貴方の病んだ幻想入り 作:回忌
「…」
「…」
視線が交差した
何も言えない、動けない
「…魔理沙」
「お易い御用…!?」
体が、中を浮く
楓の扇子がよく見える
文が暴風を引き起こしたのは言うまでもない
「くそっ!」
「させない!」
「応戦しなさい」
それが最後に聞こえた言葉だった
俺は何とか空中制御を図ろうとする
だが、精も、霊力も搾り取られたこの体にそんな力は無い
「あ、ああ」
人生で出したことのない間抜けな声
それを認めたくなかった
というより、こんな敗北を認めたくなかった
強大な敵に負けるのは納得出来た
たが、これは…
否定しても、事実は変わらない
それが俺にとっていやだった
ガン
「あ」
それが俺が最後に出した言葉
空中制御が出来なくなった俺は地面に向かった
そして運悪く地面に叩きつけられた
さらに運の悪いことに後頭部を強く打ち付け…
これが、俺としての最後の記憶だった
〇
文の家はボロボロになっていた
同様に3人はボロボロだ
「そろそろ諦めなさい」
冷徹な声でいう霊夢
「羨ましいですか?私があんな事をしたこと?」
おどけた口調で文が言う
「許さない、許さないぜ…!」
静かに怒りを放つ魔理沙
その緊張は一瞬で静まった
文が突然倒れたのである
その後ろには裂けた空間から伸びる手
「紫」
「霊夢…魔理沙」
紫は彼を抱えて現れた
その後ろには藍も居る
「…もう、どうしようも無いわ」
諦めの言葉
「…本当に?」
「…彼が記憶を失った」
絶句
気配だけでも分かるほどの大きな絶句
「きっかけで治るでしょうけど、ここに置いておけない」
「そんな…じゃあ!」
魔理沙は叫ぶ
「外の世界に送るしかない…?」
霊夢が呟く
「その通り、案ずるな…世話は先代が行う」
「…もう、会えないのかしら」
彼に手を伸ばそうとする
「いえ、それは無いわ」
紫は否定する
「彼は幻想の存在、必ずこちらに来る」
「その時を…待つ?」
そういう事だった
彼が幻想に戻るのを待つ
…それが最適の手段だった
「…でも」
「問題無いわ」
そうすれば、少なからず不味いことになる
紅魔館の連中やらが好意を寄せているのは確定
その存在が居なくなれば…
「こちらで抑えるから」
紫は安心させるように言う
「…信じても、いいのよね?」
確認
「ええ、信じて」
お願い
今、この時
貴方の物語が始まったのだ
「…戸籍を作らないと…あぁ、それに…」
そう言いながら紫は隙間に消えていく
それを最後まで、2人は見ていた
〇
行ってきます
貴方はドアを開けてそう言った
返される声は無い
母と父は行方不明になっていたからだ
原因は不明、知らぬ間にふらりと消えていた
キャンプ用具を持ち、歩く
久しぶりに山に行きたかったのだ
小鳥の囀りと葉の音は心を癒す
雨が降ればなお良しな事だった
〇
山の中程に来ると、貴方はキャンプ用品を展開する
テントを置いて、薪を置く、その後に木の枝を探す
入手したら薪の周りに置いた木に座る
そしてナイフを使ってけがく
大体をやり終えると、薪に火をつける
そこに鉄網を置いて、肉も置く
じゅーと肉の焼ける音
香ばしい匂いが鼻に入ってくる
それを何回かひっくり返した後、口に入れる
ジュウシーな肉の味
食べ終えると、テントの中に潜る
既に真っ暗になっていた
貴方は目を瞑り、眠った
物語の、始まり