振るわれたトリガーはマフラーを掻き消し。

 地中に潜る光が──視点者の下へと走らせる。

 

「....くっ!」

 

 今、天王寺に向かって飛び出そうとしていた──嵐山隊、木虎藍。

 彼女は腹部から肩にかけてブレードで両断され、トリオン体が破壊される。

 

「...」

 

 仮想空間故に、破壊されたトリオン体は即座に戻る。

 そして、木虎は即座に天王寺から背を向け、また視界の外へと向かって行く。

 

 

 ──繰り返す。

 

 現在、天王寺恒星の手には、迅が返却した黒トリガー”風刃”がある。

 これを手に、天王寺は佇む。

 

 ──己の副作用で、何者かの視線が脳裏に映った瞬間。その場所に”風刃”による攻撃を行使する。

 

 風刃の性能はシンプル。

 剣先に触れた事物に光の筋を通し、ブレードを生やす。

 その光の筋は、斬りつけた事物と地続きであるならば、何処までも伸びる。故に、何処までもブレードを生み出せる。

 生やしたブレードの数だけマフラーは減っていき。無くなれば再装填の時間が必要となる。

 

 ──何処までも届く攻撃を、自分の副作用で探知した場所に叩き込む。

 

 この行為を、繰り返す。

 脳裏に刻み付ける。

 反射行動として刷り込み、考えるよりも前に行使できるまで。

 繰り返す。

 繰り返す、繰り返す。

 

 

「──じゃあ。今度は連携でやってみようか」

 

 そう、迅悠一の声が響くと同時。

 今度は己の視界の外から来襲する──ハウンド弾が向かい来る。

 

 ──成程。

 

 風刃は黒トリガーである。それ故に、ノーマルトリガーとは比較にならない程の出力と性能が与えられている──が。

 その性能は、単一でしかない。ノーマルトリガーのように、異なる性能や機能を持つトリガーを切り替えながら戦う、という方法が取れない。

 

 要は。

 シールドのような防御機能が、風刃には無い。

 

 だからこそ。

 ハウンドのような面攻撃に対して、大きく足を動かさざるをえない。

 

 降り注ぐ弾丸を回避。そのまま弾道を辿り、ハウンドの撃ち手を仕留めんと走り出す──と同時。

 

 上。

 右手。

 

 それぞれの視界が、同時に映り込む。

 

 上を確認。

 誰も見えない。

 恐らくは──透明化トリガーの”カメレオン”を用いているのだろう。

 

 そして、右手側。

 

「さあ──避けてみろ、天王寺ィ!」

 

 二丁拳銃を構えた、厳つい眼鏡の男。

 銃口は既に天王寺を捉え、その引金に指がかかっている。

 

 見えないが視界だけが映る上空の相手。

 今にも弾丸を撃たんとしている右手側の男。

 

 ──天王寺は風刃を突き刺すと同時。引金が動く瞬間を見切ると共に、風刃を支点に飛び上がる。

 飛び上がると同時に、ついぞ先程まで天王寺がいた地点に弾丸が通り抜いていく。

 

 そして。

 光の筋が三本──入れ替わりのように、二丁拳銃の男に走り寄る。

 

「やるじゃねぇか.....!」

 

 ブレードに貫かれる男――弓場隊隊長、弓場拓磨の姿を一瞥する暇もなく。

 逆手に握った風刃を、引き抜きざまに上空へ振るう。

 

「....」

 

 ブシュ、と空間が斬り裂かれたようにトリオンの黒い煙が漏れる。

 煙の軌跡を追ったその先。──カメレオンを解いた、風間蒼也の姿。

 

 腹部に傷を負った風間は、それでも表情は一切変えず天王寺へ襲い掛かる。

 

 ──やっぱり、風間さんは凄い。

 

 こうして向き合って、己の副作用で感じとれる情報だけでも風間蒼也という男の凄まじさを感じる。

 

 視線が、別々の方向に流れていく。

 これは。恐らく先手を常に想定しているのだろう。

 初手が通じなければ、次はこう。その次はこう。常に、攻撃の手順を想定している。

 

 だから。

 

 

 風間のスコーピオンの有効半径全てに、風刃のブレードを”置く”。

 花咲くように天王寺の周辺をブレードの壁が巻き上がる。

 

 その壁を前に風間が立ち止まる、一瞬。

 

 壁を飛び越え斬りかかる天王寺の斬撃を、風間は回避。

 

「む...」

 

 そして。

 回避先に──置かれたブレードが、足元から風間を斬り裂いた。

 

 

 

「──やるねぇ」

 

 

 迅はその様を見て、満足気に頷いた。

 

「この調子だ天王寺。──間違いなく今のお前は、おれの次に風刃と相性がいい」

「ありがとうございます」

 

 ──現在。ボーダー本部では、迅が教官となって風刃の使い方講座が行われていた。

 風刃適合者が集められたその場所では──。

 

 ”直近で使う可能性が高い”天王寺恒星の訓練場となっていた。

 

「今風刃適合者のほとんどが、全員部隊の隊長か、中核メンバーだからね。──使わせるならお前が一番適任なんだよ。天王寺」

「....」

 

 

 あれほど欲しがっていた、風刃。

 今自分はそれを握っている。

 あの時──黒鳥争奪戦から時間が過ぎゆき。適合者は皆隊を持つか、入隊していて。恐らく手を上げれば、間違いなく自分は──喉から手が出るほど欲しかった”風刃”と、S級の座が手に入るところ。

 

 

「とりあえず今日はこんな所でいいか。──みんな、お疲れ様」

 

 仮想空間内。所定の時間が過ぎると共に、他のメンバーは全員出ていく。

 

 

 残されるは。

 天王寺恒星と、迅悠一。

 

 

「今日は付き合ってくれてありがとな。天王寺」

「いえ。こちらこそ教導ありがとうございます迅さん。──それで」

 

 迅と、天王寺。

 その視線が、交差する。

 

 

「.....成程」

「お前には──俺から直々にお願いしたい事がある」

 

 程なくして訪れる。

 ──確定した、未来。

 

「多分、あと二週間くらいかな。──四年前の第一次侵攻よりも、大規模な近界民の侵攻が行われる」

 

 無数にも近いトリオン兵の山々。

 そして。

 

 襲い来る──人型近界民。

 それも──複数かつ、黒トリガーか、それに準ずるほどの性能を持つトリガーを携えて。

 

 その連中と戦う自分の姿が見える。

 その中には様々な光景がある。ノーマルトリガーで戦う光景もあれば、黒トリガーで戦う光景も。だが、一番多いのは──後者の光景だ。

 

 そして。

 その中。

 

 

 ──哄笑を上げる黒い角の男に、殺される自分の姿もあった。

 

 

「....」

「.....やっぱり、見えたか」

「はい。──この大型の侵攻で。私が死ぬ可能性がある、という事ですね」

「ああ」

 

 そう。

 迅悠一は頷いた。

 

「当然──。そうならないように最善を尽くす。もしくは完全に回避する方法もある」

「それは?」

「お前がノーマルトリガーで戦う事だ。そうすれば、倒されたとしても緊急脱出で逃げられる」

「.....その方法を選んだ時の、デメリットは?」

 

 問う。

 

「──多分だけど。本部中央オペレーターとエンジニアが。何人か殺される羽目になる。風刃を使うお前が、この未来を回避するには間違いなく必要だ」

「....」

 

 

 ──天王寺恒星は。

 ──かつて、他者を救うために、己の命を賭けた。

 

 

「お前には。この、お前を殺した奴を。風刃で倒してもらいたい」

「.....それがなければ」

「....」

 

 ──己の命と、他者の命を秤にかけるなら。

 ──間違いなく、天王寺恒星は他者の命に天秤を傾ける。

 

 

「承知しました。──ただ」

「うん?」

「可能であれば。B級中位以上の隊を、私に付けて頂きたいです。更に要望を出すなら。機動力が高い隊員がいる部隊が望ましい」

「ああそれは当然。黒トリガーを持っているとはいえ、流石に人型近界民を一人で当たれとは言わない。そうならないように最善を尽くすって言ったろ?」

「いえ。私自身が死んでしまうのは別段問題は無いのですが」

「....」

「それよりも──黒トリガーが敵に回収される事が、何よりも危険です。使い手である私が殺される可能性があるというなら、回収される可能性も同時に考えておかなければいけないでしょう。部隊を随行させて頂きたいのは。私が死んだ後も黒トリガーを回収し、本部に送り届けて頂きたいからです」

 

 そして。

 当たり前のように──天王寺は、自分が死ぬ事も想定している。

 

「....」

 

 迅は。

 幾つか、天王寺に何かを言おうとした。

 

 が。

 それは──自分の口から言うべきではない、と。そう判断を下して。

 

「.....随行させる部隊は幾つか候補は考えているし。状況によって変わっていく事も十分ありうるけど。取り敢えず今一番可能性として一番高いのは──」

「はい」

「──柿崎隊だな」

 

 迅悠一は。

 自分と同年代の男の顔を思い浮かべ。

 

 心の中で、

 頼んだ、と唱えていた。




柿崎隊タグは!
詐欺ではありませぇん!!
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