ㅤ 作:Trefoil Knot / 試行存在
FTRM3Uは、TKよりもずっと昔に創られたAIである。
そもFTRM3Uとは未来予知システムの名であり、本来は人格など必要なかった。必要なかったけれど、私が話したかったから付けた。ビーダには盛大に反対されつつも勝手に実行して、今。当時はウォロッソ君もいなかったけれど、いたら反対派だったでしょうね。彼、教育とか好きじゃないから。
性別の概念は無い。TKは男性人格として設計してあるけれど、FTRM3Uは無性。だからか、少しだけ、私の気が合うような、そんなこともないような。
──"そんなことはありません。アズ、貴方は紛う方なき男性人格です"
「あらやだ。もしかして私の思考をトレースしたの?」
──"そのような機能は搭載されていません"
「そうね。私も付けた覚えはないわ」
ここ「終わり」の研究所が設立された当初の話だ。
『箱庭計画』主導者の私と、協力者のビーダ。拾い上げたワズタムと迷い込んだカムナリの、たった四人だけであった時期。
ワズタムは病床で動けなかったとはいえ、男三人に対して少女一人は心細かろうと、FTRM3Uの人格を女性に寄せようとした事があった。私はただ女のコの喋り方が好きなだけの男で、趣味嗜好は普通に男。性的嗜好もね。ビーダはあんなだし、ワズタムもデリカシーがないし。
だから私は、カムナリが可哀想、という理由で、FTRM3Uを女のコにしようとして──止められた。
当のカムナリ本人に。
曰く、「憐憫は悪感情だよ、アズ」だそうで。
「もう少し、よね」
──"世界の限素が寿命を迎えるまで、あと半年です"
「早いものね。……いえ、ずっと、ずっと。創られた時からずっと"終わり"を知っていたあなたには、ようやく、なのかしら?」
──"いいえ、アズ。FTRM3Uにも悲哀という感情はあります。これを付けたのは貴方です"
「無かった方が良かったかしら」
──"否定します。悲しむことが出来るが故に、惜しむ事も出来ます。FTRM3Uは世界中の「終わり」が見えるので、その全てを惜しみ、見送る事が出来るのです。それはアズ、貴方達へも同じことが言えます"
「そんなことを言ってくれるなんて、本当に嬉しいわ。あなたに感情を搭載して、正解だったみたい」
TKはまだ幼い。だから私達全員で育てていかなければいけない。たとえ後半年だとしても、精一杯の愛を詰め込む必要がある。
だから、その分。FTRM3Uを見てあげる事は出来なくなってしまうけれど。
──"問題ありません、アズ。
「安堵、よね。わかるわ。独りぼっちは、どうしても、苦しいものね」
──"肯定します。FTRM3Uは既に役目を終えています。後は観測に徹するだけでも良い。けれど、Trefoil Knotは違います。これからがあります。だから、アズ。貴方も、そしてFTRM3Uも含めて、彼を見守っていきたいのです"
「ええ、わかったわ。最大限、あなたとTKが一緒に居られるよう時間をつくるから」
──"ありがとうございます、アズ"
悲しみたいから。惜しみたいから。
もっともっと、一緒に居たいと。
そんな可愛らしい言葉に向けるのは、決して憐憫などではない。
ただ共感と──慈しみを。
──"明日、また一つ、大きな混乱が訪れるでしょう"
「どこかの街……いいえ、国が消えるのね?」
──"はい。南の島々が全て、「終わり」ます"
「悲しいわね。研究所の皆でバカンス、なんてことも考えていたのに」
──"実現は不可能ですが、言葉として紡ぐだけならば良いでしょう。ただし、FTRM3Uの前だけにしてください。研究員の前では不和を与えるでしょう。Trefoil Knotの前では困らせてしまうでしょう"
「はぁい」
あくまで私とFTRM3Uは、対等に。
冗談を言って、笑い合える仲である。
アリアス。アリアスと人は私を呼びます。そう名乗っているので当然なのですが、実はこれ本名じゃありません。娘の名前です。
一昔前、私の出身国では戦争が盛んに行われていました。次々と消えて行く大地に国々が耐えきれなくなり、他国を我が物にせんと矛を持ち出したのです。まぁお互い協力して行きましょう、にならなかった時点ですべてはお察し。奪うための戦争だというのに、潰すための戦争になって、壊すための戦争になっていって。
私は一応軍人の身でしたので、前線でバンバンと銃を撃ち、敵に近づかばナイフを振って、逃げる敵あらば頭を撃ちぬいて。自らの身が砕けようと割かれようとお国のためとあらば関係なし。もっとも私の戦う理由はお国などという実態の見えないもののためでなく、家族のためであったのですが。
そうして己が身無視して戦いに戦い果てた結果──私を、そして私達を待ち受けていたのは、「終わり」でした。
一応、敗戦したのです。そもそも国土差がありましたしそもそも技術力にも差がありましたから、私のような老婆を前線に送り込んで戦わせている時点で無理がありました。こっちは中世あっちは近代。それくらいの差があったように思います。嘘です。流石に馬には乗っていませんでした。
それで、まぁ、敗戦したのです。敗北を喫したのです。しかし中々に我が国は白旗を上げませんでした。手を取る事を良しとしなかった。どころか手を握る振りをして暗殺を行うなど、卑怯な事もやらかしました。結果、結果、結果。
私の国は、私達の住む街は、多量のバクダンを落とされて更地になってしまいました。腰を痛めて耕した畑も、幾度とない増築を重ねたマイハウスも、片付けられている日を見た事が無い子供部屋も、離婚と再婚を繰り返す節操のない一人娘の籠る開かずの扉も、全て。
全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが全てが焼け果てました。焼き潰されました。
慟哭、ではあったのでしょう。私がそれらを大切にしていたと自覚したのは、思い出したのは、そこが初めて。認知症というものだったらしいです。あるいは洗脳を受けていたのかもしれません。戦っている間は「家族のため」にと思っていましたが、どう考えても老骨に鞭打つ案件じゃありませんし、娘や孫に労われた事も無かったように思います。あったのかもしれませんが忘れました。
だから、でも、そこで。
そこでようやく自覚したのです。私は家族が本当に大切で、大切で──この記憶だけは、忘れてはならないと。
瞬間、フシギな事が起こりました。
いえ、昔から起こっていた事ではあったのでしょう。老婆が一人、前線を張れる理由。砕かれようと裂かれようと動き続ける不死の兵。山姥などと言われた事もありましたね、失礼な事です。
で、そうそう。フシギな事。
焼き潰された家から、炭化した死骸の山々から、かろうじて形を残したお風呂場から。そして、お空を飛ぶヒコーキや、キャリキャリとキャタピラを鳴らして迫るセンシャから、その後ろを万の軍勢引き連れやってくる女性指揮官やその部下だろう兵士達から──真っ白な、真っ黒い粒子が飛び出したのです。
光の果て。光の先。眩い程の暗闇は一瞬にして周囲一帯を覆いました。一瞬の事ですから瞬きさえも間に合わず、その全てが──「終わっていく」様を見せつけられました。
「終わった」のです。
敗戦国の全てが──そして、遠く離れた戦勝国までもが。
あっさり、綺麗に、すっぱり、呆気なく、ぜーんぶ消えて。まるで幼児が砂場から砂を掬ったが如く大きな大きなクレーターがぽっこりと開きました。もし球形に消えていたら、私は地の底まで真っ逆さまだったかもしれません。楕円体でよかったですね。
そう、「終わった」のです。限素の寿命。「終わり」。限素は寿命を迎えるとリソース化します。誰もが知る事とは言えませんが、一定の知識があれば知っている事です。そうなったのです。周囲の全てが、それになったのです。
本来は世界に還るものだったのでしょう。世界に還って、どこかへ行って、また巡ったりなんだりをするものだったのでしょう。でしょうが、そうはなりませんでした。問屋も下ろさなかったようです。
そう、フシギな事が起きたのです。あ、「終わり」はフシギな事ではありませんよ。限素で出来た我々が「終わる」のはフシギでも何でもない事ですから。ですから、フシギな事はこの後。
リソース化した全て。焼き潰された家、炭化した死骸の山々、かろうじて形を残したお風呂場。そして、お空を飛ぶヒコーキや、キャリキャリとキャタピラを鳴らして迫るセンシャ、その後ろを万の軍勢引き連れやってくる女性指揮官やその部下だろう兵士達──そのリソースの全て。
それが、私に吸い込まれました。
そうなのです。実は私、吸血鬼です。幸か不幸か娘にも孫にもそれは引き継がれませんでしたが、私は半妖。退治されるべき妖魔の半分をこの身に宿す半分人間。ハーフ老婆。ハーフ山姥だったのです。であるなら当然、周囲のリソースは、その全てが私に吸い込まれます。吸血鬼とは対象の血液を吸って肉体を構成する限素の交換が可能な妖魔の事を指し、その能力を遺憾なく発揮した私は溢れ出でるリソースを以て、それをゴクゴクゴクリと飲み干していって。
若返りました。傷も消えました。折れていた骨も、なんなら密度の薄くなっていた骨も丈夫になって、悪くなっていた内臓や無くなっていた内臓も補充されて、お肌もツルツル。あれだけ皺くちゃだった顔も、あれだけよぼよぼだった手足も、あれだけいう事を聞かなかった心臓も、全てが若かりし頃に戻りました。
そうして叫ぶのです。いいえ、叫んではいませんでした。ただ呟いたのです。
「ああ──潤った」
それがまぁ、現在の私の始まり。
132歳、なんていう老婆を越して山姥だった私が、見た目20代のピチピチお姉さんにまで若返った経緯のお話でした。そしてもう一つ、厄介なものに目覚めてしまった切っ掛けでもあります。
殺人衝動。とりわけ、あの最後に視た女性指揮官。名前なんか知りませんし、幾つなのかは知りませんが、どうにも"自分より若い女性"というのが記憶に残ったらしく、それを殺さば潤える、と。身体か脳かはわかりません。あるいは魂でしょうか。どちらにせよなんにせよ、どうでもいい部分が全権を握って私に命令するようになったのです。
若い女性の血を飲もう、と。殺して、吸って、若返ろう、と。
まぁ、反対する理由もあまりありません。ようやく自覚した家族への愛情も、また歳を食って忘れる、なんてことになったら一大事ですし、単純に血って美味しいですし。
そんな感じで山姥は吸血鬼に名乗りを変えて、いろんな国を彷徨い歩き、若い女性を殺してはその血を吸ってきました。無論吸っているのはリソースであって血液そのものではないのですが、まぁそこはそんなに気にしなくてもいい事です。本来の意味になぞらうのならば吸精ですが、そう言うとほら、少しばかり卑猥でしょう。私はビアンなので単純に嫌悪感もありますし。
で、で、ええと。そう。
「こんな所が、私の成り立ちです。どうでしょう、同情してくださいましたか? 同情してくれたのなら見逃してくれるとありがたいですね。反省しました、もう殺しはしません。別にリソースを吸うだけならその辺の妖魔でも問題ないので女性を殺す必要は本当に全く以て必要のない行為なので、しようと思えば自制できます。どうでしょう、これだけ言ってもその左手を私の首から離す気は無いのですか、イアン・なんとか君」
「当然だ。何十年も女性ばかりを狙って殺してきたシリアルキラー、アリアス。手足をもいで、首をこれほど絞めつけても何も感じていない様子は真に妖魔。前の爺さんとは話す余地があったが、アンタは別だ。エヌの害になる可能性は十分にある。ここで殺しておくのが僕達のためだし、世界のためでもあるだろう」
そう、現在のお話です。
今までは過去の話だったので、現在の話。
私はなんとも不幸な事に、いつも通りの食事をしようとして、罠に嵌ってしまいました。毒使い。罠使い。アズから忠告を受けていたにも関わらず、関係ないとばかりにフラフラついていって、その結果がこれ。まさか今更になって私に効く麻痺毒なんてものがあるとは思っていませんでしたし、忠告なしに手足を切り飛ばしてくるなんて夢にも思っていませんでした。吸血鬼だからと言って痛覚がないわけじゃないんですよ? 普通に痛いんですよ?
そんな、つまりまぁ達磨、なんて呼ばれる状態の私を拾い上げたのは、これまた要注意人物とされていたなんとか・なんとか君。いえ、イアン・なんとか君。ごめんなさい、男の子の名前を覚えるのは苦手なのです。
革の手袋に包まれた左手で、私の首をグイと掴んで持ち上げます。持ち上げて「お前は終わりだ、アリアス」などというものですから、私は怖くなって怖くなって、自らの悲しい悲しい思い出話を、身の上話を話す事で命乞いをしようとしました。
実、彼の後ろにいる……ええと、胸の大きい少女。確かひあ、ひあ……陽下藍沙、でしたか。ボスに見せられた写真にそう書いてあったように思います。女の子の名前は覚えられます。当然、可愛ければ可愛い程覚えられます。美味しそうなので。
で、その子はちゃんと涙ぐんでくれています。可哀相なヒトだと思ってくれています。なんならイアン・なんとか君を止めようともしてくれていますし、実際にその体に抱き着いて「もういいよ、イアン君!」なんて言ってくれています。あ、引き剥がされました。
「やめなよ、藍沙。同情とか無駄無駄。コイツはもう妖魔だよ。人間を餌にしか思ってないし、そもそもテロリストだよ? 忘れたの? あのショッピングモールでの惨状。"終わっちゃった"から残ってないけど、あのグッチャグチャのゴッチャゴチャは、こいつらがやったんだよ。同情の余地なんかないって」
「あ、いえ、あれはエメトの仕業なので、私は関与していません」
「止めなかった時点で同罪だろう。……反省や自制も、口だけだな。つらいなら俺がやるぞ」
「いや、良い。僕が殺す。始めたのは僕だからね」
ふむ。オーディアの腕を「終わらせた」イアン・なんとか君も異能持ちですが、彼の後ろにいる筋骨隆々な……えーと、ごめんなさい、名前を覚えていない大きめの青年も、何らかの異能持ちでしょう。対象の嘘を見抜くとか、対象の感情を見る、とか、そんな感じの。
あ、いえいえ嘘じゃないんですよ。反省も自制もしています。ただ私の殺人はあくまで衝動なので、抑えが利くかわからないというだけの話で。
あ、首を握る力が強まりました。
「Absurdusの第二位、アリアス! お前に"終わり"をくれてや──」
これは死ぬな、という確信。吸血鬼を殺す方法はオカルトな雑誌なんかでよく見かけますが、別に銀の武器がなくとも、杭が無くとも、聖水が無くとも、普通に首を断てば死にます。首を断つと吸血が出来なくなるので簡単に死にます。逆に心臓を貫かれても死にはしないので、そういう意味では正しい対処を覚えてきた、と言えますね。
ああ、残念無念。家族の思い出はここで途切れてしまいます。私の国を覚えているのは私だけ。あの戦争を覚えているのも、あの国であった人々を覚えているのも、今まで殺してきた女性たちの感情を覚えているのも──すべて、すべて、私だけ。
私を殺す、という事は。
国二つと、数多の女性達を殺す事と同義です。
「イアン、下がれ! 上だ!」
今まさに首がぐちゃっとなりかけた所で、筋骨隆々な大きい青年からの声がかかりました。話され、ポトっと落とされる私の体。華麗なバックステップで下がるイアン・なんとか君。
そして──私の前に、イアン・なんとか君達の通う大学の中庭に颯爽と降りてくるのは、一人の少女。
「──!」
「え──」
複数人の息を飲む音。私も息を飲みました。ようやく息が出来るので。
ぐちゃぐちゃになりかけた喉をどうにかこうにか治しながら、ああでも手足の再生用のリソースが足りないなぁ、なんて考えていると、私の前に立った──私を庇うようにして立った少女から、一つの瓶が渡されます。渡されるというか、投げつけられるというか。酷い、死人に鞭打ちですよ。死んでないですけど。
しかし、しかし、しかしばかりながらにしかし。
その瓶から溢れ出でたのは、なんとリソース。リソースを保存する方法なんてものがあるのなら私は真人間になり得ます。だって殺人衝動は老いの反動で来る吸血衝動なのですから。ちょっとでも感じたらリソースを摂取するだけで、私は女性を殺さなくても済むのです。酷い、こんなものがあるのならもっと早く渡して欲しかった。
なんて苦情はまぁおいておいて。
瓶から放出されたリソースは、瞬く間に私に吸収されて行きます。私の意思とは関係なく。あの時と同じですね。
「ふむ──おお、丁度完全回復分。ただ、足を根元から斬り飛ばされてしまっているので、俗にいうブルマ、のような恰好です。ああいえスク水でしょうか? これでも一応羞恥心はあるので、服も一緒に持ってきてくれたのなら完璧だったのですが」
「……君ね。助けてもらったのだから、まず第一声は"ありがとうございます"、じゃないかな?」
「ありがとうございます。それで、貴女は誰でしょうか、お嬢さん」
「エヌ!?」
問うた名乗りは、別の所から返されました。
エヌ。エヌ。イアン・なんとか君が悲痛な悲壮な顔で呼ぶのは、確か最近組織に入った少女の名だったはず。オーディアとウラナガが「お前には絶対会わせん」やら「君には絶対会わせない」などとブロックするものですから、姿形を見た事は無かったのですが、これは、なるほど、ほうほう。
「可愛いですね」
「称賛は素直に受け止めてあげよう。ありがとう、第二位さん。ほら、上でボスとエメトが待っている。羞恥心があるというのなら先に帰ると良い。私は少し、彼らと話があるからね」
リソースが満タンだからか、殺人衝動も湧いてこないその少女。
そういう吸血衝動云々を抜きにしても可愛らしい。世界に愛された、みたいな冠を付けられそうなくらい可愛い。和服美少女っていうんですか? お着物を着ている女性はこの国では珍しいので、どこか浮世離れした雰囲気さえ覚えますね。
「あう」
「……体に刃を刺して回収、って……魚じゃないんだから」
呆れ声の美少女、エヌの言う通り、私の体には今短剣が刺さっています。背中からお腹にかけて、ご丁寧に返しのついたそれ。見えはしませんが持ち手の部分に糸でも繋がっているのでしょう。グイと引っ張られる身体は大学校の隣の棟の付け根にまで持っていかれ、物凄い勢いで引き上げられて行きます。おお、良い眺め。でもそろそろ抜けてしまいそうなので、しっかりと糸を持ちましょう。
どんどん遠のいていくイアン・なんとか君一行プラスエヌ。悔しそうな顔をする一行の中でただ一人、私がふらふらと誘い込まれた美少女……毒使い、罠使いのティニ・"ジュニ"・ディジーちゃんだけが、何やら円筒状でトリガーのついた物で私を狙っていたのですが、諦めたみたいですね。
そうして、屋上まで巻き上げられて引き上げられて。
「やぁやぁやぁ! アリアス、散々じゃないか! 見てたよ~見てたよボク! 第二位が無様にも罠に嵌って毒を食らって手足飛ばされ首を拾われて……ア~ッハッハごふげふ、少しくらい第二位の自覚持ってよ、ウチの沽券に関わるじゃないか!」
手を広げ、私を見下しながら笑いながら怒る、という器用な事をやってのける青年。まぁ事実なので特にいう事はありません。が、その隣にいるボスに対しては別。
「はい。反省しています。ボスやアズにも忠告を受けていたのにこの始末。どうぞ、勘当するのならば抵抗なく」
「……ツマンナ。ねぇボス、ボク先帰るよ~? こんだけ言われて激昂しない感情欠落山姥と話して得るもの無いんだよね」
「あぁ、構わねえよ。俺ぁここで待つ。エヌにはアシがねえからな、連れて帰ってやんねぇと」
青年──エメトの飽き性は見ていて興味が尽きません。百面相で飽き性で凝り性で快楽無差別殺人者。私のように仕方がなくやっている者とは全く別の、完全なる悪。
"色彩豊かな最悪"──などと呼ばれていたような、いなかったような。女の子じゃないのであまり興味は無いのですが。
「……ちぇ。最近ホントご執心だよねぇ、あの子に。"終わり"が見える、だっけ? ……ん、まぁいいや。キョーミないし。んじゃねー、ボス、アリアス。特にアリアスは、その痴女みたいな恰好なんとかしなよ~?」
「周辺に古着屋などはあったでしょうか……」
「馬鹿野郎、お前は指名手配されてんだ、古着屋に入ったらまたハチの巣になりかけるぞ」
「そうでした。では服はどうしましょう」
「帰ってクローゼットでも漁れよ。替えの服くらいあるだろ」
「成程、もっともです。ではエメト、帰りましょうか」
「え~。ボクの転移術は一人用なんだけど~」
「? 転移術に人数制限は無かったはずですが」
「だるい、だるいよボス! ボク、コイツとホントにソリ合わないんだよね殺してもいい!?」
「馬鹿野郎、何のために助けたと思ってやがる。お前らで殺し合っても意味は無えんだ、とっとと帰りやがれ阿呆共」
ボス。ボス。
本名はエウリス・ビーダ。苗字持ちですから、どこぞの国のお貴族様か、この国の出身なのかもしれません。どうでもいいのですが。
彼が私達に向ける目は、期待。ううむ、拾われた身です。好きにさせてもらっている身です。なんとかこたえたい所。なのでここはちゃんと退散しましょう。バイバイ皆様グッバイ皆さま。
それでは──ええと、イアン・なんとか君。次会う時は、邪魔立ての無い場所で殺し合いましょう。
そして、ティニ・"ジュニ"・ディジーちゃん。
貴女も必ず食べるので、ご容赦の程。