どうぞ
side 衛宮士郎
「…ろう…士郎!士郎!起きろ士郎!また土蔵で寝やがって!」
俺こと衛宮士郎の今日の1日は、兄さんこと衛宮宗次の怒鳴り声で始まった。
「うわぁ!ごめん兄さん!」
「まったく…おはよう、士郎。これで何回目だか…風邪ひいても看病してやらんぞ?」
「ははは、ごめんって。おはよう兄さん」
昨日は遅くまで魔術の特訓をしていたはずなのだが、いつの間にか寝てしまっていたらしい。もう少し用心しよう。爺さんは兄さんには魔術を教えていないようだったし、知られる訳にはいかない。
「とりあえず顔でも洗ってこい。朝飯の時間だぜ。妹の方の間桐も来てるから、急げよ」
「わかった。っていうか桜な、桜。いい加減名前くらい覚えてあげたら?」
「覚えてて言ってんだよ」
どうにも兄さんは学校の後輩の間桐桜と距離が遠いように感じる。桜は俺に弁当をいつも作ってきてくれるし、兄さんも仲良くして欲しいものだ。
そんなことを考えながら、洗面所で顔を洗い、兄さんや桜のもとへ向かう。
「あ!おはようございます、先輩!」
「ああ、おはよう、桜」
桜に挨拶をしつつ席につけば、机の上には和風のご飯や味噌汁などが並んでいる。兄さんもなかなか料理がうまい。凝った料理などになると俺の方がうまく作れるのだが、大雑把な料理や手抜き料理は兄さんの方がうまいのだ。…いつか抜かしてやろうと思っている。
「さて、食べようか。いただきま
ピンポーン!
「そういえば忘れてたな…」
いざ食べようとした時に邪魔が入って、兄さんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
少し待ってろと言い残した兄さんが玄関まで客、おそらくは藤ねぇだろう、を迎えに行っている間に、桜が話しかけてきた。
「先輩、今日も土蔵で寝てたんですか?」
「ははは…そうなんだよ」
痛いところを突かれてしまった。俺も良くないとはわかっているのだが。
「もう…風邪ひいても知りませんからね?」
「ごめんって」
「そうだぞ士郎!ちゃんとベッドで寝なさーい!」
急に後ろからかけられた声に振り向いて見れば、藤ねぇが仁王立ちしていた。その後ろでは兄さんが額を抑えながらため息をついている。
「はいはい、席について…よし、いただきます」
「「「いただきます」」」
兄さんの号令で、いつもの朝食の時間が始まる。
「うん、美味しいです、宗次先輩」
「まだまだだな…味噌汁が薄い」
「そんなに気にする程でもなくないか?」
「うんうん、十分美味しい…でもちょっとたりなーい…宗次!ご飯をよこせ〜!」
「そこまでにしておけよ藤村ァ!」
「こら兄さん、藤ねぇだろ?」
「けっ、こんな野生動物は藤村かタイガーでいいんだよ」
「むっ!タイガーって言うな〜!」
いつもどおりの、騒がしい朝食。願わくば、こんな毎日がずっと続いて欲しいものだ。
「さて、行こうか士郎」
「わかったよ、兄さん」
「…」
「兄さん?どうかしたか?」
「いや、なんでもない。近頃は物騒だから今日は出来るだけ早く帰ろうと思っただけだ。お前も早く帰ってこいよ、夕食はハンバーグだぜ」
「了解、早めに帰るよ」
(まぁ、忠告しても無駄だろうがな…)
「しまった…兄さんに怒られる…」
藤ねぇに頼まれて、弓道場の掃除を引き受けてしまったのが不味かった。ついついやりすぎてしまい、あたりはすっかり暗くなっている。
「早く帰らないと…飯抜きにされるかも」
それはごめんだ。とっとと帰ろうと…したのだが。
キィン…!
「なんだ?金属音?」
キィン…!キィン…!キィン…!
校庭の方から金属製の物を打ち合わせているかのような音が断続的に聞こえてくる。こんな遅くに…まぁ自分が言えたことではないが、何をしているのだろうか。
気になって校庭に近づいてみる。後になって思えばこれが間違いだった。
「何だ…!?」
そこでは、赤い槍を持った青い男と、白と黒の双剣を持った赤い男が戦っていた。人間ではありえない絶技。しかし、俺が目を奪われたのは彼らではなかった。
「遠坂…!?何してるんだあいつ!?」
赤い男の後方に立っている赤い服を着た少女。俺が密かに憧れている、兄さんには憧れてるんじゃなくて惚れてるんだろ、と言われたが、多分違う…はずだ。ともかく、遠坂凛の姿だった。
何故遠坂がこんなところにとか、何故ずっと見ているのだとか、色々考えている間に、いつの間にか男2人は戦いの手を止め、何やら話していた。遠坂のことは気になるが、巻き込まれては死ぬだけだと思った俺は早く帰ろうとしたのだが…
パキッ
「しまった!」
「ッ何者だ!」
たまたま足元に落ちていた小枝を踏んでしまう。我ながら運がない。不味いと思って逃げ出す。追いつかれたら殺される。何とかして逃げなければ、そう思って一心不乱に走るが…
「運が悪かったなボウズ。ま、姿を見られたからには死んでくれや」
必死に逃げたが追いつかれ、その赤い槍で胸を貫かれてしまう。そこで俺の意識は途切れた。
「…あれ?」
しかし目を覚ましてみれば貫かれたはずの胸は傷ひとつなく、あの青い男もいなかった。
夢かとも思ったが、実際に服は血だらけで、あの出来事が実際にあったのだといやでも理解させられる。
「なんだこれ?」
ふと気づけば、手の中には赤い宝石でできたペンダントがあった。誰のかは分からないが、明日にでも交番に届けることにしよう。
「ひとまず帰るか」
このまま学校に残っていてまた襲われては堪らないので、急いで家に帰り着く。しかし、そこで恐ろしいことに思い至ってしまった。
姿を見られただけで殺しに来るような相手が、殺したはずの相手が生きていると知ったら、どうする?
「ッ!!」
「おっと、避けられたか」
直後、猛烈な悪寒を感じて身を捻ると、今の今まで自分の心臓があった位置を赤い槍が貫いた。
「まさか同じ日に同じ人間を2度も殺すはめになるとはな」
男が自嘲気味に呟くが、こちらとしてはそれどころではない。
(家の中はダメだ、兄さんがいる)
ひとまず足元に転がっていた手頃な大きさの木の枝をひっつかみ、祈るように強化の魔術を施し、再び振るわれた槍を弾こうとする。
キィン!
「へぇ?魔術師だったか。面白い芸風だな」
どうやら成功していたらしい。爺さんが死んでから1度も成功したことがなかったが、祈りが通じたようだ。
しかし立て続けに振るわれた槍を受け止めきれず、吹き飛ばされ、土蔵に突っ込んでしまう。ぶつけた体のあちこちが痛い。棒切れも手放してしまった。
「残念だがここまでだ。お前さんはよく頑張ったよ」
男の形をした『死』が、少しずつ近づいて来る。
だめだ、まだ死ねない。自分はまだ、夢を叶えていない──
「ッ!?これは!?」
男が驚いて飛び退る。次の瞬間、右手の甲に激痛が走る。それと同時に、魔力が渦巻き、風が巻き起こる。
「7人目のサーヴァントだと!?」
男が何やら驚いているようだが、よく聞こえない。
そして風が止まった時、俺の前には、青い鎧姿の、金髪の少女が立っていた。
「──問おう。貴方が私のマスターか?」
その日、俺は運命に出会う──
「すみません、とりあえず今はそれどころではありませんね。敵サーヴァントを迎撃してきます」
そう言った少女が土蔵から飛び出して行く。
「あっ、待て!」
不味い、きっとあいつは土蔵から出てくる瞬間を狙って来るはずだ。状況がよく分からないが、少女が危ない。そう思って慌てて飛び出した俺を待っていたのは、驚きばかりの今日の中でも、1番の衝撃を受ける光景。
「俺の投擲を防ぎ切るか…テメェ、何者だ?」
「答える義理は今のところないな、アルスターの光の御子。俺の弟に、手を出すな」
男が投げたと思わしき槍を、何かの障壁を張って受け止めている、兄さんの姿だった。
士郎君驚きっぱなしで可哀想。
セイバーも出番取られて可哀想。
どっちもオリ主が悪い。
お読みいただきありがとうございました。
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