平行未来観測女   作:丸米

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15 ウワサ通りいい黒トリガーだ!戦おう!

「……ん?」

 柿崎国治が支部に着いた頃。

 真っ先に出会ったのは──見知らぬ眼鏡の少年であった。

 

「あ、はじめまして」

 少年は、支部のソファで手に持ったデバイスを真剣な目でいたが、柿崎の存在に気付くと立ち上がり一礼した。

「こちらこそはじめまして。俺は柿崎という。本部の隊員なんだが。君はここの隊員?」

「いえ。ぼくは玉狛支部に所属しています。三雲修です」

「玉狛……迅と同じか」

 

 柿崎は、迅からの話を聞き。一度天王寺と話をするべく支部へと向かったのだが。

 そこには、迅と同じ玉狛支部に所属する隊員がいた。

 

「君も天王寺に会いに?」

「ぼくは付き添いです。──今、作戦室の仮想空間で戦っている空閑の」

「戦っている……って事は、模擬戦をしているのか」

 

 そう柿崎が言うと、三雲修と名乗る少年は頷き──デバイスを見せる。

 そこには。

 小柄な少年と、天王寺恒星が戦う姿がある。

 

 されど。

 

「……なんだこれは」

 

 片や黒い装束を纏った少年。

 片や光のマフラーが揺らめく刀を持った女。

 

 市街地を駆け抜ける両者が──慮外の暴力を振り撒きながら、戦闘を行なっていた。

 

 

 刀刃が振るわれ、

 拳が突き出され、

 それぞれの軌跡が互いの肉体の位置へ交差する。

 

 天王寺の斬撃は空閑の脇腹を斬り裂き。

 遊真の拳は天王寺の横っ面を通り過ぎた。

 

 ──これは、まともに受けたら即死だ。

 

 その勢いと衝撃は、喰らわずとも通り過ぎた風圧が体感させる。

 レイガストのスラスターを用いた木崎レイジの殴打。アレよりも遥かに超える破壊力が、そこにあった。

 

 ──脅威に萎縮するな。

 

 未知なる脅威を前にすれども、天王寺の思考は萎縮しない。

 ジッと、遊真の姿を見る。

「──『強』印。二重」

 

 更に勢いを増した拳が放たれる。

 拳を放つ予備動作の時点で、天王寺の行動は開始されている。

 

 遊真の視線の流れから攻撃の軌道を読み解き。

 軌道から遊真の肉体の流れを推測し。

 予備動作の動きに合わせ、歩法と呼吸を変え。

 

 地面を斬り裂きながら、両足を微かに浮かせ、僅かに後ずさる。

 

 そうして。

 振り抜いた遊真の拳を避けつつ、

 その肉体の軌道上に──風刃の刃を生やす。

 

「おお」

 

 ──遊真の肉体を斬り裂かんとするブレードが、足元より生え出る。

 即座に肉体の軌道を変え回避すると共に、遊真は天王寺を見る。

 

「そうか」

 

 遊真は、強く認識する。

 この"見る"という行為そのものが──天王寺との攻防において、こちらに不利を運び込んでいるのだと。

 

 この戦い。

 空閑遊真は、今まで感じたことのないやり辛さを天王寺から感じていた。

 

 ──あの人は、間合いを誤魔化す術を持ってる。こっちだけが間違った距離感での戦いを強制させて、あちらはその距離感の認識の差異を用いて一方的に攻撃する。

 

 本当に僅かだ。僅かに、攻撃を行使するための距離が狂う。

 だがその僅かに空いた空白に、最速の攻撃を叩き込んでくる。

 

「──こっちから攻め込むのは不利だな」

 

 純粋な近接戦では不利。

 だが──空閑遊真の黒トリガーの本領は、ここから。

 

「『射』印」

 

 掌より印が生まれ、トリオンが形成されていく。

 放たれるは──広範囲の射撃による面攻撃。

 

「──そういうのもあるのですね」

 

 天王寺は即座に高層建築物の影へと動き、遊真の射撃より逃れる。

 ──射撃があるのならば、建造物の間で戦った方がよさそうですね。できるならば背の高い建物の方がいい。

 

 空中へと浮遊し追ってくる遊真を一瞥し、天王寺は建物を蹴りながら移動していく。

 

「『鎖』印」

 

 天王寺が建物の壁から足を蹴り上げんとするその瞬間。

 遊真の視線がこちらの足元に向かっている事を認識し、

 己の足元より──鎖が迫る様を見る、

 

「ここまで手数があるとは……!」

 即座に天王寺は壁に風刃を突き刺し、足元から迫りくる鎖をブレードにより弾く。

 弾かれた鎖の間隙を縫うように地面へと降り立ち、風刃の剣先を走らせる。

 地面に、四方の壁。

 

 遊真がいる位置を囲い込むように──ブレードの線が走っていく。

 

「『盾』印」

 

 されど。

 読んでいたのか──遊真を取り囲むようなシールドが、風刃のブレードを防ぐ。

 

「防御手段まで備えているのか……!」

 

 天王寺は、これまでの遊真の黒トリガーの性能をザッと頭の中で纏める。

 トリオンによる肉体の強化と、それによる格闘攻撃。

 広範囲に散らばる直線射撃。

 鎖による拘束。

 シールドの生成。

 

 そして、空中に浮遊できる機能。

 

 恐らく、まだ機能はあるのだろう。

 

 遠近にも、防御にも対応できる。非常に手数と対応力に富んだトリガー。

 遠隔にブレードを走らせる機能しか持たない風刃とは、防御力と対応力に大きな差がある。

 

 ──だが。幸いどの攻撃を取ってくるかは判断できる。

 

 どうやらあの黒トリガーは、対応する機能を使うために印を空間に刻む必要があるらしい。

『強』『射』『鎖』『盾』

 それぞれに対応する印が、遊真の肉体周辺に刻まれる。

 

 ──私の副作用で、攻撃する瞬間の空閑君の姿は見える。彼がどの印を使用しているかは、攻撃の前に判別できる。冷静に対処しろ……! 

 

「ふむ」

 

 射撃や鎖といった、遠方からの攻撃や搦手を合わせていけば隙ができるものかと考えていたが──やはり手強い。

 

 こればかりは風刃の性能というよりも、天王寺の副作用と、それを利用する天王寺自身の対応能力によるところが大きい。

 

 相手の視界と、視線の流れを読み取れる天王寺は的確に遊真の攻撃の予兆を読み取っている。今まで傭兵として戦い続けた遊真は、この攻撃の予兆を隠す手段を備えてきた。が、『相手を観測した瞬間に自動的に視界を共有する』という副作用に対して攻撃の予兆を消す手段がない。

 

「おれの勝ち筋は、たぶんあの副作用でもどうにもならない所まで持っていくこと」

 

 攻撃の予兆を読み取ろうとも、対応できない手数と質量の攻撃。それを的確なタイミングで畳み掛ける。

 

 ただ、手数を積み重ねるには──天王寺の副作用と、風刃の性能が厄介だ。

 天王寺は現在周囲を背の高い建物が密集する地点で待ち構えている。

 遊真が天王寺を視界に収めた瞬間──風刃のブレードでの迎撃を行うため。

 

 黒トリガーにはバッグワームに準ずる機能はない。互いにマップ上の位置は理解できている。

 

「おっと」

 

 遊真の足下から、ブレードが走る。

 即座に横手に回避を行うが──互いに視認できない状態では、マップ位置で決め打ち可能な風刃に分がある

 

「あんまり悠長にもしていられないな──なら」

 

 遊真は地面に手をつき、更に新たな印を刻み付ける。

 

「『響』印」

 刻んだ印から音響を放ち、天王寺が立つ正確な位置情報を得る。

 視認以外の方法であれば──天王寺の位置を観測しようとも、副作用は発生しない。

 

「『射』印 三重」

 

 そして。

 天王寺に向け──天王寺を視界に収めず、建物越しに射撃を放つ。

 

 印を三つ重ねた射撃は、悠々とコンクリの壁を撃ち抜き──

 

「……!」

 

 副作用の外側から襲来した射撃に、天王寺はすぐさま回避動作を取る。

 

 その壁の先。

 空閑遊真の姿が見える。

 遊真の視線は天王寺より外れ、下に俯いている。

 

 ──私の副作用を発生させないために視線を外すなら、こちらも対応策がある。

 視線が映らない隙に、天王寺は風刃の剣先を地面になぞる。

 

 ──自分の周囲と、私の直線状の軌道。全てにブレードを仕込む。

 

 近づかれる前に仕留める。

 その意思を持って、風刃を仕込んでいく。

 

 ブレードが仕込まれるその瞬間。

 

「『弾』印+『強』印 二重」

 

 二つの印が、同時に展開される。

 展開されたその一瞬だけ──遊真の視界が、天王寺に映る。

 

 同じ。

 決闘を申し込んだ太刀川慶と同じ手法。

 攻撃の瞬間だけ、視線を向ける。

 

 記憶が回帰する。

 この行為を行うとき──太刀川は回避不能の旋空弧月を上空から叩き込んだ。

 空閑遊真は──

 

 弾けた。

 己の視界から見える空閑遊真と。

 空閑遊真から見える己の姿と。

 その双方が──膨張して見えた。

 

 高速で肉薄していく遊真の足元より、仕込んだブレードが突き出されていく。

 遊真は強化した両腕で急所を防ぐものの、足元と腹部の幾らかが削られていく。

 

 ──ここで決まる。

 

 天王寺は瞬時に、勝ち筋を判断する。

 あの突進攻撃を風刃で防ぎつつ、足元に仕込んだブレードを急所に叩き込む。

 

 空閑遊真の『弾』印による突進と。

 天王寺恒星の斬撃が、衝突する。

 

 凄まじい膂力の波が刀身から伝わるが、

 ここから両者の攻防が始まる。

 

 天王寺は衝撃が全身に来る前に右足を引き、空閑の殴打をいなす。

 いなしつつも、足元に風刃を突き刺し──地面に縫い付け。

 

 そして。

 

 天王寺の足下から生え出るブレードが、遊真に襲いくる。

 

 ──さあ、どうなる。

 

 ここで仕留めきれなかったら──印を刻む前に近接戦で終わらせる。

 その絵図を抱き、ブレードの行方を見る。

 

 遊真は、

 

「……なっ」

 

 足下から来るブレードの位置を、予測していたのか。それとも本能で勘づいたのか。

 風刃のブレードにて、地面に縫い付けられた己の足を断ち切った。

 

 ──この瞬時の攻防で、仕込みブレードの存在を勘づいた上で、更にその場所まで読んで……! 

 

 だが、

 これで終わりではない。

 

 天王寺は最速で攻撃へ移るため逆手で風刃を引き抜き、引き抜く動作から下へ降ろす斬撃にて遊真に追撃。

 

 その斬撃は遊真の手首を落とす──が。

 遊真の視線は、天王寺を映さず。

 その、下へと向けられている。

 

「──!」

 

 前へと追撃しにきた天王寺を狙いすましたように。

 鎖が足下から、

 

「『強』印 四重」

 天王寺は、即座に足下へブレードを生み、鎖を弾き飛ばす。

 

 だが。

 空閑遊真は──敢えて、鎖を弾き飛ばしたブレード側から天王寺へ回り込む。

 

「……!」

 

 そして。

 空閑遊真の拳が──天王寺の腹部に叩き込まれる。

 

 凄まじいまでの威力が全身に叩き込まれ、天王寺のトリオン体は地面に叩きつけられた水風船のように弾け飛んだ。

 

「だが……!」

 タダでは死なない。

 その意思が──弾け飛ぶ前に、地面を斬りブレードを仕込ませていた。

 

 それが。

 天王寺恒星を弾き飛ばした空閑遊真の肉体を、貫いていた。

 

 両者、相打ち。

 互いのトリオン体が仮想空間内にて消え去る。

 

 そうして。

 天王寺恒星と空閑遊真との、黒トリガー対決は──引き分けにて終わった。

 

 

「──また勝てなかったか」

「想像以上でした」

 

 勝負を終えて、互いにそう呟いた。

 

「風刃と、てんのうじさんの副作用の相性がいいね」

「そこは前の所有者の折り紙付きですね。──風刃の弱点である防御面の脆さを、ある程度私の副作用でカバーできると」

 

 風刃はシールドがない。そしてトリオンを隠す機能もない。

 遠隔斬撃という攻撃面で優秀な機能を持つものの、それ以外に特段の機能が存在しない。

 

 その部分を所有者がカバーできるかどうか──そこが、風刃という黒トリガーを使うにあたって大きな鍵となる。

 

「今日は貴重な経験を積ませていただきありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ。久々にこいつを使えておれも楽しかったです」

 

 そうして、互いに作戦室から出ると──

 

「……柿崎先輩?」

「よ、天王寺」

 

 そこには。

 以前迅より話を聞いていた──柿崎国治の姿があった。

 

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