平行未来観測女   作:丸米

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多分このお話から二宮隊から柿崎隊へメインが移っていくと思われます


16 責任は取ります。なぜなら責任を負っていたのですから。

「わざわざ支部まで来ていただき、ありがとうございます」

 

 遊真との個人戦の後。

 支部の一室に案内し、天王寺は茶を用意していた。

 

 ポットから急須へ湯を注ぎ、カップを四つ並べ茶を淹れ、盆に乗せる。

 その行為を全て右腕だけで行っている。

 

「あ、運ぶのは俺がやるぞ」

「いえ、お構いなく。慣れていますから」

 

 柿崎が立ち上がるよりも早く盆を片手で持ち上げ、天王寺はテーブルへ運ぶ。

 

「これも訓練です」

 

 天王寺はトリオン体から生身の肉体に戻している。

 長袖からはプラン、と垂れ下がった左腕。そして左目には伸ばした前髪と眼帯。

 柿崎は──その姿をはじめて目にしていた。

 

「気を遣わせてしまい申し訳ありません」

「いや、そんなことは無いが...」

 

 されど、もう片手で作業を行う事にはとっくに慣れているのか。動きに淀みはない。

 

「.....その左目と左手は、前の侵攻の時に?」

 遊真は、聞くべきかどうか少し迷ったが──尋ねる事にした

「はい。運悪く逃げ遅れまして」

「....」

 

 ”逃げ遅れた”という言葉に、遊真は嘘を感じ取るものの──天王寺のその言葉は、実に自然とした体であった。

 取り繕うための嘘ではなく。この嘘は真であると貫き通すという信念が籠められた言葉。

 

「三雲君もわざわざ来て頂きありがとうございます」

 天王寺は、遊真の付き添いで支部まで来た眼鏡の少年──三雲修にもそう礼を言った。

「いえ。ぼくは付き添いで来ただけですので」

「付き添いの為だけにこんな所まで来て頂いたことに感謝しているのです。──三雲君のポジションは、確か射手でしたね」

「あ、はい。そうですが....何故それを?」

「烏丸君から聞きました」

「烏丸先輩から.....!?」

「はい。烏丸君は元々本部所属のA級隊員でして。彼が所属していた部隊の隊長と訳あって三百もの個人戦をやった縁で」

「そ、そうだったんですね....」

 

 修は、実に引き攣った笑みを浮かべその話を聞いていた。

 今まで出会ってきたA級の面々(主に木虎)を思い浮かべ、彼等を率いる隊長と三百もの戦いを繰り広げたという狂気の有様を思い浮かべて。

 

「その烏丸君から、こちらに君が来た時にでも射手トリガーのレクチャーをしてほしいと頼まれていまして。──どうです? 少しお時間を頂いても?」

「.....はい! よろしくお願いします!」

 迷うことなく、修は頭を下げ、そう言った。

 その迷いのなさに──天王寺は何処となく、好感を覚える。

「柿崎先輩。わざわざ来て頂いた上で本当に申し訳ありませんが。もう少しだけ待っていただいてもよろしいですか?」

「いや。押しかけたのはこっちだからな。──力になれるかはわからないけど。一応俺も長い事戦闘員やっているからな。教えられることがあるなら、俺も教えるよ」

「あ。それは助かりますね。──聞くところによると三雲君は、一度射手から銃手への転向も考えていたとか」

「は、はい...」

「柿崎先輩は剣と銃両方使う戦闘員です。どうせなら、その辺りの射手・銃手の違いも含めて少しやってみましょう」

 

 と、いう訳で。

 全員、それぞれトリオン体に換装し──仮想空間に入っていった。

 

 

「では。まずは銃手がどういうポジションであるのかを説明します」

 

 そして。

 現在──三雲修と、柿崎国治が向かい合っている。

 

「まずは身をもって──銃手の強みを味わっていただきましょう」

 

 天王寺が手を振り下ろすと同時。

 互いが動く。

 

 修がアステロイドを生成する、その間に。

 柿崎の突撃銃が生成され──引き金に指がかかる。

 

 弾音が響くと同時──修の胴体が貫かれる。

 

「.....うーん。さすがですな。はやい」

 

 一瞬の決着を目の当たりにして。

 天王寺と共に勝負を見物していた遊真はうんうんと頷いていた。

 

「これが、銃手の強みです。引金を引くだけで継続的な攻撃が出来る。そして何より、銃という武装が存在する事で照準がすぐに定まる。狙いを定めてから実際に攻撃するまでの速度が射手のそれと比べてとにかく速い」

「.....はい」

「では、今度は私が」

 

 修に代わり、今度は天王寺が柿崎と向かい合う。

 

 柿崎がまた同じように天王寺に向け銃を向けると同時。

 天王寺はシールドを展開する。

 

 柿崎の銃撃が、天王寺のシールドに弾かれる。

 

「とはいえ。速いとは言っても、互いに互いを認識している状況ではシールドを展開する速度よりも早く狙いを定める事も難しいでしょう。特に突撃銃のような大きな得物であると余計に」

 

 天王寺はシールドが割れる前にアステロイドを展開し、建造物の影まで走る。そして、柿崎の銃撃の射線が切れると同時にアステロイドを柿崎に放つ。

 柿崎もまた、シールドを展開。天王寺のアステロイドを防ぐ。

 

「とにかくシールドの機能が恐ろしく優秀なのが、トリガーでの戦いの特徴です。周囲の空間に自在に出し入れ可能で、耐久性が高い。銃撃を正面から受けても、易々とは壊れない。──なので、弾丸を使っての敵の撃破というのが、トリガーでは非常に難しい。──その中で。銃は攻撃の初動の速さ。またその後の攻撃の継続に関して非常に優秀ですが。相手がシールドを展開してしまうと”じっくり削っていく”方法しか取れない、という難点を持っています」

 

 シールドを使い逃げていく相手を追う。もしくは撃ち合いを行う。

 そういう展開に、銃手はなりやすい。

 

「では三雲君。──厳しい事を言いますが。君は真正面から撃ち合いを行って他の隊員を上回れるだけの技術はありますか? 撃ち合いになった時に、相手よりもシールドを保てるだけのトリオンは?」

「......ないですね」

「これが銃手の厳しい部分です。──トリオン量に劣り、また新人で経験の少ない三雲君が、他の銃手の方に上回れる要素がかなり少ない。初動で引金を引き、後は継続した質量攻撃を放つというシンプルな戦い方をする銃手は──純粋なトリオンと、銃撃のスキル勝負に持ち込まれやすく。工夫の余地が少ない」

 

 なので、と天王寺は続ける。

 

「では射手はどういうポジションかと言うと。射手は弾丸を生成し、分割し、狙いを定め、撃つ。これらの段階を踏んだ上でようやく攻撃が成立します」

「.....はい」

「一度に撃てる量も少なく、また攻撃の段階が多く、攻撃の質量や速度の面ではどうしても銃手に軍配が上がりますが。──射手はこの分割と狙いを定めるという段階において、銃手には不可能な工夫を加える事が可能になります」

 

 天王寺は遊真に目配せし、遊真が一つ頷く。

 

 遊真に天王寺が斬りかかると同時──天王寺は背後にアステロイドキューブを生成する。

 そしてそれを置きながら、遊真の攻撃をスコーピオンで受ける。

 

 スコーピオンで受け、そして軽く遊真の膝に蹴りを入れ動きを止めると同時──天王寺のアステロイドが発射される。

 

 遊真はその弾丸を回避しきれず──身体が削れていく。

 

「私は、アステロイドを体術に利用する為に使っています。攻撃手相手との戦いの時に、こちらの体術で少しでも動きを止める事が出来れば──背後に配置したアステロイドを用いてダメージを与えられる。そして、この選択がある事で私と相対する相手は基本的に片側にシールドを使う必要が出てきます。相手の行動や選択に制限をかける事も出来る訳です」

 

 段階を踏まなければ、攻撃が出来ない。

 だが。その段階を踏むタイミングを──完全に己がコントロールでき、そこに工夫や発想力を介在させる事が可能となる。

 

 それが、射手。

 

「なので──技術やトリオンに劣る三雲君がこの先戦っていくにあたって射手のポジションの方がいいという烏丸君の意見に関しては、私も同意します」

「なるほど...」

 

 ふむふむ、と頷きながらそう修は呟く。

 

「....三雲君は」

「....?」

「正直──トリオンの総量だけ見ても、下手すれば試験の段階で足切りされてもおかしくないと思います。戦闘員として、とても大きな不利を負っている」

「...」

「それでも、戦闘員に拘り続ける理由が、何かあるのですか?」

 

 天王寺は──かなり踏み込んだ質問をしてしまっているという自覚はあった。

 でも。

 どうしても、聞いておきたかった。

 

「....はい」

 

 そして。

 三雲修は真っすぐに天王寺を見つめ、はっきりとそう言った。

 

 副作用越しに見る修の視線は、一切の揺れがなかった。

 

 ──成程。

 

 迅から、面白い新人が入ったとは聞いていた。

 一人は近界民。

 そしてもう一人は──この少年。

 

「.....やるべきことが、あるんです」

 

 

「──本日はありがとうございました」

 

 そうして暫く四人で訓練を行った後。

 遊真と修は、レイジが運転する車に乗って帰っていった──。

 

「さて。──わざわざ来ていただいたのに申し訳ありません、柿崎先輩」

「さっきも言ったが、俺が勝手に来ただけだから。気にすんな」

「ええ。では、早速ですが本題に入りましょう」

 

 互いに──何の為にここに来ているのか、理解できていた。

 

「....近々。近界民による大規模な侵攻が行われます」

「ああ。それは、迅から聞いている」

「その時に──非常に高い確率で私と、柿崎隊の皆々方と共闘する事となります」

「.....それも、聞いた」

「ならば、話が早い」

 

 天王寺は。

 

「お願いします。──もし私がやられた場合。黒トリガーを回収し、本部に届けて下さい」

 

 ”一緒に戦ってください”でも

 ”私を助けて下さい”でもなく。

 

 ──”私を見殺しにしてでも、黒トリガーを優先してくれ”と。そう言った。

 

 

「そうなったら。──やられたお前は、生身で黒トリガーを使う敵の前に投げ出される事になる」

「はい」

「出来るかそんな事! あの黒トリガーがどれだけ大事なものか、知ってる! ──だが、お前の命よりも価値あるものとは思わねぇ....!」

「あくまでそれは、最終手段です。当然、私も命が惜しくない訳ではないんです。当然黒トリガーの排除に全力を尽くします。ですが、それでも....確実に倒しきれる確かな保証はないんです。そして──この戦いから逃れてしまえば。間違いなく本部で人死にが出る」

「.....ッ」

「卑怯な言い方をしてしまい本当に申し訳なく思っています。本来これは私が背負わなければならない事です。それは重々理解できています」

「そんな事ないだろ....! お前だって、まだ高校生で、一介の隊員だろう!?」

「ですが、これを託されてしまった」

 

 右手に握る黒い柄を、天王寺は握りしめる。

 

「──何かを託される為に私はボーダーに入ったんです。今まで何者でもなかった私に.....ここになって、ようやく意味らしきものが生まれたと。そう思ったんです」

 

 自分が成さなければ、誰かが死ぬ。

 同じ。

 全く同じ。

 あの時──侵攻の中、自分の覚悟を生んだあの瞬間と。同じ。

 

 結局アレは、自分の力が足りず、迅に助けてもらった。

 だが今は──その迅に託されたものを手にして、同じ地平に立っている。

 

「──だから。逃げ出すわけにはいかないんです」

 

「....」

 

 

 眼前にして、理解できた。

 

 この天王寺恒星、という女を前にしたこの感情は。

 

 

 ──かつて、嵐山准に抱いたものと同じだ、と。

 

 自分とは異なる価値を内包し、異なる覚悟を携えた存在。

 それが。

 今、また──自分の前に現れてしまった。

 

 

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