転生者は言った、ヒーロー? ヴィラン? 違う、俺は忍者だ。 作:しのおん
でしが、現実に忍者が現れたら絶対に面白くなると思います。
そんな思いで書きました。
『サプライズニンジャ理論』と呼ばれる理論がある。
物語のワンシーンに突如ニンジャが現れて、その場にいる全員をバッタバッタとなぎ倒す。それでそのシーンがより面白くなるなら、そのシーンには面白さが足りていないという理論だ。
これを単純に話として聞いてみて、どう思うだろう。
多くの人は思うのではないだろうか。『確かにいきなりニンジャが現れて大暴れしたら面白いだろうな』、と。
これは字面の問題と、昨今のネットミームにおけるニンジャの役割というものが大きいだろう。まず第一にニンジャという単語には万国共通のインパクトがある。
この理論は海外で提唱された理論だが、俺たちが済んでいるニンジャ発祥の地であるこの国でも、その理論はおおよそ理解できるだろう。
ニンジャとはすなわち何でもありの愉快でインパクトの強い存在、というわけだ。
しかし、実際のところ本当にとあるシーンへニンジャを突如として登場させても、その物語が面白くなることはあまりない。そもそも“シーン”とはそこに至るまでの積み重ねとそのシーンに登場するキャラクターの個性によって成り立つから、もしも物語が魅力的であれば、突然名も知れぬニンジャが湧いて出ても、それは視聴者を興ざめさせるだけだ。
だから『サプライズニンジャ理論』というのは案外、ごくごくありふれた創作理論の一つである。類型としてなにかのデザインを行う時に、そのデザインは猫よりもカワイイのかという理論もある。そういった、普遍的な物語の面白さを確かめるための考えかたの一つでしかない。
だけど、俺はこの世界にたった一つだけ、どんな状況だろうと、どんなシーンだろうとニンジャが登場してその場の人間をバッタバッタとなぎ倒せば面白くなる物語があると思っている。
それは世界中の誰もが知っていて、そして多くの人間がその物語に辟易している、そんな超有名作にして問題作である。
どれだけその物語が楽しいと思っている人間でも、絶対に一生のうち、どこかでつまらないと思う時が来る。そんなときにニンジャが現れれば、その物語は間違いなく痛快になるはずだ。
そんな物語を、俺は知っている。
――そしてそれを俺は、こう呼んでいた。
現実、と。
俺は転生者だ。前世はごくごく一般的なオタク男性。ほどほどの学校を卒業し、ほどほどの会社に勤務していた人間だ。当時はその代わり映えのしない人生に辟易し、異世界転生だとか、チート俺TUEEだとかを嗜好していたわけだが、どっこい本当に転生してしまった。
ただ、俺が転生した世界はいわゆる中世ファンタジーのような世界ではなく、俺のよく知る現代的な一地方都市である。
その時の俺は絶望したね。転生してまで、面白みのない男になってしまうのか、と。俺のようなつまらない男が転生しても、結局何かが変わるわけではないのだと。
それでも、前世の知識という明確に他人よりも優れたチートを手に入れたわけだから、それを使ってせいぜい前世よりもいい暮らしをするため頑張ろうか、と思った矢先だった。
俺は、ヒーローに出会ったのだ。
そう、あのヒーローである。悪の組織――ヴィランと戦い人々を守る、あのヒーローだ。初めて間近でその戦闘を目撃したのは、物心が付いてすぐだっただろうか。いやまぁ、赤子だった頃から記憶はあったけれども、あくまで一般的に物心がつくような年齢、という意味で。
市民を守るために戦うヒーロー、本当にかっこよかったね。彼らはどうやらアメリカンなコミックの住人のように、超能力を武器に戦う“
仮面をかぶったり、魔法少女になったりしないのは少し残念だが、こちらのほうが誰でもヒーローになれる可能性があっていいかもしれない、とか思ったりした。
まぁ、そんな俺を守ったヒーロー達が、テレビの向こうで二次被害を防げなかったことを陳謝していたとき、そんな夢は木っ端微塵に吹き飛んだわけだが。
まったくもってガッカリである。ヒーロー達に、ではない。彼らは本当に頑張っていた。確かに戦闘で街を破壊してしまったし、それによってけが人が出てしまったりもしたけれど、死者は一人だって出さなかったのだ。
相手が人智を超えた力を持つヴィランであることは明白で、そんな相手に死者を出さなかったヒーローたちは讃えられこそすれ、詰られるような存在ではないはずなのに。
どうやら、この世界においてヒーローは市民の憧れではなく、市民から白い目で見られる迫害される存在であるらしい。
しみったれた世界だ。そもそもヒーローである新人類は突如として人類の中に出現した、人ならざる超能力を有した存在で構成されているために、最初彼らはヒーローではなく差別される存在であったことは事実。
隣人が突然炎を吐き出して自分を焼き殺してしまうかも、と思えば市民の恐怖も解らなくはない。
だとしても、それは高潔な精神で市民を守るヒーローには当てはまらないはずだ。というよりも、あんな罰ゲームみたいなことをする必要はないはずだ。
何もそこまでしなくてもいいだろう、と思ったのに。
――ネットで『誠意が足りない』という意見が大多数だと知ったとき。
俺はこの世界に対するワクワクと、モチベーションを失ってしまった。
そんなとき、思い出したのだ。
『サプライズニンジャ理論』。ニンジャが現れてバッタバッタとその場にいる人物をなぎ倒したとき、展開がより面白くなるなら、その物語には面白さが足りない。
――俺が転生した世界にはヒーローがいて、ヴィランがいた。前世では物語でしかなかった存在が現実になった。
その結果が、これだ。だとしたら――
こんな
俺は転生者だ。転生者にはチートが備わっているのが当然で、そのチートによってこの世界で思うがままに振る舞うことができる。
本来なら、俺はヒーローにも、ヴィランにもなれた。欲望のままに世界を自分のものにすることも、高潔な精神で世界を守ることもできたはずだ。
だけど、俺はそのどちらも選ばなかった。
その日、俺はヒーローでも、ヴィランでもない存在――“忍者”を選んだ。
――
それでも、未だ彼らの立場は低い。そもそも、彼らが戦うヴィランは、新人類を元にして生まれた
結局の所、市民――汎人類にとって、新人類とは異質な存在。テレビの向こう、もしくは檻の向こうの存在だった。中には彼らを好意的に見る市民もいるが、大抵の場合それもあくまで動物園の動物を見るような感覚。
現状、人類は新人類を自分と同じ存在だとは認めていなかった。
故に悲劇は起こる。
その日、街中に現れたヴィランは、改造人類ではなく新人類だった。新人類の中には人類へ絶望し、反旗を翻すものも少なくない。
そんな新人類のヴィランが街を襲撃、ある市民を人質に取った。当然ながらその市民は新人類でもなんでもない、一般市民。齢一桁程度の少女だ。
自分がどのような状況にいるのかも、理解していない。そんな少女を手に、ヴィランは言った。
今ここで、この少女を処刑する――と。
ヴィランの狙いは明白だ。ヒーローを名乗り市民に味方する、傲慢で愚かな新人類達への警告である。そんなことをしても意味はない。新人類が現れてこれより、市民が新人類に歩み寄ったことなど一度もなかったではないか、と。
よって交渉は無意味。ヴィランの目的は少女を人質にした時点で果たされている。後は自分がヒーローに殺されようが、ヒーローが少女を取り返そうが、自分が少女を殺そうが関係ない。最後の行動を、ヴィランに実行する覚悟があるかは別として。
駆けつけたヒーローは若輩だった。ヒーローには担当区域が割り振られていて、基本的にその区域に別の区域を担当するヒーローが駆けつけることはできない。
ヴィランはそれが解っていた。自身もかつてはヒーローであったがために。
――駆けつけたヒーローとは、幼馴染の関係であったがために。
「どうしてこんなことをした、モズク!」
「おいおいその名前で俺を呼ぶなよミズケ、今の俺はダークブルーム、ヴィラン・ダークブルームだ!」
くつくつと笑いながら、ヴィラン――ダーク・ブルームは自身が手にするナイフをくるくると弄ぶ。狂気に満ちたその笑みへ、対するヒーロー――ミズケの顔は暗い。
両者は幼馴染であり、かつては共に背中を預けて戦う相棒だった。互いに強い正義感から市民を守ることを選び、時には傷つきながらも勝利してきた。
今はまだ一人では一人前とは言えないが、少なくとも二人は共に背中を合わせて戦えば、間違いなく一人前と言えるほどの堅い信頼関係があったのだ。
それなのに、こうして彼らは向かい合っている。
「どうして? そんなの語る必要があるか? お前が一番解っていることだろうが! 見ろよ、お前を見る
――彼らは広場で相対していた。当然ながら周囲には野次馬が集まっている。下手をすればヴィランに攻撃され、ケガをしてしまうかもしれない位置にも、平然と人が立っていた。
彼らの視線は一様に、ヒーロー・ミズケへと向いている。ヴィランには意識こそ向けていても、その感情の多くはミズケへのものだ。そして彼らは一様にこう語っていた。
“やくたたず”、と。
「……だからどうした、お前のやっていることが間違っていることに間違いはない。ダークブルーム、早く彼女を開放しろ!」
「ハッ、解ってねぇなぁ。教えてやるよ。ゴミムシ共はてめぇを侮蔑してるんだ。事件を起こした俺じゃねぇ、てめぇだよ、ミズケ!」
「……」
「
――言葉とともに、ダークブルームは剣を振るった。
それが風となり、野次馬たちへと向けられる。即座に動いたミズケによってそれは防がれたものの、市民たちからは悲鳴が上がり、一部の市民はその場から逃げ出した。
だが、多くの市民たちは違った。声を荒げたのだ。
「いいかげんにしろ!
――と。
異常人類。それは新人類に対して与えられた蔑称だ。ゴミと、ミュータント。二つの言葉から生まれたそれを、彼らはためらうことなくミズケに対してぶつけている。
ある意味、その場は異様な光景となっていた。
悪事を行ったのはヴィランのはずだ。少女を人質にしているのはダークブルームのハズだ。なのに、市民たちはこぞってヒーローを罵倒している。彼らを守っているのは、ヒーロー・ミズケであるはずなのに。
これが市民たちの本質、新人類たちが、ヒーローたちがどれだけ真摯に活動しようと変わらない、悪しき人類の汚点と言えた。
「――ミズケ、俺と一緒に来い。この世界は変わらなくちゃいけねぇ、ヒーローなんていうテレビの中から飛び出してきた存在が目の前にいても、現実を見ようとしねぇこいつらに、現実を解らせてやるんだ」
「…………」
そこに、ダークブルームの甘言が響く。本来ならば、ミズケはそれを跳ね除けられるはずだった。ヒーローなのだ。正義感は本物なのだ。
それでも、だとしても、目の前にいるのがかつての親友。彼の行動を、果たして間違っているとミズケは弾劾できるのか。
――できない、とミズケは思った。
彼の手を取ることはできなくとも、彼を否定することはできない。それがミズケの結論だった。
いよいよその様子にヒートアップする市民。現実が視えていないというのはまさしくこのこと、目の前で起こっている、正義を振りかざしてもいい状況に、彼らは完全に酔っていた。
だからもちろん、その場に現れた完全なる第三者に、気付くものもいないのだ。ヒーローも、ヴィランも、誰も。
「――失礼、ちょっといいか?」
声がした。ずしりとくる重い声だ。
その声は、最初誰にも意識されることはなかった。だが、遅れてそこに誰かがいることに気が付き、そして彼らは認識した。
「俺は忍者だ」
そう、彼が自身のことを名乗った、それと同時に。
忍者がそこに立っていた。黒い忍び装束と灰色の仮面。スラリとしながらも鍛え上げられた長身は、明らかに歴戦といった様子。例えそれが名の知れない忍者であったとしても、ヒーローとヴィランが警戒するに値する。
しかし、それだけではない。彼らは――そしてこの場にいる市民も、その忍者のことをよく知っていた。そして彼が、この次に告げる言葉も、彼らは知っていた。
「おっと、
突如として緊迫した場面に現れた忍者は、必ず周囲の人間にそう告げる。まるで、サプライズを披露しようとする忍者のように。
そう、彼は忍者だった。
忍者とは、忍術を使うものだ。例えばそれは――変わり身とか。
誰もが思うだろう。ここで現れた忍者は、きっと少女を変わり身して救うのだ、と。しかし、違った。忍者が変わり身したのは、
市民たちもまた、変わり身によって変化した。
現れたのも、また忍者だ。
市民に扮していた忍者が正体を表した。決して全ての市民が忍者であったわけではない。あくまでごく一部。ほんの少しの市民が忍者だっただけ。
だが、それによって何が起こるか。彼らはヒーローによって守られていると信じていた。しかし、実際にはその中に、ヒーローにすら看破できない忍者が混じっていた。これはどうだ?
一体誰が、自分の隣の市民が忍者でないと保証してくれる?
檻の向こうの見世物だと思っていた。自分には関係のないことだと思っていた市民が、途端に現実へと引き戻される。後に起こるのは――恐慌だ。忍者によって、人々は自身の現実に対する恐怖を呼び起こされるのである。
それと同時に、人質という手札を有していたヴィランもその手札を失った。人質と思っていた少女は忍者の変わり身だった。こちらは人ではない、丸太だ。
「――っ、クソ! 邪魔しやがったな、忍者野郎!」
「邪魔とはおかしな事を言うな、怪人。俺はただつまらぬ物語にサプライズを届けに来ただけだ」
いいながら、忍者はクナイを構える。
「ヴィランになる覚悟を決めて、やったことが相棒の勧誘か? ならやめておくことだ。それでは最終的に、お前は相棒を殺すことになる」
「……何、をッ!?」
「友を想うものに、ヴィランの資格なし――つまらん真似事はやめておくことだ。そら、ここから少しばかり――面白くなるぞ?」
かくして、忍者は現実のものとなる。
ヴィランがいようが、ヒーローがいようが関係はない。
「ちく、しょう……畜生、てめぇは一体、なんなんだよぉおおおお!」
――それに対し、転生者は言った。
「……ヒーロー? ヴィラン? ――違う」
俺は、忍者だ。
忍者は転生者です。
ですが、転生者のチートは忍者ではありません。転生者が忍者となることを選んだから、転生者は忍者となったのです。
というわけで忍者と転生者とヒーローの話です、よろしくおねがいします。