作:Trefoil Knot / 試行存在

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「あら、珍しい。帰っていたのね」

「アズか」

 

 研究所内で、珍しいコに出会った。……いや珍しいというのはホントはおかしいのだけど、どうにも避けられているようで、中々会えないから──やっぱり珍しい出会いだ。

 

「何をしているの?」

「見てわからないか?」

「瞑想による自己分析と、己の立ち位置の見極め──とかかしら」

「見てわかるのか。本当に恐ろしいヤツだな、君は」

 

 カムナリ。

 和服を着た少女。和服といっても"今回"成立した和の国とは違い、"前回"にあったヒノモトという国の様相。

 薄紫と褪せた紺色、宇宙を思わせる紺碧は、彼女の出で立ちをどこか曖昧にさせる。ヒトを相手にしているのか、そうではない──神や精霊のようなものを相手にしているのか。ま、"今回"そんなものは発生していないのだけど。

 

「ちょっと、考えていた。もうすぐ来る"終わり"。私がTKに遺せるものと、残さずに隠しておくべきものを」

「包み隠さず、は……無理そう?」

「無理だね。こんな世界、TKは学ばない方が良い。彼にはもっと綺麗な世界を造ってもらいたい。ああ、そんな目で見ないでくれ。それが無理な事くらい、私にだってわかっている。少なくとも人間が発生するんだ。悪性が生まれない事なんてありえない」

「悲観的ねぇ。善性……良いコもたくさん生まれるでしょうに」

「……それでも、新しい世界には──新しい秩序があってほしい。この世界のような、"終わり"に抗えない中で、無暗に無様に争い合う世界ではなく。ただ──何か、絶対的な守護者を」

「独裁政権がお好み? 恐怖で生まれた平和は、何かのきっかけで容易に崩れるわよ」

「だから、絶対的でなければいけないんだ」

 

 少女は言う。その腰に携えた刀剣を引き抜いて──こちらへ向けて。

 そのまま私に、突き刺した。

 

「これが、絶対」

「そうね。私が"終わらない"のは()()よ」

 

 当然だけど、その刃が私の身体通り抜ける事は無い。めり込む事すらない。

 "今回"では発生しなかった魔導を用いて拵えられたその刀は、ワズタムの知識と符術によって、更なる強化が為されている。

 その上で──恐らく世界最硬、世界最鋭と言えるだろうその切っ先でさえ、私には及ばない。

 

「同じことを何度も聞かせてもらうよ、アズ。どうして君は、『箱庭』に行かない? 君なら──絶対を手に出来るのに」

「同じことを何度も答えさせてもらうけれど、それはダメなのよ。私がいたら、無が『箱庭』に気付いてしまう。この世界が"終わった"ら、一刻も早く私は『箱庭』から離れないといけない。まぁ発生するリソースの奔流で吹き飛ばされるだろうから、私自ら離れなくても問題ないでしょうけど」

「では、違う事を問うよ。君はTKを大切に想っているんだろう。なら──どうして、人格投射をしない? 模造魂(レプリカントコア)にはまだ余りがある。ロールにだって」

「それもダメなのよ。私は厳密には貴女とは違う存在だから。ワズタムと私は、閉じた世界にいてはいけないの」

 

 彼女はどこまでいっても、この世界の人間だから。

 だから、『箱庭』に入っても問題は無い。

 

「それに、ロールは四つまでよ。それ以上はバランスを壊すわ」

 

 命が生まれる法則。命が死ぬ法則。命が成長する法則。命が流転する法則。

 それらを管理する者として、『箱庭』内に己が人格を投射する。

 私とワズタムを除いた四人。それぞれにそれは渡され、TKと共に世界を造っていく。勿論ただの人格投射だから、外側であるこの世界での四人は"終わる"。自らの模造品を御守り代わりにTKに付き添わせるだけだ。

 

「……そうだね。わかりきった問いをした。無駄な時間だったね、謝るよ」

「いいのよ。それより、折角来たならTKともっと話していったら?」

「さっきまでずっと話していたよ。それに私はこれから、バイトに行かなきゃいけないんだ」

「……バイト? 研究所外で自由にできるだけの給金は出ていると思うけれど」

「別に、お金が欲しいということだけが働く理由ではないよ、アズ。少し──面白いバイトなんだ。とても、私に相応しいバイト。それじゃ、急ぐから」

「え、えぇ。いってらっしゃい。……やっぱりわかんないわね、年頃の女のコって」

 

 その背中を見送って呟く。

 バイト。アルバイト。……もうすぐ「終わる」というのに、TKとの時間を削ってまで?

 

 いえ。いいえ。よくないわアズ。そういう義務感とか使命感を背負わせるのはよくない。

 彼女も無を過ごしたはずだけど、その間に何か成長があったとか、そういう事は無いはず。だから、あの子はまだ16歳の女の子なのよ。そう。だから、自分のやりたい事をやらせてあげるべき。

 お金の為でない……やりたい仕事があってのアルバイト、ということなら。

 たとえそれが、その経験が、どこへも引き継がれないとしても、何の役にも立たないとしても。

 ここは年長者として見守るべき。

 

「……それにしても」

 

 さっきの抜刀。

 刀を抜いた瞬間は見えた。わかった。

 けど──此方へ向けて、その後は見えなかった。いつの間にか彼女が目の前にいて、突き刺されていた、というカンジ。

 腕を上げた、といえばいいのか。別に刀剣術のコトなんか全然わかんないから偉そうなことは言えないけど。

 

「どんなバイトなのかしらね、全く」

 

 あと尖ったものをヒトに向けない事!

 

 

 

 

 さて、地底である。

 地の底と書いて地底である。

 地上から真っ逆さまに落ちて、地底。

 普通ならグチャっとなって死んでいる高さは、それぞれがそれぞれに対処する事で事なきを得た。

 

「お腹減った……」

「符術の使い過ぎだな。そろそろ使用を控えておけ」

「そうする~……ってウォーイ!!」

「なんだ」

 

 ペタリ、と座り込んだジュニの身体には、少なくない切り傷がある。そのジュニを担ぐ大吾。所謂俵抱きで、とても女の子にする持ち方じゃない。

 

「イアンはまだ体力あるだろう。こっから先の符術は任せていいか?」

「うん、大丈夫。だけど藍沙が……」

「解毒剤はないのか、ジュニ」

「睡眠の奴は解毒とかそういうコトじゃないから無いでーす」

「ふむ。……なら、陽下も俺が持つか」

 

 一般的に符術はその符を取り出して使う必要がある。出来る事なら両手が開いていることが望ましいのだ。ジュニは全身に仕込んだ単語帳やメモ帳を瞬時に取り出しての行使をしているようだけど、普通の人はあんな事は出来ない。当然僕にも無理。

 

「……頼むよ、大吾」

「えぇ~! そこは意地でも持つっていいなよ~!」

「いや、ここで意地張ってみんなを危険に曝したらコトじゃないか」

「……そういうことだ。よし」

 

 言いながら大吾は藍沙を受け取る。

 ……ジュニを担いでいない方の手で、横抱き……未だ眠りこける藍沙をぶらーんと、まるで布団か何かを持つみたいに。

 

「なんだ」

「いや……いいんだけど」

 

 僕も完全に出来ている、とは言い難いんだけどさ。

 もうちょっと女の子に対する扱いって、無い?

 

 

 

 とまぁ、そんなやり取りをしながら歩くこと30分。

 流石にオカシイと気付く。や、5分とかの時点でも思ってはいたけど、言いだしたくなくて言わなかったみたいなところはある。

 

「ひっろ。何ここ」

「だな。あの図書館を中心に球形の穴が開いたのだとしても、地面が平坦で30分以上歩き回れる穴であるわけがない。地下の大空洞……そんなものの存在は聞いたことがないが、そういった場所に繋がったのだろう」

「……」

 

 斜面に来たら符術を用いて地上に上がる算段だった。

 けど、これは。

 

「……地面だって。地底だって、限素だ。この世界にあるありとあらゆるものが限素」

「おい、それは」

「あー……えー、そういうことー?」

 

 暗闇は広がっている。逐一周囲を照らす符術を放っているけれど、地面以外のどこにも光が反射しない。それだけの大空洞だ。音の跳ね返りもない。

 ここには何もない。

 

「世界は──私達が思っている以上に、"終わっている"」

「藍沙?」

 

 大吾に持たれている藍沙が、言葉を発した。

 むにゃむにゃ言いながら、目をこすりながら。

 

「ふわぁ……あ、もう大丈夫、歩けるよ。ありがとう、大吾くん」

「ああ」

「……」

 

 大きなあくびを一つ。

 その後、ゆっくりと降ろされた藍沙は、しっかり自分の足で立って──僕を見た。

 

「えーと、イアンくん」

「うん。大丈夫? 藍沙」

「大丈夫? あー、えーと、眠くはないよ?」

「いや、身体だよ。一瞬とはいえあのリソースに晒されてたし、ジュニの毒も食らったわけだし」

「毒って。ただの睡眠剤じゃーん」

「毒でしょ」

 

 自分の手を見て、自分の足を見て、にっこりと笑って。

 

「だいじょーぶ!」

「なら良かった」

 

 明るく元気に。いつも通りに。

 

「……えーと? で、どうするの。こっから。転移術でも使う?」

「距離の計測が出来ていない状態での転移術は危険だ。それに、上に何があるかもわからないしね」

「じゃあ戻る?」

「……それもあんまり意味はないと思ってる。気付いてたと思うけど、僕達は真っ直ぐ真っ逆さまに落ちた。だっていうのにあそこには光が無かった。……どれだけ深い穴を掘れば、太陽の光を届かない場所を作れると思う?」

「そんな場所はあり得ん。何かで塞がれているか、そもそも夜になっている、ということでもない限りは無理だ。少なくとも縦穴──俺達は真っ直ぐに降りたはずだからな」

「うん。だからここは、単なる地底、ってわけじゃないんだと思う」

 

 黒い革手袋を外す。

 骨だけの手。キシキシと勝手に動くソレは、いつも通り黒白の粒子を纏っている。それを前に突き出す。突き出すというか、差し出す、というか。

 

 反応は如実だった。

 暗闇の全てが、何かを嫌がるように撓む。歪み、揺れ、波打ち──眩い暗闇に、真っ暗な輝きに変わっていく。

 

「……これは」

「ね、藍沙。せつめーしてよ。この世界は私達が思っている以上に終わってるって、さっきの言葉をさ」

 

 担がれたままのジュニが、少しだけ冷たい声で言う。

 いつもの彼女と違う。言葉にするなら、気が立っている、というべきか。

 

「でもジュニちゃんもわかってるよね? ココがどこなのか」

「……」

「イアンくんも、大吾くんも。もう気付いてるはず。それでも説明してほしいっていうのなら言うけど」

「うん。お願いするよ、藍沙」

 

 大吾からのアイコンタクトを貰わなくたって、ジュニからのヒントを貰わなくたって。

 大丈夫、気付いている。藍沙がどこかオカシイ、なんてことくらい、気付いている。でも今は情報が欲しいから。

 

「ここはリソースの掃き溜め。寿命を迎えた限素が世界に還るために集まる場所。リソースの墓場。あるいは──地獄」

「……」

「そして、元よりあったリソースに、新たなリソースが入ってくれば、当然のように差圧が生まれる。リソースの差が何になるか、なんて、流石にわかるよね」

「うん。そしてキミがそれであることもわかるよ」

「あは。ごめんごめん、ちょっと憑りつきやすい精神してたから、乗っ取っちゃった。あ、でも大丈夫。宿主の精神が死ぬとか、おかしくなるとか、そういう事は無いから。ここにいる間だけ間借りさせてもらうってだけだから」

 

 軽く、言う。

 なんでもないことであるかのように。

 事実なんでもないのだろう。彼女にとっては。だって、ここは。

 

「ここは地底。ここは地獄。ここは冥府。そしてここは──妖魔の巣」

 

 自らの手によって「終わっていく」暗闇。苦しむように、逃れるように。けれど隙間が無くて押し戻されて、「終わっていく」。リソースの差圧である妖魔を「終わらせる」なんてありえないと、つい先ほど話題に出したばかりだ。

 けれど、やっぱりこうやって。

 妖魔は──「終わり」に侵され、「終わっていく」。

 

「正式名称をD∴S∵M。不可思議なるモノ達によって(Doom therefore Stay)運命は待ち焦がれる (because Mysteries.)。"今回"こそは妖魔と称された私達だけど、"前回"は精霊だったし、"前のその前"は妖精だった。"死神"だったこともあったね」

「ここがどういう場所か、は大体わかった。で、ここを出る手段はあるのか」

「勿論。本来ここは君達がいて良い場所じゃないし。ここに来ることが出来たのは、膨大な量の妖魔のリソースに触れていたからだろうね」

「……イーリスか」

「で、私はここの案内人。時たまここに落ちてくる限素生物を、元の限素世界に戻す役目を担ってる」

 

 骨の手を革手袋にしまう。

 先程からチラチラと藍沙が……藍沙を乗っ取った何者かが見ていたから。

 

「しまってくれてありがとー! それがあるとさ、私達は差圧を失っちゃうんだよね。リソースの差圧で生まれるのが私達だから、平坦にされたら単なるリソースに戻るしかなくなっちゃう。怖いんだよ、自分が消える、って」

「妖魔に恐怖なんて感情があったのか」

「あるよ。恐怖はとっても大きい感情だもの」

 

 腰に手を当てて、頬を膨らませて。

 怒ったように。

 

「妖魔の事情なんかどうでもいい。とりあえず、お前の名はなんだ? お前を藍沙と呼ぶことは出来ない」

「名前? ……あー。えーと。……うーん」

「無いのか?」

「あるけど、上塗りされちゃうから、無いのと同じ、っていうか。とりあえず今の名前はイーリスだよ」

「……」

「ま、好きに呼んでよ。前にここにきた限素生物は、私の事を案内人とだけしか呼ばなかったよ」

「じゃあ、僕らもそれに倣わせてもらおう。案内人。僕達を出口へ連れて行ってくれ」

「うん。そのつもり。じゃ、ついてきて~!」

 

 明るく元気に歩き出す藍沙。いいや、案内人。

 大吾と軽く目を合わせて──歩き出す。

 

 彼女の姿を見失わないように。

 そして、周囲にいるナニカから、決して気を逸らさないように。

 

「私がいる限り襲ってこないから大丈夫だって~」

「……ま、気にしないでよ。僕らが勝手にする事だから」

 

 妖魔の巣。

 もしそれが一斉に襲ってきたら。

 

 ……奥の手は最後まで取っておくべき、だよね。

 

 

 

 

 

 

 紅のアーグ。

 図書館及びその全域で起きた殺戮ショウに付けられた名前だ。最悪のメイデイに続き、ABSの起こした事件の中でもトップクラスの死者数を誇る。

 そしてあれだけの騒ぎ──あれだけの混迷だったにも関わらず、ABSはしっかりと被害者たちのリストを出してきた。周辺域にいた住民はほぼ全滅。学生だろうが社会人だろうが、老若男女関係なくあの血みどろのショウに巻き込まれ──「終わった」。

 ギリギリその「終わり」から逃れた者達も、致死性一歩手前レベルの毒を吸引しており、向こうひと月は病院生活だろう。その解毒剤を作り得る……作り得た国がもう「終わって」しまっているのも悪い事実だった。

 野次馬も避難民もマスコミも、その全てが巻き込まれた。

 その事実は人々に恐怖を与えるのに十分だったらしい。図書館だけの話だと考えていた浮かれた者達が、それに近づいただけで、それの周囲にいただけで、対象者として扱われる──など。

 

「マスター、準備出来ました」

「ん、ありがと。どう? 着心地は」

「問題ないです。……その、良いんでしょうか。私は……」

「ああ、いいのいいの。貴女は私が()()()んだから、もう気にしなくていいのよ」

「……わかりました」

 

 イアン君に引き渡された堕ちた女性。

 DV夫を殺し、それを相談した親友──親友だと思っていた女性までもを殺した女のコ。親友だと思っていたコは、彼女の話を聞いた瞬間に通報しようとしたそうだ。自首すべきだ、とかは言わないで、通報を──助けて、と。そう言おうとしたそうだ。

 だから殺したと。

 

 イアン君がそんな彼女の身柄を引き取っていたのは、自暴自棄になって大橋の上から身を投げようとしていた彼女をたまたま見つけたから。「アズへの対価に丁度いいな」と思って確保し、眠らせたとかなんとか。

 私、他人のこととやかく言える程立派じゃないけど、イアン君も相当よね。

 

「にしても、紅のアーグ……。そしてイーリスの消失、か」

 

 ビーダから齎された情報。

 ABSの第四位、インキュバスとサキュバスのハーフであるイーリスという妖魔が消えたという話。異国の、あるいは異界の言葉を操る妖魔だったらしい。無理矢理翻訳しているから意味が分からないだけだ、と。イアン君のお友達の、大吾・ウェイン君から教えてもらったのだと。

 図書館全体と死者たちの「終わり」よりも、イーリス単体から放たれたリソースの方が多かったらしい。ざっと500年分を貯め込んでいたから、らしいけれど、多分それだけじゃないのだろうな、という所感。

 リソースには様々な種類があるけれど、感動や感謝、そして祝福というのはそれなりの規模を生む。愛情は憎悪や恐怖に勝るのよね。

 

 だから、多分。

 そのコは。イーリスは。自分の言葉を理解してくれた大吾君に、自分の贖いを聞き届けてくれた大吾君に、心より感謝して──だからリソースが増えたのでしょう。その辺の理解がまだまだ浅いのは、ビーダならでは、かしら。

 

(コア)を見る眼。恐らくは淨眼の類。……さて、ウェイン姓でそんな聖人がいたかしら」

 

 異能にも結構な種類がある。

 両親が云々だったから子にこれが宿った、とか。突然発現した、とか。何か研鑽や鍛錬の果てに身に付けた、だとか。

 まぁ他の人が同じことをしても身に付きはしないのだけど、無によって選出される異能持ちは、基本的になんらかの善行を積んでいるか、これから善行を積むことが多い。善行。無にとっての善行。つまるところ──大きな感情を持つ者、よね。

 コアの総量は増減しない。それはどの世界にあっても、どの時代にあっても変わらぬ純然たる法則だ。

 けど、リソースは変わる。感情とは際限ないモノだから、リソース量は増減する。無にとってはリソースが大いに越したことは無い。故にリソースを多く吐き出したものは、世界を多く変えた者は、善なる者として扱われる。

 

 そのご褒美が、異能。

 ご褒美……いや、監視カメラかしら。ま、どっちでもいいけど。

 

 それで、コアを見る眼。

 それで出来るのは、見たモノのリソースを増幅させる事だろう。なら、大吾君は妖魔と数多くの接点を持つはず。妖魔と出会い、妖魔と言葉を交わす事で、そのリソースを……本来であれば何の役にも立たない"自我を持ったリソース"なんていう塵芥を、有益なモノに変化させる。

 勿論限素生物にしてもそれは同じ。心を見るのだから、見抜かれた限素生物はなんらかのアクションを起こすだろう。そうして増幅していくリソースは、やがて世界を膨らませて行く。それこそが無の目的だし、それこそが「終わり」の……世界が「終わり」と「再生」を繰り返し続ける理由なのだけど。

 

 なの、だけど。

 

「ちょっと詰め込み過ぎよね、最近。イアン君も大吾君も、多分、まだ未発現だけど藍沙ちゃんも。異能……この世界に、どれだけ期待しているのか知らないけど」

 

 私達の『箱庭』に手を出すというのなら、容赦はしないわよ、無。

 

 

 なんて、お空に向かって啖呵を切ったはいいものの、特に返事が来る、とかは無い。無に意思とかないし。目的はあれど自己はないし。

 ……気になるのは、イアン君一行が「終わり」に巻き込まれた、という報告。死んではいない事は確実だし、「終わっていない」のは彼の異能からしてもわかることだけど……その後の行方がわからないそうだ。

 球形に抉られた地の底にも、事なきを得た周辺の住宅街にも、彼の大学にも──いない。

 

 紅のアーグから既に一週間が経過している。

 それでも尚、となると、流石に心配になってくるというか。

 ビーダも心配していた。大吾君を。あと多分藍沙ちゃんを。前者ははしゃぎながら、後者は言葉にも出さず。

 蒔菜さんがどうしているかも気になるし……ああ、もう。私まであのコ達の事で気を揉むなんて、どうかしてるわ。

 どうせ最後にはみんな消える、っていうのに。

 

 ドアベルが鳴る。

 

「あら、お客さん……って」

「久しぶりだな、アズラエル」

「いや私そんな怖い天使じゃないけど」

「冗談だ、アズ。……どうだろう、僕の冗談は上達したか?」

「100点よ。10億点満点中」

「及第点だな」

「どこがよ」

 

 また珍しいお客さんが来た。

 ステレオタイプ、といえばいいのか。七三眼鏡で、ノートPCを片手に持った、グレーのスーツを纏う青年。

 

「久しぶりね、ウラナガ」

「ああ。久しぶりだ。僕が君を殺し損ねた時以来だな」

 

 Absurdusが第三位、ウラナガ。

 ABSにおいては最年少……あ、エヌちゃんを除いて……の19歳。まだ大学生の彼が、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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