もしもすべて、夢だったなら?
これはポンコツになる前のまだ炊事洗濯できてた主人公
話の8割は主人公のヒト時代の幼馴染との会話
【本編について】
美貌馬本編の最新話にアンケートを設置しました
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完全素人ニキの愛馬の名前アンケート、ぜひぜひご協力いただければと思います。
「は……?まぶし……」
これが、起き抜け一発目に俺が口にした言葉、らしい。
らしい、って他人事なのは、俺がそれを覚えていないからだ。
「お前、それ言ってまた意識落ちたからな。目が覚めたかと思ったらパッタリ動かなくなったから、それが最期の言葉かと思ったぞ」
そう言ってリンゴの皮を剥く目の前の男は、俺の小学校の時からの幼馴染。
中学に上がるのを機に遠方に越し行ったから、幼馴染と会うのはこれで8年ぶりだった。
その幼馴染の話によると、久々にこっちに戻ってきたコイツは、俺の家に向かう途中で行き倒れの俺を見つけたそうだ。
「電車のドアが開いた瞬間、ゲロ吐くかと思った。目の前のベンチでお前が倒れてたから……こっちの心臓が先にくたばるかと」
「なんかすまん」
切ってもらったリンゴを受け取ってそういうと、幼馴染は深いため息を吐いた。
「……それにしても、まさかおばさんが亡くなっていたとは。なんで連絡しなかった?」
「れ、連絡先がわからなかった……」
「ばあちゃん
知らないとは言わせねえぞ、と存外に告げる視線に、俺は両手を挙げた。
「本当にすまん」
幼馴染は眉間に皺を寄せたまま、それで?と言葉をつなげる。
「それで、って?」
「今までどうやって生きてきた?確か、親戚はいないって聞いていたが……後見人は?自宅見に行ったけどなにもないし……あ、勝手に自宅入ってすまん」
「いやいや、俺の荷物とか持ってきてくれたんだろ。責める立場にねえよ。それに……俺も何も言わなくてごめんな」
俺がそう言って口を閉ざすと、幼馴染は少しだけ表情を緩めた。
さて、どう説明したものか。
俺はうんうんとうなりながらも、母が、母ちゃんが死んでからの日々を軽く説明した。
「はっ!?ずっと一人暮らしなのか!?」
「まあ……俺、あの時17歳だったから児童養護施設には入れなくて、それでどうするってなってな。高校卒業まであと1年だから、とりあえず行政の支援受けて、なんとか高校だけは卒業して」
高校卒業だけは母ちゃんの希望だった。
常々、高校だけは卒業しておきなさいよ、と言われてて、母ちゃんが死んだ後も「高校だけはなんとか、それまでは何とか生きていないと」と必死だった。
幸い担任の先生がすごく親身になってくれる人で、俺が卒業できるようにいろいろと取り計らってくれたしな。
学費とか生活費のこともあるからほぼ毎日バイトだったけど、勉強とかで遅れて留年しないようにって土日の夜に勉強見てくれたり。
先生の奥さんが料理好きでいつも多く作るから、って理由でご飯差し入れてくれたり。
……絶対、俺の分まで余分に作ってくれてたんだろうけど。すごく感謝してるし、先生とその奥さんには一生頭が上がらない。
学校では片親で天涯孤独で、ってことで嫌な絡み方をしてくるやつもいたけど、それにいちいち反応している暇はなかったからスルーしてたらなくなった。
本当に構ってられなかったんだよ、そんなことしてる暇あったら内職の造花を仕上げたかったし。
たぶん幼馴染が思っていたよりも強かに生活していたぞ、と豪語する俺に、幼馴染はあきれたようにまたため息を吐いた。
「それで結局、お前も過労死寸前だったわけだけど」
「う……それを言われると返す言葉もありません」
本当にギリギリではあったがなんとか高校を卒業。
式では俺よりも担任の先生が号泣してたし、母親代理だといって先生の奥さんが一緒に写真を撮ってくれて、結構ハッピーな卒業式だった。
そのあとは、先生たちにも手伝ってもらって、高卒だけど社員として雇ってくれる会社に就業。
大卒の同期に比べると天と地ほどのお給料格差があって懐は寂しかったけど、それでも一人暮らしだしなんとかやっていけてた。
やっていけてたのだが、2020年に流行り病で会社が長期休業を余儀なくされてしまい、それの影響なのか業績不振に陥った結果、人件費削減ということで、高卒社員1年目だった俺はあっさりとクビに。
今はバイトをいくつも掛け持ちしてせっせと暮らしているというわけだ。
で、そのバイトをやりすぎて倒れた結果、今に至る。
「なんというか……俺は幼馴染として情けない……」
「い、いやいやいやっ!!むしろ遠路はるばるこっちまできて……俺の様子を見に来てくれただけでなく、入院手続きやらなにやら……面倒を見てくれたじゃん── 半年も」
そう、俺が過労死寸前で行き倒れた日から半年以上が経過していた。
その半年もの間、目覚めぬ俺の入院費を払い続け、ほぼ毎週様子を見に来てくれていたのだと、俺の担当をしてくれている看護師さんから聞いていた。
血がつながっているわけでもない、なんなら8年も直接会わなかったような間柄で、ここまで献身的にサポートしてくれんだぞ?
こんなに良くしてくれたのに「情けない」わけがない。
むしろ情けないっていうなら俺のほうだ。
「……正直に言うと、実は何度か連絡しようかと考えたこともあるんだよ。でもやっぱり、迷惑かけたくないなって思っちゃってさ」
引っ越していった幼馴染は、向こうにもちゃんとした友達がいるはずだ。
8年間顔も合わせていない、正月ハガキだけのやりとりしかしていないのに、助けてくれとは言えなかった。
あとはどうしようもないことなのだが、俺が助けてもらうのを恥ずかしがったからだ。
大人に助けられるならともかく、同年代に助けてもらうのはな……なんていうくだらないプライド。
「でもそんな顔させるくらいなら、とっとと恥を捨てておくべきだったかもな」
「……まったくだ」
くしゃりと表情をゆがめた幼馴染には、この半年でいらない苦労をたくさんかけてしまったらしい。
「ごめんなあ」
俺が申し訳なさ半分、嬉しさ半分で謝罪を口にすると、幼馴染に腹パンされた。
ちょ、こっち病人なんだが!?
「あ、お前の荷物、もうアパートにないから。というか、申し訳ないが解約した」
「いきなり爆弾落とすじゃん!?話の温度差で風邪ひきそう……ッ!」
そう口にはしつつも、まあそうだよな、というのが俺の感想。
だって半年だ。
家賃は口座引き落としタイプにしているから、たぶん2か月分くらいはなんとか残高も足りただろうけど、それが底をつけばどうしようもない。
ただでさえ幼馴染には入院費や治療費やらを立て替えてもらっているのだ。
無人のアパートの家賃を半年も肩代わりする筋もないしな。
致し方なし……ちょっと苦しいけど……!
「で、今週末には退院だ」
「ンン!?急展開がすぎるんだよなあ!!」
あれから半年ということはバイトもすべてクビになっている可能性が高い。
アパートも解約されてるし、口座も空っぽな気がする。
まずは役所に駆け込んで行政支援を受けるところからスタートかな、と俺が頭を抱えていると、幼馴染が俺の肩をがっちりと両手で掴んで、にやりと悪そうな顔で笑った。
「安心しろ、家はある」
「……家はある?」
「ああ、あるとも── 俺の家がな。お前が完全な健康体になるまで同居だ。1年くらいでマッチョにしてやる」
「もしかして爆弾しか落とせない日か?聞いてないが?」
「言ったぞ、3か月くらい前に」
「それ俺が寝てるとき~~!!」
うわうるさっ、と口にした幼馴染は、俺が起き抜けに見た、あの泣き出しそうな顔はもうしていなかった。
退院してからあっという間に半年が過ぎた。
時間の流れはやすぎぃ!!
「ただいま」
「おっ、おかえり!今日の晩飯はコロッケだぞ、って、お前そのほっぺどうしたんだよ!めっちゃ紅葉じゃん!」
幼馴染の家── なんとこいつ、俺の地元で2LDKのマンションを一括で買ったのだ。
なにその財力……と俺が恐れおののいていたら、去年買った宝くじで大金を手にしたのだとか。
偶然手に入れた金だし持て余すよりはパーッと使いたい、と思って再び宝くじを買ったらまた当たってしまったらしい。
どんな幸運体質なんだ?と口にしたら真顔で「わからん」と言われた。
幼馴染は大金を手にした後も都内のベンチャー企業で元気に働いている。
大学の先輩が起業した会社だそうで、今いい感じに成長しているんだとかなんとか。
残念なことに俺が不勉強だから難しい話は分からなかったけど、幼馴染は今の職場が楽しいようだった。
俺はその幼馴染の下でお世話になる代わりに、炊事洗濯を担当し、家から出ることはほとんどない。
最初の3か月はぶっちゃけいうとただのヒモ状態だったのだが、今はブイチュー馬―をしている。
そう、ブイチュー
バ美肉ならぬ馬美肉おにいさん・アップルソーダ。
なぜか人の言葉を理解できる馬という設定だ。
最初は無課金でウマ娘プレイ、みたいな配信動画を趣味で投稿していたのだが、動画内でヒヒーンと馬の鳴き真似をしたやつが何故かバズり、あれよあれよという間に馬のガワができて個人勢としてデビューしていた。
わずか1か月で収益化が通り、今は30万人のフォロワーの前でヒンヒン言っている。
幼馴染は「自宅で無理なく楽しくできる良い職業だ」と賛成してたけど、お金は社員時代の半分もないのでもう少し頑張らないとな。
まずは入院費治療費そしてここでの生活費を全額返済することが目標だ!
……と、俺の話をしている場合じゃない。
幼馴染のほっぺについた紅葉、人の手っぽい赤い痕のことだ。
これは全力で平手打ちされてんな……!
「気にするな」
「いや気にするわ!えっなに、どうしたのそれ、誰に殴られたんだ?俺は心配だぜ親友!」
「そう言いながら頬を突っつくなよ」
そう言って鬱陶しそうに俺の手を振り払った幼馴染の、その目をじっくりと見つめると、観念したのか再び口を開いた。
「……彼女に、いや元カノに平手うちされた」
「ヒョッ!?マジで!?」
そう、幼馴染には彼女がいる。
いや、元カノって言ってるからもう別れてしまったようだが、同い年のとても美人な彼女がいたのだ。
1度写真を見せてもらったことがあるのだが、なるほどお清楚なお嬢さんといった感じの。
うまくいってるように見えていたが……もしかして俺がいるからか?
誰よその男!みたいな流れなのか?
俺ってばただの炊事洗濯担当の同居人だというのに。
そう思っているのが顔に出ていたのか、幼馴染は肩をすくめてから、フンッと鼻を鳴らした。
「お前じゃ泥棒猫にはなれないだろ。鏡見てこい」
「ハハッ、人の傷つけ方一流か?」
「彼女とは単純に価値観の相違だよ」
「スルーすんなや。……価値観の相違って、相手はまだ大学生だったっけ?インターンでどっかの会社に入ってるんだよな。確か、お互い結婚しても仕事は続けようね、みたいなタイプの」
幼馴染はそうだと頷きながらも、事のあらましを教えてくれた。
幼馴染曰く、元カノは社長と結婚する予定なんだとか。
社長?なにそれ?と俺が首をかしげていると、幼馴染はしかめっ面で話し始めた。
ちなみに如何にも怒っているかのようなツラだが、これで傷心中の顔だ。
わかりにくいね!
「彼女が言うには、インターン先の社長からのプロポーズを受けたらしい。俺とのお付き合いはままごとのようなもので、恋に恋をしていたのだ、と」
「別れて正解じゃねえか」
おっと、思わず本音が。
「女性が好むようなレストランに疎い俺にも非はあったと思うが、はっきりとお金とか甲斐性の話をされたので、まあ潮時だとは思っていた」
「……ん?珍しいな、お前がそんなあっさり引くとは」
ペットのハムスターが死んでしまったとき、三日三晩落ち込んで食事ものどを通らなかったと、幼馴染の祖母からハガキが来ていたことを思い出した。確か中学生の時かな?
幼馴染は一途な性格で、愛情はとことん注ぐタイプだから、失ったときの反動がでかいのだ。
元カノにはかなり積極的に贈り物をしていたり、愛情を注いでんなー、と思っていたがそれにしては反応が薄い。
「今回に関しては、急に失ったというよりは前々からサインみたいなものを感じていたからな」
幼馴染の言うサインとは、浮気のサインだ。
これまで彼女は幼馴染が送ったアクセサリー以外は身に着けていなかったらしいのだが、ここ1年は明らかに別の男からの、それもバカ高い金額のアクセサリーを身に着けるようになっていたらしい。
あとは、これまで1度もブランドバッグやアクセサリー、洋服を強請ってこなかった彼女が、ひきつけを起こしたように強請り攻めしてくるようになったんだとか。
「最初は「俺は気の利かない男だからこれくらいのプレゼントは」と思っていたんだが、だんだんと要求がエスカレートしていってな。宝くじを当てたし、余裕はあったんだが、それにしてもこの彼女と結婚後、一緒になるのかと想像したら……」
「あー……ダメだった、と?」
「ああ。自分でも驚くほどサラッと「それじゃあ今日で終わりだな」と言ったんだ。社長からプロポーズされたってことは俺を振る気満々だろうし、俺ももう冷めていたから引き留めるつもりもなくて、むしろその社長と幸せになれよ、くらい思っていたんだ。実際に口にもしたんだが」
「思いっきり引っ叩かれた」
「そうなる」
ハハーン、なるほどね!
幼馴染の彼女としては、幼馴染に愛されている自信があったからみっともなくすがってくるはず、とでも思っているのかもしれない。
それがアッサリと手を引かれたものだから、激高してバチーン!か。
最終的には社長と結婚するけど、今後も幼馴染を金ヅル扱いする気だったんだろうな。
ああ、それにしても幼馴染の元カノはもったいないことしたなあ。
コイツほど一途で甲斐性のある男などそうそういないだろう。
なにせ、8年ぶりに再会した幼馴染が目を覚ますまで半年、覚ました後も社会復帰のためにさらに半年、世話を見てくれるのだから。
俺に対してこれなんだから、順調なまま結婚してたらかなりラブラブチュッチュな感じに違いない。
不幸せにしない、どころか全力で幸せにしようとしてくれるだろうに。
「明日にはその紅葉も消えてるだろうけど、念のため氷出す?」
「頼む」
「まかせろん!とりあえずコロッケ温め直すからご飯だけよそっといてくれ」
了解、と幼馴染が頷く。
ささっと氷嚢を作り、片手間にコロッケを温め直す。
なんて便利な世の中、ノンオイルフライヤー最高だ。
氷嚢を投げ渡し、温め直したコロッケとミニトマト、みそ汁をテーブルに並べると、2人そろって夕飯にありついた。
「……そういえばあの夢、もう見なくなったのか?」
「ふぉのふへ?」
「ほら、馬になるとかどうとか、っていう」
幼馴染の言葉に、俺は箸を止めた。
馬になる夢。
ただしくは、馬に生まれ変わった夢。
俺の起き抜け一発目の言葉は「まぶし……」だったみたいだけど、その次、再び目覚めたときに発した言葉は「あれ、俺、馬だよね?」だった。
これが、俺が最初に発した言葉だ、という自覚があるセリフだったのだが、驚くことにこの時の俺は本気で自分が馬だと思っていたのだ。
両手足を見て驚き、鏡に映った自分に驚き、アレッ?なんで人間?どうして?とガチで不思議に思って、2日ほど半狂乱状態。
お前は夢を見てたんだよ、という幼馴染の言葉で正気を取り戻した。
医者たちからは「倒れる直前に思い浮かべていたことがずっと頭に残っていたんでしょうね」と言われたが、あまりにもリアルな夢だったので1か月くらいは毎日、馬になった俺の夢を見続けてはうなされたっけな。
俺は夢の中では「サンジェニュイン」という白毛の馬で、大勢の人間に囲まれ、大事に扱われ、競走馬として競馬場を駆け抜けていた。
芝生を踏みしめた感覚も、背中に人を乗せていた重みも、悔しさも、喜びも、あまりにも本物じみた質感で、夢を見なくなった今でさえ鮮明に思い出すことができる。
退院してからもしばらくは夢に見ていたのだが、ブイチュー馬―として配信を始めてからは、まるきり見なくなった。
「あの夢はなんだったんだろうな」
コロッケを頬張った幼馴染がそう俺に言う。
俺は首を横に振って、ただ「わからない」と一言だけ返した。
本当に解らなかったからだ。
あんな夢を見続けていた理由も、それがあまりにもリアルだったことも。
ただひとつ言えることは、あの夢の中の俺は、結構幸せそうだったな、ということだ。
「そうだ。俺の傷心旅行もかねて北海道の牧場巡りしようと思うんだが」
「うーん唐突!」
「お前、前に配信用の馬ネタが尽きてきた、って言ってただろう。本物の馬に会ったら何かいいネタがあるんじゃないか」
「えぇ……それは……アリだな!ヨシッ!行こうか北海道!」
そう言って親指を立てたら、最後のコロッケを奪われた。
「アッちょっと!ラスト1個は作り手のものでは!?」
「食事は戦争。潔く負けを認めろ」
「コイツ……!明日の朝食は鮭1枚俺のほうを多くするからな!」
そう言ってギャーギャーと言い争う、俺の耳の奥で聞きなれた音が高らかに鳴らされる。
── ヒヒーン
頭の中でずっとずっと、響き続ける。
登場人物
主人公 男
いろいろあったが元気に暮らしている
バ美肉ならぬ馬美肉おにいさん
幼馴染 男
とても一途で全力疾走するタイプ
冷めた時の反動がすごい
【本編について】
美貌馬本編の最新話にアンケートを設置しました
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第◇回サンジェニュインのお嫁さんレース(敬称略)
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エアグルーヴ
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ハルウララ
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ウオッカ
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カレンチャン
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海外牝馬組