どうぞ。
衛宮邸、その庭にて。
そこには、青い全身タイツのような戦闘服を持った男─ランサーと、先程彼の槍を防いだ宗次、全身ズタボロの士郎、ついでにセイバーがいた。
宗次はちらりと士郎の無事を確認すると、障壁を解除した。
「いや、無礼な物言いをして申し訳ない。弟が傷つけられていたので、少々冷静ではなかった。許して欲しい」
「別にその程度でキレるほど器は小さくねぇよ。で、質問に答えてもらおうか?」
平然と会話を続ける2人に、片や召喚されたばかり、片や純粋に知識不足の士郎とセイバーは困惑する。特に、兄は一般人だと思っていた士郎は、その兄に庇われたことで複雑な顔をしている。
「もちろん。でも、貴方相手なら口に出す必要は無いだろう」
「あ?そりゃどういう─」
油断なく構えたまま、訝しげに問いかけるランサー。しかし彼が言い切る前に、宗次が一言呟く。それだけで、2人には十分だった。
「─来い、ゲイ・ボルク」
瞬間、セイバーの召喚時と同等以上の魔力が吹き荒れ、士郎はまたしてもすっ転ぶ。
そして、天に掲げられた宗次の手に魔力が収束し、深紅の魔槍が形作られる。それと同時に、服装にも変化が起こる。切嗣のお下がりの甚平から、ランサーのそれと酷似した、黒灰色の戦闘服へ。
「ッ、テメェまさか!?」
驚愕するランサー。戦闘服はまだ理解できる。そういうものが現代まで残っていることもあるだろう。しかし、あの槍だけはありえない。自分の槍と酷似しているが、決して自分のものでは無い。言うなれば後継品。つまり、それを持つ彼の正体は─。
「自己紹介させてもらおう、アルスターの光の御子。俺の名は衛宮宗次。影の国の女王スカサハの弟子、波濤の獣を打ち倒し、ゲイ・ボルクを授かった者だ。…貴方の、弟弟子にあたる」
あまりの驚きに固まるランサー。よく分からないが自分の兄が凄い人物だったことに宇宙を感じる士郎。せっかく召喚されたのに自分に全く注目が集まらないので拗ねるセイバー。
心做しかドヤ顔をしている宗次に、再起動したランサーがかけた言葉は…
「お前さん…大変だったろう、よく頑張ったなぁ」
兄弟子として、同じ苦行を乗り越えたものに対する心からの賞賛だった。
「…やはりあなたにはわかって貰えるか…辛い日々だった。いつ来るか分からない襲撃、幻想種と戦わせられる毎日、休憩時にはルーン魔術を叩き込まれる…」
「やっぱ師匠は変わってなかったか…なんで影の国へ修行を受けに行ったんだ?そもそも現代じゃ影の国に行く方法は無いはずだが」
「捨て子ですよ、物心着く前に捨てられて、運良く、いや運悪く流れ着いたのが影の国…」
「…ほんとによく頑張ったな。俺らは一応自分の意思で修行を受けに行ったから耐えられたが…お前さんはなぁ…」
「辛かったですとも。…兄貴とお呼びしても?」
「おう、構わねえぜ。お前は俺の弟分だからな。なんかあったら頼ってくれや」
「ありがとう、兄貴」
よく分からないが命は助かりそうだしいいやと開き直った士郎、敵サーヴァントの襲撃のはずが同門の愚痴を言う会になったことに宇宙を感じるセイバー。場はカオスと化していた。
「まあいい、とりあえず今日のところは帰らせてもらうぜ。弟弟子に会えたし、真名も割れちまったし。そこのボウズもマスターだってんなら、それを殺すのは俺の目的にも反する」
「ああ、さよなら兄貴。残念ながら俺は弟の味方をするから、アンタとは敵同士だが…健闘を祈る」
「おうよ。次に戦場で会った時には、思う存分やり合おうぜ。じゃあな!」
「ッ、逃がすとでも!」
塀を飛び越え、去っていくランサーを、再起動したセイバーが追う。宗次と士郎の2人は、思わず、
「「空気読めよ」」
と呟いた。
威勢よく飛び出したセイバーだったが、士郎と正規の契約を結んでいない以上、最速のクラスであるランサーに追いつけるはずもなく…
「くっ…逃がしたか。…新手か!?」
「御機嫌よう、衛宮君。いい夜ね」
「む─、…フフっ」
代わりに何やら嬉しそうなあかいあくまと、意味深に微笑む赤い弓兵と遭遇するのだった。
本来なら兄貴との戦闘のはずが、いつの間にかギャグ回になってしまった…
なにかありそうなアーチャーに、恋のキューピット(オリ主)の活躍によりチョロインと化したうっかり娘。
これはHeaven's_Feelなんて入りませんね!
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