平行未来観測女   作:丸米

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大規模侵攻はもう全部の場面を書くというよりも、エネドラ戦に注力した書き方になると思います。理由としてはもうお爺ちゃんとハイレイン書きたくないし、全部隊動かしながら状況を描写していく作業もしたくないからです。死にたくない。


17 覚悟を決めました。つまり、覚悟があるという事です。

「....」

 

 柿崎は一つこめかみを抑えると、一つ溜息を吐いていた。

 現在彼は作戦室の椅子に座り──どうしたものかと考えていた。

 

 天王寺の意思は固い。

 そもそも。天王寺が命を懸けなければ、実際に本部職員が死ぬ可能性が濃厚とあって──止めるわけにはいかない。

 

 黒トリガー同士の戦い。

 緊急脱出機能がないこの戦い──負ければ、天王寺の命はない。

 

 危険極まりない。

 確実に勝てる、と断言できる勝負でもない。

 

 天王寺は、命を懸けている。

 命を懸けて──他者を救おうとしている。

 

「おはようございます。今から入ります」

「おはようございます」

「おはようございます。今日もよろしく~」

 

 そうこうしているうちに、他の隊員がやってきた。

 如何にも利発そうで。実際に利発極まりない三つ編みの女性隊員、照屋文香。

 二つ分けの前髪をした猫目の少年隊員、巴虎太郎。

 緩やかな表情と口調を絶やさぬオペレーター、宇井真登華。

 三人はそれぞれ軽い会話をしながらトリオン体に換装し、訓練の予定の確認をそれぞれ始めていた。

 

 ──いい加減、話さなければならない。

 

「おう、おはよう。──来て早々申し訳ないが、少し話があるんだ。ちょっと集まってくれ」

 

 

「.....近界民による、大規模な侵攻!?」

 

 照屋文香の声に、ああ、と柿崎は答える。

 

「──以前の侵攻以上に、苛烈かつ大規模な侵攻が行われるらしい。まだ明確な日にちは解っていないが、そう遠くはないらしい」

「....来る、と解っているのに事前に通知を行わないのは。何か理由があるんですよね」

「あるだろうな。そしてウチにその話が来た理由なんだが...」

 

 柿崎は、──少し言葉を選びつつ、今までの事を説明した。

 

「.....黒トリガー同士の戦い」

「そう。俺達は敵の人型近界民の黒トリガー使いと戦う事になる。──同じく黒トリガーの風刃を使う天王寺と組んで」

 

 黒トリガーを使う、人型近界民。

 今まで積み重ねてきた訓練や経験。その全てに、重ならない相手。

 

「....俺達の役割は、天王寺の援護。そして」

 

 柿崎は。

 絞り出すように、言葉を続けた。

 

「.....天王寺が死亡した際に、風刃を本部に戻す事。この二点だ」

「し、死亡....!?」

「....」

 

 柿崎の言葉に、巴は驚愕の表情を浮かべ。

 そして──照屋文香は沈黙のまま、更に真剣な表情を浮かべる。

 

「....敵の黒トリガーの近界民相手に、こちらも黒トリガーをぶつけなければならない理由というのは何なのでしょう? 緊急脱出を持つA級複数部隊ではいけないのでしょうか?」

「A級部隊はそれぞれに役割があり、そこから外せない可能性が高い。一つでも歯車が狂えば、──最悪、本部職員の人死にが出る」

「....」

「天王寺の意思は固い。──アイツは、絶対に逃げない」

 

 理解している。

 天王寺は──迅に託されたのだ。

 

 風刃と共に。

 

「....かなり重い役割であるとは、重々承知している。その上で、皆に手助けしてほしい」

 

 そう言って、柿崎は一つ頭を下げる。

 とてつもない重責だ。

 黒トリガーを持つ人型近界民の相手。更に──眼前で仲間が死ぬ可能性すらもある。

 

 自分だけならばいざ知らず。まだまだ年端も行かない仲間に、ここまで重い役割を負わせる必要が生じてしまった。

 

「隊長」

 

 そして。

 照屋文香は──笑みを浮かべた。

 

「隊長の本音を聞かせて下さい」

「本音....?」

「はい。──そんなに苦しそうにしているのは何でですか、隊長」

 

 シンプルに考えましょう、と。

 そう照屋は続ける。

 

「それは──天王寺先輩を助けたくないからでも、黒トリガー使いと戦うのが怖いからでもないですよね」

「...」

「単に、天王寺先輩を死なせるのが怖いからです」

 

 ──知っている。

 ──この場にいる者は全員知っている。柿崎国治という男の事を。

 彼が何かを恐れるのは、

 常に、他者への思いやりが起因するものであると。

 

「なら──天王寺先輩を死なせないように全力を尽くしましょう。私達も、全力で隊長を支えます。任せて下さい」

 

 照屋がそう言葉を締めくくると、

 

「おれも....正直黒トリガーを使う相手ってどんなのかまだあまりイメージつかないですけど。でも、全力でやります!」

「頑張らなきゃ死ぬかもしれないなら、そりゃあ頑張んないとね。あたしも張り切っていくぞ~」

 

 続けて、巴と宇井が言葉を続けていく。

 

「....そうか。そうだよな」

 

 ──天王寺の覚悟は変えられない。というより、変えてはならない。

 ──自分の命を懸けてでも、他者の為に黒トリガーと戦わんとする彼女の意思は。きっと何者であっても変えられないものなのだろう。

 

 ならば。

 自分たちに出来る事は。

 

 ──天王寺を死なせない為に全力を尽くす。ただそれだけしかない。

 

「.....ありがとう」

 

 目の前の全てが、風となり胸の内側を吹き抜けていったような。

 そんな感覚に──柿崎は一つ頷き、そう呟いていた。

 

 

 

 

 ・ ・ ・ ・

 

 

 

 

 それから、数日後。

 

 

 ──予感がしていた。

 

 これは彼女自身の副作用でも、迅を介した未来視の影響という訳でもなく。

 己の脳髄が送り込むただの本能から来る予感。

 己の肉体を鼓舞するべく。己の脳味噌を冴え渡らすべく鳴り響かせる、危機本能のアラーム。

 

 

「来る」

 

 天王寺恒星はそう呟くと。

 黒の柄を手に取る。

 

 肉体も、思考も、その全てが──戦いの為に切り替わっていくように感じられる。

 

 

 今度は聴覚から、大量のアラームが鳴り響き。

 自身の携帯からも「緊急招集」と題された一斉送信のメールが届く。

 

 トリオン体に換装し、外を見る。

 空間が切り取られたような黒が空を覆い、雷と共に──振り落ちていく。

 

「....」

 

 睨みつける。

 降り落ちてくるそれらの姿を。

 

 かつて。

 己の人生を。他者の人生を。一変させたその怪物たちを。

 

 あの時──自分は何の力もなかった。

 何も無かったから、迅に助けられる他なかった。

 

 だが、

 

 今は──その迅から受け取ったものがある。

 

 

 それでも、やるべき事は同じだ。

 ただ、己の運命に向かって走っていくだけ。

 その先に、自らの死があろうと。

 

 テーブルの引き戸に、一つ手紙を忍ばせ。

 

「──来い」

 

 支部の外へ猛然と駆け出し──戦場へ向け駆け抜けていった。

 

 

 ──大規模侵攻、開始──

 

 

 それは突然であった。

 警戒区域内にて大量の『門』が発生し。

 大量に発生したそれから、孵化した蛆の如く怪物がひり出されていく。

 

 空飛ぶ化物。

 地を這う化物。

 

 化物は化物を呼び、黒く染まった空と瓦礫の地面を埋め尽くしていく。

 

「──くまちゃん、大丈夫?」

「何とかね....。それにしても、数が多い....!」

 

 幾つかのトリオン兵の残骸の前。

 B級、那須隊の二人──那須玲と熊谷友子がいた。

 崩れた住居区画の真ん中。家々に突っ伏すように破砕されたトリオン兵が、機能を停止しそこにいた。

 

 現在、本部にいた部隊は即座に警戒区域の外周へと向かい、市街地に向かおうとするトリオン兵の掃討に向かっていた。

 区域外の隊員も招集がかけられており。増大するトリオン兵の対処に、各部隊奮闘している。

 

「捌き切れなかったら無理しないでね」

「うん。今の所大丈夫よ。──ただ、近くの部隊と合流した方がいいかもね。これからもっと数が増えていくだろうし」

 

 ──二人とも、気を付けてください! 

 少し焦りが混じったオペレータ──ー志岐小夜子の声が響く。

 

「どうしたの小夜ちゃん」

 

 ──まだそのトリオン兵の中から、反応があります! 

 

「....反応?」

 

 トリオン兵を見る。

 急所を弾丸で潰され、完全に機能停止したトリオン兵の姿だけがそこにある。

 

 が、

 

 その腹部が、少しだけ動き。

 切開されると共に──何かが蠢き。そして這い出る。

 

「....なにこれ」

 

 それは。

 トリオン兵にしては、小型であった。

 

 おおよそ三メートル程度であろうか。二足歩行型で、猫背で曲線型のフォルムをしている。頭部には長めの両耳と、眼球が一つ。

 

 しかし、異様なのはその両腕であった。

 その小型のフォルムから浮き出るほど──その両腕は、太く、分厚い。

 

「新型のトリオン兵⁉このタイミングで....!」

 

 即座に武器を構え直し、トリオン兵と対峙する熊谷友子。

 されど──構え直したその時には、トリオン兵は熊谷の眼前まで迫っていた。

 

「うぐ....!」

 突進と共に振るわれたその拳は、熊谷の腹部に叩き込まれ──熊谷の肉体を浮かせ、そして吹き飛ばす。

 

「くまちゃん!」

 

 那須は即座にキューブを生成・分割しトリオン兵に放つ。

 

 キューブは真っすぐに飛ぶ軌道から軌道を大きく変え──トリオン兵の全方位を囲む弾道となる。

 

 トリオン兵は、腕を半回転させ自身の腹部へ向かう弾丸を弾き飛ばし、背中側は無視。

 那須玲のバイパー弾は、ほぼそのトリオン兵にダメージを負わせる事叶わず──そして、

 

 トリオン兵は、熊谷を片手で握る。

 そして。

 胸部装甲が開かれる。

 

「なに、こいつ....!」

 

 開かれた装甲から。

 刃が生まれる。

 それが、掴まれた熊谷のトリオン体に突き刺されると共に──

 

「.....!」

 

 トリオン体としての輪郭が崩れていき。

 溶かされるように、肉体が崩壊していく。

「ベ....ベイル」

 

 ベイルアウト、の声を放つ事も出来ず。

 熊谷友子の肉体の崩壊は終わっていた。

 

「.....くまちゃん!」

 

 追撃の弾丸を那須が放つ。

 その時には──崩された熊谷をトリオン兵が格納し終わっていた。

 

「よくも....!」

 即座に追撃をかけるべく距離を詰めようとしていた那須に。

 志岐の声が響く

 

 ──隊長! 駄目です! 退却してください! 

 

「....」

 

 即座に、隊長として頭を冷やす。

 

「解ったわ。──小夜ちゃん。周囲の部隊の配置を教えて。あの新型の進行方向にいる部隊に協力を仰ぐわ」

 ──了解です。本部にも、新型の情報と交戦映像を送っています。

「ありがとう。....絶対にくまちゃんは助け出すわ」

 

 あの新型と渡り合うには、決定的に火力が足りない。それが理解できた那須は退却を選択。熊谷を格納した新型トリオン兵を目視できる距離感を保ちながら、──行き先を見る。

 

 その先には、

 

 

 ──天王寺。先程那須隊と交戦した“新型”がそちらに向かっている。

 

「了解しました」

 

 ──複数部隊からもう新型の情報が集まっている。アレはどうやら戦闘員を捕獲する為のトリオン兵で、現在熊谷が捕獲されている。どのように捕獲されているのかが定かではなく、生身のまま鹵獲されている可能性もある。胸部から腹部のラインへの深い攻撃は可能な限り避け交戦を行ってくれ。

 

「熊谷さんが.....。了解です」

 

 時間が許す限りひたすらに破壊し続けたトリオン兵の残骸。──その上に立つ彼女は、一つ息を吐く。

 

 天王寺恒星は背後を振り返る。

 

 

「早速ですね」

 

 新型が、そこにいる。

 

「熊谷さんを返してもらいますよ。──この化物め」

 

 マフラーを纏った剣を、天王寺は構える。

 

「立ちはだかるもの──その全てを磨り潰す。消え失せろ化物共....!」

 

 何処までも深い憤怒と義務感をその目に宿し。

 天王寺は突進を仕掛ける新型の姿を目に納めていた。

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